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3.憂鬱
しおりを挟むドゴーーーーーン!!!
鳴り響く爆音に耳を傾ける。
広大な城の大きな一室。
扉もまた巨大なものが備え付けられており、高さにして5mは超えている。
室内に入ると深紅のカーペットが真っ直ぐと続いており、階段に差し掛かった所へも折れ目に沿って皺一遍となく丁寧に上段まで敷かれている。
その華麗と表現しても足りないくらいに綺麗なカーペットの行き着く先には椅子が一台。
これもただの椅子ではなく、美術館に展示する為に作られたのではないかと思う程に繊細な彫刻や装飾が施されていた。
しかし、決して派手ではなくそれらを上手く調和させたどこか落ち着きのある代物に仕立ててある見事な一品となっている。
そこに座している男が一人。
身に付けている衣服は椅子と同じく超一級品のものであると一目で見て分かる。常闇を連想させる黒々とした生地も肌触りが嘸良いことだろう。
特に羽織っているマントは素晴らしい金細工があしらわれている。
要所に散りばめられた装飾品の数々も普通の庶民ないしはそこらの貴族でさえも見たことがないような物ばかりが踊っていた。
「はあ…」
価格に換算するには想像を絶する高級品に包まれた男は若々しい見た目には似つかわしくもない疲れた溜め息を一つ吐く。
大きな一室―――王室と呼ばれるその場所には彼以外の姿はない。
「どうしたものか…」
呟き、雄々しい角が一対生えた頭を抱える。
これは彼のほぼ毎日の日課となっている。
「朝部屋から出たら出迎えるあれ。いい加減やめてくれないかな~」
彼―――魔王メイルクリアス・ロイゼンは心底悩んでいた。
「寝起きくらいゆっくりしたいんだけど…」
外で待たれているというプレッシャー。緩やかな朝とはいかないものである。
勿論彼は早々にやめるようにそれとなくメイド長に言っていた。
しかし「朝一番に主と会えるか否かによってメイドの士気と気力に大きく関わる」とクリオネラに理知的に長々と力説され続けた。
その言葉に多くの部下達が賛同してしまった日には無下にすることは出来ない。
そこで彼は苦肉の策として、以前はメイドがどうしても離れられない持ち場以外、ほぼ全員が出迎えていた所を『持ち場から各一人ずつ』に加えて『もし他の持ち場に仕事が残っていなければ』という条件付きで案を挙げる。
クリオネラは「私達は仕事を疎かにすることは決してありえない」と食い下がったが、予期せぬ事態は決して無いとは言えないと弁じると渋々ながらも受け入れた。
メイルクリアスは心中で歓喜するがそれも束の間のこと。
翌日、いつもより軽くなった心持ちで扉を開けるとそこには変わらぬ様子でメイド達が自分に挨拶してくるではないか。
唖然失笑。
どうか致しましたか?という表情をしているクリオネラに、いやいやお前達がどうしたんだという態度でメイルクリアスが訳を尋ねる。
そして二度目の驚き。
なんとメイドの持ち場に『朝、主を迎える』ことが加わっていたのだ。
もう本当に笑うしかなかった。
結果、クリオネラ曰く人数は減ったらしいが、彼としてはあまり大差ないのでは?と思える程度に終わる。
「うちのメイド長は恐ろしいな…」
メイルクリアスは思い出して身震いする。魔を統べる王にも関わらず。
ギギギギギ………
そんなことを考えていると巨大な扉がゆっくりと開く。
そこから全身を錆びた鎧で身を固めた兵士が慌てて室内へと駆け込んでくる。
「大変です!メイルクリアス様!!」
階段下まで駆け寄り片膝を付くと同時に発言する兵士。
「どうしたんだ?」
「勇者の一団がこの城目掛けて進軍して来ております!!」
「そうか」
危機感を顕にしている兵士に対して魔王は素っ気なく返事をする。
「メ、メイルクリアス様!?」
一大事だというのに軽い言葉しか返ってこなかった兵士は動転する。
「君は見ない顔だな。新入りか?」
「は、はい。つい先日兵士として働かせて頂くこととなりました!」
「道理でな。慌てようがいつもの其じゃない」
「え?」
どういうことだろう?と頭の上にはてなマークを募らせている新米兵士。
メイルクリアスがそんな彼を眺めていると再びギギギギギ…と扉がゆっくり開く音がする。
「ご報告致します!」
先程の新米兵士とは違いやけに落ち着いた様子で入室してくる兵士。
今度はメイルクリアスが見知った顔の者であった。
「進軍してきていた勇者一団を残らず魔王軍が撃破致しました!」
「はいはい。いつもご苦労様ー」
「滅相もございません!」
綺麗な動作で一礼してから退室する兵士。
一方新米兵士は片膝を付いた状態のままでメイルクリアスを見つめながら口をパクパクとさせていた。しばらくしてからようやく言葉を声に乗せることができる。
「先程の勇者一団が………」
「撃破されたってよ」
「そんな、この短時間で………?」
困惑する新米兵士。
無理もない。こんなに早いということは新米兵士が進軍してくることをメイルクリアスに伝令に走っている間には片が付いていたということになる。
王室に届いたあの爆音が決着の合図だったのだろう。
「君。えーと………、名前は?」
「ア、アシグと申します!」
「アシグよ。思い知ったか?これが我が魔王軍の力だ!」
バーン!と効果音がなりそうな勢いで両腕を広げるメイルクリアス。それをアシグはぱちくりと瞬きしながら見ていた。
暫しの静寂。
恥ずかしいことを勢いでやってしまったとメイルクリアスが後悔し始めていた時。
「さ、さすがはメイルクリアス魔王陛下率いる魔王軍!この不承アシグ、実に感服致しました!!」
涙を流しながらアシグは頭を垂れた。
「こんなに素晴らしい軍を有するメイルクリアス様の剣として精進できること、誠に、誠に嬉しく思います!!!」
「あ、ああ………」
予想だにしないアシグの反応に若干引き気味に応じるメイルクリアス。
しかし感涙に噎せている彼からの言葉は止まらない。
「私めは!!訓練に訓練を積み重ね!!そしていつか!魔王陛下の誇れる剣となれるように誠心誠意努力致します!!!」
「おう…、存分に励めよ………」
「有り難きお言葉!!!!!」
この日一番の声量で返事をするアシグ。気合い十分に踵を返して扉へと向かう。
「失礼致しました!!!」
そして深々と一礼してから退室して行く。
「……………………………………………まあ、あれだな。元気………、だな」
今の自分にも分けてほしいと思うメイルクリアスだった。
「はあ…」
再びの溜め息。
「どうしたものか…」
一段落ついた所でまるでデジャヴのような光景。
しかし次はメイドについての事柄ではなく彼には悩んでいることがまだ他にもあった。
「本当につくづく思うよ………」
今まで散々考え込んできていた、浮かんでは唸る最大にして難解な悩み。
「よりにもよって何で魔王になんか転生させちゃうかなー………」
こんな状態に陥っているそもそもの要因についてであった。
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