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第35話 やっぱりただの老木じゃない
しおりを挟む「アルベルトさんが初代のエルフ王!?」
驚きのあまり、思わず席から立ち上がってしまった。衝撃でテーブルの上の食器がカタカタと揺れる。
まさかドライアードのアルベルトさんが、そこまですごい人だったとは。やっぱりただの枯れ木じゃなかったのね。
「過去の肩書きは地中に置いてきた。今じゃこうして森の木々を世話をしたり、畑の管理したりするのが好きな、ただの変わった枯れ木だ……」
「ならどうして、エルフの使者なんて役目を?」
言い方は悪いかもしれないけれど、任されている仕事が雑用にも程がある。私をドワーフの国まで迎えに来るなんて、初代の王様がするようなことじゃないわ。
「誰かを従えたり、国を管理するのは死んだ者がするべきじゃない。今を生きるエルフたちの方が向いている。だから儂らは無言を貫き、この世界樹の森を彼らに託した」
「……そんな事情があったんですか」
要するに、彼らはエルフを見守る裏方になったってこと?
たしかに街で見掛けたドライアードは誰もが無口だったけれど……いやいや、裏方にしてはその姿は凄い目立っていたような気もする。
「だが世界樹の衰弱が始まり、この森の事情が少し変わった」
「事情……?」
「それを説明するにはまず、エルフの聖女について話そう」
アルベルトさんは私に食後のハーブティーを淹れながら、ゆっくりと続きを語り始めた。
「この森の管理者は代々のエルフ王だ。そして王を補佐するために、エルフの聖女が選ばれることになっておる」
「エルフの聖女……」
ドワーフの聖女が聖火を守護するのならば、エルフの聖女は世界樹を護るといったところだろうか。
「聖女の役割は世界樹と繋がり、生命力を土地に行きわたらせること。その性質から、聖女は世界樹とほぼ一心同体となる。聖女であるフィオレが衰弱していたのは、そういう理屈だ」
「えっ……!?」
思わぬ人物の名前が出た瞬間、つい声が出てしまった。
「フィオレさんが聖女だったんですか?」
「ああ。世界樹と対話できるフィオレは、儂らドライアードの話し相手にもなってくれてな。時々この家に訪れては泊まっていきおった。その服や家具のほとんどは、彼女のものだ」
そうだったんだ……。どうりで女性用の服が多いと思ったわ。
……ちょっと待って。
一点だけ気になることがあり、視線を下に落とす。
(……フィオレさん、貴女って意外に立派なものをお持ちなのね)
自分の胸と服の間にあるスカスカの空間に、複雑な感情が沸き起こる。スレンダーな体型が多いエルフのくせに、どうして私よりも胸が大きいのよ……。
「……どうした、具合でも悪いのか?」
「い、いえ。ただ自分の器の小ささに嫌気が差しただけです」
「……? そうか。まぁヴェルデはまだ若い。これから成長するだろう」
そうかしら。……そうだといいなぁ。
「それで、相談したいというのは畑のことだったのだが……」
「え? あぁ、そういえば相談があるって言っていましたね。畑に何か問題でも起きたのですか?」
朝食に出てきた食材の話から、随分と逸れてしまっていたわね。
「いや、問題は特に無い。ただ、作物の育ちが悪いのだ」
「えっ、そうなんですか?」
「そうだ。恐らくは世界樹とも関係があるのだろうが……このままでは収穫量が減り、国民たちの生活に影響が出てしまう。ヴェルデは以前、植物を生やしたりしていただろう? その力でなんとかならないだろうか」
そうか、世界樹はエルフの国全体に根を張っている。だから国中で影響が出ているのね……。
確かに食べ物が採れなくなるのは困る。食事は生命活動の源でしょうし。
「でも……私には大した力なんて無いんです」
精々が苔を生やしたり、生えている植物を大きくしたりするぐらいだ。フィオレさんを治療したときは、たまたま上手くいっただけだろうし。
「何か気が付いたことでも良い。少しでも改善できれば……すまないが、力を貸してくれないだろうか」
どうやら本当に深刻な問題のようだ。
だけど植物に詳しそうなアルベルトさんでさえ、解決できないトラブルっていったい何なんだろう……。
「いえ、これくらいお安い御用ですよ。それで、いつ頃その畑に伺えば良いですか?」
「今すぐにでも大丈夫だ。案内しよう。ついて来てくれ」
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