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16 パパのお迎え
しおりを挟む初めて三宅冬馬と会話した。
私は彼のことを、他人のことはどうでもいいと思う冷たい人だと思ってた。
プライドが高く、自分以外の人間のことなんて興味がない。
頭がいいからこそ、バカな人間が嫌い。
私のことなんて、一番嫌いなタイプだと思ってた。
そんな三宅冬馬の事が好きとか、私ってMの気があるんじゃないか? って思ってた。
そう思ってたのに、話してみるとそうじゃなかった。
彼は優しい人だった。
私は彼の前で涙を、バカを晒したというのに、彼は呆れることも馬鹿にすることもなく話を聞いてくれて、こんな私に勉強を教えてくれると言った。
クラクラする。これは夢? 私、死ぬのかな?
あぁ、"あの未来" に帰るのかな。
嫌だ、ここにいたいよ。
神さま、お願い。
私、頑張るから。
どうか、どうかここにいさせて下さい。
「俺は帰るが川上、さんはまだ残るのか?」 彼の言葉に時計を見ると5時10分だった。
「パパが来ちゃう!」
あわてて鞄に荷物を押し込んで
「私も帰る!」
三宅冬馬と教室を出た。
私と三宅冬馬が、正門までとはいえ並んで歩いてるとかこんなのあり得ない。
いや、あり得なかったのだ。
前の・・・・・・過去ではあり得なかった事が、頑張ることで、勇気を出すことで変わっていく。
ねぇ、私、もっと頑張るよ。
もっともっと頑張って、あなたの前で足掻いて見せるよ。
だから三宅冬馬、あなたは殺人犯になんかならないよ。
正門に着くとパパの車が見えた。
あわわ、早くない? まだ20分くらいだよ。三宅冬馬の前でパパのお迎えとか恥ずかしすぎるでしょ!
「今日は話を聞いてくれてありがとう。
迷惑を掛けちゃうと思うけど明日からよろしくね。バイバイ!」
目を合わせてキチンとお礼と挨拶をする。
これは人付きあいの基本の基の字。
どんなに急いでいても慌てていても。
42歳まで生きたのだ。
いくらバカでも、さすがに大人の常識くらいは身に付いている。
車に振り向くと運転席のパパと目が合った。
うわっ、気付かれた。
私と三宅冬馬が一緒にいるところを見られてしまった。
恥ずかしい!
三宅冬馬にパパのお迎えを見られるのも恥ずかしいが、パパに好きな人と一緒にいる自分を見られるのも恥ずかしい。
パパが車から降りてきた。
え、何で! 降りてこなくていいよ!
「おかえり、ゆかり。お友達か?」
チラリと隣の三宅冬馬を見て言うパパに、好きな人だよ、なんて言えるはずもない。
「うん。同じクラスの三宅君」
「そうか、三宅君、いつもゆかりと仲良くしてくれてありがとう」
「いえ、こちらこそ、仲良くしてもらっています」
三宅冬馬とパパがしゃべってる。
うわわわ、なんかすごい事が起こってる。
「じゃあ、川上さん、また明日」
「うん、バイバイ」
平静を装い、車に乗り込んでシートベルトを締めるが、心臓がドキドキして隣のパパまで聞こえそうだ。
落ち着け落ち着け。グーパーグーパー。
パパが真っ直ぐ前を見て運転しながら話し掛けてきた。
「さっきの、三宅君?クラスでも仲良い友達なのか?」
来た、来たよ。聞かれると思ってた。
「同じクラスだけど喋ったのは今日が初めてだよ」
「初めて?」
「うん、なんとなく苦手だったんだけどね、喋ってみたら普通に優しくていい人だった」
「そうか、学校、楽しそうで安心したよ」
あ、そうか。心配してたんだ。
今日のお迎えも、私の事が心配だったからだ。
いきなりガングロやめたり素直になったりしたから、もしかしたら学校で何かあったんじゃないかって思ったんだろうな。
心配してくれてありがとう。
大丈夫だよ、強くなるって決めたから。
「うん、すごく楽しいよ。小学校が一緒だった早苗もいるし、去年から同じクラスのありさもいいコだよ。二人とも優しくて楽しいんだよ。親友なの。」
心配してくれたパパを安心させてあげなきゃね。
「早苗とありさ、今度うちに呼んでもいいかなぁ?」
「ああ、その時はママにお菓子を焼いてもらうといい。」
「うん! 頼んでみる」
車の窓から差し込む西日でパパの顔が黄色く染まっている。
私の顔もそうなのだろうと思うと、優しい世界が私を包んでくれているような気がした。
未来の私は夕方が嫌いだった。
寂しくなるから。
私は一人なんだと実感して、泣きたくなるから。
今、こんなにも暖かい夕日に包まれている。私は幸せだ。
もう寂しくない。
私は馬鹿だ。
こんな幸せが目の前にあったのに。
私は、この幸せが逃げてしまわないように両手をグっと握りしめた。
──────────
17~パパのお迎え?side三宅冬馬 へ
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