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26 誉めてあげたいと思ったのに side三宅冬馬
しおりを挟むside三宅冬馬
川上が返却されたテストの答案用紙を見せてくれたが、どの教科も予想以上の出来だった。
きっと家でもしっかり復習していたのだろう。
「頑張ったな」
そう言うと、それはそれは嬉しそうな顔で笑った。
可愛い笑顔に思わず頭を撫でてやりたくなって、そんな気持ちを誤魔化すように喋り続けた。
「予想より点数が取れている。ああ、この問題も解けたのか。うん、こっちはかなり惜しい。」
川上は自分の事を過小評価しがちだ。
私は弱いから、私は馬鹿だから、と。
そんなことはないのに。
確かに勉強は苦手らしい。
だが、努力をしている。
沢山誉めてあげたいと思った。
自らの努力が、結果という形に繋がっているという事に自信を持って欲しい。
「三宅君はどうだった?」
川上が不安そうな顔をして、覗き込むように聞いてきた。
「俺は全教科満点だ」
「す、すごい!よかったぁ。」
川上がホッとしたような顔をした。
「どうして川上さんがよかったと思うんだ?」
「だって私の勉強に付き合わせたせいで、三宅君の成績が下がったりしたら申し訳ないなって・・・・・・」
「君が心配しなくても、こんな簡単なテストで俺の成績が下がることはない」
・・・・・・しまった。この言い方は彼女を傷つける。
言ってから気付いてももう遅い。
俺はただ、君に、心配はいらないと伝えたかっただけなんだ。
「そっか。ならよかった。」
「ごめん」
「なんで謝るの?」
沢山誉めてあげたいと思ったのに。
「川上さんの努力を軽く見ている訳じゃないんだ」
俺は君を傷つけて、
「大丈夫だよ、そんなこと思わないし」
気を使わせている。
俺はそんな自分が悔しくて唇を噛んだ。
「三宅君はさぁ、将来の夢とかあるの?」
俯いていた川上が唐突に聞いてきた。
気まずい雰囲気を払拭しようとするかのように。
俺も気を取り直して答えた。
「これという具体的な職種は特にないが・・・・・・安定していて、これから先も成長しそうな、名の通った企業に勤めるつもりだ」
そしてゆくゆくは『上級国民』と言われるほどの地位を手にいれる・・・・・・
俺が馬鹿供に見せ付ける為に考えた将来設計だ。
そんな将来を想像することで、俺は自分のプライドを守ってきた。
「大学は?やっぱりT大にいくの?」
今はそんな奴らのことも、ちっぽけなプライドも、どうでもいい。
君が俺に笑いかけてくれる毎日が俺を支えている。
「そのつもりだ」
「そっか。三宅君、頭いいし、なのにすごい努力もしてる、すごいね」
君も努力をしているじゃないか。
「川上さんは、何か夢があるのか?」
「私も特にこれっていうのはないかな。でも何か資格とりたいなって」
やっぱり、しっかり考えているんだな。
「資格?」
「うん、資格があれば食べるのに困らないでしょ? 一人でも生きていける」
一人でも、というフレーズが引っかかった。
「一人で生きたいのか?」
「そうなるかも、知れないじゃない?」
寂しいけどね。
そう言って笑った君の顔は、何かを諦めたような、悟っているような、そんな感じがして少し悲しくなった。
──────────
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