21 / 38
21 リンと摩周④ ~トーマス目線
しおりを挟む※残酷な描写が含まれます。
ご注意下さい。
~トーマス目線
誰もが振り返るほどの美少女に成長したリンは、16歳でスカウトされて芸能人になった。
そう、テレビの世界。
あの頃、憧れて止まなかった世界。
いつでも皆が笑ってる、楽しい世界。
世間はリンのあまりの可愛らしさに熱狂し、あれよあれよという間にトップアイドルに登り詰めていく。
国民的アイドルと呼ばれるまでそう時間はかからなかった。
『あ!加々美リンだ!可愛いー!』
『ああ!リンたんがトイレットペーパー買ってる!』
『アイドルもトイレ行くんだね、夢壊れたわ』
芸能人はいつでも、どこでも誰かに見られている。
リンと俺は常に緊張を強いられた。
そんな俺たちの癒しは、たまにしかない休日に部屋に籠ってゲームをする事だった。
リンと俺は、仕事や大事な用事がなければ絶対に家から出ない。
家の中にいれば安心だ。
この世で唯一、誰にも侵されることのないリンと俺だけの空間。
・・・・・・なのに、その場所すら奪おうとする奴が現れた。
リンに付きまとうストーカーだ。
毎日のようにポストに届く手紙は、気持ちの悪い愛の囁きから始まり、口汚く罵る罵詈雑言を経て、最後は殺害予告に変わった。
毎晩かかってくる無言電話、カーテンの隙間から鋭く射し込む赤い光の線。
玄関のドアノブにかけられたビニール袋には、髪の毛と爪が大量に練り込まれたカップケーキ。
事務所に相談したら、マネージャーとの同居を勧められた。
マネージャーの瀬川さんはリンにとって唯一信頼出来る人間、父親のような存在だ。
下心なく、リンを大事にしてくれる。
でも一緒に暮らすのはさすがに無理だ。
他人がいては俺とリンは会話も出来ない。
電話番号は何度も変えた。
セキュリティのしっかりしたマンションに引っ越した。
警察が三日に一度、マンションの周りをパトロールしてくれることになった。
それでもストーカーは止まらない。
ある日仕事から帰ってきて覗いたポストに入っていたのは、子猫の死骸だった。
無数の虫が湧いたそれを見たリンは発狂し、倒れた。
誰だ、誰がリンにこんなことをする!
もう、限界だ。
もう、アイドルなんてやめよう?
何とかリンをモノにしようと舌なめずりをする男たち。
ニコニコと楽しそうに話をしながら、隙あらば蹴落としてやろうと画策する格下アイドル。
いつでもどこでもリンを見張り、有ること無いこと報道するマスコミ。
そんな奴らに囲まれて、ストーカーにまで付きまとわれて、アイドルなんか続ける事はない。
テレビの世界は楽しい世界なんかじゃなかったんだ。
── なぁ、リン、どっかの田舎に引っ込んでさ、ずっと二人でのんびり暮らそうぜ?
「うん、あたしは摩周と一緒なら何処でもいいよ」
そんな話をしていた時だった。
ピンポーーン
チャイムがなった。
「はい、どちら様でしょう」
リンがインターホンの受話器に返事をした。
モニターに映るのは有名な宅配業社の制服に帽子を被った男。
「お荷物です」
「それなら一階のロビーにある宅配ボックスにお願いします」
「いえ、着払いなので直接受け取りでお願いしたいのですが」
判子と財布を持って玄関を開けたリンの目の前にいたのは、狂喜の笑みを浮かべたアイドルグループ『CRASH』のマサヤだった。
マサヤは素早い動きでドアの間に足を滑り込ませると、玄関に押し入った。
そして抱えていた段ボールから大きな出刃包丁を取り出すと、躊躇いもなくリンの腹に突き刺し、抜いた。
一瞬だった。
マサヤ!お前か!お前がストーカーだったのか!
腹を押さえてうずくまるリンの、首に、背中に、腰に、その出刃包丁を振りおろす。
何度も、何度も、何度も、何度も。
── リン!俺と変われ!
