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20 誓い
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王都にて王太子と聖女マレルダの結婚が正式に告示され、国中が歓喜に沸き立っていた。
これから長い儀式を経て、盛大な婚儀が執り行われることだろう。聖寵騎士団の本拠地も祝賀の空気に包まれていたが、ただ一人、エアネストだけが表情を曇らせていた。
庭園にひとりたたずみ、盛りを過ぎて葉だけになっている薔薇の植栽に視線を落としながら、最後に交わしたマレルダとの会話を思い出す。
――ありがとう、わたくしの騎士。
あの日、マレルダの言葉に恥じない存在になろうと誓った。生涯をかけて、この身のすべてを神に捧げ、聖女を護る騎士となろう。そう誓ったはずだったのに。
「エアネスト様ッ!」
誰かが勢いよく走って来る気配を感じて振り向いたのと、走ってきた人物がエアネストの名を呼んだのはほとんど同時だった。
「な……どうしたのだ、ウォルフ」
普段落ち着き払っているウォルフが声を荒げ、焦燥を顔に出すのは珍しい。もしや敵襲かと思うが警鐘は響いてこない。
髪を乱し、ほんのわずかに息を切らせているウォルフは、礼をするのも忘れてエアネストに詰め寄った。
「騎士団を辞めるというのは本当ですか」
「あ、ああ……先ほど総長に申し入れたばかりなのに、耳が早いな」
エアネストはぎこちなく微笑み、ウォルフから目を逸らせた。
呪いを解いてもらったあの日の夜から、エアネストはウォルフを避けていた。喘ぎすぎて枯れた声でウォルフと話すのがいたたまれなかった。声の調子が戻ってからも、どのような顔をしてウォルフの前に立てばよいのかわからなかった。
一方、ウォルフは普段通りに見えた。あのような行為をした事などなかったかのように。エアネストの夢だったのではないかと思えるほどに。こうして二人きりで相対している今も、エアネストだけが意識しているように思えた。
「――申し訳ございませんでした!」
唐突な謝罪にエアネストは顔をあげたが、目が合う前にウォルフはがばりと頭を下げた。
「俺の、せいですよね。俺がエアネスト様に乱暴をしたから。だったら俺が辞めます。二度とあなたの前に姿を現さない。罰だっていくらでも受ける。だから、だからどうか、辞めるなんて言わないでくれ」
解呪にかこつけて、欲望をぶつけて。エアネストの騎士としての誇りを汚してしまった。聖寵騎士団を辞さねばならないと思うほどに追い詰めてしまった。
エアネスト様も満更でもなかったのでは、などと都合よく考えていた自分を殴ってやりたい。なんなら今すぐ魔獣のエサにでもなってしまいたい。後悔に駆られながら謝罪するウォルフに、エアネストは戸惑いながらも言葉を振り絞った。
「違うのだ、あの日のことは感謝こそすれ……けして貴兄のせいではない、頭を上げてくれ」
「それなら、なんで辞めるんだ。あんたほど聖女の騎士にふさわしい人間はいねえってのに」
丁寧な言葉遣いも忘れ、ウォルフは必死に言い募る。
ウォルフはお世辞など言う性格ではない。まがうかたない本心なのだろう。それがわかるからこそ、エアネストの胸は痛んだ。
騎士として認めてもらえる日が来るよう、日々努力を重ねていた。
聖女の騎士にふさわしいと、他ならないウォルフに認めてもらえるのが、騎士の位を返上すると決意したその日というのは、あまりに皮肉だった。
意外なことに騎士総長にも遺留された。入団したばかりの頃は騎士を辞めるようそれとなく意思を確認されていたのだが、これまでの実直な働きに加え、特に体を張ってマレルダを護ったことが評価されていた。及ばずながら実績を積むことができていたのだ。
それでもエアネストの意思は固かった。
「……その、私は」
これほどまでにウォルフに心配をかけるとは思っていなかった。表情は動かないが、エアネストに向けられた黒い瞳からは、気遣うような気配が伝わってくる。
