貴方、恋愛に興味が無いって言ってましたよね!?密かに想いを寄せていた幼馴染が、何故か私の好きな人を暴こうと迫ってくるのですが。

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後編 私の王子様

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「アイリーン!! 大丈夫か!?」

 おそるおそる目蓋を開く。そこにいたのは手に短杖を持ったジョセフだった。

 視界の端では壁に衝突したブライアンがずるずると床に落ちていく。どうやらジョセフが魔法で吹き飛ばしたらしい。


「ど、どうしてジョセフがここに……!? パーティーはどうしたのよ!?」
「アイリーンが会場にいないから、心配になって探しに来たんだよ。そうしたらまさか、副所長がこんなことをしていたなんて……」
「私を探して……ありがとう、ジョセフ」

 震えた声でお礼を言う。恐怖で腰が抜けてしまい、一人では立てそうにない。ジョセフに差し出された手を支えにして、どうにかベッドから抜け出した。


「君はもう少し女としての自覚を持ってくれ。もう少し遅ければどうなっていたことか……」
「うぅ……ごめんなさい……」
「謝らなくていい。……それよりも、早くその服を直してくれないかな」

 顔を真っ赤にさせたジョセフは私に背を向けた。

 何を言われたのか分からずキョトンとするも、自分の服を見下ろしてビックリ。着ていたドレスは乱れ、肌が見えてしまっていた。


「ご、ごめんなさい。見苦しいものを……」
「いや眼福……じゃなかった、気にしないで!」

 ジョセフが気絶したブライアンを魔法の縄で縛っている間に、私はいそいそと身嗜みを整える。


 ――どうしよう。こんな状況なのに、心配してくれたことが嬉しい。

 それに私を女だと意識してくれるだなんて。さっき私を庇ってくれた時のジョセフはすごく男らしかったし、まるで物語に出てくる英雄のようで……あれ?

 と、そこである事に気が付いた。


「ねぇ、ジョセフ。そういえば、どうして私がここにいるって分かったの?」

 ブライアンは私の居場所が分からないように、この部屋へ認識阻害の魔法を掛けたと言っていたはずだ。

 私がそう訊ねると、ジョセフは少しバツが悪そうな表情で頭を掻いた。


「さっきアイリーンに教えたアレ……実は自分に悪意を持つ人物をサーチする魔法だったみたいなんだ」
「悪意のある人物を……?」

 ええっと、自分に好意を持つ人間を探す魔法ではない?

 まさか、あの魔法が示した一人って、副所長のことだったの!?


「君が去った後に、所長へ実演して見せたんだよ。そうしたら、幾つか根本的な間違いを指摘されちゃってね」

 所長はジョセフが見せた魔法をその場で解析し、問題点を教えてくれたらしい。たしかに魔法に関して本物の天才であるあの人なら、そんな無茶も簡単にやってのけるだろう。


「だからそれを少し弄って、今度は自分の好きな人を探す魔法に改編したんだ。それで君がこの部屋に居るって分かって、襲われかけていたから慌てて止めに入って……」
「ちょ、ちょっと待って? 自分を好きな人を探す魔法!? つまりそれって……」

 ビックリして、思わず声が上擦ってしまった。だけど、これってそういうことよね? ジョセフはその魔法を使って、私を見つけ出した。それはつまり……。

 今度は耳まで赤く染めたジョセフは、私の目を真っ直ぐ見つめて頷いた。


「アイリーン、好きだ。出逢った時から、僕は君をずっと想い続けてきた」

 まるで時が止まったかのような感覚。心臓の鼓動すら聞こえないほどの静寂。僅か数秒にも満たない間で、私の胸中に歓喜が沸き上がった。

 ――って、待つのよ私。雰囲気に流されちゃ駄目よ。いくらなんでも、そんな都合の良い話があるわけがないじゃない。


「う、嘘よ!! そんな素振りなんて、貴方は今までちっとも見せてこなかったじゃない!」

 そうだ。こんな幸せなことが起きるなんて有り得ないわ。

 きっと私が酷い目に遭ったからって、今だけ優しくしてくれているだけ。そうじゃなきゃ、こんな売れ残りの私なんて誰も相手にしないもの……。


 するとジョセフは懐から小さな箱を取り出した。中には銀色に輝く指輪が入っている。彼はその指輪を手に取り、私に差し出した。


「嘘なんかじゃない。僕はたしかに君を愛してる」
「ゆっ、ゆゆゆ指輪!?」
「僕は平民で、君は貴族出身だったから。何か功績を残して、どうしても君に相応ふさわしい男になりたかったんだよ。だけど僕が至らないせいで、君を何年も待たせてしまったけれど……」