リンを守ろうと前に出ようとしたが、リンに阻まれた。
(・・・・・・摩周、もういいよ。あたしのせいで痛い思いは・・・・もう、させない。摩周、手を繋いで・・・・・・抱き締めていて。あたしたちは、一心同体・・・・・・摩周、摩周、一緒に・・・・・・行こう)
俺はリンを強く抱き締めた。
── リン、一緒だよ、行こう、新しい世界に。今度こそきっと幸せな世界だよ
(うん・・・・・・)
横たわるリンの目の前に真っ赤な血飛沫が飛び散る。
マサヤが出刃包丁を自分の首に当て、勢いよく切りつけていた。
リンの上に重なるように倒れ込んだマサヤが言った。
「あ、あ・・・・リン・・・・儀式・・・・は・・成功だ」
────────────────────
22 解放 へ
10
お気に入りに追加
66
あなたにおすすめの小説
転生した悪役令嬢はシナリオ通りに王子に婚約破棄されることを望む
双葉葵
恋愛
悪役令嬢メリッサ・ローランドは、卒業式のパーティで断罪され追放されることを望んでいる。
幼い頃から見てきた王子が此方を見てくれないということは“運命”であり決して変えられない“シナリオ”通りである。
定刻を過ぎても予定通り迎えに来ない王子に一人でパーティに参加して、訪れる断罪の時を待っていたけれど。険しい顔をして現れた婚約者の様子が何やら変で困惑する。【こんなの“シナリオ”になかったわ】
【隣にいるはずの“ローズ”(ヒロイン)はどこなの?】
*以前、『小説家になろう』であげていたものの再掲になります。
その国外追放、謹んでお受けします。悪役令嬢らしく退場して見せましょう。
ユズ
恋愛
乙女ゲームの世界に転生し、悪役令嬢になってしまったメリンダ。しかもその乙女ゲーム、少し変わっていて?断罪される運命を変えようとするも失敗。卒業パーティーで冤罪を着せられ国外追放を言い渡される。それでも、やっぱり想い人の前では美しくありたい!
…確かにそうは思ったけど、こんな展開は知らないのですが!?
*小説家になろう様でも投稿しています
【完結】どうやら、乙女ゲームのヒロインに転生したようなので。逆ざまぁが多いい、昨今。慎ましく生きて行こうと思います。
❄️冬は つとめて
恋愛
乙女ゲームのヒロインに転生した私。昨今、悪役令嬢人気で、逆ざまぁが多いいので。慎ましく、生きて行こうと思います。
作者から(あれ、何でこうなった? )
全力で断罪回避に挑んだ悪役令嬢が婚約破棄された訳...
haru.
恋愛
乙女ゲームに転生してると気づいた悪役令嬢は自分が断罪されないようにあらゆる対策を取っていた。
それなのに何でなのよ!この状況はッ!?
「お前がユミィを害そうとしていたのはわかっているんだッ!この性悪女め!お前とは婚約破棄をする!!」
目の前で泣いているヒロインと私を責めたてる婚約者。
いや......私、虐めもしてないし。
この人と関わらないように必死で避けてたんですけど.....
何で私が断罪されてるのよ━━━ッ!!!
農地スローライフ、始めました~婚約破棄された悪役令嬢は、第二王子から溺愛される~
可児 うさこ
恋愛
前世でプレイしていたゲームの悪役令嬢に転生した。公爵に婚約破棄された悪役令嬢は、実家に戻ったら、第二王子と遭遇した。彼は王位継承より農業に夢中で、農地を所有する実家へ見学に来たらしい。悪役令嬢は彼に一目惚れされて、郊外の城で一緒に暮らすことになった。欲しいものを何でも与えてくれて、溺愛してくれる。そんな彼とまったり農業を楽しみながら、快適なスローライフを送ります。
泥棒猫になり損ねた男爵令嬢は、策士な公爵令息に溺愛される。第二王子の公妾になるつもりが、どうしてこうなった。
石河 翠
恋愛
母が亡くなり、父である男爵に引き取られた平民育ちのケリー。
彼女は父の命令により、貴族の子女が通う学園に放り込まれてしまう。結婚相手を見つけられなければ、卒業後すぐに好色な金持ち老人に後妻として売り飛ばすと脅された上で。
そんな彼女が目をつけたのは、婚約者の公爵令嬢とは不仲という噂の第二王子。正妃である必要はない。殿下の妾になればきっと今より幸せになれるはず。
必死にアプローチする彼女だったが、ある日公爵令嬢と第二王子、それぞれの本音を知ってしまう。
バカらしくなった彼女は慎ましやかな幸せを手に入れるため心を入れ換えるのだが……。
悪人になれないお人好しヒロインと、一目惚れしたヒロインを一途に追いかけた策士なヒーローのお話。
ハッピーエンドです。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:5059760)をお借りしております。
悪役令嬢の取り巻き令嬢(モブ)だけど実は影で暗躍してたなんて意外でしょ?
無味無臭(不定期更新)
恋愛
無能な悪役令嬢に変わってシナリオ通り進めていたがある日悪役令嬢にハブられたルル。
「いいんですか?その態度」
不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜
晴行
恋愛
乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。
見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。
これは主人公であるアリシアの物語。
わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。
窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。
「つまらないわ」
わたしはいつも不機嫌。
どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。
あーあ、もうやめた。
なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。
このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。
仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。
__それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。
頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。
の、はずだったのだけれど。
アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。
ストーリーがなかなか始まらない。
これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。
カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?
それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?
わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?
毎日つくれ? ふざけるな。
……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる