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二章

11 魔界召喚

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『緋閃のグランシャリオ』は魔王アリスティドが死んだ後も続く。

 より強大な力を欲したアリスティドは悪魔と契約するだけでは飽きたらず、人間であることをやめた。
 これまで利用していたディシフェルの力さえも呑み込み、完全な悪魔として生まれ変わったアリスティドが得たものは、脆弱な人間とは比べ物にならないほど優れた力と、永久にも等しい寿命。かわりに手放したのは、アリスティドがほんの僅かに抱いていた温かな感情――母への敬意と思慕。
 もはや平民か貴族かなどということは瑣末な問題だった。人間そのものが等しく悪魔の玩具であり、餌に過ぎないのだから。
 魔王と化したアリスティドの目的は、人間の世界を滅ぼすこと。魔界に封じられ力を失っている悪魔たちを目覚めさせ、彼らを統べる王になること。そのためには人間界と魔界を隔てる結界が邪魔だった。
 神に作られた生物である人類は光に守られており、悪魔は内側から呼び込まれない限り人間界に入り込むことができない。それならば、魔界そのものを人間界に召喚してしまえば結界は意味を失う。
 悪魔単体を召喚するだけで数百の魂を生贄に捧げなければならない。魔界そのものを召喚するとなれば、数万の人間の命を刈り取る必要がある。だが既にルミエ王国を支配し、魔物の軍勢を作り上げたアリスティドにとって、そう難しいことではなかった。
 いくつもの国が滅びた。シグファリスに助けられて難を逃れた人々もいたが、物量で勝る魔物の軍勢が引き起こす大量死の前では些細な誤差でしかない。やがて魔界召喚の儀式に必要なだけの魂が集まってしまう。
 圧倒的な力を持つアリスティドの配下に蹂躙され、皮肉にも人間同士の戦争は終わった。人類という種族を守るためには、身分や国籍などに拘泥している場合ではない。人間たちは光の加護のもとに集まり、結束してアリスティドに抵抗する。しかしそれもアリスティドの計略の内だった。
 魔界召喚という大規模な魔術を行使するには、トリガーとしてより強い魔力を持つ者の魂が必要になる。アリスティドはシグファリスを誘き寄せて殺害することで儀式を完成させるつもりでいた。
 だが、狡猾なアリスティドは自らがシグファリスに倒される可能性も考慮していた。悪魔の力を手に入れたアリスティド自身もトリガーとしての条件を満たしている。
 どちらが死んでも魔界召喚は成される――そんな状況を整えてからアリスティドはシグファリスとの最終決戦に臨んだ。シグファリスは何も知らないまま魔王アリスティドを倒し、人間界と魔界の境界は消失してしまう。
 世界は闇に覆われ、アリスティドが望んだ通りの破滅が訪れた。弱い人間たちは悪魔に喰われ、逃れた人々も悪魔が放つ瘴気によって倒れた。
 死してなおシグファリスを苦しめるアリスティド。シグファリスは気が触れたように悪魔を狩るようになり、更なる過酷な戦いに身を投じるのだった。
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