転生魔王

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6.再会

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俺は恐る恐る声がした方を振り返る。

「?」

しかしそこには誰もいなかった。

「気のせいか?」

俺は気を取り直して深呼吸をすると改めて切っ先を自身へと向ける。

「新たな俺に幸あれ!!」

一気に引き寄せる。

「待てと言うたじゃろうが!!」
「!?」

またもや声に止められる。
再び振り返るがやはり誰もいない。

「こっちじゃ。こっち」

どうやら自分の目線よりも下から声が聞こえてきている。言われるがままに下方へと視線を辿るとそこには随分と愛らしいテディベアが俺を見上げていた。

「二度も言わせるで無いわ、馬鹿たれめ」

愛らしい見た目とは裏腹に爺さんくさい言葉遣いで罵られる。

「え?ぬいぐるみ?」
「ぬいぐるみではな………、ぬいぐるみではあるがぬいぐるみでは無い!」

結果どっちか分からない返答をする暫定ざんていぬいぐるみ。

「わしじゃよ、わし」

そう言ってテディベアは丸っこい腕で自身の顔を指す。

「ぬいぐるみ?」
「違う!神じゃ!!」
「神様!?」
「如何にも」

ぬいぐるみ改め神様は丸っこい腕を今度はえっへんと腰に当てて威張る。

「おぉ、神様!ちょうど良かった!俺、今から逝こうとしていたところなんですよ!」
「愚か者!あの世をコンビニみたいに気安く言うで無いわ!」

この威厳が微塵みじんも感じられないチープな表現。まさしく神様で間違いない。

「どうしてここに?というかその格好はどうしたんですか?」
「適当な器がないと顕現できんのでな」

だからといってテディベアとは。

「声が女の子みたいだったので分かりませんでしたよ」

以前あの世で聞いたしわがれた声ではなく、子供の女の子のような声であった為直後は自分の新しい眷族かと思ったぐらいだ。顕現すると器に似つかわしくなる仕様なのだろうか。

「そんなことはどうでも良い。ぬしは今、せいを絶とうとしておったようじゃが?」
「はい………。魔王となって、というかさせられて200数年なんですが、プレッシャーに押し潰されそうというか、ストレスで胃が溶けそうになるというか。今まで試行錯誤してどうにか問題を解決しようと試みてみましたがことごとく残念な結果となりまして。まだまだ先も長いことですし、なんやかんやで輪廻の輪に一度帰って転生させてもらおうかと………」
「愚か者!」

可愛らしい女の子の声で叱られる。

「どんな生命いのちでも一つのものは大切にせねばならん!」

おぉ………。神様が真面目なこと言ってる………。

「でも俺、本当に思い悩んでるんです。魔法も使えないし、格闘に強い訳でもないし、何か特別な能力がある訳でもないし。毎日椅子に座ってるだけで、あるものと言えばプレッシャーとストレスだけ」
「ふむ、成る程のぅ………」

染々と聞く神様。ぬいぐるみの表情は変わらないのでおそらくだが。

「ぬしに善かれと思うて与えた人望はかえって仇となったようじゃの」
「え、どういうことですか?」
「わしはぬしを魔王として転生させたのは良かったものの何一つとして能力を授けるのをとうに忘れていてなぁ」
「へ?」

えーっと、つまり?

「じゃからせめて人望は厚くしてやろうと出来る限りのことはしたんじゃがな」
「というと?」
「生まれたてのぬしを進軍する勇者に向かわせ、ちぃとばかし力を分けて蹴散らしてやったんじゃ。ちぃととは思うておったが存外与えすぎたようでな。皆居らんくなってしもうたがな」
「それえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」

200年越しの新事実。長生きはするものである。

「それですよ!そのせいで俺は肩身の狭い生を歩んで来たんです!」
「わしの善意を迷惑と抜かすか」

遺憾といった態度で神様。

「しかしまぁ事情はあい分かった」
「では、転生させてもらえませんか………」
「そうはいかん」

神様は首を横に振りながら即答する。

「どうしてですか!?」
「おいそれと出来るものではないわ!後、魔王みたいな人類から恨まれる対象にしかならない者に好んでなりたい人間なぞあの世におらん!」

きっぱりと言う。

「でも現に自分は魔王になってますけど、何故俺は転生させられたんですか?」
「………あの世へ来る者来る者皆に断られ続けて草臥くたびれておっての。ここの魔王はもう死にそうじゃし、子はもう生まれそうじゃし、世のことわりの上にも手をこまねいてばかりはおられん。何とかしなければと思うとった。そこへやって来たのがぬしじゃ。実にタイムリーじゃから有無を言わさず転生させてやったわい」

あれれ?ご自分が最低なことを言ってるのをお察しですか?

