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2.メイドのお仕事
しおりを挟む朝になる。
私は目が覚めてからまず始めに寝間着を脱ぐと、漆黒とその上をエプロンの純白が包み込むかの様なコントラストがよく映えるメイド服へと袖を通す。
次に洗顔をする。肩まである鮮やかな金髪に軽く櫛を滑らせて頭の後ろで一括り。これで準備を完了する。
一連の動作を素早く終えると今度は一目散に食堂へと足を向けた。
扉を開けると既に自分以外にも食堂へは数名のメイドがいた。
私は近くで食卓の準備をしていた赤髪を綺麗に三つ編みにしてあるメイドへと声を掛ける。
「おはよう、ドール」
「ん。おはよう、マルシェ」
ドールは紅の瞳で私を捉えるとはにかみながら挨拶を返してくる。
「ごめんね。遅れた?」
「いやいや、ウチらが早く来すぎただけだから。まだ全然余裕だよ」
「でも………」
私が気にするのもそのはず。食堂の仕事がほとんど終わっていたからだ。
「主様のお役に立ちたくて居ても立ってもいられなくてさ。大分早く目が覚めちゃってね。ここにいる他の娘達もさ。マルシェだってそうでしょ?」
「もちろんだよ!」
いと気高く崇高な主様の話題となると私は少し熱が入る。
「あ、ごめん…」
それと同時に何故自分もドール達位に早く起きれなかったのかととても恥じ、憤りさえ感じる。
「いいってことよ。それだけの熱意があることにきっと主様もお喜びになるに違いないわ」
「そ、そう…かな?」
私は先程とは違う意味の熱で顔が火照る。
「でも、もうここではすることはないかもなぁ。料理はお召し上がりになるタイミングに出来たてを出すからまだ並べられないし…。他を手伝いに行く?」
「いいの?みんなにも訊かなくて」
「マルシェは我慢することが多いからね。羨ましがるかもだけどみんな文句は言わないはずだよ」
「………そうかしら」
今日は食堂での仕事が当番であったがすることが無いのでは居続けても仕方がない。お言葉に甘えて行ってくるとしよう。
「それじゃあ他の所へお手伝いに行ってくるね。お料理を並べたりお給仕の時間になったらまた戻ってくるわ」
「あいよー」
こうして当番である持ち場を離れることはよくあることだ。
但し一人しか離れてはいけない。
それに皆仕事をサボろうとして離れるのでは断じてない。更なる仕事を求めて探しに行くのだ。
今日の私もその例から外れることはなく、何処かお手伝いが必要な場所がないかと探して廻る。
しかし、何処に行っても人手は足りているとのことであった。
その理由は食堂の時と同じで「早く目が覚めたから」とか「早く主様のお役に立ちたいから」といったものであった。
「みんなから慕われている主様。私はそんな主様に仕えることが出来て心の底から幸せです」
思わず呟いていた。
でも私は結局何もしていない。
しかしこういう時には決まって行くべき場所がある。
とある部屋の前まで来ると数十名のメイドが廊下の両脇に列を成していた。ドールが「羨ましがる」と発言した理由はここにある。
「マルシェ。おはよう」
そのうちの一人、ブラウンの髪をすっきりと短髪にカットしているボーイッシュな印象のメイドが私に声を掛けてくる。
「おはよう、ジェイド」
「今日はお前か?」
「ええ。何処に行っても充分に人手は足りているということだったから」
そう言いながら一番端に位置していたジェイドの隣に私は並ぶ。
「けど、そのお陰でお前はここにいられるんだろう?」
ここに並んでいるのは当番のメイド達と私と同じく仕事を探して廻っていた者達である。
「それに仕事が円滑なのはいつものことだ。手伝いがいらないのは分かりきっている」
「そうだけどね。もしかしたら思いがけないことで遅れがあるかもしれない。そういうことだったでしょ?」
「…!……そうだな。そうだった。すまない。私のさっきの発言は主様のメイドとしては実に不当なものだった。撤回させてくれ」
ジェイドは私に向かって頭を下げる。
悪気が無いのは明白だったけど、『主様』という文言を出されてしまっては私の一存では許すことはできない。
でも少しでも気を晴らしてあげることはできる。
「きっとお優しい御方ならば寛大に受け止めてくれるに違いないわ」
「ありがとう、マルシェ」
ジェイドは普段はあんなことを言う娘ではないんだけどな。やっぱり今日の当番で心が踊ってしまっているのかしら。
「そろそろです」
先頭にいる凛とした態度の女性が列全体に向かって静かに、だけどよく通る声を発する。
メイド長のクリオネラさんだ。
「いよいよだね」
「ああ」
ドキドキと心臓が高鳴っているのを感じる。幾度も行ってきていることだが、それでも待ち遠しくて仕方がない。ドール達のくれたご褒美。
ガチャ。
待望の扉が今開く。
そこから出て来られたのは主様。
私達は一糸乱れぬ挙動で挨拶をしてから頭を下げる。
「お早う御座います。我らが主。魔王メイルクリアス・ロイゼン様」
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