“癒し妻”として多忙なハイエルフの王様のお傍に居させてください【連載版】

ぽんぽこ@3/28新作発売!!

文字の大きさ
上 下
29 / 45

第29話 本命の人

しおりを挟む

 ジェルモさんは険しい表情を浮かべ、珠のような汗を大量にかいていた。相当急いでいるようだ。

「大変です……フィオレ様の容態が急変しました。このままでは危険かもしれません」
「世界樹に力を注いだばかりだというのに!? くそっ、すぐに行くぞ!!」
「はい、こちらへ!」

 コルテ様とジェルモさんは入口の方へと駆けていく。フィオレさんと言うのはたしか、コルテ様が大事にしているという方だったはず。あの口ぶりだと、とても深刻な状況なのだろう。

「ヴェルデちゃん。私達も行きましょう」

 一人でぐるぐると考えていたら、オーキオさんが私に向かって手を差し伸べてくれた。

「で、でも私が行ったところで何の役にも立てません……」

 それになんだか、心がモヤモヤする。
 もしかしたら、コルテ様がフィオレさんと会っているところを見たくないのかもしれない。何だろう、この気持ちは。どうしてコルテ様が他の女性に気を向けていることがこんなにも嫌なんだろう。


「いいから。ほら!」

 私はオーキオさんに手を取られ、引っ張られるように走りだした。

 地下を出て廊下を走ると、私たちは急いでコルテ様の後を追う。


(……ここは?)

 気付けば、私は大きな扉の前に立っていた。その扉を開けると、そこは広い部屋だった。
 床には赤い絨毯が敷かれており、天井からはシャンデリアが吊り下げられている。壁際にはいくつもの棚が置かれていて、様々な種類の壺や可愛らしい人形が飾られていた。
 そして奥にあるのは、大きなベッドである。そこには一人の女性が横になっていた。

(あの人がもしかして……)

 彼女は痩せ細り、今にも息絶えてしまいそうだ。そんな彼女の傍にコルテ様たちは近寄っていく。


「フィオレ、僕だよ」

 声を掛けられた女性は答えない。それでも構わず、コルテ様は彼女の手を取って語りかけ続けている。

 やはり彼女がコルテ様の大事な人みたいだ。遠目でも分かる。よく手入れのされた緑色の髪の、とても綺麗な女性だった。

「フィオレ、大丈夫だからね。もう少ししたらきっと良くなるよ。そうしたらまた一緒に世界樹の頂上へ行こう。高いところから見える夕陽と、美しいこの国の姿を……また……」

 そう言うと、コルテ様は涙を流し始めた。


「フィ、フィオレ……ごめん、僕は君を守れなかった。もっと早く僕が世界樹の異変に気付ければ……。フィオレがこんなにも苦しんでいるのに、何もしてあげられない。頼む……目を覚ましてくれ。僕を置いていかないで。ねぇ、フィオレ……!」

 コルテ様の声は震えていた。その声を聞いて、私は胸が締め付けられるような気持ちになる。
 なによりも彼にこんなにも想われているフィオレさんが、羨ましいと感じている自分が、本当に嫌だった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

【完結】大好き、と告白するのはこれを最後にします!

高瀬船
恋愛
侯爵家の嫡男、レオン・アルファストと伯爵家のミュラー・ハドソンは建国から続く由緒ある家柄である。 7歳年上のレオンが大好きで、ミュラーは幼い頃から彼にべったり。ことある事に大好き!と伝え、少女へと成長してからも顔を合わせる度に結婚して!ともはや挨拶のように熱烈に求婚していた。 だけど、いつもいつもレオンはありがとう、と言うだけで承諾も拒絶もしない。 成人を控えたある日、ミュラーはこれを最後の告白にしよう、と決心しいつものようにはぐらかされたら大人しく彼を諦めよう、と決めていた。 そして、彼を諦め真剣に結婚相手を探そうと夜会に行った事をレオンに知られたミュラーは初めて彼の重いほどの愛情を知る 【お互い、モブとの絡み発生します、苦手な方はご遠慮下さい】

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい
恋愛
「むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ」  そう、むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない。    私は、カトリーヌ・ナルセー。17歳。  ナルセー公爵家の長女であり、第2王子ハロルド殿下の婚約者である。父のナルセー公爵は、この国の宰相だ。  その父は、今、私の目の前で、顔面蒼白になっている。 「カトリーヌ、もう一度言ってくれ。私の聞き間違いかもしれぬから」  お父様、お気の毒ですけれど、お聞き間違いではございませんわ。では、もう一度言いますわよ。 「今日、王宮で、ハロルド様に往復ビンタを浴びせ、更に足で蹴りつけましたの」  

幼馴染み同士で婚約した私達は、何があっても結婚すると思っていた。

喜楽直人
恋愛
領地が隣の田舎貴族同士で爵位も釣り合うからと親が決めた婚約者レオン。 学園を卒業したら幼馴染みでもある彼と結婚するのだとローラは素直に受け入れていた。 しかし、ふたりで王都の学園に通うようになったある日、『王都に居られるのは学生の間だけだ。その間だけでも、お互い自由に、世界を広げておくべきだと思う』と距離を置かれてしまう。 挙句、学園内のパーティの席で、彼の隣にはローラではない令嬢が立ち、エスコートをする始末。 パーティの度に次々とエスコートする令嬢を替え、浮名を流すようになっていく婚約者に、ローラはひとり胸を痛める。 そうしてついに恐れていた事態が起きた。 レオンは、いつも同じ令嬢を連れて歩くようになったのだ。

貴方もヒロインのところに行くのね? [完]

風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは アカデミーに入学すると生活が一変し てしまった 友人となったサブリナはマデリーンと 仲良くなった男性を次々と奪っていき そしてマデリーンに愛を告白した バーレンまでもがサブリナと一緒に居た マデリーンは過去に決別して 隣国へと旅立ち新しい生活を送る。 そして帰国したマデリーンは 目を引く美しい蝶になっていた

あなたの側にいられたら、それだけで

椎名さえら
恋愛
目を覚ましたとき、すべての記憶が失われていた。 私の名前は、どうやらアデルと言うらしい。 傍らにいた男性はエリオットと名乗り、甲斐甲斐しく面倒をみてくれる。 彼は一体誰? そして私は……? アデルの記憶が戻るとき、すべての真実がわかる。 _____________________________ 私らしい作品になっているかと思います。 ご都合主義ですが、雰囲気を楽しんでいただければ嬉しいです。 ※私の商業2周年記念にネップリで配布した短編小説になります ※表紙イラストは 由乃嶋 眞亊先生に有償依頼いたしました(投稿の許可を得ています)

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...