Lord’s Soul

ぱちぽん

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第3章 壊レカケノココロ

story15 ぬくもり

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最近は夢を見なかった。

疲れているからだろうか

あの真っ白い部屋の少年はどこへいってしまったのか・・・・。

もう会えないのだろうか・・・

まぁ・・・いっか・・・。






















「・・・・1992・・・1993・・・・1994・・・1995・・1996・・・1997・・・1998・・・1999・・・・2000!!」

リオナはバタッと床に倒れた。

汗が額から首を伝って流れていく。

拭っても拭ってもとめどなく流れ続ける。

そして部屋に響き渡るのはマーシャの陽気な声。

「はい次は左手指立て2000回。よーい」
「ちょ・・・ちょっとまって・・・・」

「何?」

「何って・・・・これで左右合計10000回だよ?ちょっと休憩・・・」
「だめです。夏だからって容赦しないよ。はいよーいスタート。」

「・・・っ・・・・・」

再びリオナは指立て伏せを始める。

リオナの周りを飛び回っていつもうるさく応援してくるB.B.も、この暑さでダウンしてしまった。

『今日もマーシャさん容赦ないなぁ・・・・可哀想に・・・』

『マーシャさんもいつもそれ以上のメニューやってるから凄いよな。』

『まぁ元軍人だったって言うじゃん?そりゃ厳しいわけだ。』

辺りでトレーニングしている者達からは、
同情をかうとともに、熱い声援もいただいている。

マーシャのスパルタ教育を受けること半年、毎日のメニューは大体慣れてはきていた。

ここまで慣れるのには相当苦労をしてきた。

マーシャは本当に容赦ない。

毎日のメニューが終わるまではトレーニングルームからは絶対出さず、はじめの方は、夜中までかかっていたこともある。

またある時は回数を数え間違えるとメニューを最初からやり直させられたり。

勿論マーシャも同じメニューをこなしてきているが、リオナの半分の時間で終わらせる。

さすがスペシャル・マスターなだけある。

こんなスパルタ教育も、半年も経てば半日で終わらせられた。

しかし夏になり、この暑さですでにダウン寸前だ。

ノースアイランド出身のリオナにとって、夏という季節は辛い。

でもそれはマーシャも同じであり、言えばきっと「慣れろ」と言うだけ。

この半年で、若干マーシャの冷たさが増した気がした。

「・・・・・・・・・1998・・・1999・・・・・2000・・・・・!!!」

リオナは再び床に伏せる。

「はいお疲れさん。今日はこれで終わりね。」

「・・・本当?」

いつもだったらこの後に、戦い方のレッスンがあるのだが。

「今日はお前に新しいことを教えてやろうと思ってな。」

「新しいこと?」

「そう。まぁとりあえずシャワー浴びてから書庫に来い。そうだな、1時間後だ。あとB.B.もつれてこい。」

「わかった。」

マーシャはリオナに飲み物を渡すと、汗を拭きながらトレーニングルームを出て行った。

― 新しいことって何だろう・・・

少しドキドキする。

《あへ?トレーニングは終わったの?》

今までベンチで横になっていたB.B.を起こす。

「・・・うん。今日はこの後書庫に集合だってさ。俺シャワー浴びてくるけどB.B.はどうする?」

《んにゃ、オイラもシャワーあびるぅ~。》

B.B.はだいぶ参ってしまっているようだ。

ここまで調子が悪そうなB.B.は初めて。
すごく可哀想に思える。

リオナは頭にB.B.を乗せると、トレーニングルームを後にする。

シャワールームはすぐ隣にあり、あいているシャワールームに入った。

リオナにとって、これが毎日の一番の楽しみ。

これをマーシャに言うと、「地味」といわれたが。




シャワーを浴び終え、
冷房室で涼みながら髪を乾かす。

『リオナお疲れ~』

「お疲れさまです。」

この年齢でこの悪魔と契約、
そしてマーシャの弟子だからだろうか。
最近では名前を覚えられ、色々な者から話しかけられる。

「リーオナ!」

すると突然、背中に誰かが抱きついてきた。

シュナだ。

シュナもトレーニングを終えてシャワーを浴びたようだ。

「シュナ。お疲れ。」

「お疲れ!今日は早いね。」

「そうなんだ。今日は新しいことを教えてくれるって。」

「へぇ!楽しみじゃん!」

あたかも自分のことのように嬉しそうに笑うシュナ。

「・・でもあのマーシャだよ?絶対何かある。」

「確かに。あのマーシャさんならね。」

「シキはどんな感じ?」

「シキさんはトレーニングにはあんまりこないんだ。マスターに付き添っててさ。任務の時はシキさんとだけど、トレーニングは1stエージェントのコナツ姉さんにおそわってるんだ。」

「へぇ。女の人か。」

「綺麗だし強いしかっこいいよ。」

「たまにはマーシャと交換する?」

「それだけはイヤだよ!マーシャさんのスパルタについていけるのはリオナくらいだからね。」

「・・ついていってるんじゃなくて連れていかれてる感じだけどね。」

「ははっ!確かに!!」

《おーいリオナ。もうそろそろ行かないとマーシャにど突かれるのだぁぁ。》

その言葉にハッと時計を見る。

約束の時間まであと5分。

「ごめん、もう行くね。」

「うん。がんばって!」

リオナはシュナに手を振り、走った。

シュナとは仲間でもあり友達でもあり、休みの日にはシュナと過ごしたりする。

外で遊んだり、一緒に勉強したり。

しかしシュナと出会って半年は立つが、未だにお互いに自分のことを話したことがない。

お互いに色々なことを抱えているせいもあるが。













書庫につくと、他の階とは違い、落ち着いた空気で満ちあふれていた。

勉強をしている者もいれば寝ている者、本に没頭しすぎてつい声が漏れている者もいる。

リオナとB.B.は書庫を一周する。

どうやらマーシャはまだ来ていないようだ。

ふたりは空いている席に腰をかけ、頭を机につける。

この静かな雰囲気がなんとも気持ちよく、
思わずうたた寝をしそうになり、少し目をつむった。












マーシャが書庫に着くと、リオナとB.B.の姿が見えた。

近づくと、リオナもB.B.もすやすやと眠ってしまっている。

ここ半年間、かなり厳しく接してきたから、嫌われたんじゃないかと内心思ってたり思わなかったり。

マーシャはリオナの横に腰をかけ、頭を撫でる。

ーごめんな・・・・リオナ。

本当はもっと優しくしてやりたい。
しかし今甘くすると、この先もっと辛くなる。

とはいえ、幼いリオナに少々厳しすぎたなと反省もしていた。

「可愛い寝顔しちゃってさ。俺の気も知らずにねぇ。」

マーシャは穏やかな笑みを浮かべながら、しばらくリオナを見つめていた。









「ひっ・・・・!!!!」

突然耳に息を吹きかけられ、リオナはビクッと跳び起きた。
横にはいつのまにかマーシャがいて。
ニコニコしながらリオナの頬を突いてきた。

「ビックリしちゃってぇカーワイー。」

「・・・・・・・!!」

リオナは恥ずかしくなり、マーシャをバシッと叩いた。

「ははっ!悪かったって。」

思わずマーシャを見つめる。

こうやって笑うマーシャを見るのは久しぶりな気がしたから。

ここ最近は任務よりトレーニングばかりで、疲れからかあまり話していなかったし。

だからなのか、なんだか少し嬉しくて。

リオナはプイっと顔を背けた。

その時、壁に掛けてある時計が大きな音を立てて、17時を知らせた。

「17時・・・・ご、ごめんなさい・・・」

ここに来たのがたしか14時。

3時間も寝てしまっていたようだ。
それにしても一瞬すぎる。

またマーシャに怒られると思ったのか、リオナはしゅんとして、俯いてしまう。

そんなリオナを見て、まさかそこまでビビられているとはマーシャも思っていなかったようで。

「いや、気にするな。たまにはゆっくり過ごすのも大切さ。B.B.も気持ちよさそうに寝てるしね。」

横を見るとB.B.は本を布団代わりにスヤスヤ眠っていた。

「・・ありがとう。」
 
マーシャの優しさに、リオナは少し罪悪感を覚える。

「どういたしまして。」

リオナは少し眠そうに顎を机のうえにおくと、マーシャは再びクシャクシャと頭をなでてきて。
気持ち良さそうにマーシャの手に頭を押しあてる。

そんなリオナをマーシャは目を細めてみつめた。

「疲れたか?」

「少し・・・ね。」

「最近ちょっと厳しくやりすぎたもんな。」

マーシャのリオナをなでる手は大きくて、
気持ちがいい。

「・・・なんだか久しぶりだな」

「ん?」

「こうやって頭をなでてもらうの。・・・誰だったかな・・・。」

リオナの静かに笑う顔は少し悲しげで。

「きっと父さんや母さんじゃないか?」

「そうかな。顔はよく覚えてないけど・・・そんな気がする。」

顔は思い出せないが、確かにあった家族の温もり。

リオナは嬉しそうに微笑んだ。

「どうする、今日はもう部屋で休もうか?」

「いや。やる。」

リオナはばっと起きあがり、やる気に満ちた目を向けた。

「はは、さすが俺の一番弟子。そうこなくっちゃ。」

そう言ってマーシャは目の前に山積みにされた本の中から一冊抜き出した。

「今まで基本の戦い方を教えてきただろ?今日からはこれをやる。」

マーシャはリオナにあるページを開いて見せた。

「魔法属性強制変換?」

名前からして難しそうだ。

「そう。難しそうに見えるが案外簡単だ。これは魔族特有の魔法属性、つまりおまえで言う"空間系"の魔法を違う属性にかえるってこと。」

「そんなことできるの?」

「できちゃうんですよね。まぁ"空間系"は"物質変形系"にしか変えることはできないんだけど。」

「・・・・?」

「例えばだな。お前はタイプが"空間系"でトランプを武器としているだろう?んでリオナは空間を操ってトランプを瞬時に移動させることができる。ただそれだけじゃ強力な攻撃を仕掛けることができないんだ。だけどトランプを俺のナイフみたいに尖らせたり巨大化させたりできて、かつ空間移動させることができたらすごいだろ?つまり"物質変形系"の力を身につけるってことだ。それは"空間系"にしかできない技だ。」

