57 / 98
57 それぞれの中のゆかり sideありさ
しおりを挟むsideありさ
『あのね、知ってる? 叩っ切るって、叩いたあとに更に切るんだよ、スゴくない?』
ゆかりってマジで可愛い。
あたしみたいな見た目だけとは違う。
そーだね、また嫌なことゆーヤツがいたら、今度からゆかりの言葉を思い出すよ。
怒りも吹っ飛んで笑っちゃうかもねー。
ゆかりのいなくなった図書室で早苗が予想する。
「ゆかりの将来の夢は、多分お嫁さんだろうね、ゆかりん家のママも専業主婦だからさ」
あたしもそんな気がする。
まあ、三宅が大学を卒業するまではどっかで働くんだろうけど。
「ゆかりはなにか資格を取りたいと言っていた」
「資格? なんだろ、聞いたことないし?」
「資格があれば食べるのに困らないと、一人でも生きて行けると言っていた」
は? ゆかりが一人で生きていく? なにそれ?
「資格をとるのはいいけどさー、一人で生きていくとか、意味わかんない」
「そうなるかもしれないと。あの時のゆかりは、凄く寂しそうで俺も悲しくなった」
「強くなろうとしてんじゃね?」
早苗が椅子を引いて腕を組みながら話し始めた。
「ゆかりはさぁ、弱いんだ。他人の目を異常に気にする。だからとにかく人に合わせるんだ。それは小学生の頃からだよ。人から嫌われないようにいつも気を使って喋る。例えば誰かが『◯◯に行こう』って言えばさ、絶対に断らない。ニコニコ笑って『いいよー』ってね。そんで『私も◯◯行ってみたいと思ってた』とか、『◯◯楽しいよね』とか必ず付け加えるんだ。ホントは◯◯がイヤでもね。嫌われる位なら自分を押し殺しちゃうんだよ。」
確かにゆかりはいつもそんな感じのしゃべり方をする。
でも、それは優しいからでしょ?
「だから、ゆかりが三宅の悪口言ったヤツに正面から言い返した時はビックリした。あんなゆかりを見たのは初めてだったからさぁ」
三宅は大きく目を見開いて早苗の話を聞いている。
「あの日、ゆかりから三宅のことが好きだって打ち明けられた時も驚いたんだ。ウチはホントは、ゆかりがずっとあんたのこと好きだって気づいてた。でも、絶対誰にも、ウチにもありさにも言わないまま卒業すると思ってたんだ。」
あたしは全然気づかなかった。
あたしだって一緒にいたのに。
よりによってあの三宅かよって。
みんなに優しいゆかりはいつも一人でいる三宅が気になって、それで好きになったのかな、でも、親友の恋は応援したいなって思ってた。
ゆかりはいつも、誰にでも優しい。
そーゆーとこ尊敬してる。
早苗の思うゆかりがいるように、あたしの中にもあたしの思うゆかりがいる。
あたしの口から気持ちが溢れだす。
「ゆかりが誰からも好かれるのは、ゆかりが優しいからでしょ。弱いから優しいの? それってホントに弱いの? あたしには、そーは思えない。他人に嫌な思いをさせないように自分を抑えることができるのは強いからでしょ。」
あたしは興奮が抑えられなくなって、止められない。
「あたしが三宅としゃべっててイライラするのは三宅の言ってることは正しいから。自分の意見が正しいからって、そのまま言葉にすればいいわけじゃないよ。それを知ってるゆかりは弱くなんかないよ。強いんだよ!」
一気にまくし立てたから息が上がった。
自分の肩が上下してる。
「うん、そうだね。ありさの言ってること聞いてたら、ウチもそんな気がしてきた」
「だって、一人で生きていくのが強くなることだとか、あたしはそんなのいやだし!」
早苗があたしの頭を優しく撫でた。
早苗はお姉さん気質だよね。
そーゆーとこ尊敬してる。
「俺がゆかりと初めて話したとき、ゆかりは一人で泣いていたんだ。頭が悪いと、弱いと。そんな自分が嫌だと泣いていた。」
それまで黙って聞いていた三宅が泣きそうな顔で言った。
「どうにかしてやりたいと思った。他人に対してそんなことを思ったのは初めてだった。俺は、ゆかりが好きだ。ゆかりがゆかりならそれでいい。無理に笑っていなくてもいい。泣かしたくはないが、泣いていてもいい。そのままのゆかりが俺の隣にいてくれたらそれでいいんだ。」
あ、泣き出しちゃった。こいつ、意外と涙もろいよね。
「早苗の言う通りだ、ゆかりは弱い。そして、ありさの言う通りだ。ゆかりは強い。ゆかりの弱さは強さだ。ゆかりは俺を強いと言う。でもそうじゃない。俺はただ他人の気持ちを思いやることが出来ないだけで、誰かを傷つけても気づかない。ゆかりのことも気づかない内に傷つけているかもしれない。俺はゆかりを好きになって、初めて自分が変わりたいと思ったんだ。」
あたしもいつの間にか泣いていて、早苗があたしの涙を手のひらで拭ってくれた。
早苗も泣いてた。だからあたしも早苗の涙を拭ってあげた。
三宅、あんたは自分で拭え。
「ゆかり」
三宅の声に驚いて振り向くと、ドアの前で泣いているゆかりがいた。
──────────
58~ありがとう、大好き sideゆかり へ
3
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜
ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。
そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、
理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。
しかも理樹には婚約者がいたのである。
全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。
二人は結婚出来るのであろうか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
妹ちゃんは激おこです
よもぎ
ファンタジー
頭からっぽにして読める、「可愛い男爵令嬢ちゃんに惚れ込んで婚約者を蔑ろにした兄が、妹に下剋上されて追い出されるお話」です。妹視点のトークでお話が進みます。ある意味全編ざまぁ仕様。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜
アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。
そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。
とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。
主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────?
「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」
「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」
これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】何回も告白されて断っていますが、(周りが応援?) 私婚約者がいますの。
BBやっこ
恋愛
ある日、学園のカフェでのんびりお茶と本を読みながら過ごしていると。
男性が近づいてきました。突然、私にプロポーズしてくる知らない男。
いえ、知った顔ではありました。学園の制服を着ています。
私はドレスですが、同級生の平民でした。
困ります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!
白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、
《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。
しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、
義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった!
バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、
前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??
異世界転生:恋愛 ※魔法無し
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる