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第3章 壊レカケノココロ
story19 開花
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ダーク・ホーム
マスタールーム
「マスター!!!大変です!!!」
ひとりの男が部屋に駆け込んできた。
「なにかあったか?」
マスターはふかしていたタバコを一旦灰皿におく。
「はい!!先ほどフェイターが発見されました。」
マスターは驚き、思わず立ち上がる。
「場所はどこだ!」
「ミュージック・カウンティーです!!!」
「あそこにはたしかマーシャとシキがいるはずだ。直ちに連絡を取れ。あと残りのスペシャルマスターを全員送り込め・・・・逃がすな!」
「はっ!!」
音楽祭当日
あいにくの雨だが、さすがはミュージックカウンティー。
音楽がやむことはない。
夜もずっとなりっぱなしのせいで、マーシャは耳栓をしていても寝不足のようだ。
「ったくこんな日に限って雨かよ・・・・・ついてねぇな。」
マーシャは寝不足でイライラしながら宿屋の窓からぼんやり雨を眺めていた。
「でも逆にお客さんが増えてうれしいです。」
一方フォルトは少し緊張気味だが、マーシャと違って嬉しそうな顔をしている。
「・・・なんで増えるんですか?」
「雨が降ればみんな雨宿りをするでしょう?」
「・・・なるほど。」
リオナとフォルトはどこかそわそわしながら部屋中を動き回る。
するとドアが開き、B.B.がびしょぬれで部屋に入ってくきた。
リオナは待ちかまえていたようにタオルを広げてB.B.をふく。
《はれぇ~つかれたー・・・》
「あれ?ウサギさんどこに行ってたんですか?」
《い・・・いやちょっと散歩に・・・な!》
「・・・そうそう散歩」
リオナは普段見せない笑顔をフォルトにむける。
「こんな日に散歩なんかしたら風邪引いちゃいますよ?・・・・さて、僕はそろそろ準備にかかりますね。」
そのままフォルトは奥の部屋へ向かった。
リオナとB.B.はほっとして床に座り込む。
「・・・・B.B.どうだった?」
《モチばっちりよ!!!》
「えらい」
リオナはB.B.の頭をなで回した。
そんな2人を見て、マーシャは呆れたようなため息をこぼした。
「俺は知らないからな。ややこしいことになっても。」
ーマーシャ・・・・今日は機嫌が悪そうだな・・・。
そっとしておこうと、リオナは目線を逸らす。
「くそ・・・・本当についてねーよ。」
すると突然、マーシャが舌打ちをして窓から離れた。
リオナとB.B.はビクッとして部屋の隅に逃げる。
「・・・な、何怒ってるの?」
《ごめんなさいごめんなさい!!》
「ちがうちがう。シキだよ。アイツ下から俺のこと睨んでるんだよ・・・・」
リオナたちも窓に近づき、下を見る。
「・・・ほんとだ・・・・しかもパジャマ・・・?」
どれだけマーシャに会いたくないのだろうか。
しかもパジャマで来るほど何を焦っているのだろうか。
「おいリオナ、下行ってアイツの話聞いてきて。」
「・・・俺が行ったら逃げちゃうよ。一応共犯だし。」
《その必要はないみたいなのだ。》
「・・・・どういうこと?」
「悪魔同士の通信ってやつか。俺の悪魔には送られてきてない。シキのバーカ。」
マーシャはシキに向けて舌を出す。
自業自得だろうと誰もが思う。
≪うーん・・・音楽が邪魔で聞き取りづらいなぁ・・・・≫
B.B.は耳をそばだてる。
だがようやく聞こえてきた情報に、B.B.は驚いて飛び上がった。
《大変だマーシャ!!ミュージックカウンティーにフェイターが1人でたらしい!!》
「本当か?」
《マスターがスペシャルマスターは全員フェイター確保に向かえだってさ!!場所は音楽祭が行われるミュージックホールなのだ。シキもすぐに向かうって!!》
マーシャはチラッと窓から下を見る。
すでにシキはいなくなっていた。
「はや。ったくわかりましたよっと。いくぞ。」
「うん。」
するとフォルトが異変に気づいたのか
部屋から顔を出した。
「どうかしましたか?」
「悪いフォルト。仕事ができちゃってさ。」
マーシャは苦笑いをする。
「大丈夫です。あとは自分で何とかできます。」
そう言うとフォルトはマーシャに近づき手を握った。
「本当にありがとうございました。必ず・・・必ず優勝します!」
「ああ。お前の音楽聞きたかったな。ごめんな。」
「謝らないでください!!リオナ君もウサギさんもマーシャさんもお仕事頑張って下さい!」
「ありがとな。それじゃあまた。」
マーシャは先に部屋を出ていく。
「お元気で・・・・。」
リオナはしょんぼりした面持ちでフォルトの腰にギュッと抱きついた。
そんなリオナを見て、フォルトは微笑みながらリオナを抱き返した。
「ははっ!!そんな暗い顔をしないでください。」
「フォルトさん・・・」
「ほら、早く早く!!!」
リオナはフォルトに押されて部屋を出た。
「・・・・・いくよB.B.。」
《おう!またなフォルト!!あとオイラはウサギさんじゃなくてB.B.様だーい!!》
そう言って走り去っていくリオナ達を見つめ、にこっと笑い、頭を下げた。
マーシャはコートのフードをかぶり、
雨の中、辺りを見回している。
「どうしたのマーシャ?」
「化神だ。しかも10体以上。全部中央のミュージックホールを目指してる。」
マーシャは険しい顔をする。
「10体以上・・・」
「でもダーク・ホームから1stエージェントが3人到着したみたいだ。それにしても少なすぎるな。」
「・・・・とりあえずオレとB.B.は化神を倒しに行くよ。マーシャは?」
「俺も化神を倒しにいく。二手に分かれよう。できるか?」
リオナはニッと笑って拳をむけた。
「当然。」
マーシャも笑を浮かべ、リオナの拳に自身の拳を突き合わせた。
「了解。じゃあまたあとでな。」
マーシャは左に、リオナとB.B.は右に走った。
「・・・・B.B.。化神は?」
《コッチに2匹。対っぽいのだ。》
「わかった。」
リオナは走る速度を上げる。
朝早いせいか人は少ない。
しかし音楽が若干耳障りだ。
ユリスの言っていたことが今更ながらに身に染みた。
すると街角からフラフラしながら2人組の男が出てきた。
しかも黒々しい光を放っている。
「あれか。」
リオナは身震いした。
恐怖からではなく、もちろん喜びと期待から。
ようやく自身の力を試せる時が来たのだから。
化神2体もこちらに気づき、形を変えながら向かってくる。
「B.B.」
《行くのだ!!》
B.B.がリオナの中に入りこむ。
リオナは瞳を真っ赤に染める。
そしてさっとトランプを取り出すと、カードを体の回りに広げ浮かせた。
まずは突進してくる相手を避け、後ろに回りこむ。
リオナは一斉にカードを化神に向けて放ち、切り裂く。
『ヴォォオ゙ゥ゙オ゙ォォオ゙ヴ!!!』
2匹の化神はもがき苦しむが、すぐにまた向かってくる。
すると2匹はそれぞれ二手に分かれ、リオナを両脇から挟み撃ちにしようとする。
《リオナ!やっと来た!!》
「いくよ」
2人は瞬時に力を合わせる。
お互いの力を計りながら、気持ちも重ねて。
するとリオナの周りに黒い風が取り巻き始めた。
リオナはさっとトランプのカードを6枚、
自分を囲むように並べる。
カードはみるみる黒風をまとい始めて。
そして化神達がリオナに爪をむいたその時だった。
6枚のカードが巨大化し、防壁を作った。
「ヴォォォオ!!!」
化神達は巨大化したカードを蹴るが
ビクともしない。
そしてリオナは残りのカードを横に広げ、
再びB.B.と力を重ねる。
黒風は勢い良くカードを取り巻き、長剣を作りだした。
「よし」
思わずリオナは声を上げる。
なんてったって成功したのは今のが初めて。
努力が報われてリオナは喜びを隠しきれなかった。
《リオナ!!そのままぶった切れ!!》
リオナは剣を構え、頭の中に満月をイメージする。
そしてそのまま円を描くように振りかざす。
「"月斬り"」
マーシャから受け継いだ"月斬り"
長剣は円を描き、カードの防壁ごと化神を切り裂いた。
『ぐぅぉぁぁぅぁぁ・・・・・』
2体の化神は人型に戻ると、そのまま黒々しい煙に飲み込まれるように消えていった。
その姿に、リオナは悲痛な表情を浮かべていて。
たとえ排除しなければならない対象あっても、元々はヒト。
そして意に反して化神になっている人もいる。
どうか安らかに眠ってほしいと、リオナは目を瞑って祈った。
「・・・・いこうB.B.。」
《おいリオナ!そこでシュナが化神と戦ってる!!しかも3体!!》
リオナは急いでシュナのいる方へ向かう。
少し遠いがシュナが3体の化神に囲まれているのがわかった。
《おいリオナはやく助けに行くぞ!》
「待って・・・」
リオナはシュナを見つめる。
シュナからはいつもの笑顔が消え、紫色の瞳を真っ赤に染めている。
すると両手に漆黒の光をためはじめ、
それは段々と巨大化して
シュナを中心に化神たちを飲み込んだ。
リオナは思わず目を細め、目を腕で隠す。
《・・・!?リオナどうした?》
「なんだかすごく眩しい・・・」
黒いのにまぶしいことはあるのだろうか。
不思議な感覚に襲われながらもリオナはあることに気がつく。
シュナは光妖大帝国出身。
彼らは光を操る能力がある。
光の力と悪魔の闇の力が合わさって起こったのかもしれない。
光と闇
絶対に交わることはなさそうなのに。
シュナはもしかしたら俺なんかよりもっと苦しんでいたのかもしれない。
巨大化した闇は再びシュナの手に戻っていくと、すでに3体の化神は消えてしまっていた。
一体あの中でなにがあったのだろうか。
