18 / 45
第18話 辛かった地下生活を思い出すと……
しおりを挟む「さぁ、ここが王族が食事をとっている食堂だ」
清潔な衣服を着せられた私は、ジェルモさんの案内で部屋の前に立つ。
そして兵士さんが扉を開くと、私は思わず「わぁ……」と感嘆の声を漏らした。
部屋の中央には大きな円卓があり、既に席についている人の姿が見える。
その中でも私の関心を引いたのは、テーブルの上に所狭しと並べられた食事たち。肉や魚、そして新鮮なサラダ……そのどれもがずっと憧れていたものばかりだ。
「うっうっ、何年ぶりの食事かしら……」
出来立てなのか、まだ湯気が立ちのぼっている。それと共に漂ってきた美味しそうな匂いに反応して、私の口内は涎でいっぱいだ。
「ふっふっふ、どうだ。中々に豪勢なメニューだろ?」
「……はい!!」
ジェルモさんは何だか自慢げな表情だ。豪華なのは何も皿の上の食べ物だけじゃない。黄金色に揺らめくシャンデリアや、ドワーフ国製のミスリル食器、精微な細工がされた椅子と机……もはや部屋全体がキラキラと煌めいている。エルフの国って凄い。
「……あの、ジェルモさん」
「お? なんだ、ビックリし過ぎて腰でも抜けたか?」
「そうじゃなくて、そろそろ降ろしてくれませんか?」
少し不満げに頬を膨らませながら、私はジェルモさんの顔を見上げる。今の私は手足が宙ぶらりん。再びジェルモさんの腕に抱えられている状態だったのだ。
「おっと、すまんすまん。あまりにもこのポジションに違和感が無くて」
「移動で助かったから許しますけど、他のレディだったらビンタされてますよ?」
瞳と同じ綺麗な緑色のドレス姿の私は、慣れないヒール付きの靴に四苦八苦していた。廊下で何度も転びそうになっているのを見かねて、ジェルモさんに再び抱えられてしまったのだ。
「心配しなくたって、こうして担ぐのはヴェルデだけだよ」
「……そう言われても、ちっとも嬉しくないです」
しかし、なんとも情けない姿である。
この国に来て失敗しかしていない気がするな私……。
「ほら、こっちだ。足元に気をつけろよ?」
「あぅ……」
ゆっくりと歩くジェルモさんの歩調に合わせて、私も一歩ずつ進む。コツッ、コツン、という音が広い部屋に響く中、ようやく用意された席についた。
「どうぞ、姫」
「……ありがとうございます」
ジェルモさんのエスコートで椅子に座る。ちなみに私の正面に座っていたのは、あのオーキオさんだった。……なぜかメイド服のままだ。そして彼女の両サイドの席は、今のところ空席となっている。一番の上座らしきところにはきっと、コルテ様が座るんだろうけど……。
「さぁ、食事を始めましょうか」
パンパン、と手を叩くと、どこからかオーキオさんと同じメイド服姿のエルフたちが現れ、私たちに給仕を始めた。
「あの、コルテ様は?」
空いている席に視線を向けながらオーキオさんに訊ねると、彼女は苦笑いを浮かべて首を横に振った。
「陛下くんは疲れて寝ちゃっているわ」
「あ、そうなんですか……」
「だから今回は私と二人っきりよ。堅苦しいマナーなんて気にせず、女子二人で楽しい食事にしましょ」
その言葉を聞いて、私は心の底から安堵の息を吐いた。
0
お気に入りに追加
290
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
「お姉様の赤ちゃん、私にちょうだい?」
サイコちゃん
恋愛
実家に妊娠を知らせた途端、妹からお腹の子をくれと言われた。姉であるイヴェットは自分の持ち物や恋人をいつも妹に奪われてきた。しかし赤ん坊をくれというのはあまりに酷過ぎる。そのことを夫に相談すると、彼は「良かったね! 家族ぐるみで育ててもらえるんだね!」と言い放った。妹と両親が異常であることを伝えても、夫は理解を示してくれない。やがて夫婦は離婚してイヴェットはひとり苦境へ立ち向かうことになったが、“医術と魔術の天才”である治療人アランが彼女に味方して――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる