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20 おうちでも、勉強するよ!
しおりを挟む「今日はカップケーキ焼いたのよ。食べるでしょ?」
夕食後にお茶碗を洗っていたママが聞いてきた。
「うん! あ、でも部屋で食べるから持っていく。」
カップケーキを小皿に移し、コーヒーを煎れてお盆に乗せた。
「中間テスト、近いでしょ? 勉強するの」
ドヤ顔で宣言すると、ママが泡だらけのスポンジをぽとりと落とした。
「ゆ、ゆかりが勉強する・・・・・・だと?」
パパもママも驚きすぎでしょ!
「今日の放課後も、友達と図書室で勉強してきたんだよ。テストまで続けるつもり」
「「!!!」」
勉強をするというだけで両親にここまで驚かれるって・・・・・・
ホントに残念な子だな、ゆかり。
机に向かい国語の教科書とノートを開くと、三宅冬馬が付けてくれた赤丸が、鮮やかに目に飛び込んできた。
ペンを持つ三宅冬馬の手は、当たり前だがやっぱり男の子の手だった。
肉付きが薄く、関節が盛り上がった若い男性の手。
ドキドキする。
触ってみたいと思った。
手を繋いで歩いてみたい。
あの手が私の頭を撫でて頬に触れる・・・・・・
そんな事を想像してブンブンと頭を振った。
今の私では三宅冬馬には釣り合わない。
私が変わったのは、まだ外見だけだ。
いくら努力をしても結果が伴わなくては意味がない。
勉強しよう。少しでも三宅冬馬に近づけるように。
気持ちを切り替えて漢字を書く。
繰り返し、繰り返し何度も書く。
明日になっても忘れてしまわないように。
文章問題の解答例を何度も読み返す。
三宅冬馬の解答。
たった26文字にまとめられたその文章は簡潔なのに、それでいて的確で分かりやすい。主人公の気持ちがしっかりと読み取られている。
三宅冬馬が『人の気持ちが分からない冷たい人間』だなんてあり得ない。
『ああ、賢くなった。こうして、ひとつづつ賢くなればいい』
彼の言葉を思い出した。
三宅冬馬は優しい人だ。
強くて優しい人。
一息ついてカップケーキを食べていると、ガラケーが鳴った。
着音は『ジ○ギスカン』だ。
・・・・・私、こんな趣味してたのか。
小さな窓に『サナエ』と表示が出ている。
『ゆかり、今日の放課後の勉強会、どうだった?』
いきなり本題か!
「うん、漢字の暗記と文章問題を解いた」
『三宅は? どうだった? ゆかりのアホさに呆れてなかったか?』
「なんでよ! ちゃんと教えてくれたよ。凄く優しくてビックリしちゃった」
マジか! と早苗が驚いた声を出した。
うん、優しい三宅冬馬の姿なんて想像出来ないよね。
『もしかして今も勉強してたんじゃね? 電話してゴメン。でも学校では三宅の話とか出来ないしさぁ』
早苗は大雑把に見えて、意外に周りの事をよく見てる。
気遣いもできて、面倒見のいいお姉さんタイプだ。
そんな早苗に過去の私は密かに憧れていた。
「大丈夫だよ。一息ついてカップケーキ食べてたとこ。早苗の声聞いたら、またやる気が出てきちゃった! 三宅君のことも、心配してくれてありがと。なんかあった時は相談するね!」
『オッケー、オッケー。いつでも相談乗るし』
「うん、その時はよろしくね! ありさにも報告しとく。気になってるだろうしね。」
その後ありさにも電話して報告すると、やっぱりありさも驚いてた。
「三宅が優しいとか、マジありえないっしょ」
らしい。
だよね。
──────────
21~毒も吐くし恋もするside三宅冬馬 へ
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