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第8話:どいつもこいつも!

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「それでは私はこれで失礼いたします」

再び渾身のカーテシーを決め、馬車に乗り込んだ。そういえばお父様が王宮内で私を待っていたのだったわ。まあいいか、もう大人なのだから、1人で帰ってくるでしょう。とにかく一刻も早く屋敷に帰らないと。

ふと窓の外を見ると、笑顔でカロイド殿下が手を振っていたが…気が付かないふりをしてスッと目線をそらした。そう、私はカロイド殿下に気が付かなかったのだ。決して無視した訳ではない。

それにしてもカロイド殿下、面倒な男だったわ。それにカリーナ殿下…確か婚約者候補になったクリスティーヌの良き相談相手として描かれていた。カロイド殿下とカリーナ殿下は、11ヶ月違いの兄妹で、2人とも同じ学年なのだ。

物腰柔らかで、クリスティーヌお義姉様!と言って懐いていた可愛らしい女性だったが…

それにクリスティーヌに何とかして近づこうとするアルフレッド様から、体を張って守っていた。まさにクリスティーヌの一番の理解者として描かれていたのだ。

でも、どうしてカリーナ殿下は、兄でもあるカロイド殿下に”私とお茶をしろ“と頼んだのかしら?

漫画ではカロイド殿下は、優しくて正義感の強いヒーローとして描かれていた。でも現実は…という事は、カリーナ殿下もカロイド殿下の様に、難ありとか?とにかくあの兄妹には、十分注意しないと!

そんな事を考えている間に、屋敷に着いた。案の定、アルフレッド様は外で待っていた様で、馬車を見ると嬉しそうに飛んできた。

「アルフレッド様、ただいま戻りました。ずっと外で待っていて下さったのですか?体が冷えておりますわ。さあ、中に入りましょう」

馬車から降りると、そのままアルフレッド様に抱き着いた。体が随分冷えている。

「クリスティーヌ、おかえり。随分と早かったね。それで、殿下はどうだったのだい?」

心配そうにアルフレッド様が私を見つめている。どうしよう…正直に話そうかしら?う~ん…

「その顔だと、カロイド殿下に気に入られてしまったのだね…」

勘のいいアルフレッド様に気づかれてしまったわ。一気に顔が曇るアルフレッド様。お願い、そんな顔をしないで。胸がぎゅっと締め付けられる。

「確かに気に入られてしまった様ですが、私はカロイド殿下にこれっぽっちも興味がありませんわ。ですからアルフレッド様が心配する事は何一つありません」

アルフレッド様の瞳を見つめ、そうはっきりと伝えた。

「さあ、アルフレッド様、体がすっかり冷えてしまっておりますわ。温かいお茶を飲みながら、ゆっくり話をしましょう」

すっかり冷たくなったアルフレッド様の手を握り、屋敷へと向かおうとした時だった。王宮の馬車がやって来たのだ。

「クリスティーヌ!私を置いて帰るだなんて、何を考えているのだ!」

怖い顔で降りてきたのは、お父様だ。後ろからなぜか、カロイド殿下も降りてくる。

「どうしてカロイド殿下がここにいらっしゃるのですか?」

「公爵が馬車がなくて困っている様だったから、僕が送ってあげたんだよ。まさか父親を置いて、さっさと帰っちゃうだなんてね」

そう言ってカロイド殿下がクスクスと笑っている。何が可笑しいのよ!この人、やっぱり性格が悪いわ!

「殿下、わざわざ父を送って下さり、ありがとうございました。それでは私たちはこれで。さあ、アルフレッド様、参りましょう」

アルフレッド様の腕に絡みつき、私たちはこんなにもラブラブなのですよ!というアピールをしつつ、その場を後にしようとしたのだが…

「殿下、わざわざ送って下さり、ありがとうございます。宜しければ、お茶でも飲んでいってください。本当に家の娘が無礼を働き、申し訳ございませんでした。どうぞこちらへ」

ちょっとお父様、誰が無礼を働いたよ。私はしっかりと殿下と一緒にお茶をしたわよ。それに、どうして我が家にこの人を招き入れるのよ。アルフレッド様が不安そうな顔をしているじゃない!

「お父様、殿下はお忙しいのです。呼び止めてはご迷惑ですわ」

「僕は大丈夫だよ。アルフレッド殿とも話がしたいし。それじゃあ、お邪魔させていただくよ。クリスティーヌ嬢、案内してくれるかい?」

何と図々しい、私に案内をしろだなんて。でも、お父様が怖い顔でこっちを睨んでいる。仕方がない、案内するか…

「どうぞこちらです」

アルフレッド様の手を握りながら、殿下を屋敷へと案内する。客間に着くとカロイド殿下を席に誘導し、私とアルフレッド様は隣同士に座った。アルフレッド様が私に寄り添うように座っている。きっと不安なのだろう。

お可哀そうに、ただでさえこの男のせいで、今日一日不安な時間を過ごしてきたアルフレッド様。そんな彼に少しでも安心してもらおうと、今からたっぷりと愛情を注ごうと思っていたのに、よりにもよってこの男に邪魔されるだなんて!

せっかくだから、ここは私達がいかに愛し合っているか、殿下に見せつけてやろう。
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