極めて個人的な事情ではあるが、ウォルフに理由を告げずに去るのは公正ではない。エアネストは意を決して顔を上げた。
「私は、貴兄を……慕わしいと思っている」
「――は」
ウォルフが絶句する。辺りは静かで、葉が風を揺らす音だけが静かに響いている。
言葉を続けるのがためらわれたが、釈明せねばならない。
「私が聖寵騎士団に入団してから、貴兄の働きに助けられてばかりいた。そればかりか、呪いを解くために体を張って私を救ってくれた。非常に感謝している。しかし、私は……貴兄にやましい下心を抱くようになってしまった」
息を呑む音が聞こえたが、エアネストは地に落とした視線をあげられなかった。
「貴兄は私の命を救う為、仕方なく手を貸してくれたというのに、私はただ快楽に溺れ……あの日以来、貴兄の顔を見るたびに、再び触れてほしいと願ってしまっている。このような不埒な心持では、聖女様に仕えることなどできはしない」
ウォルフに対しこのような気持ちになるのは呪いの名残なのではないのかと祈祷師にも相談した。祈祷師はなぜか笑顔で「ウォルフ殿にそのままお伝えください」と親指を立てた。
「私が騎士を辞するのは、けして貴兄のせいなどではない。己を律することができない、私の瑕疵によるものだ」
散々迷惑をかけられた相手から唐突に想いを打ち明けられても、当然困惑するだろう。
エアネストは再度詫びようと口を開きかけたが、ウォルフは崩れ落ちるように芝の上に膝をついた。
「――な! どうした、大丈夫か!?」
まさか倒れるほど嫌悪されているとは。助け起こすべきか、それとも触れられたくなどないだろうか。おろおろとさまようエアネストの手は、ウォルフにがしりと掴まれた。
「あんたが好きだ」
「……うん?」
地響きのような唸り声と、発せられた言葉がかみ合わない。小首をかしげるエアネストに、ウォルフは戦場にいる時よりも深刻な顔つきで口を開く。
「あんたにやましいところなんてひとつもねえよ! やましいのは、あんたが呪いで命を落としかけてるってのに、あんたを抱けることを内心で喜んでた俺の方だ!」
ウォルフに怒鳴られるのは随分と久しぶりだった。
あっけにとられたままのエアネストに、ウォルフはなおも言い募る。
「最初はあんたのことを身分と顔だけのお坊ちゃんだと思ってた。でもあんたは俺みてえな無礼な平民にも親切で、魔獣にも恐れずに立ち向かう強さもあって、魔術だってすげえし騎士として立派なんだろうけどよ、自分の身を削って他人ばっかり守ろうとするから危なっかしくて見てらなくて……! だから俺が守るしかねえって思って、それは別に総長に頼まれたから仕方なくとかじゃなくて、俺の意思であんたの傍にいたくて、だから!」
――ウォルフがこんなにしゃべるところなど初めて見た。
威嚇しているような形相で、脅しつけるような口調。それでも言葉足らずに必死に語った内容は、ウォルフがずっとエアネストを慕ってくれていたように思える。
自分に都合のいい解釈をしてしまっているのではないのだろうかと疑心暗鬼になるエアネストに、ウォルフははっきりと、簡潔に告げた。
「あんたを愛している」
無礼なほどにまっすぐに注がれる眼差しと共に、ウォルフの想いがエアネストの胸に染みわたる。
信じがたいと思うけれど、これほどまでに懸命で率直な告白に疑いなど挟めなかった。
「そうか……嫌われているのではなかったのだな」
緊張で強張っていたエアネストの頬が緩む。
ウォルフは「嫌うわけねえよ」と呟きながら、名残惜し気にエアネストの手を放し、片膝をついて姿勢を正した。
「正直、神様のことはいまいち信じられねえんだけど、あんたのことは――エアネスト様のことなら信じられる。だからエアネスト様に誓う。一生あなただけを愛する。何があってもあなたを護る。あなたを脅かすものは全部ぶった切る。だから……あなたが向かう理想に、俺も一緒に連れて行ってくれ。どうか、俺をあなたの傍に置いてほしい」
