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第7話 ブラック企業、崩壊。
しおりを挟む「それで、なにをどうしたらこうなるのよ……」
数分後、会社のビルが倒壊しないことを不思議に思った私はノコノコと戻ってきた。
そこに居たのは、元のスーツ姿に戻っていた魔王と――。
「……ぐぅ」
「あへぇ~」
「うふふ、中々に可愛い寝顔ではないか」
床の上でグッスリと眠る猫たちと、それを見下ろす魔王の姿だった。
「……なにしてんのよ?」
「なに、無害な姿になれば問題はないと思ってな」
「だからって全員を猫にする必要は無いでしょう?」
「まぁいいじゃないか。ほれ、お前も撫でてみろ」
そう言いながら魔王は、私の足元で丸まっていた三毛猫を抱き上げた。そして私の方に差し出してくる。
正直、動物なんて飼ったことがないから触るのは初めてだ。恐る恐る手を伸ばし、フワリとした感触を確かめる。
あぁ、なんだろうコレ。なんか凄く癒されるかも。
「気持ち良いだろ?」
「……うん」
クリクリの丸い目が私を興味深そうに見上げている。
撫でてほしいのか私の手に顔を擦り付けてきて、思わず頬が緩んでしまう。
それがまた可愛らしくて、ただひたすらにモフってあげた。しかしそれを見ていた魔王が突然、思い出したかのように口を開く。
「ちなみにソイツがお前をいびっていた久豆とかいうハゲだ」
「ぶふっ!?」
思わず猫――もとい、久豆課長を落としそうになった。
でも確かに言われてみると、どこか見覚えのあるような気がしてきた。ちょっと頭頂部の毛が寂しいのもソックリ……。
「だが油断するな。コイツらは今は無力かもしれないが、いつ牙を向いてくるか分からぬぞ」
「う、うん」
「もし襲ってきたときは、容赦なく斬り捨てるがいい」
「いや、それは流石に……」
いくらなんでも可哀想だ。
それにこんな小さな生き物相手に剣を振るうことなど、私には到底できそうもない。
「で、どうするのよこの状況。このままじゃ仕事にならないんだけど?」
毛づくろいをするブチ猫(お局様)や壁で爪とぎを始めた茶虎(サボり癖のある後輩)など、個性豊かな猫たちが思い思いに過ごすフロアを見渡す。これじゃ風変わりな猫カフェである。
「心配せずとも、今日はもう業務は終了で構わんさ。俺の方で片付けておいた」
「えっ、そうなの? でもどうやって……」
「さっきも言ったろう? 俺は魔法を使えると」
「そっか……って、納得できるわけないでしょ! 魔法で複雑な日本企業の書類仕事が終わるわけ……」
断定しかけたその時、自分の口から「あ」という声が出た。
同僚たちのデスクに積まれていた書類の山が綺麗さっぱり無くなっていたのだ。
「え? ど、どういうこと? まさかさっきの魔法で燃やしちゃったんじゃ……」
大事な書類を焼失したら、下手したらウチの会社は潰れてしまうかもしれない。
もしかして今日で私はニート生活が始まる感じですか?
なぜか公園で勇者と二人で子供にオヤツをたかる姿が脳裏をよぎる。そんな絶望的な未来予想図が浮かんでしまった時だった。
「そんなことをするわけがないだろう。俺が猫たちに指示をして、代わりに仕事をさせただけだ」
……は? 今この人何て言いました? 私がポカンとしている間に、魔王は再び魔法を唱え始めた。
すると猫たちは一斉に動き出し、それぞれの机の上で何かを書き始める。
その様子はとてもじゃないけど、とても猫とは思えないくらいテキパキとしていた。
そしてものの数分も経たないうちに、新しい書類が完成してしまったのである。しかも私が作成したものと寸分違わぬ……いや、それ以上のクオリティで。
「ふん、これで文句はないな?」
得意げに笑う魔王の手から、私は受け取った書類をパラパラと捲る。
まるでお手本をコピーしたかのような完璧な仕上がりに、思わず感嘆の声を上げてしまった。
「す、すごい……」
「フッ、俺の手に掛かればこの程度。魔王の名は伊達ではないのでな」
なんでも異世界では一国の主として事務仕事から現場の指揮まで、マルチで活躍していたらしい。
たしかに会社どころか国のトップなんだから優秀だったんだろうけど……それでも勝手の分からないウチの会社をあっという間に掌握するなんてタダ者じゃないわね。
手放しで褒め言葉を掛けると、魔王はさらに鼻高々に胸を張った。でも……。
「会社の人たちは元に戻してね? さすがに猫に囲まれて仕事はしたくないから」
あ、魔王が宇宙猫みたいな顔になった。
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