2 / 45
第2話 痛みと怒り
しおりを挟む「エルフの……セミナ国へ?」
「国力の低下したセミナ国への援助が決まってな。奴らへ食糧を送る代わりに、こちらはエルフの森で採れた薪を大量に得ることができた。まぁお前はオマケの贈り物みたいなモンだ」
お兄様は私を嘲笑うかのように見下ろしながらそう言った。
自国民のドワーフたちが鍛冶に使う薪のために、私は知らぬ土地へと売られるらしい。
それにしても、この十年で地上の情勢はだいぶ変わったみたいね。エルフと言えば、ドワーフと犬猿の仲だったはずなのに。それも自分たちが大切にしている森の木を売るなんて、エルフも相当な緊急事態を迎えているらしい。
「……分かりました、お兄様」
反抗したところで無駄なのは、経験上良く分かっている。
生きているだけで罪だと言われた私の居場所なんて、どうせ牢獄かあの世にしか無いのだから。それがエルフの国が加わったところで、私の運命に大した変わりは無いでしょう。
――バシン。
従う意思を告げ、大人しく頭を下げた瞬間。私の左頬が何者かによって打たれた。
なにか返答を間違えたかと、ビックリして顔を上げる。そこには見知らぬ少女が、お兄様と同じ赤い瞳で私を睨んでいた。
「ふん。汚らわしいドワーフの面汚しが。罪人であるアンタが、アタシのお兄様を馴れ馴れしく呼ばないで!」
「アタシのお兄様? もしかして貴方は……トラス!?」
驚いた。私を叩いたのは、私より二歳年下で腹違いの妹であるトラスポルテだった。
病弱ながらとても優しい子で、私のことを『ヴェルお姉ちゃん』と言って慕っていてくれていたっけ。
だけどあの頃の面影はどこにもない。今の彼女は、性格や見た目が丸っきり変わってしまっている。健康的に成長したトラスの方が、私よりよほど姉に見える。
「やめてくれる? 今のアンタに、その愛称で呼ばれる筋合いなんてないわ」
「そんな……どうして……?」
あの頃よりもずっと力強く育った彼女は、キッパリとした口調で私を拒絶した。
「おい、トラス。お前はこれからエルフ王の元へ嫁ぐ身なんだ。ゴミを触って手を汚すんじゃない」
「でもお兄様。これがアタシと半分も同じ血が流れているだなんて、考えただけで身の毛がよだちますわ」
「許してやれ。優秀な火の聖女であるお前と違って、コイツはどうしようもない出来損ないなんだからな」
「トラスがエルフの国へ嫁に……? それに貴方が火の聖女ですって?」
小さな火すら怖がっていたトラスが、私の後を追って聖女になっていただなんて。立派になってくれて嬉しい反面、あまりの変わりように私は動揺を隠せない。
「喜べ、お前をエルフにくれてやれと言ったのもトラスだ。使い道のないクズでも、物好きなエルフなら拾ってくれるだろうってな」
「うふふ。そうよ、アタシに感謝するがいいわ」
そんな、私に慰み者になれっていうの!?
二人は絶望に染まる私の顔を見てせせら笑うと、周囲に居た他のドワーフも声を上げて笑い始めた。この場に私の味方をしてくれる人は誰もいない。
エルフとの交渉や私を地下から出したのは、国王であるお父様が決めたのだろうか?
