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第1章 悪魔と神子
story05 SKY BLUE
しおりを挟む真っ暗な部屋
音も何も聞こえない
あぁ・・・・またいつもの夢ね・・・
最近はこればかり
ねぇ・・・・セスはどこ・・・?
またどこかへ行ってしまったの?
探さないと・・・・
探さないと・・・・
あの子だけは・・離さない
夢は突然に終わりを迎えた。
目を開けるとそこはいつもの部屋。
ヒビだらけの窓ガラスから差し込む朝日に目を細める。
―・・・・セスを起こさないと・・・。
ベッドから起き上がり、
ドアへ向けて重たい足を動かす。
三面鏡の前を通ろうとしたとき、
ふと鏡に映る自分の姿に目がいってしまう。
ボサボサの髪に、
げっそりとした頬。
そこには醜い姿しか映らない。
唯一美しいと言うなら、
空のように青く輝く瞳だけ。
この2ヶ月で
何度ため息をついたことだろうか・・・・
何度叫びたい気持ちを抑えただろうか・・・
すると突然、下から叫び声が聞こえてきた。
私の名前を呼んでいる。
この声は・・・・そう、セス・・・セスだわ・・・!
急いで二階から一階へと駆け下りる。
心は焦りと不安が入り混じる。
声がする部屋まで・・・・
あと5m
4m
3m
2m
1m・・・・・・
部屋の扉を押し開ける。
するとそこには、
銀色の髪をした少年と、
愛するわが子・・・・
そして・・・愛するわが子の首を絞めている男・・・
そう、マーシャという名の男・・・。
何・・・何が起きてるの・・?
「母様!母様!」
セスが叫んでいる
強く助けを求めている
・・・・・助けなくちゃ・・・・!!
私は男に近づき、セスを引っ張った。
「は・・・離して・・・・セスを離して!!」
しかし男は口元をヒキツらせるだけ。
「ははっ。この少年さえいなくなれば、あんたこの町から消えるだろう?そうすればこの国も少しは平和になるんじゃんってハナシ。」
「それ、いいね。」
銀髪の少年・・リオナもマーシャを煽るように笑う。
「そ・・・・そんな・・・!!とにかく放して!!!」
男の腕をつかんでも、力が強くてかなわない。
「まぁ恨むならあんたの夫を恨みな。」
ドクン・・・・・・・・ドクン・・・・・・・・ドクン・・・・・・・・ドクン・・・・・・・・
心臓の音が大きくなる
ドクン・・・・・・・・ドクン・・・・・・・・ドクン・・・・・・・・ドクン・・・・・・・・ドク・・・・・ドク・・・・・・ドク・・・・・・ドク・・・ドク・・ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク・・・
周りの音をかき消すほどに・・・・
ドク・・・ドク・・ドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドクドク・・・
あなたも・・・・・私の愛しい人・・・・私の夫を貶すのですか・・・・罵るのですか・・・
彼のこと・・・・・何もしらないクセに・・・・
皆・・・・皆・・・・何もしらないくせに・・・・・・!!
