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30 奇跡のマンドラジュース(前編)

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 魔境の村で行われた宴会が終わった次の日のこと。
 私は家として住んでいる教会で頭を抱えていた。

「マンドラゴラ料理が受け入れられたのは良かったわ。これなら魔境食堂はやっていけそうね」

 結局、あの後もずっと私は料理を作り続けていた。
 残りのマンドラゴラはキャロを含めて五体にまで減り、持って来てもらった肉は全てみんなのお腹の中へと納まった。

 あの調子なら、いきなり閑古鳥になることは無いと思う。帰る時も早く開店してくれと懇願されてしまったし。


「だけど、肝心の食堂となる場所がこれなのよね……」

 どこを見渡しても、建物として成り立っている箇所が無い私の住処。ここへ来て三日目になるけれど、漸く簡単な掃除が終わっただけだ。

 もちろん、家具なんてカビたベッドとかガタガタなテーブルと椅子ぐらいしかない。
 幸いにもまだ雨は降っていないけれど、屋根も穴だらけ。壁も窓みたいに開いていて、いつまたあの六脚ネズミが襲ってくるかも分からない。


「うーん。修理もしたいけれど、私一人じゃやっぱり厳しいわ」

 村の誰かに大工さんは居ないのかな。
 そういえば村の建物は誰が建てたのかしら?

「おぉい……すまねぇ。ジュリアの姉ちゃんはいるか?」
「はーい。誰かしら?」

 そんなことを考えていたら、教会の表玄関の方から私を呼ぶ声がした。
 なんだか様子がちょっと変だったけど……どうしたのかしら?


「あら、デークさん。昨日は魚醬をありがとうございました。……ってどうしたんですか、具合悪いんですか!?」

 声の主の元へ向かってみると、そこに居たのは昨日宴会でお世話になった港町育ちのデークさんだった。
 だけど玄関の壁にもたれかかっていて、なんだか具合が悪そうだ。

「あ、あぁ……どうやら二日酔いみたいでな。生憎と回復魔法が使える治療師ヒーラーが遠征に出払っちまっててよ……悪いんだが、聖女の力でどうにかならねぇかな?」
「ふ、二日酔い……」

 なにか重大な病気か呪いにでも掛かったのかと思えば、そんなしょうもない理由の訪問だった。

 ていうか村にお医者様は居ないのかぁ。
 たぶん軍の駐屯地の方へ行けば軍医さんが居るんだろうけど。

「残念ですが、聖女の浄化は瘴気によるものしかできないんですよ。だから病気や二日酔いの類は……」
「そうなのか……うぅ、頭が割れそうだ……」
「あんなに浴びるほど飲むからですよ、まったく……」

 イタタタ、と頭を抱えてその場で蹲ってしまうデークさん。
 どうにかしてあげたいところだけど、回復薬すら持っていない私にはどうしようもない。

 と、ここで私の視界に入ったキャロを見て、あることを思い付いた。

「――そうだ!! 薬は無いんですけど、代わりになる物ならあるかもしれません!!」
「ほ、ホントか!? た、たのむっ!! 聖女様っ、どうか俺を救ってくれぇ~!!」

 髪に縋るかのように私にしがみついて来ようとするデークさんを交わしながら、私はキャロに向かってニッコリと微笑んだ。
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