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第0章 Prologue
Prologue seventh
しおりを挟む日はすでに沈みきって、
星が瞬き始めている。
約束を思い出したリオナとウィキは、急いでバルドの家に向かっていた。
「バルド怒ってるかな?」
「・・絶対怒ってるよ。だってこの前一分遅れたからって尻叩かれたもん。」
ふたりはバルドの怒る様子を思い浮かべると、自然に走るスピードも上がった。
バルドの家が見えてきた。
しかし中に明かりはついていない。
少し胸をざわつかせる。
ふたりは目と目を合わせ、
そっと玄関をノックしようとする。
しかしその瞬間にバルドが扉を開けて出てきた。
「うわっ!!びっくりしたぁ!!」
「いるなら電気くらいつけといてよ。」
バルドはハァとため息をついて頭をかく。
「間に合ったか。ほら中入れ。」
二人は顔を見合わせる。
「バルド怒んないの?」
「はぁ?」
「いつも遅れると怒るじゃん。」
「・・・・そんなに怒られてぇならダンにでも怒ってもらえ。まぁアイツは怒らんと思うが・・・今は時間がねぇからさっさと入れ。」
「はぁい」
ウィキはバルドを追いかける。
しかしリオナはバルドの右手に大きな荷物があるのを見て、なぜか心臓がドキドキして気持ちが悪く、嫌な予感が頭をよぎっていた。
いつも3人でレッスンをするリビングに行く。
でもいつもと何かが違う。
ふたりは部屋を見回した。
部屋はすっかりきれいになっていて、
あるのは本棚と机といすだけ。
リオナのイヤな予感が確信につながる。
「どういうこと・・・?」
「まぁいいからここに座れ。」
「いいから早くはなしてよ・・・!」
珍しいことに、リオナが声を荒げる。
一方バルドはいつもの席に座り、
至って落ち着いた声で話し出した。
「・・・・・悪いが俺はこの町をでることにした・・・。」
「・・・・・・・。」
リオナは嫌な予感が的中して、顔をゆがめる。
「なんで!?どうして!?」
ウィキがバルドの手を引っ張る。
「・・・王宮に戻る。召集がかかってんだ。」
「・・・そうなの!?バルドすごいじゃん!!おめでとぉ!」
さっきまで泣きそうな顔をしていたウィキが一気に尊敬のまなざしを向ける。
「ありがとな。そんで今日お前等を呼んだのはだな、この家をお前等にやろうと思ってだ。本はおいておくから二人で仲良く使え。」
「え!いいの?」
「ただしお前ら一家だけだ。他の奴らは入れるんじゃないぞ。ここには俺の知識が詰まっているからな。」
そう言ってバルドはウィキに家の鍵を2つ渡した。
「ほらリオナも!」
ウィキは2つのうちの一つをリオナに手渡そうとする。
ーーバシ!
けれどリオナはウィキの手を思いっきり払いのけた。
鍵は音を立ててバルドの前まで滑ってゆく。
「・・・リオ」
「なんでだよっ・・・・!!意味わかんないよ!!!」
ウィキは怯えて少し後ずさりをする。
「バルドはあそこが嫌いなんでしょ!?この町を変えるんじゃないの!?何でこんな国の為にこの町を出て行くんだよっ・・・・!」
強く訴えるリオナの目を、バルドはしっかりと見つめる。
「・・・今世界は荒れている。あの時天大帝国壊滅の一件以来な。だから俺たちの国もいつ襲われるかわからない中、戦力を集めるのに必死なんだ。それくらいお前にも・・・」
バリンっ!!
リオナが窓に置いてあった花瓶をバルドに投げつける。
「わからない!!バルドの考えてることなんてわからないよ!!」
リオナの拳に力が入る。
「オレたちを・・・オレたちを世界一の魔法使いにするって約束したくせに結局見捨てていくの!?そうやって全部中途半端にしていくの!?全部投げだしていくの!?オレは・・・・!!」
「・・・リオナ・・・・・」
リオナは唾をのみ
大きく息を吸う。
「オレはバルドみたいになんかなりたくないっ!!!バルドなんて大っ嫌いだ!!!」
リオナは勢いよく家を飛び出していってしまった。
無我夢中でかけていく。
自分が今、どこにいて、どこに向かっているのかもわからないまま。
気がついたらラグの外れにある森にいた。
木に寄りかかり、そのまま滑るように座り込む。
空を見ると月が昇っていた。
月はリオナを明るく照らし続けている。
リオナは再び立ち上がり、月から逃げるようにさらに森の奥へ進む。
奥へ行けば行くほど、暗闇は深くなり、
暗闇が深くなるほど、現実から遠のいていく。
すると目の前に小さな小屋が現れた。
小屋は今にも崩れ落ちそうなくらい朽ち果てている。
けれどリオナはなぜか懐かしい気持ちでいっぱいになる。
そう、この小屋は、初めてバルドに魔法を教えてもらった時に使った小屋だった。
入ってみると、
中は昔と全く変わっていない。
ウィキが失敗して叩き割ってしまった机。
リオナがふざけて開けた床の穴。
それに怒ったバルドが誤って吹き飛ばした本棚。
ここだけがあの時のままで、まるで時間が止まっているかのようだ。
リオナはその場でうずくまる。
「・・・・なんで・・・・なんでいっちゃうんだよ・・・・・・・」
小屋の隙間風が優しく頬をなでる。
「ねぇ・・・・もっと・・いろんなこと教えてよ・・・・・まだまだ一緒にいたいよ・・・・・・・・・・ねぇバルド・・・」
生暖かい何かが
静かに頬を濡らす。
「・・・・・さみしいよ・・・・」
ポタポタとおちる透明の雫は、木の床を濡らし、自分の心もぬらす。
叶わぬ願いと分かりながら、リオナは何度も心で願う。
時がとまればいいのに・・・・と
「リオナァ・・・・・」
ウィキが今にも泣きそうな顔をして、バルドと今までリオナが立っていた所を交互に見る。
バルドは椅子に腰を下ろしてタバコに火をつけた。
天井に吐く煙は、いつになく真っ白で、その先が見えない。
「・・・・アイツは真っ直ぐだから。」
「・・・・?」
「リオナはよぉ、いっつもひねくれてる感じがすっけどなぁ、本当はすごく真っ直ぐで、優しい奴なんだよなぁ・・・。それでいて弟想いで、弱いところも見せようとしないで、なんでもかんでもひとりで背負って持ってっちまう。」
「・・・・・うん。知ってる。」
バルドは優しくウィキの頭をなでる。
「ウィキ。リオナをしっかり引っ張ってやれよ。リオナはお前の言うことなら聞くからよぉ。」
「うん・・・・」
バルドはウィキから目を離し、再び天井を見つめる。
「さて、お前もさっさといけ。あとこの鍵はリオナに渡しておけよ。」
「うん・・・・」
ウィキは鍵を受け取り、
玄関に向かう。
しかしもう一度振り返ってバルドに尋ねた。
「また・・・会えるよね?」
バルドは天井に煙を吐きだし、優しい顔でウィキに笑いかける。
「・・・・ああ。また会えるさ。」
ウィキは泣きたい気持ちを押さえつけて、
いつものようににっこり笑う。
「元気でねバルド!」
それ以上はなにも言わず、暗闇に姿を消していった。
バルドは立ち上がって、窓から二人が走り去っていった方を見つめた。
「・・・・元気でやれよ・・悪ガキども・・・・」
部屋に白い煙がまだ残る中、
バルドはラグをあとにした。
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