考えるだけで身の毛がよだつ。
するとシュナはリオナに気がつき、笑顔でこちらに近寄ってきた。
「リオナ!・・・・もしかして今の見てた?」
「うん。」
シュナは苦笑しながらも首を横に振る。
「もしかして・・・俺の出身とか・・・事情とか・・・マーシャさん話しちゃった?」
リオナは一瞬目を泳がすが、嘘はつきたくないから正直に頷く。
「・・・そっか。」
シュナは少し悲しげにうつむく。
「でも、オレはシュナを信じてるよ。」
「・・・・え・・・でも俺は」
「光妖大帝国の王子だろうと、そんなの関係ないよ。」
「・・・・リオナ。」
「シュナは親友だし仲間でしょ。違う?」
そういうとリオナはぽんとシュナの頭に手を置く。
するとシュナは顔を上げ、ニコッと笑って首を横に振った。
「俺はリオナの親友だ!」
「じゃあはやくミュージックホールに行こう。」
「おー!」
2人は家々の屋根に飛び乗り、ミュージックホールめがけて走り抜ける。
「リオナ!!」
「・・・・?」
「ありがとう!」
シュナは満面の笑みでリオナに呼びかける。
「俺も信じてるから!!」
「・・・え?」
「俺もリオナを信じてるよ!」
一瞬時が止まった気がした。
自分はシュナに本当のことを
話してない
胸がズキズキ痛む。
自分はひどい人間だ・・・
信じてるっていいながら
本当は心の中で疑っている自分がいる
ホントに最悪だ・・・・
シュナがこれを知ったら・・
どんな顔をするだろうか・・・
リオナの異変に気づき、B.B.はリオナに呼びかけてきた。
《リオナ・・・・。お前はコイツとは訳が違うのだ。仕方がないことだよ。》
珍しく察しがいいB.B.の呼びかけで我に返る。
「・・・・そうだね。」
そう
これは仕方のないこと。
自分の為でもあるけど、相手のためでもあるから。
でも・・・・
いつまでこんな言い訳を積み重ねればならないのか。
どこまで嘘の壁を作らなければならないのだろうか。
いつになったら、本当の自分でいられるようになるのだろうか。
「これで全部か。」
マーシャはナイフを引っ込め、手をパンパンと払う。
「どうやらリオナとB.B.もうまくいったようだな。」
マーシャは素直に嬉しかった。
自分の教え方は悪くなかったということが。
「マーシャ!あ、いや、マーシャ・・・・さん!!」
すると遠くの方から名前を呼ばれて振り返った。
うしろからサッとやってきたのは1stエージェントのコナツ。
マーシャとは同期で、かつて短い期間だがペアで行動していた間柄。
しかしマーシャがスペシャルマスターになってからなぜかよそよそしくなった。
「なんだよコナツか。"さん"つけるなよ気持ち悪い。」
「ほっといて、ください・・・。というか笑ってる場合じゃないですよ!!!」
「・・・・・ッチ。見られてたか・・・。」
「早くミュージックホールへ向かってください!!私たちは国民や観光客の誘導をします!!急いでください!!」
「はいはい。」
コナツはたぶん美人な方だ。
でも短く切りそろえられた髪と男勝りな性格のせいで女として見られることがあまりない。
「おいコナツ。」
「はい?」
コナツはクルリとマーシャの方を向く。
「うーん・・・・・・」
「な・・・なんですか?」
マーシャはコナツを上から下まで眺める。
「ああ、化粧かな。」
「はぁ!?」
「お前、少し化粧したら女っぽく見えるのに。それか髪伸ばしたら?」
「な・・・・・・・なな・・・・・・・!!!」
コナツは黒いオーラを放ちながらマーシャに近づき、マーシャの左頬に手をあてる。
「どうしたコナ・・」
バシィィィィィィィィン!!!
「うがぁ!!!」
マーシャはその場から100m程ぶっ飛んだ。
左頬はパンパンに腫れ、顔が変形している。
「いってぇななにすんだよ!!!!!」
「うるさい!!!!あんたなんかフェイターにやられちゃえ!!!!!ばーか!!!チンチクリン頭!!」
そういってコナツはダッシュでかけていってしまった。
「お・・・おい!俺はお前のためを思ってだなぁ!あーもー女なんて大っ嫌いだ!」
マーシャは立ち上がり、ミュージックホールに向けて左頬を押さえながら猛スピードで走り抜けた。
この2人がペアーを解消した原因は、もちろんマーシャの余計な一言。
その時のケンカは凄まじかったらしく、まさに血みどろの殺し合い。
それから2人は犬猿の仲となり、マーシャがコナツを抜かしてスペシャルマスターになってからは、ますます関係が悪化してきているようだ。
そしてマーシャの女嫌いが悪化したのも、コナツというかマーシャの下らない、かつ余計な言動で怒り狂ったコナツが1つの原因だとシキは語っている。
「あっ!!コナツ姉さんだ!!」
シュナとリオナがミュージックホールへ向かっていると、反対方向からコナツが猛スピードでかけていくのが見えた。
「なんか急いでるみたいだ・・・俺ちょっとコナツ姉さんのとこ行ってみる。」
