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第26話 ひみつのばしょ
しおりを挟む「世界樹が病気に!?」
思わず私は驚きの声を上げる。
だって世界樹はエルフの国の象徴だ。そんなものが病気になんてなったら、大変なことになる。
「治す方法がね……今の私たちにはわからないのよ」
「そんな……」
私は思わず足を止めた。
ドワーフにとって聖火が神様であるように、エルフにとっては世界樹が神木だ。
ただ崇る対象っていうだけじゃない。現実問題として、この国のありとあらゆる植物が生きる源が世界樹なのだ。
そんな状態では国民が不安に駆られ、不安定な状態になるのも理解出来る。
「陛下くんは世界樹を救うために、寝る間も惜しんでずっと研究を続けているわ」
「コルテ様が……」
オーキオさんは私をじっと見つめると口を開いた。
「色々と説明はあとにするわ。まずはヴェルデちゃんの目で直接見て頂戴」
「は、はい」
オーキオさんの真剣な口調に、私は生唾を飲む。なんだか途方もない話になってきてしまった。そんな精霊だとかお国の危機の真っただ中に私なんかが居て良いのだろうか……。
ずーんと心が沈んでいる私をよそに、オーキオさんは不思議な穴の前に立っていた。穴の大きさは人ひとりが通れるくらい。そして穴の前には太いバラの蔦が複雑に絡み合っていて、簡単には人が出入りできない仕組みになっていた。
どうするのかと思えば、彼女はなにやら歌のような呪文を唱え始めた。すると蔦が呼応し、スルスルとほどけて消えていく。そう時間も掛からず、その先へ行けるようになった。
「さぁ、ここが世界樹の泉へ続く入り口よ」
「わぁ……!!」
不思議な穴をくぐると、そこは視界いっぱいに巨大な地底湖が広がっていた。
とても不思議な光景だった。
世界樹の内側で窓もないのに不思議と明るい。湖の水は透き通っていて、湖の底まで見通すことができる。良く見れば、底の方から緑色の光が水上の私たちに差し込んでいた。
地下にもかかわらずこの空間が明るいのは、湖の底に沈む何かが光源となっているようだ。
「ここが世界樹の生命力が湧き上がる場所。ここで世界樹の生命力は作られているのよ」
「世界樹の生命力を……」
「そう。この泉の水は世界樹の根から湧き出た物なの」
そしてこの世界樹から溢れ出した水が川となり、セミナ国の大地を潤しているそうだ。なるほど……エルフの人たちが世界樹を大切にしている理由が垣間見えた気がする。
「ところでコルテ様はどこに……」
「泉の中央にある祭壇よ。陛下くんは一日の殆どをあの場所で過ごしているの」
オーキオさんの指差す方を見てみると、泉へと続く石橋の先に小さな円状の足場がある。そこには人影がふたつ。ひとつは石像のようで、もうひとつがコルテ様のようだった。
「そうですか……あの、私も行ってみて良いですか?」
「えぇ、もちろんよ。でも陛下くんの邪魔をしないようにね?」
「はい!」
私はオーキオさんの言葉を背中で聞きながら、彼の元へ向かう。手すりのない石の橋は少し怖いけれど、幻想的な光景は私の心を高揚させている。そしてなにより、コルテ様に早く会いたかったから。
少し駆け足で進んでいくと、コルテ様の姿が見えてきた。祭壇にあるエルフの像の前に跪いて、なにやら祈りを捧げているようだ。
(綺麗……)
まるで絵画のような光景だった。その姿はとても美しく、神々しい光に包まれている。気のせいか、コルテ様身体の周りがぼんやりと光っているようにも見えた。
その姿に思わず見惚れてしまい、私は足を止めて立ち尽していた。
「んっ……誰だ!?」
「きゃあ!」
振り返ったコルテ様に睨まれ、私はビックリしてその場に尻もちをついてしまう。危なく泉へ落ちるかと思った。
「ごめんなさい。私、怪しい者じゃありません!」
怖い顔をするコルテ様を見上げながら、慌てて弁明する。彼もすぐに私だと気が付いたのか、驚いたような表情を浮かべた。
「……なんだ、ヴェルデじゃないか。歩いてもう大丈夫なのか? 体調はどう?」
「はい。おかげさまで……その、すみません。お邪魔するつもりは無かったのですが」
「いや、邪魔ではないが……どうしてここへ?」
「それは、その……」
私は言葉に詰まる。
ただ、無性にコルテ様に会いたくなったなんて言えないし……。口籠ってしまった私を見て、コルテ様は仕方ないなといった表情で苦笑する。
「まぁ、いい。丁度良いから少し休憩をすることにしよう。……オーキオ姉さんも隠れていないで、こっちに来なよ」
「え……ちょっと、オーキオさん!?」
後ろを振り返れば、石像の物陰でお腹を抱えて笑っているオーキオさんがいた。
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