作法もなにもあったものではない、たどたどしい誓いだった。
神に対して不敬だ。それでもエアネストは、ウォルフの姿に輝かしい光を見た。
――嘘偽りなく。神の加護がなくとも、自分の信ずる場所にたどり着くために、ひたすらに道を切り開いていく。
思えばずっとそうだった。ウォルフの強さの芯にあるものは、この輝かしい光だ。この光にエアネストはずっと焦がれていた。
エアネストは跪くウォルフの肩に手を置き、騎士の誓いをなぞらえて応えた。
「ウォルフ・シュヴァルツ。汝の誓いを受けよう。ウォルフの誓いを受けるにふさわしい者であるための努力を、今後も惜しまないと約束する。だからどうか、私の傍で、私の心を護ってくれ」
身を屈めてウォルフの額に口づける。顔を離してウォルフと視線を合わせると、ウォルフはひどく驚いた顔をしていた。「まさか受け入れてもらえるとは思っていなかった」と語るその表情に、エアネストはふわりと笑った。
「――私のウォルフ。愛している」
そう告げると、ウォルフはエアネストに飛び掛かって抱きしめた。あまりの勢いによろけてしまうが、倒れる前に抱き上げられてつま先が浮く。
聖女の庭園で睦み合うなど不届きである。まったく無礼で不届きだと思いながらも、エアネストはウォルフを抱きしめ返した。
「ああ……嘘みてえだ……こんな、俺なんかが、あんたに愛されていいのか……」
耳元で呟かれる言葉に甘く満たされる。
エアネストもウォルフの言葉に答えたい、想いが通い合った嬉しさを伝えたいと思うのだが、抱きしめる力が強すぎて呼吸をするだけで精いっぱいだった。
今後も傍にいられるのはこの上ない喜びだが、まずは力加減を覚えてもらわねば身が持たない。苦笑しながらウォルフの背中を軽く叩き、抱擁を解かせる。
「いずれにせよ、聖寵騎士団は退団せねばならないな」
ため息をつくエアネストに、ウォルフは首を傾げた。
「なんでだ?」
「それは当然、神に誓いを立てた身で色恋などしてはならぬだろう」
「いや……え?」
「うん……?」
これから長い儀式を経て、盛大な婚儀が執り行われることだろう。聖寵騎士団の本拠地も祝賀の空気に包まれていたが、ただ一人、エアネストだけが表情を曇らせていた。
庭園にひとりたたずみ、盛りを過ぎて葉だけになっている薔薇の植栽に視線を落としながら、最後に交わしたマレルダとの会話を思い出す。
――ありがとう、わたくしの騎士。
あの日、マレルダの言葉に恥じない存在になろうと誓った。生涯をかけて、この身のすべてを神に捧げ、聖女を護る騎士となろう。そう誓ったはずだったのに。
「エアネスト様ッ!」
誰かが勢いよく走って来る気配を感じて振り向いたのと、走ってきた人物がエアネストの名を呼んだのはほとんど同時だった。
「な……どうしたのだ、ウォルフ」
普段落ち着き払っているウォルフが声を荒げ、焦燥を顔に出すのは珍しい。もしや敵襲かと思うが警鐘は響いてこない。
髪を乱し、ほんのわずかに息を切らせているウォルフは、礼をするのも忘れてエアネストに詰め寄った。
「騎士団を辞めるというのは本当ですか」
「あ、ああ……先ほど総長に申し入れたばかりなのに、耳が早いな」
エアネストはぎこちなく微笑み、ウォルフから目を逸らせた。
呪いを解いてもらったあの日の夜から、エアネストはウォルフを避けていた。喘ぎすぎて枯れた声でウォルフと話すのがいたたまれなかった。声の調子が戻ってからも、どのような顔をしてウォルフの前に立てばよいのかわからなかった。
一方、ウォルフは普段通りに見えた。あのような行為をした事などなかったかのように。エアネストの夢だったのではないかと思えるほどに。こうして二人きりで相対している今も、エアネストだけが意識しているように思えた。
「――申し訳ございませんでした!」
唐突な謝罪にエアネストは顔をあげたが、目が合う前にウォルフはがばりと頭を下げた。
