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第29話 本命の人
しおりを挟むジェルモさんは険しい表情を浮かべ、珠のような汗を大量にかいていた。相当急いでいるようだ。
「大変です……フィオレ様の容態が急変しました。このままでは危険かもしれません」
「世界樹に力を注いだばかりだというのに!? くそっ、すぐに行くぞ!!」
「はい、こちらへ!」
コルテ様とジェルモさんは入口の方へと駆けていく。フィオレさんと言うのはたしか、コルテ様が大事にしているという方だったはず。あの口ぶりだと、とても深刻な状況なのだろう。
「ヴェルデちゃん。私達も行きましょう」
一人でぐるぐると考えていたら、オーキオさんが私に向かって手を差し伸べてくれた。
「で、でも私が行ったところで何の役にも立てません……」
それになんだか、心がモヤモヤする。
もしかしたら、コルテ様がフィオレさんと会っているところを見たくないのかもしれない。何だろう、この気持ちは。どうしてコルテ様が他の女性に気を向けていることがこんなにも嫌なんだろう。
「いいから。ほら!」
私はオーキオさんに手を取られ、引っ張られるように走りだした。
地下を出て廊下を走ると、私たちは急いでコルテ様の後を追う。
(……ここは?)
気付けば、私は大きな扉の前に立っていた。その扉を開けると、そこは広い部屋だった。
床には赤い絨毯が敷かれており、天井からはシャンデリアが吊り下げられている。壁際にはいくつもの棚が置かれていて、様々な種類の壺や可愛らしい人形が飾られていた。
そして奥にあるのは、大きなベッドである。そこには一人の女性が横になっていた。
(あの人がもしかして……)
彼女は痩せ細り、今にも息絶えてしまいそうだ。そんな彼女の傍にコルテ様たちは近寄っていく。
「フィオレ、僕だよ」
声を掛けられた女性は答えない。それでも構わず、コルテ様は彼女の手を取って語りかけ続けている。
やはり彼女がコルテ様の大事な人みたいだ。遠目でも分かる。よく手入れのされた緑色の髪の、とても綺麗な女性だった。
「フィオレ、大丈夫だからね。もう少ししたらきっと良くなるよ。そうしたらまた一緒に世界樹の頂上へ行こう。高いところから見える夕陽と、美しいこの国の姿を……また……」
そう言うと、コルテ様は涙を流し始めた。
「フィ、フィオレ……ごめん、僕は君を守れなかった。もっと早く僕が世界樹の異変に気付ければ……。フィオレがこんなにも苦しんでいるのに、何もしてあげられない。頼む……目を覚ましてくれ。僕を置いていかないで。ねぇ、フィオレ……!」
コルテ様の声は震えていた。その声を聞いて、私は胸が締め付けられるような気持ちになる。
なによりも彼にこんなにも想われているフィオレさんが、羨ましいと感じている自分が、本当に嫌だった。
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