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3 川上ゆかりという人間②
しおりを挟むうとうとまどろんで、うっすら目が覚めた。
あー、ソファーで寝ちゃってたのかぁ。テレビもつけっぱなしだ。
番組はとっくに変わり、ワイドショーが始まっていた。
起き上がり、テレビを消そうとリモコンに手を伸ばす。
『卓・・・の・・三宅冬馬容疑者が妻殺害の容疑で被疑者死亡の・・ま検察庁・・・』
テレビからなつかしい名前が聞こえた。
"三宅冬馬"
三宅冬馬? 容疑者? 妻殺害? 被疑者死亡?
私は目玉がこぼれ落ちんばかりに目をかっ開いた。
ワイドショーの話によると三宅冬馬は
『T大理科Ⅲを主席で卒業した後、国内有数の大企業に勤め、怒濤の勢いで出世をしてきた超エリート社員』だった。
昨日の夕方、三宅容疑者は妻、百合子の首を絞めて殺害し、その後自らも首を括り死亡した。
『T大出身、次期社長とまで言われた三宅容疑者と元ミスN大の美人妻、百合子さん。このセレブな夫婦の間に一体何があったのか!』興奮した口調で語るアナウンサー。
画面に42歳の三宅冬馬の写真が映る。
美しい妻と並んで写る、彼の綺麗に整った顔に表情はなく、高校生の頃の三宅冬馬を鮮明に思い出させた。
テレビに映る殺人犯、三宅冬馬は私の高校時代のクラスメイトだった。
彼には友達と呼べる者はおらず、いつも一人で勉強をしている。
周りのクラスメイトからは『陰気なガリ勉』と笑われていた。
勉強以外興味がないような素振りで、あからさまな陰口にも動じることなく堂々としていた。
誰にも媚びず、自分の信念を貫いているように見えた。
私は、そんな彼に密かに恋をしていた。
『陰気なガリ勉』のことを好きだなんて周りに知れたら恥ずかしい。
きっと笑われる。
バカにされる。
絶対に誰にも言えなかった。
もちろん本人に告白なんてしない。
周りのクラスメイトが彼の陰口を叩くのを、ただ笑って聞いていた。
私は周りの目が怖かった。
"陰気なガリ勉" を好きになった自分が恥ずかしかった。
三宅冬馬への恋心は『恥』と『罪悪感』に押し潰されて、私の心の奥底に沈んでいった。
どれほどの間テレビの前につっ立っていただろう。
気がつくと太陽はとっくに傾き 、ベランダの窓からは黄色い西日がさし込んでいた。
慌てて洗濯物を取り込む 。
ベランダの手すりにかけていたバスタオルを取ろうと手を伸ばした。
その時また、ぐらりとめまいがした 。
慌てて手すりにしがみ付きめまいが治まるのを待ったが、グルグルと回るそれはさらにひどくなっていく。
強烈な頭痛と吐き気に襲われて、我慢できずに胃の中のものを全て吐き戻した。
全身の力が抜け落ちてその場に倒れこむ。
手足が痺れ、固まっていく。
──これ・・・・・・死ぬヤツ?
とうとう頭の芯まで塞がっていく感覚がして
・・・・・・私の意識はそこで途絶えた。
─────────────
4~早苗とありさという親友 へ
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