「お陰で輪廻の輪は狂うことは無かったんじゃが、何分急いておったからのー。能力を授け損のうたし、前世の記憶を消すのも忘れておったわい!ガハハハ!」

へー、前世の記憶は消去する仕組みなんですね。そりゃそうか。世の中前世の記憶を持った者達で溢れてたら混沌としているだろうし。

「まぁ、ぬしは元々記憶が欠けておるから問題無いじゃろう。ガハハハ!」

うーん、この人形蹴飛ばしてやろうかな?

「………ふむ、しかしぬしの言い分も確かな部分はある。力こそが全ての魔族としては生きにくいかのぅ」

言いたい放題だった神様は鳴りを潜めて真面目モードに切り替わる。

「えっ?それは転生させてもらえるということですか?」
「それは簡単には出来んと言うたじゃろう。話を最後まで聞け」

では何をしてくれると言うのか。

「本来与える筈であった魔王の力を授けよう………」
「本当ですか!?」

声の調子が弾む。それが叶うのなら頑張れそうな気がする。

「と言いたいところじゃが、転生後に強大な力を授けるのは無理難題じゃ」
「そんな………」

持ち上げて、落とす。少し期待していたのだが。

「かと言って、先程のようにまた自害されても敵わん。そこでじゃ」

一白置く神様。もったいつけてるけどあの神様だという半信半疑な気持ちで固唾を飲む。

「不死の力を授けよう」
「不死の力?」
「左様」

…………………………………………。
………えっ?待って。えっ、不死って死なないヤツだよね?それって超スゴい能力なのでは?チートじゃね?
あ、でも死なないだけで強い魔法とか使えるわけでもないな。そしたらこの生活が永遠に続くだけなのでは?地獄だな。
というか………、

「神様、不死というのは………」
「死なないことじゃ」
「それは分かっています」
「じゃあ何じゃ?」
「転生とか本来の能力を与えることは難しいのに不死の力はオーケーなんですか?」
「ああ」

おかしくない?だって、不死の方が難しくない?

俺の心のモヤモヤは何のその。マイペースに続けられる。

「ぬしは力を得るために努力をしたのか?」
「?もちろんしましたよ。何にも身に付きませんでしたが」
「死ぬほど努力をしたのか?」
「ええ。先程言っていましたが、魔族は力が全てですから」
「では、ぬしは何故今生きておるんじゃ?」
「え?」

なぞかけか?と思ったがどうやら真剣に聞いているようだ。

「死んだら生きていけないじゃないですか」
「では、死ぬほど努力はしておらんと言うことじゃな」
「…!まさか………」

嫌な予感しかしないんだけど………。

「うむ。死ぬほど努力して魔王の力を得るのじゃ!」

やっぱりな。そしてこの場合比喩ではなく文字通りの意味であろう。今後もストレスフルな生活が待ち受けている。それが嫌なら力を得ろと。神様の所業にしては悪質である。魔王やめてぇ。

「そして、見事世界を手中に収めることが出来れば転生の件、考えてやっても良いぞ」
「それがゴールという訳ですか………」

やるしかないのか。

「努力といっても俺はあまりウロウロできないんですけど………」

俺が王室にいるということは城のみんなが知っている。急に居なくなることが増えればその理由を問われることもあるだろうし、場合によっては急用がある者からは捜索されてしまうかもしれない。練習している所を見られたりすればどうなることか。

「ぬしは知らんのか?この人形は擬態が出来るみたいじゃぞ」

そう言って神様は小さな歩幅で俺の元までチマチマと歩いて来ると腕を伸ばして俺の足へ触れる。
するとあっという間に鏡写しのような俺が目の前に現れた。

「その上会話や簡単な行動も模倣してくれるという優れものじゃ。欠点は力が無いことじゃが、ぬしは毎日ただ座っておるだけと言うておったから問題なかろう」
「そんな便利なものがあったとは」

この人形があればどこへ行っても怪しまれないと言うわけか。

「更に記憶の共有も可能なようじゃ。人形の額に手を当てると留守にしていた時のことが丸分かりじゃ」
「額と額を合わせるとだったらアウトな範囲かもしれないですね」

この場合は触れればいいのでセーフ。

「神様やけに詳しいですね」
「わしが置いていった物じゃからの」
「ですよねー」

何気なく勘づいてた。流れで。

神様は再びテディベアへと戻る。

「不死の力は触れた時に授けた。後のことはぬしの精進次第じゃ。わしは疲れたから戻るぞ」

そう言って唐突にテディベアは力なく床へと倒れる。

「全然実感ないけども」

斯くして最弱魔王は不死の力を得た。




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