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第4話 勇者は従順な従者サマ?
しおりを挟む「さ、さすがは聖女イーグレット。機転の良さは少しも衰えていないんだね……」
白騎士の男は床に突っ伏しながら私のことを褒める。なんだろう、全然嬉しくない。むしろ罪悪感しか湧かないのはなぜ?
「あの、大丈夫ですか?」
「ああ、心配はいらないよ。キミの愛があればこれしきのこと」
「いえ、そういう意味ではなくてですね……」
とりあえず意識があることは確認できた。ひとまず安心してもいいかな。それじゃあ……。
「あの、帰ってもらうことはできませんかね?」
私は彼をリビングへと案内しようかとも思ったが、やめておいた。だって客じゃないし、さっきの魔王の件もある。勇者とは自称しているけれど、これまでの言動を考えればこの人が無害とはどうしても思えない。
「そうかい、それは残念だ。せっかくキミのために異世界からやってきたというのに、歓迎されていないなんて悲しいよ」
「はぁ、まあ普通はそうなると思いますけど」
「ふふふっ、分かっているさ。久しぶりに僕と会うには、心の準備が必要ということだろう?」
「えっと、話が噛み合ってないんですが」
仕事疲れのおかげか、心労のピークを越えてしまった。ここまでくると不思議なもので、意外と冷静でいられることができた。とりあえず、ドアの修繕費だけいただければ今回は見逃す。だから帰ってくれないかな。
「キミが照れ屋なのは知っているよ。でも、いつまでもそんなんじゃ運命の人と結婚を逃してしまうよ?」
「うるさい、それ以上余計な口を利くならアンタを捕まえてくれる人を呼ぶわよ!」
私はスマホをチラつかせて脅してみた。すると彼は慌てて自分の口元を押さえる。
意外だけど、勇者も警察が怖いのかしら? これで静かになってくれるといいんだけど。
だけど勇者を名乗る男は、まだ諦めていなかった。
「お、お願いだ。僕はこの世界に来たばかりで、他に行くところもなくて……大人しくするから、キミの家に入れてくれないか?」
今度は突然土下座を始めたのだ。
これには私も驚いた。まさかそこまでされるとは思ってもみなかったから。そこで勇気を発揮しなくてもいいのに。
「いや、あのねぇ……」
「もちろんただで泊めてくれなんて言わない! 食事は僕の手作りを振る舞うよ? 掃除や洗濯も任せてほしい。あと、夜の生活も……」
「はいストップ!! あなた、自分が何言ってるか分かってる!?」
最後の方なんか、変なこと言いそうだったし。
やっぱり信用できない。こんな人を家に上げるわけにはいかない。
「どうして……僕とあんなにも熱い夜を過ごしたって言うのに」
「だから誰の話なのよ!? 私は処じょ……って何を言わせるのよ!!」
「ぶふっ!? す、すごいっ。聖なるバリアを張っている勇者相手に、こんな強力なビンタを繰り出せるなんて……やはりキミは聖女イーグレットその人だ!!」
どうやら私は彼のナニカに触れてしまったらしい。
さらに興奮させてしまい、鼻息を荒げながら迫ってきた。
こ、これはヤバい。このままでは押し倒されかねない勢いだ。
「ま、待って待って! 待ちなさいって……待てって言ってんのよ!」
「わんっ」
「……え?」
私は咄嵯に両手を前に振りかざし、これ以上近寄らないよう訴える。すると勇者の動きがピタッと止まった。……のは良かったのだけれど。わんってなに?
「はっはっはっ……」
「いや、素直に気持ち悪いんですけど……え? 犬のつもり?」
勇者は私の問いに答えず、なぜか目を瞑りながら舌を出している。しかもこれって、躾でいうところのチ○チ○ってやつなんじゃないの?
えぇ、マジで何やってるのこの人……。
しばらく沈黙が続き、私は仕方なくもう一度聞いてみる。
もしかしたら私が気付いていないだけで、何かの魔法を唱えているのかもしれない。うん、きっとそうだ。でなければ、こんな意味不明な行動を取るはずがないよね。だって勇者だよ?
「僕は聖女を愛する勇者であり、キミの忠実な犬でもある。さぁ、御主人様にご奉仕させてくれ!」
「…………いや、勘弁してください?」
ダメだコイツ早くなんとかしないと。
私は頭を抱えつつ、どうやって追い返そうか必死に考える。けれど、いくら考えても妙案は浮かんで来ない。だって相手は勇者だし。
「あーもう! わかった、わかりました。とりあえずコレを付けてください。そして今すぐ出て行ってください!」
「こ、コレは……!?」
私は自分が身に着けていた腰の革ベルトを外すと、勇者キリクに手渡した。
「犬なら首にでもつけて、大人しく御主人様の言うことを聞いていなさい。分かった?」
キリクはコクリと首を縦に振ると、嬉々としてそのアイテムを装着し始めた。
「さぁ、今日はもう遅いから帰りなさい。マンションの前に公園があるから、そこで寝ればいいわ」
「分かった。ありがとう、イーグレッ「千鶴よ」――千鶴様」
……よし、これで大丈夫だろう。
後は玄関先で見送れば問題なしだ。勇者キリクが去って行くのを確認してから、私は家へと入った。
翌朝―――。
結局昨晩はロクに眠れなかったせいで、寝不足気味のまま家を出た。
少し早めに出勤して、会社で朝ご飯を食べよう。
「本当にいるし……」
勇者キリクは私の革ベルトを愛おしそうに撫でながら、砂場の上で眠っていた。
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