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第17話:バージレーション王国が攻めて来たそうです

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王太子と話をした翌日、王太子が姿を現す事は無かった。もしかして、私の言葉を聞き入れてくれたのかしら?これでやっとあの男から解放されたのね。

そんな私の喜ぶ姿を見たマドレアおば様が

「サーラちゃん、1日来なかっただけで喜ぶのはまだ早いわよ。何か用事があったのかもしれないし。もしかして、サーラちゃんを無理やり攫って、王宮に連れ帰ってしまうかもしれないわ。とにかく、油断は禁物よ!」

そう言って警戒していた。でも1週間が過ぎても、王太子は来る事は無かった。

「ほら、マドレアおば様、きっと私の事は諦めたのですわ。これからは、平和に暮らせますわね」

「そうかねぇ。私は心配でたまらないのだけれど」

どうやらかなり心配症なマドレアおば様。でも、それだけ私を大切に思ってくれているという事だろう。とにかく、おば様の気持ちは物凄く嬉しい。そして平和な日々が過ぎていき、王太子が来なくなってから1ヶ月が過ぎた。

今日もお店は大繁盛だ。その時だった。

「おい、聞いたか?バージレーション王国が、この国に攻めて来たらしいぞ。今、国境付近で騎士たちが必死に戦っている様だが、相手はあのバージレーション王国だろう。負けるのも時間の問題だ」

何ですって、バージレーション王国ですって?バージレーション王国と言えば、かなりの大国だ。巧みな戦術と、圧倒的な戦力で一気に相手の国に攻め入ると有名な国。バージレーション王国に責められた国は、まず勝つことは出来ないと聞く。

「バージレーション王国がせめて来ただって!それは本当かい?」

物凄い勢いで厨房から出て来たマドレアおば様。右手には包丁が握られている。

「マドレアさん!危ないぞ!ああ、兵士の友人から話しを聞いたから、間違いない様だ。既にかなり押されている様で、近いうちに勝敗が決まると言っていたよ」

ため息を吐きながらそう言った常連さん。

「そうかい、ついに動き出したかい…」

「動き出した?」

「いいや、何でもないよ」

そう言うと、慌てて厨房に戻ったマドレアおば様。

「それで、バージレーション王国が勝利したら、この国はどうなるのですか?」

せっかく平和な平民ライフを手に入れたのに!とにかく、今の暮らしを奪われたくはない。

「基本的に攻め込まれた国は、バージレーション王国の王子が国を治めるのが一般的だ。とにかくバージレーション王国は子だくさんだからな。今回は第三王子が指揮を取っているらしい。その王子がどんな人物かで、その国の未来が決まるらしい」

「なるほど、その第三王子がいい人なら、私たちは平和に暮らせるのね」

第三王子がいい人だといいけれど。

「ただ、どっちにしろ、王族は皆殺しか奴隷行き、よくて平民落ちだろう。貴族たちも、どうなる事やら」

そうか…それで、王太子が最近訪ねてこなくなったのね。きっとそれどころではなくなったのだろう。

「皆、そんなに暗い顔をしなくても大丈夫だよ。平民の暮らしなんて、そんなに変わる事はないよ」

そう言ったのは、マドレアおば様だ。おば様が言った通りだといいのだけれど…


それから数日後、正式に我がカステカ王国が、バージレーション王国との戦いに敗れたとの知らせが入った。正直今後どうなるのか物凄く不安だったが、マドレアおば様が言った通り、今のところ私たちの生活に変化はない。

常連客の話では、今後王族や貴族はどうなるかわからないが、ひとまず私達の生活には影響がないとの事で、ホッとした。

今日もいつも通り、お店を開ける為準備をしていると、ドアが開いた。

ガランガラン
あら?もうお客さんが入って来たのかしら?

「ごめんなさい、まだお店は開いていないのですが」

お客様に断りを入れる為、ドアの方を向くと、そこに立っていたのは…

「ただいま、サーラ。アパートに行ったら姿が無かったから、ここかなって思って来てみたんだ。元気そうでよかった」

「オーフェン様!本当にオーフェン様なのですか?」

そう、目の前に立っていたのはオーフェン様だ。嬉しくてオーフェン様に飛びついた。

「サーラ、君が一番大変な時に、側にいられなくてごめんね。でも、これからはずっと一緒だ」

そう言うと、私から離れたオーフェン様。なぜかその場に跪いた。そして美しいオレンジ色の瞳が、真っすぐ私の方を見つめている。

「サーラ、僕は君を心から愛しています。どうか、僕と結婚してくれますか?」

そう言うと、美しい指輪を手渡してくれた。その指輪には、この国を出る時に預かったネックレスと同じ、七色に光る宝石が付いている。

「僕の国ではね。大切な女性に、指輪を贈る習慣があるんだよ。サーラ、愛している。どうか僕と共に生きて行って欲しい」

再びオーフェン様が、私に気持ちを伝えてくれた。これは夢かしら?夢ならどうか覚めないで欲しい。嬉しくて、瞳から涙が溢れでる。

「オーフェン様、私もあなた様を心から愛しているわ。こんな私でよければ、よろしくお願いいたします」

その瞬間、オーフェン様に抱きしめられた。そして、指輪を私の指にはめてくれた。

「ありがとう、サーラ。これからはこの国の王妃として、僕を支えて欲しい」

ん?王妃?オーフェン様の言った意味が分からず、聞き返そうとした時だった。
なぜか周りから大きな拍手が沸き上がる。

「オーフェン国王、おめでとうございます!」

「「「「おめでとうございます」」」」」

え?国王?

ふと周りを見渡すと、バージレーション王国の国旗を持った男性たちが何人もいた。そこには、オーフェン様のお父様のバザダフィ男爵の姿も。一体どういう事なの?

状況がのみ込めず、固まるしかない。

「サーラ、ずっと黙っていてごめん。僕の本当の名前は、オーフェン・サザル・バージレーション。バージレーション王国の第三王子で、先日この国の国王に、正式に就任したんだ」


そう言ってにっこり笑ったオーフェン様。

えぇぇぇぇぇぇぇ
あまりの衝撃に、そのまま私は気を失ってしまったのであった。
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