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69 冬馬の彼女 side冬馬の父親
しおりを挟むside冬馬の父親
部屋を抜け出した俺は、洗面所にかけ込み涙で濡れた顔を洗った。
そして、何事もなかったかのように部屋に戻る。
もう泣かないぞ!
こんなに嬉しい話をこれ以上聞き逃す訳にはいかないからな。
「冬馬くんとみんなの会話は面白いんですよ! 隣で聞いてて、いつも笑っちゃって」
彼女が楽しそうに冬馬の学校での様子を教えてくれる。
そうか、みんなと仲良く会話してるのか!
「俺は天然らしいからな」
は?天然?冬馬が天然?
淡々と冷めた態度でズバリと正論を言う冬馬は、それが原因で友達ができなかった。
周りから嫌われていたのも分かっている。
そんな冬馬の性格を、今のクラスメートは天然と受け止めて仲良くしてくれているのか。
「冬馬くんが天然なのは頭がいいからだよ。
私じゃあんなに楽しそうな会話はできないもん」
「ゆかりはみんなに好かれている。俺はゆかりがいなければずっと嫌われ者のままだ」
そうか、彼女のおかげか。
彼女がみんなに好かれているのは、さっきからの会話で分かる。
いい子だ、優しい、そして思いやりを感じる。
しかしそれは『自分』を置いてけぼりにしているようにも感じる。
危うい、と思った。
長いこと芸能人をしてきた。
芸能界は魑魅魍魎が巣くう世界だ。
ニコニコ笑う裏側に、沢山の思惑が潜んでいる。
人をみる目はあるつもりだ。
「ゆかりちゃん、サラダのおかわりはどう?」
「あ、ありがとうございます! いただきます。私、アボカド大好きなんです」
ほら、やっぱりな。
君は確かにアボカドは好きだろう、でもトマトが苦手だ。
俺の目は誤魔化せない。
・・・・・・なあ、ゆかりさん。
そんな生き方をしていて疲れないかい?
いつか壊れてしまわないかい?
疲れて、壊れて去って行った芸能人ならいくらでも見てきた。
弱かったな、と心で声をかけ見送ってきた。
君には壊れてほしくない。
冬馬のたった一人の大切な存在だ。
「トマトはいらないぞ、ゆかりはトマトが嫌いだ」
「あ、あれ? わ、私、冬馬くんにトマトが苦手とか言ったっけ?」
「見ていれば分かる」
は?
「冬馬くん・・・・・・ありがとう」
げ、芸能界とか関係なかったな。
見る目はあるつもりだ (キリッ) とか馬鹿か俺。
「父さん、母さん、ゆかりはこういう人間だ。俺はそんなゆかりが好きなんだ。俺はゆかりに支えられている。俺もゆかりを支えてやりたいと思う。」
冬馬と彼女の性格は正反対だ。
だからこそ支え合えるのか。
俺と妻は洗面所にかけ込む事も忘れ、大号泣してしまった。
──────────
70~それぞれの進路 へ
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