許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さないユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイユルサナイ
―サァ・・・・コロシテシマエ・・・・コロシテシマエ・・・・
あぁ・・・まただ・・・
―アイスルモノモ・・・ソレヲノゾンデイル・・・・
ナニヲオソレテイル・・・イツモミタイニヤレバイイダケダ・・・・・・
そう・・・・・この声は・・・・・
―・・・サァ・・・トモニイコウ・・・・
もう一人の私じゃなくて・・・
―・・・・・ワタシタチダケノセカイヘ・・・・
ソウコレハ・・・・神ノオ告ゲ
「・・・・マーシャ、始まった」
リオナは体勢を整える。
「ああ・・・・やっぱりあんたが化神だったか。」
セスの母親は、みるみる体を変形させてゆき、
黒々しい光を放ち始めた。
声は元の声とはかけ離れ、
悲鳴のようなすさまじい声を発している。
「・・おい少年。危ないから下がってろ。」
セスは目の前にいる化神とかした母親を見て、呆然と立ち尽くす。
昨日の深夜
セスが寝ようとしたときに、マーシャとリオナが部屋に気まずそうに入ってきた。
そして唐突に言われたことが、
連続殺人犯が、自分の母親だということ。
初めは信じなかった。
だってまさか自分の母親がそんなことをする人間ではないと信じていたから・・・
でも証拠があった。
今まで殺されてきた従業員たちは、
皆、一度は我が家に苦情や罵声を浴びせてきた人々。
しかも、その日のうちに殺されている。
そしてその日は必ず、
母は・・・・・・いない。
しかし男は言う。
仕方のないことだと。
心が弱った母親には、悪いものが取り付いてしまって、化神になってしまったと。
信じていた・・・・信じてた・・・
しかし目の前に現れたもう一人の母親は、
セスの期待をことごとく裏切った。
完全に化神に成り果てた母親は、リオナに向かって勢いよく突進していく。
「・・・・!!」
リオナは間一髪で避けられた。
しかし、未だに見慣れない化神は、
リオナを恐怖へと駆り立てるだけ。
足がすくみ、動けない。
気持ちだけが先走ってしまう。
化神はもう一度リオナに向かってくる。
しかし、すぐにマーシャが割って入り、
化神に魔力を打ち込んで吹き飛ばした。
「リオナ、焦るな。まだ動けなくて当たり前だ。オレも初めはそうだった。お前は少年を守ってやれ。」
マーシャは血のように真っ赤に染まった目を向けて、ニッと笑う。
「・・・うん」
リオナはセスに近づき、
無理やりセスを机の陰に連れて行く。
リオナはマーシャと化神を交互に見た。
悪魔と神
どちらが正義でどちらが悪か
わからない・・・・
「さぁてと・・・・そろそろ決着かな。」
化神は目をむきだし、
鋭い爪をギラつかせる。
マーシャも両手に10本のナイフを握り、構えた。
先に動いたのは化神。
しかしマーシャの横を通り過ぎていく。
「そうはさせるかよ」
化神は真っ直ぐ机の陰に隠れるリオナとセスの方へ向かっていく。
狙いはセス。
「・・・・母様!」
化神の手がセスをとらえようとする。
「・・・・!」
マーシャは咄嗟に化神目がけてナイフを投げつけようとした。
しかしその瞬間、
化神がピタリと動きを止めた。
「・・か・・母様・・・・?」
すると化神の体の至る所から黒い血が吹き出した。
化神は苦しそうにもがいている。
「ほう、やるじゃん。」
マーシャは武器を下ろし、ニヤリと笑みを浮かべた。
目の前には大量のトランプが宙を舞っていて、ものすごいスピードでリオナの手元へ戻ってゆく。
「・・・ちょっとわかってきたかも。」