だけどこの謁見の間にある玉座には、そのお父様の姿がない。
「……あの、お父様は? どうしてトラスがお母様の腕輪を……」
ふと、お兄様の腰元に王の証であるミスリルの剣がある事に気が付いた。それにトラスの腕にはお母様が大事にしていたミスリル製の腕輪が嵌っている。
「んぁ? オヤジだと?」
嫌な予感で心がざわざわする。
その不安を煽るように、お兄様は顎に手を当てて記憶を探るような仕草をした後、意地悪くニタァと嗤った。
「あぁ、お前は知らないか。先王はとっくに死んだよ。だから今は、俺がこのラッコルタの国王だ」
0
お気に入りに追加
290
あなたにおすすめの小説
十年間片思いしていた幼馴染に告白したら、完膚なきまでに振られた俺が、昔イジメから助けた美少女にアプローチを受けてる。
味のないお茶
恋愛
中学三年の終わり、俺。桜井霧都(さくらいきりと)は十年間片思いしていた幼馴染。南野凛音(みなみのりんね)に告白した。
十分以上に勝算がある。と思っていたが、
「アンタを男として見たことなんか一度も無いから無理!!」
と完膚なきまでに振られた俺。
失意のまま、十年目にして初めて一人で登校すると、小学生の頃にいじめから助けた女の子。北島永久(きたじまとわ)が目の前に居た。
彼女は俺を見て涙を流しながら、今までずっと俺のことを想い続けていたと言ってきた。
そして、
「北島永久は桜井霧都くんを心から愛しています。私をあなたの彼女にしてください」
と、告白をされ、抱きしめられる。
突然の出来事に困惑する俺。
そんな俺を追撃するように、
「な、な、な、な……何してんのよアンタ……」
「………………凛音、なんでここに」
その現場を見ていたのは、朝が苦手なはずの、置いてきた幼なじみだった。
旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします
暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。
いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。
子を身ごもってからでは遅いのです。
あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」
伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。
女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。
妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。
だから恥じた。
「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。
本当に恥ずかしい…
私は潔く身を引くことにしますわ………」
そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。
「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。
私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。
手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。
そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」
こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。
---------------------------------------------
※架空のお話です。
※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。
※現実世界とは異なりますのでご理解ください。
管理人さんといっしょ。
桜庭かなめ
恋愛
桐生由弦は高校進学のために、学校近くのアパート「あけぼの荘」に引っ越すことに。
しかし、あけぼの荘に向かう途中、由弦と同じく進学のために引っ越す姫宮風花と二重契約になっており、既に引っ越しの作業が始まっているという連絡が来る。
風花に部屋を譲ったが、あけぼの荘に空き部屋はなく、由弦の希望する物件が近くには一切ないので、新しい住まいがなかなか見つからない。そんなとき、
「責任を取らせてください! 私と一緒に暮らしましょう」
高校2年生の管理人・白鳥美優からのそんな提案を受け、由弦と彼女と一緒に同居すると決める。こうして由弦は1学年上の女子高生との共同生活が始まった。
ご飯を食べるときも、寝るときも、家では美少女な管理人さんといつもいっしょ。優しくて温かい同居&学園ラブコメディ!
※特別編10が完結しました!(2024.6.21)
※お気に入り登録や感想をお待ちしております。
そう言うと思ってた
mios
恋愛
公爵令息のアランは馬鹿ではない。ちゃんとわかっていた。自分が夢中になっているアナスタシアが自分をそれほど好きでないことも、自分の婚約者であるカリナが自分を愛していることも。
※いつものように視点がバラバラします。
骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方
ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。
注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。
もうすぐ、お別れの時間です
夕立悠理
恋愛
──期限つきの恋だった。そんなの、わかってた、はずだったのに。
親友の代わりに、王太子の婚約者となった、レオーネ。けれど、親友の病は治り、婚約は解消される。その翌日、なぜか目覚めると、王太子が親友を見初めるパーティーの日まで、時間が巻き戻っていた。けれど、そのパーティーで、親友ではなくレオーネが見初められ──。王太子のことを信じたいけれど、信じられない。そんな想いにゆれるレオーネにずっと幼なじみだと思っていたアルロが告白し──!?
忙しい男
菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。
「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」
「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」
すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。
※ハッピーエンドです
かなりやきもきさせてしまうと思います。
どうか温かい目でみてやってくださいね。
※本編完結しました(2019/07/15)
スピンオフ &番外編
【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19)
改稿 (2020/01/01)
本編のみカクヨムさんでも公開しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる