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4~早苗とありさという親友
しおりを挟む保健室に私を迎えに来てくれたのは早苗ともう一人の友人、ありさだった。
「あたしが トイレに行ってる間に階段から落ちるとかマジありえないしー!」
ガングロのありさが私の顔の前で人差し指を立てる。
「あたしがその場にいたら、ゆかりの腕を掴んで止めてあげられたのにー」
「 無理無理。一緒に落ちるのが オチだよ?」
「ちょっとー、ひどくない?」
ありさは真っ白の唇を突きだして見せたあと、私に向かってほっとしたような顔で笑った。
二人が来るまでの間、私は一人の保健室で考えに考えた。
今の自分の状況と、これからどうすればいいのかを。
考えて、考えて‥‥決めた。
私は高校生の『自分』を頑張って生きる。
本当の私は死にかけで昏睡状態なのかも知れない。
楽しかった頃の走馬灯を見ているだけかも知れない。
でも、今、私の意識はここにある。
私はここにいる。
だから、そう、頑張るんだ。
他人の目なんて気にしない。
逃げない。
未来を変えたい。
あんな未来は駄目だ。
三宅冬馬が奥さんを殺して自殺するなんて、絶対駄目。
高校生の今ならきっとまだ間に合う。
自分の心に正直になって三宅冬馬にぶつかってみよう。
私の未来も、三宅冬馬の未来も、変えてしまえるほどに強くなってみせる。
バス停への道のりを、早苗とありさと三人で並んで歩く。
季節は、春? 街路樹の桜吹雪が綺麗すぎて目が痛い。
我慢できずに、そっと足下のアスファルトに目を落とす。
踏まれて汚れた花びらに、何故かホッとした。
「 送ってくれなくてもいいよ ?もう大丈夫だし 。二人とも遠回りでしょ?」
「いいよ別にぃ、気にすんなしー」
「 そうだよー。 どうせウチら暇なんだからさー」
交代で私のカバンを持ってくれる。
「マジでどこも痛くない?」
そう言って気遣ってくれる。
三宅冬馬の未来を変えるには、彼と仲良くなることが一番の近道だ。
だけど、私と彼は高校3年間、一度も会話すらしたことがなかった。
取り敢えず、この二人に三宅冬馬の事が好きだと打ち明けてみようか?
この二人は笑うだろうか?
趣味が悪いと馬鹿にするだろうか。
いや‥‥もし仮に馬鹿にされて笑われたとしてもかまわないのでは?
私は、今にもあの未来で目が覚めるかも知れないし、死んでしまうかも知れない。
いつまでここにいられるか分からないのだ。
だったら二人に打ち明けてみよう。
まずはそこから始めなきゃいけない。
そして三宅冬馬と仲良くなるんだ。
強くなるって決めた。
「‥‥‥あのさ、私、二人に大事な話があるんだよね」
急に真剣な顔で切り出した私に、二人が一瞬驚く。
「え、えー?何さー」
「もしかして恋バナとかー?」
二人が戸惑いを隠すようにキャラキャラと笑う。
「えっと、うん、まぁ、そんな感じ」
「まじか!!」
「誰?誰?」
や、やっぱり怖いな。
ちょっと時間の猶予が必要だ。
「な、なんかやっぱり心の準備が必要っていうか?げ、月曜日 に話すよ」
私はしどろもどろに答えた。
「んー、じゃあ 月曜日まで待つかぁ」
「この土日でしっかり 心の準備してねー?」
優しい二人はそれ以上は聞き出そうとはしなかった。
42歳、もう連絡を取り合うこともなくなっていたこの二人の、高校生の頃を思い出す。
いい子たちだった。
楽しい子たちだった。
私たちはいつも笑っていた。
二人は私の親友だった。
卒業してからもずっと親友でいられると思ってた。
18歳、私が妊娠したときはすごく喜んでくれたっけ。
ありさが『ちょっと気が早いけど』なんて言ってベビー服をプレゼントしてくれた。
流産したときは二人とも一緒に泣いて悲しんでくれたね。
19歳、離婚するときは、ものすごく怒ってくれたな。
早苗は『あんたの旦那、一発殴ってやんないと気がすまない!』って本気で殴り込みに来た。
時が経つにつれ、そんな二人から私は離れた。
二人や、他の友達が幸せになっていくのを横目で見ながら『幸せでない自分の姿』を晒すことが耐えられなかった。
だから逃げたんだ。
でもここからだ。今ここから始める。
頑張るんだ。今度は逃げない。絶対に。
強くなる。
───────────
5~脱・ガングロギャル 目指すは清楚系 へ
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