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45 冬馬という息子 side冬馬の母親
しおりを挟むside冬馬の母親
「携帯電話を購入する事にしたから、この同意書にサインがほしい」
と息子が言ってきた。
今まで何かをねだると言えば、参考書やら問題集やら小難しい専門書やら。
幼稚園の頃からお友達と遊ぶより、一人でパズルを解いたり本を読むのが好きな子だった。
小学生になってもそれは変わらない。
ますます難しい本にのめり込んでいった。
なんだか他の子どもとは脳みその作りが違っている、と思った。
学校から言われてIQテストなるものを受けたのだが、結果は、はっきり言って天才だった。
誰の子よ!って思ったが、間違いなく私と夫の子どもだ。
似てないのは脳みそだけで、見た目は夫にそっくりなのよね。
「携帯電話? いいわよ。ここにサインをすればいいのね?」
同意書を受け取ってササっとサインをする。
「でも、どうして急に携帯電話が必要になっ
たの?」
息子は自分に必要ない物には一切興味を示さない。
それは小さい頃からそうだった。
友達はいない。
いつも一人で勉強をしている。
運動会や遠足も面倒臭そうに参加する。
私と夫は勉強なんて人並みでいいから、もっと子どもらしい遊びを楽しんでほしいと、海水浴や魚釣り、山登りなどのレジャーや、農業体験、工場見学、音楽や劇団の舞台など、ありとあらゆるところを連れまわした。
しかし、本人が興味を示さないのだから仕方がない。
これもこの子の個性だと割りきった。
「恋人が出来たんだ。友人が言うには恋人には用がなくても電話するものらしい」
は?恋人?友人?はぁぁ?
「今週の土曜日にその恋人と携帯ショップへ行く約束をした」
声の震えを押さえつつ何とか言葉をひねり出す。
「同じ学校の子?」
「同じクラスだ」
冬馬は、考えていることを頭のなかで簡潔に纏めて話をする。
その物言いは高圧的で上から目線に聞こえてしまう。
本人に悪気はないのだが、周りに誤解される事はしょっちゅうだ。
だからなかなか友達と上手くいかない。
中学生の頃に一人だけ仲良くなった子がいたが、彼もまた冬馬と同じ天才型だったから気が合ったのだと思う。
冬馬が高校受験に失敗してからは疎遠になってしまったけれど。
そんな冬馬に恋人ができた?友人も?
「どんな子なの?」
どんな子なら冬馬と恋人になるのかしら。
やっぱり同じ天才型のお嬢さんなの?
「あまり成績は良くないが、自分に向き合う努力が出来る人。他人を思いやる事が出来る優しい人だ。皆から好かれている。」
息子が自然な笑顔で恋人の事を語る。
冬馬のこんな顔は生まれて初めてだ。
ああ、きっと大丈夫。
「素敵なお嬢さんなのね、お母さんも会ってみたいわ。良ければ近いうちに連れていらっしゃい」
「ああ、彼女に聞いてみる」
その日の夜、さっそく夫に報告すると私以上に驚いて、そして喜んだ。
「なんて名前の子だ?」
夫に聞かれて名前を聞き忘れていた事に気が付いた。
私は昔からいつもどこか抜けている。
冬馬の脳みそ、爪の先程でいいから分けてくれないかしら。
──────────
46~初おでかけ へ
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