「うん。気をつけてね。」
「リオナもね!!」
そう言ってコナツが行った方へかけていった。
《ねぇねぇ!マーシャじゃなーい?》
「・・・・あの人?」
《そうあの人。あの黒いコートはマーシャだよ。》
でも若干顔が違うような・・・
しかしB.B.が言い張るからとりあえず呼んでみる。
「マーシャ?」
すると黒いコートの男はこちらを向いた。
「おおリオナ。よかった無事だったか。」
「・・・・どうしたのその顔!?まさか化神に!?」
真っ赤に腫れた左頬。
痛々しくて見てられず、目をそらす。
「まさか。化神よりもぉっとタチの悪い怪物にやられた。」
「化神より強い怪物がいるなんて・・・・・世の中知らないことだらけだ。」
「あははっ。知らない方が身のためだ。」
2人は再び駆け出す。
走っている足がだんだん重くなっていくのを感じる。
懐かしい感じだ。
初めて化神を見た時に似ている。
恐怖からか。
「リオナ。」
するとマーシャはリオナの頭に手を置き、そっと撫でた。
「大丈夫だよ。」
マーシャは優しく笑いかけてくる。
こんな笑い方もできるのかと、リオナはちょっと見惚れてしまう。
あと、少し気持ちが軽くなった気がした。
「ありがとう、マーシャ。」
ミュージックホールが近づいてくると、いくつかの人影が見えた。
きっとダークホームのメンバーだ。
けれど戦闘をしている様子がない。
「おーマーシャ!!お前おせーんだよー」
ラキの声が聞こえ、マーシャとリオナはスピードを落とした。
「うるせぇよ。」
マーシャは耳を押さえて呟くと、ラードがますます声を上げて近寄ってくる。
するとそれに続くようにユリスとアスクもやってきた。
「あらりっちゃーん♡」
「はぅっ・・・!!」
ユリスに思いっきり抱きしめられて、息苦しさにもがく。
マーシャはあたりを見回して、フェイターの姿を探していた。
「フェイターはまだか?」
「なんか反応はあるらしいんだけど、なかなか姿を現さないんだよ。」
「もし来たらどうするんだ?確保?抹殺?」
"確保だ・・・・絶対確保だ・・・"
「あ?」
どこから声がしたのか、リオナとマーシャは辺りを見渡した。
「アスクか?」
「・・・・俺じゃない・・・・・」
「違うわよシキよ。ほら。」
全員が一斉に振り返る。
すると物陰からこちらを睨んでいるシキがいた。
なぜか一定の距離を保っている。
「あいつどうしたんだ?おーいシキ!こっちこいよ。」
シキに呼びかけるラキを、マーシャが制した。
「やめとけやめとけ。アイツはこないよ。俺がいるから。」
「どーせまたイタズラしたんでしょう。」
「まぁね。」
マーシャはニヤっとシキを見る。
シキはビクッと体を震わせて物陰に引っ込んだ。
「おいシキお前ちゃんと仕事してんのか!?フェイターなんか出てこねぇじゃねぇかよ。」
隠れていたシキだが、ラードに無理やり引っ張り出されてしまった。
「失礼なやつだな!!これでも俺は年上だぞ!?それに俺は誰よりも仕事に関しては真面目だ!!」
フンと鼻をならして腕組みをする。
「確かに明け方まではフェイターの反応があったんだ。それからはあったりなかったり。でも必ずここ近辺からの反応なんだ。」
「もしかして逃げられちゃったとかないかしら?」
「国の外では2ndエージェントが見張ってるからそれはない。相手も長くは気配を消していられないだろうから、もうそろそろ現れてもいいはずだ。」
5人が真剣に話している姿をみて、リオナは後ろの方で眺めていた。
B.B.も一度リオナの中から離れ、疲れたのかリオナの肩にぶら下がる。
「・・・・オレたちもシュナと行った方がよかったかな。」
《なんでなのだ?こっちの方がたのしそーじゃん。》
「・・・・そういう問題じゃなくて。足手まといになる。」
《だからここでドカーンと成果を出せば進級だぜ!?》
「・・・・進級とかどうでもいいよ。」
《いつもだったら怒るくせに。》
「・・・うるさい。」
B.B.の頬を横にグイッと引っ張る。
《フにゃ~・・・。!!!!!あへひろほりほあ!!!!!!》
「え?」
突然B.B.が騒ぎ出したため、頬から手を離すと、B.B.は飛び上がってミュージックホールの入り口を指差した。
そこには物陰に隠れながらホールに入っていく一つの人影。
《フォルトだよ!!あいつホールの中はいってくぞ!?》
「・・・・危ない!追いかけるよ。」
リオナは立ち上がると猛スピードでホールに向かった。
「え、リオナ?アイツどこいくんだ?」
マーシャはホールに走って入っていくリオナを目で追う。
「まぁマーシャ、そんなに心配すんなって。子供は好奇心旺盛な生き物だ。ガハハハ!!」
ラキはバシバシと笑いながらマーシャの背を叩く。
「・・・・・・・・・」
でもリオナは普段あんな行動を取ることはない。
何かあったのか・・・・?
マーシャは悪魔を通じてB.B.に呼びかける。
しかし応答がない。
「・・・・ま、B.B.いるし大丈夫かな。」
「そうだそうだ、ガハハハ!!」
こんな状況下でも笑うラキに、シキは呆れてため息をこぼす。
「おい、もっと緊張感ってものを・・・」
すると突然、シキの目の色が一変した。
シキの中の悪魔が目覚めたのだ。
瞳が赤く燃えている。
「・・・・反応だ!!」
スペシャルマスターの4人は素早く1カ所にまとまり、辺りを見回す。
シキは目をつむり、
反応を確かめる。
「・・・・違う!外じゃない!ホール内だ!!」
「くそっ・・」
ー・・・中にはリオナが
真っ先にマーシャがホールにむかって走っていく。
それに続くように三人も駆け出した。
マスタールーム
「マスター!!!大変です!!!」
ひとりの男が部屋に駆け込んできた。
「なにかあったか?」
マスターはふかしていたタバコを一旦灰皿におく。
「はい!!先ほどフェイターが発見されました。」
マスターは驚き、思わず立ち上がる。
「場所はどこだ!」
「ミュージック・カウンティーです!!!」
「あそこにはたしかマーシャとシキがいるはずだ。直ちに連絡を取れ。あと残りのスペシャルマスターを全員送り込め・・・・逃がすな!」
「はっ!!」
音楽祭当日
あいにくの雨だが、さすがはミュージックカウンティー。
音楽がやむことはない。
夜もずっとなりっぱなしのせいで、マーシャは耳栓をしていても寝不足のようだ。
「ったくこんな日に限って雨かよ・・・・・ついてねぇな。」
マーシャは寝不足でイライラしながら宿屋の窓からぼんやり雨を眺めていた。
「でも逆にお客さんが増えてうれしいです。」
一方フォルトは少し緊張気味だが、マーシャと違って嬉しそうな顔をしている。
「・・・なんで増えるんですか?」
「雨が降ればみんな雨宿りをするでしょう?」
「・・・なるほど。」
リオナとフォルトはどこかそわそわしながら部屋中を動き回る。
するとドアが開き、B.B.がびしょぬれで部屋に入ってくきた。
リオナは待ちかまえていたようにタオルを広げてB.B.をふく。
《はれぇ~つかれたー・・・》
「あれ?ウサギさんどこに行ってたんですか?」
《い・・・いやちょっと散歩に・・・な!》
「・・・そうそう散歩」
リオナは普段見せない笑顔をフォルトにむける。
「こんな日に散歩なんかしたら風邪引いちゃいますよ?・・・・さて、僕はそろそろ準備にかかりますね。」
そのままフォルトは奥の部屋へ向かった。
リオナとB.B.はほっとして床に座り込む。
「・・・・B.B.どうだった?」
《モチばっちりよ!!!》
「えらい」
リオナはB.B.の頭をなで回した。
そんな2人を見て、マーシャは呆れたようなため息をこぼした。
「俺は知らないからな。ややこしいことになっても。」
ーマーシャ・・・・今日は機嫌が悪そうだな・・・。
そっとしておこうと、リオナは目線を逸らす。
「くそ・・・・本当についてねーよ。」
すると突然、マーシャが舌打ちをして窓から離れた。
リオナとB.B.はビクッとして部屋の隅に逃げる。
「・・・な、何怒ってるの?」
《ごめんなさいごめんなさい!!》
「ちがうちがう。シキだよ。アイツ下から俺のこと睨んでるんだよ・・・・」
リオナたちも窓に近づき、下を見る。
「・・・ほんとだ・・・・しかもパジャマ・・・?」
どれだけマーシャに会いたくないのだろうか。
しかもパジャマで来るほど何を焦っているのだろうか。
「おいリオナ、下行ってアイツの話聞いてきて。」
「・・・俺が行ったら逃げちゃうよ。一応共犯だし。」
《その必要はないみたいなのだ。》
「・・・・どういうこと?」
「悪魔同士の通信ってやつか。俺の悪魔には送られてきてない。シキのバーカ。」
マーシャはシキに向けて舌を出す。
自業自得だろうと誰もが思う。
≪うーん・・・音楽が邪魔で聞き取りづらいなぁ・・・・≫
B.B.は耳をそばだてる。
だがようやく聞こえてきた情報に、B.B.は驚いて飛び上がった。
《大変だマーシャ!!ミュージックカウンティーにフェイターが1人でたらしい!!》
「本当か?」
《マスターがスペシャルマスターは全員フェイター確保に向かえだってさ!!場所は音楽祭が行われるミュージックホールなのだ。シキもすぐに向かうって!!》
マーシャはチラッと窓から下を見る。
すでにシキはいなくなっていた。
「はや。ったくわかりましたよっと。いくぞ。」
「うん。」
するとフォルトが異変に気づいたのか
部屋から顔を出した。
「どうかしましたか?」
「悪いフォルト。仕事ができちゃってさ。」
マーシャは苦笑いをする。
「大丈夫です。あとは自分で何とかできます。」
そう言うとフォルトはマーシャに近づき手を握った。
「本当にありがとうございました。必ず・・・必ず優勝します!」
「ああ。お前の音楽聞きたかったな。ごめんな。」
「謝らないでください!!リオナ君もウサギさんもマーシャさんもお仕事頑張って下さい!」
「ありがとな。それじゃあまた。」
マーシャは先に部屋を出ていく。
「お元気で・・・・。」
リオナはしょんぼりした面持ちでフォルトの腰にギュッと抱きついた。
そんなリオナを見て、フォルトは微笑みながらリオナを抱き返した。
「ははっ!!そんな暗い顔をしないでください。」
「フォルトさん・・・」
「ほら、早く早く!!!」
リオナはフォルトに押されて部屋を出た。
「・・・・・いくよB.B.。」
《おう!またなフォルト!!あとオイラはウサギさんじゃなくてB.B.様だーい!!》
そう言って走り去っていくリオナ達を見つめ、にこっと笑い、頭を下げた。
マーシャはコートのフードをかぶり、
雨の中、辺りを見回している。
「どうしたのマーシャ?」
「化神だ。しかも10体以上。全部中央のミュージックホールを目指してる。」
マーシャは険しい顔をする。
「10体以上・・・」
「でもダーク・ホームから1stエージェントが3人到着したみたいだ。それにしても少なすぎるな。」
「・・・・とりあえずオレとB.B.は化神を倒しに行くよ。マーシャは?」
「俺も化神を倒しにいく。二手に分かれよう。できるか?」
リオナはニッと笑って拳をむけた。
「当然。」
マーシャも笑を浮かべ、リオナの拳に自身の拳を突き合わせた。
「了解。じゃあまたあとでな。」
マーシャは左に、リオナとB.B.は右に走った。
「・・・・B.B.。化神は?」
《コッチに2匹。対っぽいのだ。》
「わかった。」
リオナは走る速度を上げる。
朝早いせいか人は少ない。
しかし音楽が若干耳障りだ。
ユリスの言っていたことが今更ながらに身に染みた。
すると街角からフラフラしながら2人組の男が出てきた。
しかも黒々しい光を放っている。
「あれか。」
リオナは身震いした。
恐怖からではなく、もちろん喜びと期待から。
ようやく自身の力を試せる時が来たのだから。
化神2体もこちらに気づき、形を変えながら向かってくる。
「B.B.」
《行くのだ!!》
B.B.がリオナの中に入りこむ。
リオナは瞳を真っ赤に染める。
そしてさっとトランプを取り出すと、カードを体の回りに広げ浮かせた。
まずは突進してくる相手を避け、後ろに回りこむ。
リオナは一斉にカードを化神に向けて放ち、切り裂く。
『ヴォォオ゙ゥ゙オ゙ォォオ゙ヴ!!!』
2匹の化神はもがき苦しむが、すぐにまた向かってくる。
すると2匹はそれぞれ二手に分かれ、リオナを両脇から挟み撃ちにしようとする。
《リオナ!やっと来た!!》
「いくよ」
2人は瞬時に力を合わせる。
お互いの力を計りながら、気持ちも重ねて。
するとリオナの周りに黒い風が取り巻き始めた。
リオナはさっとトランプのカードを6枚、
自分を囲むように並べる。
カードはみるみる黒風をまとい始めて。
そして化神達がリオナに爪をむいたその時だった。
6枚のカードが巨大化し、防壁を作った。
「ヴォォォオ!!!」
化神達は巨大化したカードを蹴るが
ビクともしない。
そしてリオナは残りのカードを横に広げ、
再びB.B.と力を重ねる。
黒風は勢い良くカードを取り巻き、長剣を作りだした。
「よし」
思わずリオナは声を上げる。
なんてったって成功したのは今のが初めて。
努力が報われてリオナは喜びを隠しきれなかった。
《リオナ!!そのままぶった切れ!!》
リオナは剣を構え、頭の中に満月をイメージする。
そしてそのまま円を描くように振りかざす。
「"月斬り"」
マーシャから受け継いだ"月斬り"
長剣は円を描き、カードの防壁ごと化神を切り裂いた。
『ぐぅぉぁぁぅぁぁ・・・・・』
2体の化神は人型に戻ると、そのまま黒々しい煙に飲み込まれるように消えていった。
その姿に、リオナは悲痛な表情を浮かべていて。
たとえ排除しなければならない対象あっても、元々はヒト。
そして意に反して化神になっている人もいる。
どうか安らかに眠ってほしいと、リオナは目を瞑って祈った。
「・・・・いこうB.B.。」
《おいリオナ!そこでシュナが化神と戦ってる!!しかも3体!!》
リオナは急いでシュナのいる方へ向かう。
少し遠いがシュナが3体の化神に囲まれているのがわかった。
《おいリオナはやく助けに行くぞ!》
「待って・・・」
リオナはシュナを見つめる。
シュナからはいつもの笑顔が消え、紫色の瞳を真っ赤に染めている。
すると両手に漆黒の光をためはじめ、
それは段々と巨大化して
シュナを中心に化神たちを飲み込んだ。
リオナは思わず目を細め、目を腕で隠す。
《・・・!?リオナどうした?》
「なんだかすごく眩しい・・・」
黒いのにまぶしいことはあるのだろうか。
不思議な感覚に襲われながらもリオナはあることに気がつく。
シュナは光妖大帝国出身。
彼らは光を操る能力がある。
光の力と悪魔の闇の力が合わさって起こったのかもしれない。
光と闇
絶対に交わることはなさそうなのに。
シュナはもしかしたら俺なんかよりもっと苦しんでいたのかもしれない。
巨大化した闇は再びシュナの手に戻っていくと、すでに3体の化神は消えてしまっていた。
一体あの中でなにがあったのだろうか。
考えるだけで身の毛がよだつ。
するとシュナはリオナに気がつき、笑顔でこちらに近寄ってきた。
「リオナ!・・・・もしかして今の見てた?」
「うん。」
シュナは苦笑しながらも首を横に振る。
