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包装紙に隠された想い
しおりを挟む「あの……これ……!!」
放課後の教室で、この小学校で1番可愛いって人気のアイドルがモジモジと恥ずかしそうに立っている。
天使のような環《わ》っかがある綺麗な長い髪が、最近ちょっと膨らみかけてきている胸にかかってサラサラと揺れた。
――この頃の彼女は、とても女の子らしくなってきたと思う。
今日着ている服だって、オトナの女の人が着るようなワンピースだし、短めのスカートからは黒タイツの脚が惜しげもなく出ていて……ちょっとえっちだ。
最近、隣のクラスの男子が彼女の写真を使って変なことをしているって噂もある。
あぁ、そんなことよりも!!
僕は今日、死んでしまうのかもしれない!!
1人で来て欲しいって呼び出された時点で「もしかして?」って思ったけど、まさか大好きな美弥《みや》ちゃんにバレンタインチョコを貰えるなんて……!
僕はチョコとか甘いものはあまり好きじゃないんだけど、美弥ちゃんから貰えるなら話は別だ。
今日から甘いもの好きになってやる!!
ふふふっ。ここまで長かった。
……いろいろ頑張ったよなぁ、僕。
学校のクラブ活動も一緒になれるように工夫したり(美弥ちゃんが友達とどれに入るか相談していたのを盗み聞き)、安全に登下校できるようにパトロールしたり(あとをつけて家の場所を確認)して好かれる努力をたーっくさんしたもんね!
6年生になって、ようやく僕の努力が実ったんだ!
「ねぇ、凍夜《とうや》君? ちゃんと聞いてるの……?」
「えっ? あぁっ、ごめん! えぇっと、僕にチョコをくれる……のかな?」
僕が改めて確認すると、美弥ちゃんはちょっと恥ずかしそうにコクン、と頷《うなず》いた。
さぁ……いよいよだ……!
「うん……小転《こころ》ちゃんから、凍夜君にって!!」
「……え? 美弥ちゃん、からじゃ……ない……!?」
◇
「最悪だ……僕は今日、死ぬのかもしれない……」
悲しみのどん底に落とされた僕は、いつもの通学路をトボトボと歩いていた。
まさか貰ったチョコは美弥ちゃんからじゃなく、彼女の友達であるココロちゃんからだったなんて……。
いや、それだけならまだマシだったのに――
「なんだよ、トーヤ。女の子にチョコ貰っておいて、そんな愚痴ってんのはマジでサイテーだぞ?」
「うるせー! ユーセーはいいよな、美弥ちゃんからチョコを貰えて。……それって本命なんだろ?」
僕がユーセーと呼んだ男子の手には、ピンク色のハートの形をした箱がある。
そう、僕が貰えるはずだった美弥ちゃんの本命チョコは、何故か僕の幼馴染である優成《ゆうせい》に渡されていたのだ。
なんで美弥ちゃんはよりによって、こんなクズに本命チョコを渡したんだろう?
こいつ、僕と一緒に手話《しゅわ》クラブに入ろうって約束をしたのに、親友である僕を裏切ってサッカークラブに入るような薄情なやつなんだぞ!?
おかげで僕は、手話クラブでたった一人の男子になっちゃったんだ!
おい、チョコを眺めながらニヤニヤしているそこのお前!
独りぼっちで延々と手話をするハメになった、惨《みじ》めな僕の気持ちがお前には分かるのか!?
僕の方がずっと好きだったのに! なんで純粋な僕じゃなくてユーセーが美弥ちゃんのチョコを!!
「まぁなー。美弥にチョコ渡されて、告白もされたぜ。アイツもまぁまぁ可愛いし? オッケーして付き合うことにした」
「ぐぬぬぬぬ……!!」
コイツ、なんて言い草をするんだ!
だいたい、ついこの間まで他のクラスの女の子のことを可愛いとか言ってたじゃないか!