そう、化神を仕留めたのはリオナだった。
リオナは引きつった笑みを浮かべながらも満足げに化神を見つめていた。
マーシヤは再び真っ赤な目をリオナから化神に戻す。
「いい子だ。よくできました。後は俺の仕事かなぁ。」
そしてマーシャは目をつむり、化神に向けてナイフを構える。
化神も起き上がり、マーシャに向かって走り出した。
再びナイフを投げつける。
が、10本のナイフはすぐに姿を消した。
化神は動きを止め、
あたりを見渡す。
すると消えたはずのナイフが、勢いよく化神の周りを回りだし、巨大な円を描きだした。
回転が増すにつれて、
化神はたじろぎ悲鳴を上げる。
そして、マーシヤは閉じていた目を開き、
悪魔の声を轟かせる。
「"月斬り"」
ナイフが描いていた巨大な円は一気に縮まり、化神を斬りつけた。
決着がついた。
化神は黒々しい光を放ちながら、今にも消えようとしている。
マーシャは近づき、化神の顔をのぞき込んだ。
「こんなことして悪かったな・・・・。でもこれはあんたのためでもあるし、少年のためでもあるんだよ・・・・」
マーシャはそっとセスの母親の顔をなでる。
母親は、化神と化しても唯一残った青い瞳をマーシャに向けて、にっこりと笑いかけた。
「・・ありがとう・・・・ございます・・・。」
その顔は、あの写真のように穏やかな美しい顔をしていた。
「母様・・!!」
セスはすでに半分消えかけている母親に近づき、すがりつく。
「・・・・・セス・・・」
「母様・・・!!イヤだ消えないで・・・!!僕を一人にしないで・・・!!」
セスは目に涙をいっぱいため、
母親の顔にポタポタと滴を落とす。
「・・・・・セス・・・・・。ごめんなさいね・・・・・。」
「・・・謝んないでよ・・・・・!」
「・・ねぇセス・・お願いがあるの・・・・」
「・・・・?」
「・・・・・・このことを・・・・お父様のせいだと・・・・思わないで・・・・・。・・・・・これは・・・・すべて神が与えた・・・運命なの・・・・だから・・・」
セスは首を必死に縦に振る。
「・・・うん・・うん・・!僕・・・・父様と母様が大好きだから・・・!!」
必死にこらえようと思っても、
涙はとめどなく流れ続ける。
「・・・・・そう・・・・よかっ・・・た・・・」
母親は穏やかな笑みを浮かべ、セスの顔をなでる。
そんな母親を見て、セスはグイッと腕で涙を拭い、にっこりと笑いかける。
「ぼ・・僕・・・強くなるから・・・!もう泣かないって・・・き・・・決めたんだ・・・!だから・・・安心してよ・・・!!」
母親はそっと目をとじて、
セスの言葉を一つ一つかみしめる。
「・・・・そう・・・・お母さ・・ん・・・・・それ聞・・いて・・・・安心し・・・たわ・・・」
体から放たれる、
黒々しい光が強くなる。
「・・・母様・・・!!」
「・・・セ・・・ス・・・・・」
そして母親は黒い光に吸い込まれるように・・・
消えてしまった。
セスはついさっきまで母親のいた床に顔を押し当て、必死に涙を抑えていた。
リオナは胸がズキズキした。
彼を見ていると、あの日の光景が脳裏に浮かびそうになる。
しかしリオナはそれを避けるかのように、部屋を飛び出した。
「・・・・リオナ・・。」
マーシャはリオナの後を追って、部屋を出た。
リオナは部屋を出ると、
壁に手を突き、胸を押さえた。
心臓の鼓動が速くなる。
息も上がり、
目の前が真っ白になる。
気づけばまた
目の前を知らない少年が走りまわっている。
誰なんだ・・・・誰なんだよ・・・・
消えてよ!!!!!
リオナは声を荒げて叫ぶ
すると少年は寂しそうに俺を見てくる。
―・・・・リオナは何をそんなにおびえているの・・・?