「もしかして・・・俺の出身とか・・・事情とか・・・マーシャさん話しちゃった?」
リオナは一瞬目を泳がすが、嘘はつきたくないから正直に頷く。
「・・・そっか。」
シュナは少し悲しげにうつむく。
「でも、オレはシュナを信じてるよ。」
「・・・・え・・・でも俺は」
「光妖大帝国の王子だろうと、そんなの関係ないよ。」
「・・・・リオナ。」
「シュナは親友だし仲間でしょ。違う?」
そういうとリオナはぽんとシュナの頭に手を置く。
するとシュナは顔を上げ、ニコッと笑って首を横に振った。
「俺はリオナの親友だ!」
「じゃあはやくミュージックホールに行こう。」
「おー!」
2人は家々の屋根に飛び乗り、ミュージックホールめがけて走り抜ける。
「リオナ!!」
「・・・・?」
「ありがとう!」
シュナは満面の笑みでリオナに呼びかける。
「俺も信じてるから!!」
「・・・え?」
「俺もリオナを信じてるよ!」
一瞬時が止まった気がした。
自分はシュナに本当のことを
話してない
胸がズキズキ痛む。
自分はひどい人間だ・・・
信じてるっていいながら
本当は心の中で疑っている自分がいる
ホントに最悪だ・・・・
シュナがこれを知ったら・・
どんな顔をするだろうか・・・
リオナの異変に気づき、B.B.はリオナに呼びかけてきた。
《リオナ・・・・。お前はコイツとは訳が違うのだ。仕方がないことだよ。》
珍しく察しがいいB.B.の呼びかけで我に返る。
「・・・・そうだね。」
そう
これは仕方のないこと。
自分の為でもあるけど、相手のためでもあるから。
でも・・・・
いつまでこんな言い訳を積み重ねればならないのか。
どこまで嘘の壁を作らなければならないのだろうか。
いつになったら、本当の自分でいられるようになるのだろうか。
「これで全部か。」
マーシャはナイフを引っ込め、手をパンパンと払う。
「どうやらリオナとB.B.もうまくいったようだな。」
マーシャは素直に嬉しかった。
自分の教え方は悪くなかったということが。
「マーシャ!あ、いや、マーシャ・・・・さん!!」
すると遠くの方から名前を呼ばれて振り返った。
うしろからサッとやってきたのは1stエージェントのコナツ。
マーシャとは同期で、かつて短い期間だがペアで行動していた間柄。
しかしマーシャがスペシャルマスターになってからなぜかよそよそしくなった。
「なんだよコナツか。"さん"つけるなよ気持ち悪い。」
「ほっといて、ください・・・。というか笑ってる場合じゃないですよ!!!」
「・・・・・ッチ。見られてたか・・・。」
「早くミュージックホールへ向かってください!!私たちは国民や観光客の誘導をします!!急いでください!!」
「はいはい。」
コナツはたぶん美人な方だ。
でも短く切りそろえられた髪と男勝りな性格のせいで女として見られることがあまりない。
「おいコナツ。」
「はい?」
コナツはクルリとマーシャの方を向く。
「うーん・・・・・・」
「な・・・なんですか?」
マーシャはコナツを上から下まで眺める。
「ああ、化粧かな。」
「はぁ!?」
「お前、少し化粧したら女っぽく見えるのに。それか髪伸ばしたら?」
「な・・・・・・・なな・・・・・・・!!!」
コナツは黒いオーラを放ちながらマーシャに近づき、マーシャの左頬に手をあてる。
「どうしたコナ・・」
バシィィィィィィィィン!!!
「うがぁ!!!」
マーシャはその場から100m程ぶっ飛んだ。
左頬はパンパンに腫れ、顔が変形している。
「いってぇななにすんだよ!!!!!」
「うるさい!!!!あんたなんかフェイターにやられちゃえ!!!!!ばーか!!!チンチクリン頭!!」
そういってコナツはダッシュでかけていってしまった。
「お・・・おい!俺はお前のためを思ってだなぁ!あーもー女なんて大っ嫌いだ!」
マーシャは立ち上がり、ミュージックホールに向けて左頬を押さえながら猛スピードで走り抜けた。
この2人がペアーを解消した原因は、もちろんマーシャの余計な一言。
その時のケンカは凄まじかったらしく、まさに血みどろの殺し合い。
それから2人は犬猿の仲となり、マーシャがコナツを抜かしてスペシャルマスターになってからは、ますます関係が悪化してきているようだ。
そしてマーシャの女嫌いが悪化したのも、コナツというかマーシャの下らない、かつ余計な言動で怒り狂ったコナツが1つの原因だとシキは語っている。
「あっ!!コナツ姉さんだ!!」
シュナとリオナがミュージックホールへ向かっていると、反対方向からコナツが猛スピードでかけていくのが見えた。
「なんか急いでるみたいだ・・・俺ちょっとコナツ姉さんのとこ行ってみる。」
「うん。気をつけてね。」
「リオナもね!!」
そう言ってコナツが行った方へかけていった。
《ねぇねぇ!マーシャじゃなーい?》
「・・・・あの人?」
《そうあの人。あの黒いコートはマーシャだよ。》
でも若干顔が違うような・・・
しかしB.B.が言い張るからとりあえず呼んでみる。
「マーシャ?」
すると黒いコートの男はこちらを向いた。
「おおリオナ。よかった無事だったか。」
「・・・・どうしたのその顔!?まさか化神に!?」
