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14.タワシの少女3
しおりを挟む「あの娘は守り人なのかしら?」
「ええ。そうみたいです」
「やっぱりね」
兵舎にある医務室の中。
華奢な体をベッドに乗せ、すやすやと眠るペイシェを囲む形で俺と彼女―――医務室の管理人であるシャルルロッセは会話をしていた。
あの後、倒れた少女を担ぎ上げて兵舎へと戻った俺は一目散にここへと駆け込んだ。
シャルルロッセはペイシェを抱えている俺を見て良からぬ勘繰りをしていたが、状態に気が付くとすぐに手を施してくれた。そして、今に至る。
「どうして守り人だとわかったんですか?」
「界繋が繋がっているからよ」
「パス………?」
この場合の「パス」がサッカーやバスケットボールで使うような用語の意味合いでは無いということはわかる。
では、それ以外の意味とは?
「界繋というのは魔力を供給し続ける為に必要な特殊な線のことよ。糸のようにはっきりとした物体ではないから視認するには魔力を感知するしかないんだけど。
この線を繋げば対象Aから対象Bへ魔力を供給することが出来るし、逆に対象Bから対象Aへ送ることも可能になるの」
「ペイシェにその特別な線が繋がっていると?何の為に?」
「それこそが守り人たる所以なのよ。神域を管理する守護者たる守り人はその神域と一蓮托生になる。手始めに界繋を繋いで神域からの魔力を受け取りながら、守護する為の力を行使できるようになるわけ。そうすることによって、謂わばその神域の化身となるのよね。人間や魔族を問わず、神の化身は敬われる」
ああ、なるほど。だから俺と初めて会った時にやたらと威張っていたんだな。
「でも逆に神域の魔力源が何らかの理由で途絶えてしまった場合は、守り人がその魔力を供給しなければならなくなる」
「ということは………」
「そう。今がまさにその状況。この娘は急激に魔力を消耗していっているわ」
「このまま魔力を消耗し続けるとどうなるんですか………?」
聞かなくとも答えはわかっていた。
「魔力保有量の多い守り人でもさすがに死ぬわね」
「………………」
………何が「わたしの心臓じゃない」だ。無くなった神殿の心臓はお前の心臓同然のものじゃないか。
「その界繋は切れないんですか?」
「容易じゃないけど、切ろうと思えば切れるわ。だけど同時にこの娘も死ぬわね」
「えっ………」
「言ったでしょう?神域と守り人は一蓮托生だって。界繋を繋いだ時点でそうなのよ。神域の死は守り人の死。界繋を断ってしまえば神域は滅ぶわ」
………何だ、これ。八方塞がりってやつか?
いや、手段はまだあるか。
「無くなった神殿の心臓を探し出す」ことだ。だが、それにしても手掛かりは何一つとして無い。
というか何故俺はコイツを助けようとしている?
今は強くなって再度転生する為に時間を割いているんだ。
俺は自分さえ良ければそれで良かったはずだが。これ以上、苦労は背負いたくない。
それに、コイツを助ける義理なんて微塵も無い。
コイツを助ける義理なんて………………微塵も……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………
「―――死んだら寝覚めが悪いよな。だったら自分の為、か」
「?」
突然発した言葉の意味がわからず困惑の表情を浮かべるシャルルロッセをよそにマイペースに続ける。
「先生、コイツ………ペイシェはどれくらいもちますか?」
「そうねぇ。この状態だと長くても2、3日………かしら?」
「2、3日………」
手掛かりの無い状態で。
「燃えるじゃないですか」
「さっきから何を言っているの?」
「じゃあ、先生!俺は用事ができたので失礼します!」
「え?ちょっと!?」
「ペイシェをお願いしまーす!」
言いながら俺は医務室からとび出していく。
「私も守り人を診るのは初めてなんだけど………。バーサールーヤ様に尋ねてみようかしら」
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