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7 計画

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三人のメイドに手伝ってもらったことで、大量の荷物の荷ほどきは驚くほど早く終わった。
さすが公爵家のメイド、デキるわね!
無駄のない流れる様な動きは見ていて圧巻だったわ。


ドレスから部屋着に着替えた私は、大きなベッドの上でぬいぐるみのマシューを抱いて考えていた。


トーマスはいったい何を考えているのかしら。





──トーマスが、どこぞの上昇思考の強い令嬢を新しい恋人と持ち上げ、私との婚約を破棄する。
すぐにその恋人とは適当な理由を付けて別れ、怒り狂った国王陛下に絶縁されたトーマスは、隣国で一人待つ私の元へ駆けつけてずっと一緒に暮らす──

これが私とトーマスが当初考えていた計画の全貌。

しかしトーマスは突然、私に何も説明せずにその計画を変更した。
ボンディング公爵の元へ嫁げ、と。

その真意は・・・・・・?


ボンディング公爵は素敵な方だし、結婚するのは私としては全然OKなんだけど、というか、すぐにでも結婚してもいいくらいには好みのタイプなんだけど、でも、トーマスはこの後どうするつもりなのかしら?


ねぇ、トーマス、私と離れて生きて行けるの?
私はトーマスと離れて生きては行けないわよ?
何か考えがあるの?
ちゃんと話してくれなきゃ分からないわ。
私たち、もうあの頃とは違うのよ?



コンコン

ノックの音に弾かれるようにベッドから降りて、ドアの向こうの誰かに
「はい」
と返事をした。

「リリア嬢、荷ほどきは終わったか?そろそろ夕食の時間なのだが」

あら、もうそんな時間?

ドアを開けるとボンディング公爵が心配そうな顔で立っていた。

やっぱりカッコいいわーー!!

「ボンディング様、わざわざ呼びに来て下さったのですか?」

「ああ、メイドが呼びに行こうとしていたが、リリア嬢の体調が気になったから俺が来た。疲れているなら食事は部屋に運ばせるが」

「ありがとうごさいます。大丈夫です。すぐに着替えて食堂に参りますね!」

「いや、そのままの格好で構わない。かしこまらなくても大丈夫、俺も普段着だ」

ラフな格好のボンディング公爵。
ノータイの白シャツに黒いスラックス。
シャツの第一ボタンを外し、その隙間から大きな喉仏がみえる。
い、色っぽいわね!
私の目を潰す気かしら。

それに私の体調を気にして自ら声を掛けに来てくれるなんて、やっぱり優しいわ。

「では、このままご一緒いたしますわ」


トーマスはきっと、ボンディング公爵の優しい性格を分かっていて私の婚約者に選んだ。

でも、さっきの会話から考えると、ボンディング公爵は私とトーマスの婚約破棄が計画だった事は聞かされていないわよね。
トーマスはボンディング公爵に何も話していない。
それなら私も黙っていたほうがいい。

確か二人は親戚関係にあったはず。
でもトーマスからボンディング公爵の話題が出たことはなかった。


ボンディング公爵が、部屋を出ようとする私を見てクスリと笑った。

笑った?
強面の優しい笑顔、大好物よ!

「その縫いぐるみも連れていくのか?」

「はわわ!す、すみません!置いてきます。お待ちくださいね!」

私は抱いたままだったマシューをソファに座らせて、ボンディング公爵と食堂に向かった。


「婚約の誓約書をコンポジット伯爵家に送った。早馬だから明日の夕方には届くと思うが」

「まあ!お早いですね、ありがとうございます」

これで私とボンディング公爵は明日にも正式な婚約者になる。

ボンディング公爵と結婚したいなぁ、とは思う。
こんなに好みのタイプの男とはこの先出会うことはないだろう。
ボンディング公爵と愛し愛される夫婦になりたいわ。

でもねぇ、トーマスが一緒じゃなきゃダメなのよね。

ボンディング公爵はトーマスとの同居を受け入れてくれるかしら?

あー、でもでもトーマスの真意もまだ分からないし。

婚約を破棄した今、王太子殿下であるトーマスと会って話すことは出来ないしね。

まあ、トーマスにも何か考えがあってのことだろうから、私はここでボンディング公爵と暮らして待ってりゃいいのよね。


でもね、トーマス、私、そんなに長くは待てないわ。
トーマスだってそうでしょう?
だって私たち、離れて生きていくことなんて出来ないんだから。


────────────────────
 8 夕食 
  ~レオナルド・ボンディング目線 へ

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