ちょっと茶髪で、クラスで1番頭も良くて、他のクラスの子から告白されるくらいイケメンで、地域のクラブで代表に選ばれるくらいサッカーが出来るからって調子に乗ってるだろ!
ふんっ! 第一、僕は甘いものが嫌いなんだ!!
だからチョコなんて要らないもんね!!
「――で? トーヤはどうしたんだよ?」
「あ? なにがだよ」
「こわっ!? なんで怒ってんだよ。いや……トーヤが貰ったそのチョコだって、本命なんだろ? ココロと付き合うのか?」
「……うーん、それがさぁ」
僕はユーセーと違って、彼女から直接貰っていない。
だからココロちゃんのキモチなんて僕には分からない。
連絡先だって知らないから、聞くこともできないしお礼も言えない。
そもそも、ココロちゃんと話したことってあったかなぁ?
美弥ちゃんに比べて見た目も性格も地味だったから、あんまり記憶に……。
「メッセージカードはあったんだけどさぁ……」
お菓子箱は赤い包装紙で綺麗にラッピングされていて、所々に可愛くデフォルメされたウサギのイラストが描かれている。
結ばれた黄色のリボンの隙間には、これまた可愛い柄のメッセージカードが挟まれていたんだけど……。
『はじめて作りました。おいしくなかったらゴメンなさい。ココロより』
「……これって、告白なのかなぁ?」
「う、うぅん。ビミョーだな、コレは」
やっぱり、そうだよねぇ?
……いやいや、でも義理って書いてないし!!
バレンタインにわざわざ手作りでチョコをくれるってことは、これは本命なんだよね!?
……だよね!?
「でも、なんで僕に?」
「だよなー。別にトーヤとココロが仲良くしてるようなイメージはないなー」
たしかに手話クラブはココロちゃんとも一緒だけど、僕は基本的にボッチだし。
ココロちゃんは美弥ちゃんといつも一緒にいるから、僕の事を知っていたかどうかなんて分からないや。
「LIMEも繋がってねーんだろ? しょーがねぇな~。俺がID教えてやるから、ちゃんと返事してやれよ」
「うえっ!? やっぱり、返事をしなきゃダメ?」
当たり前だろーと言いながら、ユーセーはササッと僕にココロちゃんの連絡先を送ってくれた。
ていうか、なんでコイツはココロちゃんのIDを知っていたんだ!?
「なんでって、クラスのやつはだいたい知ってるだろ?」
「僕……数人しか知らない。しかも男子と先生だけ」
「マジか。ってかなんで先生の知ってるんだよ。そっちのが逆に驚きだわ」
だって、クラブの担当なんだもん。
僕の手話の練習相手って先生しか居ないから、自然と仲良くなったっていうか……。
「まぁ、いいよ。貰ったお菓子をちゃんと食べて、感想付きでちゃんと伝えるんだぞ?」
「あー……、うん。分かった。サンキューな」
もう分かれ道に着いたから、ここでユーセーとはバイバイだ。
ふんっ、余裕ぶりやがって。
お前は学校のアイドルと付き合うんだぞ!?
せいぜい帰り道で刺されないように気を付けるがいいさ。
「くっそー、美弥ちゃんの愛情チョコってどんな味なんだろうなぁ~! 羨ましいぃいい!!」
コンクリートの道に長く伸びる自分の影を恨めしそうに踏みながら、僕は寒空の下を走ってお家に帰った。
◇
はぁ……バレンタインか。
俺にとっちゃいい思い出の無い日だ。
25年間の人生の中で、好きな子から本命のチョコなんて貰ったことが無い。
小学校では親友に好きな人を奪われ。
中学校では3年間片想いしていた女友達に「余ったからあげる」と義理チョコを渡され。
高校では……くそっ、思い出したくもない。
なんで俺は男子校になんて進学しちまったんだ!
恋愛に関して拗《こじ》らせ過ぎたせいで、社会人になった今でも彼女がいない。
会社の女性社員がばら撒《ま》くチョコを貰った時でさえ、昔のトラウマが蘇《よみがえ》って相当イヤな顔をしていた思う。
もう、何年もこうしたやり取りの繰り返しだ。
マトモにお礼も言えない俺に、そろそろ職場の女も嫌気がさすだろうな……。
「お礼っていえば……あの時の俺って、ココロちゃんにキチンと返事……言ったんだっけか」
小学校の卒業以来、俺は彼女とは別の中学に進学したので何となく疎遠《そえん》になってしまった。
ユーセーも結局美弥ちゃんとは中学時代に別れていたし、気まずくて連絡も取りづらかったんだよな……。
「ココロちゃん、どうしてっかな~。あの時を思い出してみると結構酷かったよな、俺」
直接渡せなかったとはいえ、地味で控えめだったあの子がわざわざラッピングまで用意して手作りしてくれたんだ。
今の俺なら、あんなピュアなキモチで渡されれば涙を流して喜ぶぜ。
「はぁ。なんとなく今日はいつも以上に疲れた気がする。メシ作るのも面倒だし、何か買って帰るか」
いつも通勤で利用している駅ナカをトボトボと歩いていると、普段は寄らない駅ビルの食品コーナーが目に入った。
だいたいが独り暮らししている家の近くにあるスーパーで、値引きされた安い弁当を買って食べているんだが――なんとなく今日はちょっとイイモノが食べたい気分だ。
「ちょっとお高いんだが、たまにはお惣菜《そうざい》でも買ってみるかな」
目に入った揚げ物や中華を適当に買いつつ、様々な食べ物が売られているコーナーをウロウロしてみる。
このフロアでは想像以上にいろんなオカズが売っていて、俺は遊園地に来た子どもみたいにテンションが上がってしまっていた。
フロアをおおかた回った頃には、両手には買い物袋でいっぱいになってしまった。
酒に弱いのにワインまで買って……どうしよう、コレ。
「んー、さすがに買い過ぎたかなぁ。まるでフルコースになりそうだ。……でもここまできたら、食後のデザートも欲しい。おっ、ちゃんとスイーツ屋もあるじゃんか」
丁度視線の先に、行列の出来ているケーキコーナーがあった。
そういえば自分でも不思議なんだが、いつの間にか苦手だった甘いものが好きになっていたんだよな。
それこそ、平気でワンホールのチョコケーキなんかも食べられるくらいだ。
俺はさっそく最後尾に並んで、ショーケースに入った色とりどりのケーキを品定めしていく。
「へぇ~、結構凝ったラインナップじゃん。人が並ぶくらいだし、有名な店なのか?」
そんな有名なパティシエでもいるのか?と思いつつ、目をケーキのショーケースから店内で作業をしている女性に移すと……
「――と、トーヤくん!?」
「えっ……俺!?」
目が合うなり俺の名前を呼んだのは、赤のラインが入った可愛らしいパティシエの服を着た美少女だった。
「こ、こんばんは?」
「こんばんは、トーヤくん。……いらっしゃいませ?」
しまった。つい勢いで挨拶しちゃったけど、この子が誰なのかが全く分からない。
俺の返事が突飛《とっぴ》過ぎたのか、店員さんも思わず疑問形で返事をしている。
「あの……すみません。俺のことを御存知《ごぞんじ》なんですか?」
「あー、そうですよね。もう10年以上も経ってるし、さすがに忘れちゃったよね……」
え? 忘れた? それに10年以上前ってどういうこと?
――っていうか、よく見れば彼女の大きな胸元に、ちゃんと名札が付いていた。
それを見れば分かるじゃんよ、ウッカリさんな俺め。
「えっと、柚木《ゆずき》……小転? ちょっ!? もしかして、小転ってあのココロちゃん!?」
「はい……。思い出して……くれました?」
いやいやいや!!
こんな珍しい名前なんて、なかなか居ないだろっ!?
っていうか、本当にあのココロちゃんなのか!?
いや、その……我ながらサイテーだと思うけど、メチャクチャ可愛くなってるぞ……!!
