34 / 98
34 夢を見ていた
しおりを挟む夢を見ていた。
泣きわめく小さな私。
パパもママも困った顔で私を見ている。
手足をバタバタさせて激しく首を振る。
『イヤイヤイヤイヤぁぁぁ!』
気に入らない。
何がイヤだったのかも分からなくなってしまったけど、それもまた気に入らない。
力の限り泣き叫ぶ。
『うあぁぁぁああぁぁぁーん!!』
私と家族だけの世界は、私を中心に回っている。
パパもママもお兄ちゃんもみんな、私のためにここにいる。
だから私は感情のままに暴れて泣きわめく。
『このお子さんの個性ですよ。』
お医者さんが笑って言う。
『個性?ではゆかりは発達障害とかの病気ではないんですね?』
『ええ、ちゃんと検査もしましたから。これは単純に子どものワガママですよ』
パパとママがほっとしている。
『この年齢にはよく見られることです。』
『あぁ、良かった』
『とはいえ、あまりにひどいとお父さん、お母さんも大変でしょう。』
『はい、もう私も妻もヘトヘトで・・・・・・』
『学校に通うようになっても直らなければ、いじめや仲間はずれの原因になることもありますからね。早い内に矯正したほうがいいでしょう。』
こせい、はったつしょうがい、わがまま、がっこう、いじめ、なかまはずれ。
そして、パパとママはへとへと。
夢を見ていた。
あの日から、ずっと泣いている私に夫が言う。
「もういい加減泣くなよ。流れちゃったもんはしょうがないじゃん」
そんなこと言ったって無理だよ。
だって死んじゃった。
私の赤ちゃん、ここにいたのに。
「いつまでもグズグズ泣いてたってしょうがないだろ?」
「カズ君は悲しくないの?! 赤ちゃん、死んじゃったんだよ?!」
私は叫び、泣き続ける。
夫の涙にも気づかずに。
朝も昼も夜もずっと。
泣いて、泣いて、泣いて泣いて泣いて泣いて
「もういいよ。俺と一緒にいるとゆかりは立ち直れない。離婚しよう」
夢を見ていた。
広いリビングのふかふかのソファで、裸の男にしなだれかかる裸の女。
『うちの夫ってホントつまらないの。
いくらT大出身のエリートでも陰気のコミュ障じゃね。全然会話も続かないし、プライドばっかり高くって。もう一緒にいるだけで気が滅入るわ。セックスだって独りよがりで全然良くないし。貴方くらい上手だったら、陰気なところも目をつぶれたかも知れないけど。もう、なんであんなのと結婚しちゃったのかしら。は? 離婚なんてしないわよ。生活水準は下げたくないもの。私の評判も悪くなっちゃうわ。ああ、もういっそ死んでくれないかしら。せっかく高い保険だって加入してるのよ』
美しい模様が浮かぶ大理石の床の上。
三宅冬馬は妻に馬乗りになって、その細い首を絞めていた。
妻の苦しそうに歪んだ顔の上に、ボタボタと雫が落ちる。
妻はしばらく手足をバタバタさせて暴れていたが次第に静かになり、動かなくなった。
そして死んだ妻の横にぶら下がる、三宅冬馬の足。
夢を見ていた。
今度は幸せな夢だった。
私は三宅冬馬に好きだと告白した。
そして、彼も私を好きだと言ってくれた。
彼の手が私の髪を撫で、涙を拭う。
クラスのみんなに冷やかされた。
私はきっと耳まで真っ赤になってるだろう。
三宅冬馬がみんなと言い合いをする。
笑ってる。
三宅冬馬も、私も、みんなも。
私はそんな彼の姿が嬉しくて嬉しくて、夢なら醒めないで欲しいと願う。
──────────
35~夢から覚めて へ
2
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜
アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。
そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。
とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。
主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────?
「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」
「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」
これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
妹ちゃんは激おこです
よもぎ
ファンタジー
頭からっぽにして読める、「可愛い男爵令嬢ちゃんに惚れ込んで婚約者を蔑ろにした兄が、妹に下剋上されて追い出されるお話」です。妹視点のトークでお話が進みます。ある意味全編ざまぁ仕様。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ゆるふわな可愛い系男子の旦那様は怒らせてはいけません
下菊みこと
恋愛
年下のゆるふわ可愛い系男子な旦那様と、そんな旦那様に愛されて心を癒した奥様のイチャイチャのお話。
旦那様はちょっとだけ裏表が激しいけど愛情は本物です。
ご都合主義の短いSSで、ちょっとだけざまぁもあるかも?
小説家になろう様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
メイドから家庭教師にジョブチェンジ~特殊能力持ち貧乏伯爵令嬢の話~
Na20
恋愛
ローガン公爵家でメイドとして働いているイリア。今日も洗濯物を干しに行こうと歩いていると茂みからこどもの泣き声が聞こえてきた。なんだかんだでほっとけないイリアによる秘密の特訓が始まるのだった。そしてそれが公爵様にバレてメイドをクビになりそうになったが…
※恋愛要素ほぼないです。続きが書ければ恋愛要素があるはずなので恋愛ジャンルになっています。
※設定はふんわり、ご都合主義です
小説家になろう様でも掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】何回も告白されて断っていますが、(周りが応援?) 私婚約者がいますの。
BBやっこ
恋愛
ある日、学園のカフェでのんびりお茶と本を読みながら過ごしていると。
男性が近づいてきました。突然、私にプロポーズしてくる知らない男。
いえ、知った顔ではありました。学園の制服を着ています。
私はドレスですが、同級生の平民でした。
困ります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる