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第30話:ライアンの怒りが収まらない様です

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「おい、お前今マリアを睨んでいただろう?」

再びクラシエ様に詰め寄るライアン。

「いいえ…そんな事はございません。誤解です」

「嘘を付け。間違いなく睨んでいたぞ!やっぱり、わざとマリアを陥れようとしたんだろう」

「そんな…私はそんなつもりでは…」

水色の大きな瞳から、ポロポロと涙を流している。さすがに可哀そうだろう。

「もう、ライアン。あなたが怖い顔で迫るから、クラシエ様が泣いてしまったじゃない。可哀そうに。とにかく、私たちはもう帰りましょう。クラシエ様、ライアンがごめんなさいね。それじゃあ」

「おい、泣けば済むと思っているのか?ふざけるなよ」

まだ文句を言うライアンの腕を掴み、そのまま歩き出した。

「ライアン、落ち着いて。私は大丈夫だから」

そう訴えたのだが

「何が大丈夫なんだよ。あの女、お前にやってもいない事をやったと言って、陥れようとしたんだぞ。そもそも男爵令嬢の分際で、ふざけるのも大概にしろよ!」

怖い顔で私にギャーギャー文句を言うライアン。声が大きすぎるため、皆がこちらを見ている。

「とにかく、本人も勘違いだと言っているのだからいいじゃない。これ以上事を大きくしたくないの。私はただ、皆と楽しい学院ライフを送れたら、それだけで幸せなのよ」

正直これ以上、1度目の生の時に関わった人たち、特にヒューゴ様とクラシエ様とはもう関わりたくはないのだ。

「お前はどれだけ優しいんだよ。お前は侯爵令嬢だぞ。ずっと身分の低い奴からバカにされたんだ。これほどの屈辱はない。これはお前だけでなく、レィークス侯爵家をバカにしている様なものなんだぞ」

「そんな事はわかっているわ。でもお願い、今回だけ見逃してあげて。彼女もきっとそこまで馬鹿ではないと思うの。もう私には手を出してこないと思うわ」

「既に侯爵令嬢のお前に喧嘩を売って来る時点で、大バカ者だと思うが…でも、マリアがそこまで言うなら、俺はこれ以上言わない。だがな、もしまたあの女がお前に何かして来たら、今度こそ容赦しないからな!わかったな!」

「そんなに大きな声を出さなくても聞こえるわよ。ええ、分かったわ」

それでもまだ殺気立っているライアン。でもそれだけ私の事を心配し、大切に思ってくれているという事なのかもしれない。

「ありがとう、ライアン。私の為にそこまで怒ってくれて…」

ライアンにお礼を言った。すると見る見る顔が赤くなっていく。

「あ…当たり前だろう。お前は…その…俺の大切な…」

「マリア!!大丈夫だったの?今他の令嬢から話を聞いたの」

私の元にやって来たのは、リリアとミリアナだ。そういえば2人はあの場にいなかったわね。

「ええ、大丈夫よ。ライアンが助けてくれたし。それに、他の子たちも私はそんな事をしないと信じてくれたしね。きっと何か勘違いしたのよ」

「それにしても、侯爵令嬢のあなたに男爵令嬢が喧嘩を売るなんて、バカにしているのもいいところだわ。あなたは良くても、あなたのご両親が許さないのではなくって?」

「そうね…だから、どうか両親には黙っていてくれいない?」

「マリアがそう言うなら、わかったわ。でも…」

チラリとライアンの方を見る2人。

「俺はマリアが言うなってうるさいから、今回は言うつもりはないよ。ただ、次に何かしたら、容赦しないけれどな」

ふてくされながらそう言ったライアン。よほどクラシエ様の事が気に入らないのか、機嫌がとても悪い。

「とにかくこれからはあまり1人でいない方がいいかもしれないわね。私たちも出来るだけあなたの傍にいるようにするわ」

「ありがとう、ミリアナ。でもそんなに心配してくれなくても、大丈夫よ。さすがにあれだけ皆から批判を浴びたのだから、これ以上何かをしてくることはないだろうし。それにどうやら王太子殿下の取り巻きから嫌がらせを受けているのは本当の様だから、きっと勘違いしたのよ」

「いいや、あの女、お前を睨んでいたぞ。勘違いの訳ないだろう。もし勘違いだったら、それこそ血相を変えて必死に謝ってくるはずだ。大体あの女、大人しそうな顔をしてやることが汚いんだよ。思い出しただけでまた腹が立ってきた!」

せっかく怒りが収まっていたライアンが、再び怒りだした。あまりの怒り様に、さすがのリリアとミリアナも引いている。

「落ち着いて!とにかく、私は大丈夫だから。ほら、ライアン。そろそろ騎士団に行かないと遅刻するわよ」

「分かっている。マリア、帰るぞ。それじゃあ、リリア嬢、ミリアナ嬢、また明日」

怒りが収まらないライアンに連れられ、馬車に乗せられた。

「いいか、寄り道せずに真っすぐ帰るんだぞ。わかったな?家に着いた頃に通信機を入れるからな」

「分かっているわよ。もう、心配性なんだから」

結局ライアンは、私の馬車が見えなくなるまで、ずっとこちらを睨んで…見つめていたのであった。
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