思わず俺は、戸惑《とまど》っているココロちゃんをもう一度見てみた。
髪は明るい茶髪になっているし、チビで座敷童みたいだったのが、今では身長もグンと伸びて健康的な身体つきをしている。
その……お胸さまも、タイヘンご立派に……。
「あ、あんまり見られると恥ずかしいんだけど……」
「ああっ、ごめん! あまりに綺麗になっていたから、つい」
「私が綺麗っ!?」
やばっ、つい思っていたことをそのまま言ってしまった!?
こんなの職場でなんか言ったら、即セクハラ案件だぞ。
いくら昔の友達だからって、久々にあった男にこんなこと言われたら……!!
「う、嬉しい……です。えへへっ」
「~~ッ!?」
照れた顔もクッソ可愛すぎィ!?
やばいぞ、なんだこの可愛さは!!
顔を真っ赤にして俯《うつむ》くココロちゃんは、天使の様な可愛さで俺のハートを一撃で打ち抜いた。
列の前後で並んでいた女性たちも、そんな彼女を見て思わずポーッとしているほどだ。
「っていうか、なぜココロちゃんがこのスイーツのお店に?」
「えっ? えぇっと、それはぁ……あの、その。ここで聞いちゃいますか、それ?」
嗚呼《ああ》、そんな小悪魔みたいな笑みを僕に向けないでください。
性癖《せいへき》に突き刺さり過ぎて死んでしまいます。
いや、別にどこで働いていたっておかしくはないんだけど、まさか俺の通勤圏内の駅でココロちゃんが働いていたなんて思わなかったからさ。
もう何年もこの駅を使ってきたけど、さっき再会するまで全く知らなかったよ?
「――ねぇ、トーヤくん。私、あと少しでお仕事終わるんだけど……その後にちょっとだけでも会えないかな?」
「へっ? あ、あぁ。いいよ、分かった。それまで待ってる」
ココロちゃんの誘いに対して、ただ頷くことしか出来なかった俺。
あまりにも動揺しまくったせいで、ケーキも買わずに列から出てしまった。
俺はそのまま目に入った近くの喫茶店に入る。
半ば抜け殻のように普段飲みもしない激甘生クリーム入りコーヒーを飲みながら、ココロちゃんの仕事が終わるまでボーッと時間を潰していた。
傍《はた》から見たら、挙動不審な不審者である。
そのまま特に何をするでもなく、空いていたカウンター席で時間を忘れて座っていると、不意に背後から声を掛けられた。
「おまたせ、トーヤくん。……って、そんな甘いのを飲んでたの!? あれだけ甘いものが苦手だったトーヤくんが!?」
「え……あ、あぁ。うん、美味しかったよ?」
良く分からない答えを返しながら、俺はココロちゃんに再び見惚《みほ》れていた。
パティシエの姿から私服になった彼女が、あまりにも可愛すぎたのだ。
ワインレッドのニットにブラウンのスカートを着ているんだけど、オシャレに着こなしているおかげで昔みたいに地味なイメージなんて微塵《みじん》も感じられない。
20代の色気のある、オトナな女性ってカンジだ。
俺の熱い視線に気付いたのか、やっぱり恥ずかしそうにしているココロちゃん。
無邪気でゆるふわな笑顔が本当に可愛いらしい。
「ごめんね? 待たせちゃった」
「いや、全然。お仕事していたんだしね。お疲れ様」
「ふふふ。ありがとう、トーヤくん! あの……となり、座っていいかな?」
「ふおっ!? あ、あぁ……もちろん?」
……僕が断るワケがないでしょうよぉおお!?
「私も買ってくるね」と言って去っていった彼女の背中に、俺は無言の絶叫を浴びせさせる。
やばい、なんだか空気の主導権を握られてしまっている気がするぞ……。
席を離れてから数分もしない内に、ココロちゃんはトレーに置いたコーヒーを持って帰ってきた。
ちなみに注文したのはソイラテらしい。俺と違って、オシャレでヘルシーそうなコーヒーだ。
「えへへ、なんだか会うのが久々だと緊張しちゃうね?」
「そ、そうかぁ!? 別に俺は……うん、まぁな……」
どうしよう、緊張し過ぎて話す内容が思い浮かばない。
だって俺が職場以外の女性と話す相手なんて、母さんとスマホの音声アシスタントぐらいだぞ?
取り敢えず俺は、小学校を卒業した後の学生時代や仕事についてベラベラと喋り続けた。
それはもう、俺のなけなしのトークスキルをフルに使うほどに。
……正直、仕事より疲れた気がする。
そうして30分ほどで俺の話のネタが尽きた頃。
ニコニコと相槌《あいづち》を打ちながら聞いてくれていたココロちゃんが、少し迷いながらも口を開いた。
「あのね? さっきトーヤくんが、『なんでスイーツ屋さんで働いているの』って聞いてくれたじゃない?」
「え? あぁ……き、聞いたけど」
再会した時はだいぶ取り乱していたけど、そういえばそんなことも聞いた気がする。
「覚えてるかなぁ。小学校6年生のバレンタインで、私がトーヤくんにお菓子作ったじゃない?」
「……あぁ、貰ったね。たしか……オレンジの皮が入った、パウンドケーキ? だったよね」
そうそう、と言いながら、俺が覚えていたことで嬉しそうにはにかむココロちゃん。
でもそれがどうかしたんだろうか……?
「あの時の私、どうしても勇気が出なくって。それで美弥ちゃんに渡してもらうようにお願いしたんだよね。でも私、かなりテンパっちゃってて、返事とかお返しのことなんてすっかり忘れちゃってたんだけど……」
「そういえば……そうだったなぁ」
俺がユーセー経由で、LIMEの連絡先を聞いたんだったよな。
……でも、それからどんなやり取りをしたかなんて俺は覚えて――
「トーヤくん、その日のうちに『美味しかった! ココロちゃんの作ってくれたケーキで涙出るくらい元気出た!』って言ってくれたんだよ? ほら」
彼女はそう言って自分のスマホを鞄から取り出すと、何かを操作して画面を見せてきた。
そこに映っていたのは、当時のLIMEのやり取りをスクショした画像だった。
ココロちゃんの言う通り、俺が空になった箱とピースの写真付きで送ったメッセージがそこにはあった。
「私ね、本当に嬉しかったんだよ? 中学校は別になっちゃったけど、ずっと忘れなかった。だからね、私……またトーヤくんに『美味しかった』って言ってもらえるように、頑張ってパティシエになったの」
「えっ? 俺の……ために?」
リンゴみたいに真っ赤にした顔で、コクンと頷くココロちゃん。
どうやら彼女の言っていることは本当らしい。
まさか、あの時の俺があんなことを言ったから……!?
「だからね? 今日トーヤくんが私の働くお店に来たとき、これは運命だーって喜んじゃった。今まで頑張ってお菓子作ってきて、本当に良かったって思えたんだぁ」
「ココロちゃん……」
こんなに月日が経っても俺のことを覚えてくれていただけじゃなく、今までパティシエとして頑張ってきてくれたなんて……。
「あの時は恥ずかしくてちゃんと言えなかったけど……今なら胸を張って言えると思うんだ。だから――」
彼女は持っていた紙袋から一つのお菓子箱を取り出して、俺の前に置いた。
「――私のこと、貰ってくれますか?」
彼女と同じ顔色になった俺は、きっと壊れた人形みたいに頭をガクガクと振っていたと思う。
昔と違ってとっても大胆になったココロちゃんは、俺の手を握って喫茶店から連れ出した。
その後のことは……ここでは詳細を語れないが――チョコも溶けるような、熱く、甘い夜だった。
結局買い過ぎたお惣菜も、余らせることなく美味しくシェアできたけど……今後はあまり外食にはお世話になることもなさそう。
今まで2月14日は辛いことだらけだったけど、ちょっとだけ勇気を出せば――バレンタインも悪くないのかもしれない――
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