「俺の、せいですよね。俺がエアネスト様に乱暴をしたから。だったら俺が辞めます。二度とあなたの前に姿を現さない。罰だっていくらでも受ける。だから、だからどうか、辞めるなんて言わないでくれ」
解呪にかこつけて、欲望をぶつけて。エアネストの騎士としての誇りを汚してしまった。聖寵騎士団を辞さねばならないと思うほどに追い詰めてしまった。
エアネスト様も満更でもなかったのでは、などと都合よく考えていた自分を殴ってやりたい。なんなら今すぐ魔獣のエサにでもなってしまいたい。後悔に駆られながら謝罪するウォルフに、エアネストは戸惑いながらも言葉を振り絞った。
「違うのだ、あの日のことは感謝こそすれ……けして貴兄のせいではない、頭を上げてくれ」
「それなら、なんで辞めるんだ。あんたほど聖女の騎士にふさわしい人間はいねえってのに」
丁寧な言葉遣いも忘れ、ウォルフは必死に言い募る。
ウォルフはお世辞など言う性格ではない。まがうかたない本心なのだろう。それがわかるからこそ、エアネストの胸は痛んだ。
騎士として認めてもらえる日が来るよう、日々努力を重ねていた。
聖女の騎士にふさわしいと、他ならないウォルフに認めてもらえるのが、騎士の位を返上すると決意したその日というのは、あまりに皮肉だった。
意外なことに騎士総長にも遺留された。入団したばかりの頃は騎士を辞めるようそれとなく意思を確認されていたのだが、これまでの実直な働きに加え、特に体を張ってマレルダを護ったことが評価されていた。及ばずながら実績を積むことができていたのだ。
それでもエアネストの意思は固かった。
「……その、私は」
これほどまでにウォルフに心配をかけるとは思っていなかった。表情は動かないが、エアネストに向けられた黒い瞳からは、気遣うような気配が伝わってくる。
極めて個人的な事情ではあるが、ウォルフに理由を告げずに去るのは公正ではない。エアネストは意を決して顔を上げた。
「私は、貴兄を……慕わしいと思っている」
「――は」
ウォルフが絶句する。辺りは静かで、葉が風を揺らす音だけが静かに響いている。
言葉を続けるのがためらわれたが、釈明せねばならない。
「私が聖寵騎士団に入団してから、貴兄の働きに助けられてばかりいた。そればかりか、呪いを解くために体を張って私を救ってくれた。非常に感謝している。しかし、私は……貴兄にやましい下心を抱くようになってしまった」
息を呑む音が聞こえたが、エアネストは地に落とした視線をあげられなかった。
「貴兄は私の命を救う為、仕方なく手を貸してくれたというのに、私はただ快楽に溺れ……あの日以来、貴兄の顔を見るたびに、再び触れてほしいと願ってしまっている。このような不埒な心持では、聖女様に仕えることなどできはしない」
ウォルフに対しこのような気持ちになるのは呪いの名残なのではないのかと祈祷師にも相談した。祈祷師はなぜか笑顔で「ウォルフ殿にそのままお伝えください」と親指を立てた。
「私が騎士を辞するのは、けして貴兄のせいなどではない。己を律することができない、私の瑕疵によるものだ」
散々迷惑をかけられた相手から唐突に想いを打ち明けられても、当然困惑するだろう。
エアネストは再度詫びようと口を開きかけたが、ウォルフは崩れ落ちるように芝の上に膝をついた。
「――な! どうした、大丈夫か!?」
まさか倒れるほど嫌悪されているとは。助け起こすべきか、それとも触れられたくなどないだろうか。おろおろとさまようエアネストの手は、ウォルフにがしりと掴まれた。
「あんたが好きだ」
「……うん?」
地響きのような唸り声と、発せられた言葉がかみ合わない。小首をかしげるエアネストに、ウォルフは戦場にいる時よりも深刻な顔つきで口を開く。
「あんたにやましいところなんてひとつもねえよ! やましいのは、あんたが呪いで命を落としかけてるってのに、あんたを抱けることを内心で喜んでた俺の方だ!」
ウォルフに怒鳴られるのは随分と久しぶりだった。