「すごい」

「そうだろ?俺も昔は"空間系"だったんだ。でも今は"空間系""物質変形系"の両方だけどな。」

確かにマーシャはナイフを瞬時に移動させると共に、ナイフを変形させている。

「・・・・全然話違うんだけど、マーシャは魔族なのに、なんで呪文魔法を使わないの?」

「うーん、使わないこともないが、それより物理攻撃の方がはるかにダメージが大きい。もちろん魔術も才能があるやつが使えば何百倍も強いんだろうが、俺はどちらかというと今の戦闘スタイルが合ってるんだよ。」

「そうなんだ。」

「だが恐らくリオナは魔術の才能がありそうだから、今回教える魔法属性強制変換を習得できたら、次はトランプを介さずに呪文魔法を放てる訓練をしよう。」

「ほ、ほんと・・・・!」

目をキラキラ輝かせるリオナに、マーシャはクスクスと笑う。

「ああ、約束だ。お前は本当に魔術が好きなんだな。」

その言葉に、リオナは大きく頷いた。

「・・・それで、どうやって変えていくの?」

「実はこの魔法属性強制変換は悪魔の力を要するんだ。B.B.の力とリオナの魔力をうまく1:1にしてトランプに流し込んでいく。そうすると自由自在に形を変化させることができる。」

「なんか難しそうだ・・・。」

「確かにな。相手がB.B.ってのに問題があるな。まぁやってみなきゃわからないから。だから明日は早めにメニュー終わらせて、これをやろう。」

「うん。」

「さて、今日はこれで終わりだ。俺さ、これからちょっと調べることがあるんだけど、どうする?先に部屋戻ってるか?」

リオナは首を横に振りながら大きなあくびをした。

「ここで待ってる。」

「わかった。なるべく早く終わらせるから。」

そう言ってマーシャは本棚の方へ行った。

― なんか枕ないかな・・・

リオナはあたりをきょろきょろ探す。

「あ、これでいいや。」

《ふぎゃ》

リオナは本の下で眠っていたB.B.を持ってきて、B.B.に頭を乗せて目を閉じた。











マーシャは国学の棚にいた。

一冊一冊の題名を指で追いながら真剣にみていく。

マーシャは時天大帝国と大魔帝国の壊滅事件がどうも引っかかっていた。

光妖大帝国のフェイターのせいだというのはわかる。

が、悪魔達の噂では死体の未発見、そして真っ黒く焦げた建築物。

これも全てフェイターの仕業なのだろうか。

死体は100歩譲って焼けてしまったと考えても、あの真っ黒な焦げ方は光を操ると言われる光妖大帝国の力とは思えない。
この焦げ方はまるで・・・・・・

するとある一冊の本の前で手が止まる。

"光妖大帝国の歴史と人種"

マーシャはパラパラとページを見ていく。

― これかな・・・まぁこれでいいか。違ったら違ったで

そして本を閉じるとカウンターに持って行った。

「これ借りたいんだけど。」

『はい。あっ!!!マーシャ様!!!こここここんにちは・・!!』

カウンターにいた女性は赤くなりながらも本を受け取る。

「これ何日借りられる?」

『これは新刊なので一週間です。』

「一週間!?」

― こんな分厚い本一週間で読めるかよ・・・・

「・・・・まぁいいや。一週間ね。」

『はい!』

マーシャは女性から本を受け取ると、リオナとB.B.のいるテーブルに戻った。

気がつけば外はもう暗くなっていて、
もうすぐ閉館時間だ。

リオナとB.B.はスヤスヤと寝息をたてながら眠っている。

マーシャはリオナの髪をときながら小さく笑った。

「よく頑張ったな。」

そう呟いて、リオナとB.B.を担いで書庫を後にした。
















その日は久々に夢を見た。

もちろんあの少年の夢。

久しぶりに訪れた真っ白な部屋にはあるものが増えていた。

そう、バルドの絵だ。

そう言えば少年はさっきから走り回らず、
絵ばかり描いている。

「ねぇ・・・・このバルドの絵、君が描いたの?」

「うん!上手でしょ!」

「上手だね。」

リオナは少年に近づき、
今描いているものをのぞき込む。

しかしまだ輪郭しか描かれていない。

「これは誰?」

「秘密!誰だと思う?」

「わからない」

「もっと考えて!」

誰なんだろう。

俺の知ってる人かな。

でも輪郭だけじゃわからないし。

そんなことを考えてたら、いつの間にか少年は消え、いつものように暗やみに包まれていた。

だけどもう怖くない。























怖くないはず・・・・。
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