真っ赤に腫れた左頬。
痛々しくて見てられず、目をそらす。
「まさか。化神よりもぉっとタチの悪い怪物にやられた。」
「化神より強い怪物がいるなんて・・・・・世の中知らないことだらけだ。」
「あははっ。知らない方が身のためだ。」
2人は再び駆け出す。
走っている足がだんだん重くなっていくのを感じる。
懐かしい感じだ。
初めて化神を見た時に似ている。
恐怖からか。
「リオナ。」
するとマーシャはリオナの頭に手を置き、そっと撫でた。
「大丈夫だよ。」
マーシャは優しく笑いかけてくる。
こんな笑い方もできるのかと、リオナはちょっと見惚れてしまう。
あと、少し気持ちが軽くなった気がした。
「ありがとう、マーシャ。」
ミュージックホールが近づいてくると、いくつかの人影が見えた。
きっとダークホームのメンバーだ。
けれど戦闘をしている様子がない。
「おーマーシャ!!お前おせーんだよー」
ラキの声が聞こえ、マーシャとリオナはスピードを落とした。
「うるせぇよ。」
マーシャは耳を押さえて呟くと、ラードがますます声を上げて近寄ってくる。
するとそれに続くようにユリスとアスクもやってきた。
「あらりっちゃーん♡」
「はぅっ・・・!!」
ユリスに思いっきり抱きしめられて、息苦しさにもがく。
マーシャはあたりを見回して、フェイターの姿を探していた。
「フェイターはまだか?」
「なんか反応はあるらしいんだけど、なかなか姿を現さないんだよ。」
「もし来たらどうするんだ?確保?抹殺?」
"確保だ・・・・絶対確保だ・・・"
「あ?」
どこから声がしたのか、リオナとマーシャは辺りを見渡した。
「アスクか?」
「・・・・俺じゃない・・・・・」
「違うわよシキよ。ほら。」
全員が一斉に振り返る。
すると物陰からこちらを睨んでいるシキがいた。
なぜか一定の距離を保っている。
「あいつどうしたんだ?おーいシキ!こっちこいよ。」
シキに呼びかけるラキを、マーシャが制した。
「やめとけやめとけ。アイツはこないよ。俺がいるから。」
「どーせまたイタズラしたんでしょう。」
「まぁね。」
マーシャはニヤっとシキを見る。
シキはビクッと体を震わせて物陰に引っ込んだ。
「おいシキお前ちゃんと仕事してんのか!?フェイターなんか出てこねぇじゃねぇかよ。」
隠れていたシキだが、ラードに無理やり引っ張り出されてしまった。
「失礼なやつだな!!これでも俺は年上だぞ!?それに俺は誰よりも仕事に関しては真面目だ!!」
フンと鼻をならして腕組みをする。
「確かに明け方まではフェイターの反応があったんだ。それからはあったりなかったり。でも必ずここ近辺からの反応なんだ。」
「もしかして逃げられちゃったとかないかしら?」
「国の外では2ndエージェントが見張ってるからそれはない。相手も長くは気配を消していられないだろうから、もうそろそろ現れてもいいはずだ。」
5人が真剣に話している姿をみて、リオナは後ろの方で眺めていた。
B.B.も一度リオナの中から離れ、疲れたのかリオナの肩にぶら下がる。
「・・・・オレたちもシュナと行った方がよかったかな。」
《なんでなのだ?こっちの方がたのしそーじゃん。》
「・・・・そういう問題じゃなくて。足手まといになる。」
《だからここでドカーンと成果を出せば進級だぜ!?》
「・・・・進級とかどうでもいいよ。」
《いつもだったら怒るくせに。》
「・・・うるさい。」
B.B.の頬を横にグイッと引っ張る。
《フにゃ~・・・。!!!!!あへひろほりほあ!!!!!!》
「え?」
突然B.B.が騒ぎ出したため、頬から手を離すと、B.B.は飛び上がってミュージックホールの入り口を指差した。
そこには物陰に隠れながらホールに入っていく一つの人影。
《フォルトだよ!!あいつホールの中はいってくぞ!?》
「・・・・危ない!追いかけるよ。」
リオナは立ち上がると猛スピードでホールに向かった。
「え、リオナ?アイツどこいくんだ?」
マーシャはホールに走って入っていくリオナを目で追う。
「まぁマーシャ、そんなに心配すんなって。子供は好奇心旺盛な生き物だ。ガハハハ!!」
ラキはバシバシと笑いながらマーシャの背を叩く。
「・・・・・・・・・」
でもリオナは普段あんな行動を取ることはない。
何かあったのか・・・・?
マーシャは悪魔を通じてB.B.に呼びかける。
しかし応答がない。
「・・・・ま、B.B.いるし大丈夫かな。」
「そうだそうだ、ガハハハ!!」
こんな状況下でも笑うラキに、シキは呆れてため息をこぼす。
「おい、もっと緊張感ってものを・・・」
すると突然、シキの目の色が一変した。
シキの中の悪魔が目覚めたのだ。
瞳が赤く燃えている。
「・・・・反応だ!!」
スペシャルマスターの4人は素早く1カ所にまとまり、辺りを見回す。
シキは目をつむり、
反応を確かめる。
「・・・・違う!外じゃない!ホール内だ!!」
「くそっ・・」
ー・・・中にはリオナが
真っ先にマーシャがホールにむかって走っていく。
それに続くように三人も駆け出した。
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