俺・・・は・・・・何も・・・・・恐れてない
何も・・・・・・・・・何も・・・・・・・
俺は・・・・・・
「・・・・リ・・・・ナ・・・・・・・・・リオ・・・・!!リオナ!!」
マーシャの声でハッと我に返った。
体中汗だらけで、息もさっき以上にあがっている。
「・・・・はぁ・・・・・はぁ・・・・はぁ・・・」
足がふらつき、
倒れそうになるが、マーシャの伸ばした手によって支えられる。
「・・大丈夫か・・?」
「・・・・う・・・ん・・・・」
マーシャはホッと肩をなで下ろし、リオナを抱えたままその場に座り込む。
「心配かけさせんな・・・・」
「・・ごめん・・・」
「・・・・・・・・。」
マーシャはリオナの瞳をじっと見つめる。
しかしリオナはすぐに目をそらしてしまう。
まるで何かから逃げるかのように。
「・・・・・リオナ・・・」
「・・・・・何・・?」
マーシャは思わず言おうとした言葉を、ぐっと飲み込んだ。
「・・・・・・・。いや・・・なんでもない。」
「・・・・なんなの?」
「大したことじゃないよ。」
そう言ってマーシャに力強く抱きしめられて。
なんでだろう、心地いい。
久々にぬくもりを感じた気がした。
暫くすると部屋からセスが出てきた。
セスの顔はどこかすっきりしている。
「・・・・少年。大丈夫か?」
セスはうんと頷く。
「今、おじさんに電話した。すぐに迎えにくるって。」
「そうか。」
三人はそれ以上は何も言わずに、ただ時間だけが流れていった。
日も暮れた頃、
セスの叔父がセスを迎えにやってきた。
セスは荷物を車の後ろに乗せ、
車に乗り込もうとする。
すると、セスはクルリと振り返ってリオナとマーシャに笑いかけた。
「僕、これからたくさん勉強して、父様のあとを継ぐよ。それでこの国を世界一の電力国家にしてみせるんだ!」
二人にはセスがすこし大きく見えた。
マーシャは笑って少年に向けて親指を立てる。
「期待してるよ。またいつかどこかで。」
そしてセスはリオナに近づき、手を握る。
「リオナは僕のライバルだ!絶対負けないから!」
そう言って車にかけていく。
「ライバル・・・か」
リオナは自分の手を見つめ、
少しだけ微笑んだ。
セスを乗せた車は、あっと言う間に行ってしまい、ふたりも屋敷をあとにする。
「やっと一件落着だね。」
「でも問題は山積みだな。」
「化神が裏で操られてる問題?」
「ああ。何て報告しようか。しかも2ヶ月間も化神に気づかなかったなんて・・・」
マーシャは頭を抱える。
すると目の前から一羽のコウモリが飛んできた。
コウモリは足に手紙を持っていた。
「また任務?」
「どうかな?」
マーシャは手紙を開く。
ざっと目を通すと、手紙はすぐに黒い火をあげ、燃えて消えた。
「さて、次の仕事だ。」
マーシャはさっさと歩き出す。
リオナも急いでマーシャの横に並ぶ。
「今度も化神退治?」
「いや、違う。」
「・・・・・・?」
リオナの顔を見て、
マーシャは嬉しそうにニッと笑った。
「魔女狩りだ。」
同時刻
光妖大帝国
町などは一切なく、
国全体が巨大な城でできていて、
人々はすべて城の中で暮らしている。
城の地下10階
そこには複数人の白いコートを着た人々が、
2つの玉を囲んでいる。
2つの玉・・・・・そうローズ・ソウル
ローズソウルにはアッシュ色の髪をした男と銀色の髪をした少年が映し出されている。
「ははっ☆気付かれちゃったみたいですね。」
「笑い事じゃありませんわ!アシュール様にどう報告を・・・!」
「まぁそう焦るな。裏で操ってるってバレたとしてもあっちは今、何かと忙しいだろうよ。」
「だといいのですが・・・・・」
するとひとりの巨体の男がローズソウルに顔を近づける。
「この男・・・・先日の大魔帝国壊滅時にいたやつか?」
「そうそう、奴の名前はマーシャ・ロゼッティ。ダーク・ホームのエースだよ。」
「噂のダーク・ホームの死神か。」
「まさか大魔帝国に先回りされるとはね。彼のせいで我々も多くの犠牲を出した。」
「もしかして我々の仲間を100人近く殺したってのも彼1人で?」
「ああ。子供を庇いながら一瞬でな。最終的には転送魔法で逃げられたがな。」
「マーシャ・ロゼッティは魔族だったのか?」
「当たり前だろ。だからカイ様と面識があるんだ。」
「ねぇねぇ!横にいる子だぁれ?」
「さぁな・・でも敵にはかわりねぇなぁ」
「へぇ~・・なんか楽しくなってきたじゃない!」
部屋中に不気味な声が響きわたる。
空は光をなくし、
月のない夜を迎えようとしている。
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