 頬をポリポリと掻きながら苦笑いをするジョセフ。どうやら冗談ではなさそうだ。


「じゃ、じゃあ……!?」
「給料を貯めて、告白をする準備だけは続けてきたんだ。……どうだろう。こんな不甲斐ない僕だけど、奥さんになってくれないかな?」

 ジョセフの言葉を聞いている内に、私の涙腺が決壊した。


「馬鹿……告白どころか、それはもうプロポーズじゃないの」

 そんなツッコミとは裏腹に、嬉しい感情が溢れる。それ以上は声にならず、何度も頷くことしかできない。

 そんな私をジョセフはそっと抱きしめる。そして私の左手を取り、薬指に指輪を嵌めてくれた。彼の腕の中で、私は嬉し涙を流し続けた。



 ◆

 その後、騒ぎを聞きつけた衛兵たちが部屋に駆けつけ、副所長のブライアンは逮捕された。

 取り調べの結果、あの男は以前から女性職員に対してセクハラ行為を繰り返していた事が発覚。他にも色々と余罪が出てきたらしく、裁判にかけられれば間違いなく実刑は免れないだろう。


「はぁ……」
「どうしたのよ、ジョセフ。そんな深い溜め息なんて吐いちゃって」

 事情説明もなんとか無事に終えることができた。

 誰も居なくなったパーティ会場で、私たちは残されていたワインを飲みながら会話を交わしていた。今回の件でドッと疲れてしまい、二人並んで壁に背中を預けている。


「いや、結局はあの魔法を開発できなかったからさ……」

 ジョセフはガックリと肩を落とした。


「人の愛情に関する魔法を開発できれば、一発で昇進できると思ったのに……」

 どうやら彼は最終的に、“理想の相手を自分に惚れさせる魔法”を生み出したかったようだ。

 まぁ、そんな都合の良い魔法が簡単に生み出せるはずもなく。所長からも、愛情は魔法で得るモノじゃないとこっ酷く叱られてしまったそうだ。


「もう、この魔法には懲りたよ。やっぱり愛情は地道に育むべきだね」

 ジョセフはそう言って苦笑を浮かべると、グラスの中に入っていたワインを一口で飲み干した。私は隣に立つ彼を見て、頬を緩ませる。

 ふふふ。まったく、恋愛下手なジョセフらしいわね。でも面白いから、もう少し揶揄ってみようかしら。


「ねぇ、ジョセフ。私ならその魔法、実現できるかもしれないわよ?」
「ほ、本当かい!? 是非とも僕に見せてくれ!」

 さっきの反省はいったい何だったのか。すっかり調子を取り戻したジョセフは、私に実演するよう急かしてくる。

 仕方がないので、私は彼の正面に立ち、ニッコリ微笑んだ。そして――


「あ、アイリーんむぅ!?」

 彼の頬に両手を添えて、強引に唇を奪ってやった。

 自分でやっておいて恥ずかしくなった私は、すぐに彼から離れた。解放されたジョセフは何が起きたのか分からず、乙女のように口元を押さえている。


「ほら、私のことをもっと好きになったでしょう?」

 私はニヤニヤと笑いながら悪戯っぽくたずねると、ジョセフは壊れた人形のようにコクコクと何度も頷くのであった。


 ◆

 そのあと私はジョセフのプロポーズを受け入れ、婚約を結んだ。

 浮かれまくったジョセフは私の事を婚約者だと魔導研究所内で触れ回り、周囲に見せつけるかのように愛を囁いてくるようになった。

 今までそっけなかったのは何だったのかと聞けば、彼いわくずっと我慢してきただけで、現在はその反動なんだそう。

 それが恥ずかしくて、私はつい憎まれ口を叩いてしまうけれど……内心ではとても幸せだ。


「あぁアイリーン、僕の可愛いお姫様……」
「もう、またそういうこと言う……」
「本当のことなんだから、仕方がないじゃないか。君は世界で一番美しい」
「……ばか」
「ふふ、照れる君はもっと綺麗だ」

 そして迎えた結婚式。

 純白のドレスに身を包んだ私を、ジョセフはこれでもかと褒めてくれた。神父の前で誓いを立て、キスを交わした後は、皆に祝福されて式を終えた。

 私を救ってくれた英雄は、いつの間にか私の心を掴んで離さない、素敵な旦那様になった。


 ちなみに“理想の相手を自分に惚れさせる魔法(キス)”を、魔法狂いあらためバカ旦那は論文にして学会発表しやがった。

 おかげで私たちは魔導研究所創設以来のバカップルとして、一躍有名になるのだが……それはまた別のお話。


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