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第18話 辛かった地下生活を思い出すと……

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「さぁ、ここが王族が食事をとっている食堂だ」

 清潔な衣服を着せられた私は、ジェルモさんの案内で部屋の前に立つ。
 そして兵士さんが扉を開くと、私は思わず「わぁ……」と感嘆の声を漏らした。

 部屋の中央には大きな円卓があり、既に席についている人の姿が見える。
 その中でも私の関心を引いたのは、テーブルの上に所狭しと並べられた食事たち。肉や魚、そして新鮮なサラダ……そのどれもがずっと憧れていたものばかりだ。

「うっうっ、何年ぶりの食事かしら……」

 出来立てなのか、まだ湯気が立ちのぼっている。それと共に漂ってきた美味しそうな匂いに反応して、私の口内は涎でいっぱいだ。


「ふっふっふ、どうだ。中々に豪勢なメニューだろ?」
「……はい!!」

 ジェルモさんは何だか自慢げな表情だ。豪華なのは何も皿の上の食べ物だけじゃない。黄金色に揺らめくシャンデリアや、ドワーフ国製のミスリル食器、精微な細工がされた椅子と机……もはや部屋全体がキラキラと煌めいている。エルフの国って凄い。


「……あの、ジェルモさん」
「お? なんだ、ビックリし過ぎて腰でも抜けたか?」
「そうじゃなくて、そろそろ降ろしてくれませんか?」

 少し不満げに頬を膨らませながら、私はジェルモさんの顔を見上げる。今の私は手足が宙ぶらりん。再びジェルモさんの腕に抱えられている状態だったのだ。


「おっと、すまんすまん。あまりにもこのポジションに違和感が無くて」
「移動で助かったから許しますけど、他のレディだったらビンタされてますよ?」

 瞳と同じ綺麗な緑色のドレス姿の私は、慣れないヒール付きの靴に四苦八苦していた。廊下で何度も転びそうになっているのを見かねて、ジェルモさんに再び抱えられてしまったのだ。

「心配しなくたって、こうして担ぐのはヴェルデだけだよ」
「……そう言われても、ちっとも嬉しくないです」

 しかし、なんとも情けない姿である。
 この国に来て失敗しかしていない気がするな私……。

「ほら、こっちだ。足元に気をつけろよ?」
「あぅ……」

 ゆっくりと歩くジェルモさんの歩調に合わせて、私も一歩ずつ進む。コツッ、コツン、という音が広い部屋に響く中、ようやく用意された席についた。


「どうぞ、姫」
「……ありがとうございます」

 ジェルモさんのエスコートで椅子に座る。ちなみに私の正面に座っていたのは、あのオーキオさんだった。……なぜかメイド服のままだ。そして彼女の両サイドの席は、今のところ空席となっている。一番の上座らしきところにはきっと、コルテ様が座るんだろうけど……。


「さぁ、食事を始めましょうか」

 パンパン、と手を叩くと、どこからかオーキオさんと同じメイド服姿のエルフたちが現れ、私たちに給仕を始めた。


「あの、コルテ様は?」

 空いている席に視線を向けながらオーキオさんに訊ねると、彼女は苦笑いを浮かべて首を横に振った。


「陛下くんは疲れて寝ちゃっているわ」
「あ、そうなんですか……」
「だから今回は私と二人っきりよ。堅苦しいマナーなんて気にせず、女子二人で楽しい食事にしましょ」

 その言葉を聞いて、私は心の底から安堵の息を吐いた。
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