あっけにとられたままのエアネストに、ウォルフはなおも言い募る。
「最初はあんたのことを身分と顔だけのお坊ちゃんだと思ってた。でもあんたは俺みてえな無礼な平民にも親切で、魔獣にも恐れずに立ち向かう強さもあって、魔術だってすげえし騎士として立派なんだろうけどよ、自分の身を削って他人ばっかり守ろうとするから危なっかしくて見てらなくて……! だから俺が守るしかねえって思って、それは別に総長に頼まれたから仕方なくとかじゃなくて、俺の意思であんたの傍にいたくて、だから!」
――ウォルフがこんなにしゃべるところなど初めて見た。
威嚇しているような形相で、脅しつけるような口調。それでも言葉足らずに必死に語った内容は、ウォルフがずっとエアネストを慕ってくれていたように思える。
自分に都合のいい解釈をしてしまっているのではないのだろうかと疑心暗鬼になるエアネストに、ウォルフははっきりと、簡潔に告げた。
「あんたを愛している」
無礼なほどにまっすぐに注がれる眼差しと共に、ウォルフの想いがエアネストの胸に染みわたる。
信じがたいと思うけれど、これほどまでに懸命で率直な告白に疑いなど挟めなかった。
「そうか……嫌われているのではなかったのだな」
緊張で強張っていたエアネストの頬が緩む。
ウォルフは「嫌うわけねえよ」と呟きながら、名残惜し気にエアネストの手を放し、片膝をついて姿勢を正した。
「正直、神様のことはいまいち信じられねえんだけど、あんたのことは――エアネスト様のことなら信じられる。だからエアネスト様に誓う。一生あなただけを愛する。何があってもあなたを護る。あなたを脅かすものは全部ぶった切る。だから……あなたが向かう理想に、俺も一緒に連れて行ってくれ。どうか、俺をあなたの傍に置いてほしい」
作法もなにもあったものではない、たどたどしい誓いだった。
神に対して不敬だ。それでもエアネストは、ウォルフの姿に輝かしい光を見た。
――嘘偽りなく。神の加護がなくとも、自分の信ずる場所にたどり着くために、ひたすらに道を切り開いていく。
思えばずっとそうだった。ウォルフの強さの芯にあるものは、この輝かしい光だ。この光にエアネストはずっと焦がれていた。
エアネストは跪くウォルフの肩に手を置き、騎士の誓いをなぞらえて応えた。
「ウォルフ・シュヴァルツ。汝の誓いを受けよう。ウォルフの誓いを受けるにふさわしい者であるための努力を、今後も惜しまないと約束する。だからどうか、私の傍で、私の心を護ってくれ」
身を屈めてウォルフの額に口づける。顔を離してウォルフと視線を合わせると、ウォルフはひどく驚いた顔をしていた。「まさか受け入れてもらえるとは思っていなかった」と語るその表情に、エアネストはふわりと笑った。
「――私のウォルフ。愛している」
そう告げると、ウォルフはエアネストに飛び掛かって抱きしめた。あまりの勢いによろけてしまうが、倒れる前に抱き上げられてつま先が浮く。
聖女の庭園で睦み合うなど不届きである。まったく無礼で不届きだと思いながらも、エアネストはウォルフを抱きしめ返した。
「ああ……嘘みてえだ……こんな、俺なんかが、あんたに愛されていいのか……」
耳元で呟かれる言葉に甘く満たされる。
エアネストもウォルフの言葉に答えたい、想いが通い合った嬉しさを伝えたいと思うのだが、抱きしめる力が強すぎて呼吸をするだけで精いっぱいだった。
今後も傍にいられるのはこの上ない喜びだが、まずは力加減を覚えてもらわねば身が持たない。苦笑しながらウォルフの背中を軽く叩き、抱擁を解かせる。
「いずれにせよ、聖寵騎士団は退団せねばならないな」
ため息をつくエアネストに、ウォルフは首を傾げた。
「なんでだ?」
「それは当然、神に誓いを立てた身で色恋などしてはならぬだろう」
「いや……え?」
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