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32 いかないでくれ side三宅冬馬
しおりを挟むside三宅冬馬
川上がゆっくりと膝から崩れ落ちていく。
「どうしたのゆかり、幸せ過ぎてのぼせたかぁ?・・・・・てゆかり? ゆかり!!」
「川上さん! どうした!!」
俺はとっさに彼女の腹に手を回し、顔を覗き込んだ。
様子がおかしい。
これはのぼせや貧血じゃない!
「救急車を呼べ!!」
俺の叫び声に、先生が慌てて職員室に走ろうとする。
「携帯電話だ! 早くしろ!!」
彼女が嘔吐した。
「早苗! そっち持て! 横向きにするぞ!」
横向きにした彼女の口に、人差し指と中指を入れて口内の吐瀉物を掻き出した。
「ありさ!右足を曲げろ、90度だ!」
ありさが慌てて俺の指示に従う。
右手を顎の下に差し込み顎を反らせる。
再び嘔吐した。
必死で掻き出す。
「川上! 聞こえるか! しっかりしろ!」
体が痙攣を始め、嘔吐が止まった。
脈を採ろうと左手を触ると、氷のように冷たくなっている。
「川上! 大丈夫だ! 俺がいる!」
耳元で叫ぶが反応がない。
白目を剥いて口許はだらりと弛緩している。
痙攣が止まった。
呼吸も、止まった。
ま・・・・・・待て、待て! 待ってくれ!!!
「早苗! ありさ! 仰向けにするぞ!」
仰向けにした彼女の顎を反らせて人工呼吸をする。
「先生! 心臓マッサージだ! 真ん中、肘を伸ばして強く押せ! 俺に合わせろ! 1! 2! 3! 4! 5!」
俺と先生で人工呼吸と心臓マッサージを繰り返す。
何度も、何度も、何度も、何度も。
「救急車はまだかっ!!!」
どうして、どうして、どうして、どうして!!
お願いだ!
戻ってくれ、いかないでくれ。
・・・・・・死なないでくれ
──────────
33~同類 side圭介 へ
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