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第58話:最後にあの女に会いに行った~エヴァン視点~
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ルーナと婚約を結んだ翌日、朝早く病院で目を覚ました僕は、医者に許可をもらい、ある場所へと向かった。
実は今日、ヴィノーデル公爵とナタリー嬢の裁判が行われる日なのだ。昨日ルーナが帰った後、こっとりと父上が教えてくれた。
裁判所には、アルフィーノ侯爵の時と同じように、たくさんの貴族が来ていた。もちろん、アルフィーノ侯爵とロイドも来ている。
しばらくすると、鎖で繋がれたヴィノーデル公爵とナタリー嬢が出てきた。僕を見つけると、物凄い形相で睨んでいるナタリー嬢。あの女にいくら睨まれても、痛くもかゆくもない。
その後裁判が始まった。全ての罪を素直に認める公爵に対し、反論ばかりするナタリー嬢。最後まで見苦しい女だ。
そんな中、ヴィノーデル公爵が
“今回の事件は、全て私1人で行った事で、ナタリーは関係ない。どうかナタリーの命だけは助けてやって欲しい”と、裁判官に懇願したのだ。
さらに王妃まで
“ナタリーちゃんがこんな風に我が儘になってしまったのは、私の力不足だったのも原因の一つです。どうかご慈悲を”と、訴えていた。
ただ、今回の件で、ルーナの誕生日にアルフィーノ侯爵家に毒蛇や毒グモを逃がそうとした事。アルフィーノ侯爵家が没落した後、ルーナを殺そうとしていた事。皆の前でルーナに襲い掛かり、僕に怪我をさせた事があげられ、公爵同様、極刑が決まった。
公爵と王妃は泣き崩れ、ナタリー嬢は“死にたくない。どうして私がこんな目に!”と、大騒ぎしていたが、そのまま地下牢へと連れていかれた。
まあ、真っ当な判決だな。もちろん、ヴィノーデル公爵家は取り潰し、ナタリー嬢とハドソンの婚約も解消された。
裁判も無事に終わり、後は刑の執行を待つばかりだ。ただ、僕にはまだしなければいけない事がある。陛下に許可を取り、僕はある場所へと向かった。
「ナタリー嬢、ご機嫌はいかがですか?」
そう、刑執行が目の前まで迫った、絶望の淵にいるナタリー嬢の元だ。
「何がご機嫌いかがですか?よ!あなたのせいで私は、今から殺されるのよ!全部あなたのせいよ!」
僕の顔を見るなり、檻をガンガンゆすり、暴れている。
「僕のせい?御冗談を。君が醜い嫉妬に狂って、僕の可愛いルーナを傷つけたからだよ。僕の可愛いルーナを傷つける者は、誰であろうと許さない。そもそも、裁判所でルーナに切りかかりに行かなければ、極刑は免れたかもしれないのに、本当にバカな女だな」
そう言ってナタリー嬢に向かってほほ笑んでやった。
「あなた、まさかわざと私に切られたの?私を極刑にするために。よく考えたら、あなたほどの人間なら、私を止められたはずよね。扇子であの女を叩こうとした時だって、わざと叩かれに来て!ふざけないで、どうしてそこまで私の邪魔をするの?私があなたに一体何をしたと言うの?」
「もう忘れたのかい?僕に嘘の情報を流して、僕からルーナを奪ったじゃないか…あのせいで、ルーナは傷つき、随分苦しんだ。ただ…あの件に関しては、僕が愚かだったから水に流したつもりだけれどね」
「そんな事もあったわね。水に流した?ふざけないで!そういえば、私と同じくあなたに嘘の情報を流したアイザック殿下も、あなたの計らいであの恐ろしいミレー殿下の元に婿養子に入ったそうじゃない。今アイザック殿下は、相当苦労していると聞いたわよ。口では水に流した、自分が悪かったとか言って、ちゃっかり復讐しているじゃない。この腹黒男!」
相変わらず口が悪い女だな。
「なんとでも言えばいい。あと少ししたら、君はもうこの世からいなくなるのだから」
「ふん、あなたみたいな腹黒、絶対に幸せになれないわ。あなた、私をハドソン様の婚約者から引きずりおろした事、後で後悔するわよ。ハドソン様はね、あの女を愛しているのよ。私がいなくなった今、きっとハドソン様は、あの女を婚約者にするはずよ。自ら自分の首を絞めるだなんて、本当にバカな男」
この女は何を言っているのだろう。そうか、この女はハドソンがルーナを好きだと勘違いしているのだったな。
「何を言い出すのかと思えば…僕とルーナは昨日、正式に婚約を結び直したよ。そして、4ヶ月後に結婚する事も決まった。既にこの国の貴族全員に報告済みだ。君はもう貴族じゃないから、知らないだろうけれどね。それと、ハドソンが好きな令嬢は、ルーナじゃない。エマ嬢だ。2人は貴族学院入学前に、会っていたらしい。ハドソンから直接聞いたから、間違いないよ」
そう笑顔で教えてあげた。
「何ですって…そんな、でもハドソン様はいつもあの女を…」
「ルーナの傍には、いつもエマ嬢がいたからね。きっと勘違いしたのだろう」
「そんな…まさかあの口うるさい女の事を、ハドソン様は…あんな女が次期王妃に…そんな…」
頭を抱えて、訳の分からない事を呟いているナタリー嬢。ふと視線を感じ、その先を見ると、どうやら今から刑が執行される様で、騎士たちが待機していた。
「ナタリー嬢、執行時間の様だ。そうそう、今回君は、斬首刑に処せられるらしいね。まさかルーナに贈った人形と同じ運命になるなんて。それじゃあ、さようなら、ナタリー嬢」
そう伝え、地下牢を後にした。
後ろから
「嫌ぁぁ、死にたくない。助けてぇぇ」
という悲鳴が聞こえた。最初はあの女には生きて地獄を見せてやろうかとも思ったが、あの女が生きている限り、本当の意味でのルーナに平穏な日々は訪れない。そう判断し、あえて極刑に処される様仕向けたのだ。
ルーナの為なら、こんな傷、痛くもかゆくもない。これでルーナも、安心して暮らせるだろう。
急いで病室に戻ると、頬を膨らませたルーナが待っていた。
「もう、エヴァン様。一体どこに行っていらしたのですか?あなた様は怪我をしているのですよ」
「ごめんね、ちょっと用があって」
「これからは何でも話すと約束したばかりでしょう。とにかく、あなた様はケガ人なのです。すぐにベッドに横になってください!」
そう言ってベッドに寝かされた。怒った顔のルーナも可愛いな。
ルーナ、君を苦しめていたあの女は、もうこの世にはいないよ。だから、これからは安心して暮らして欲しい。心の中で、そっと呟いたのだった。
実は今日、ヴィノーデル公爵とナタリー嬢の裁判が行われる日なのだ。昨日ルーナが帰った後、こっとりと父上が教えてくれた。
裁判所には、アルフィーノ侯爵の時と同じように、たくさんの貴族が来ていた。もちろん、アルフィーノ侯爵とロイドも来ている。
しばらくすると、鎖で繋がれたヴィノーデル公爵とナタリー嬢が出てきた。僕を見つけると、物凄い形相で睨んでいるナタリー嬢。あの女にいくら睨まれても、痛くもかゆくもない。
その後裁判が始まった。全ての罪を素直に認める公爵に対し、反論ばかりするナタリー嬢。最後まで見苦しい女だ。
そんな中、ヴィノーデル公爵が
“今回の事件は、全て私1人で行った事で、ナタリーは関係ない。どうかナタリーの命だけは助けてやって欲しい”と、裁判官に懇願したのだ。
さらに王妃まで
“ナタリーちゃんがこんな風に我が儘になってしまったのは、私の力不足だったのも原因の一つです。どうかご慈悲を”と、訴えていた。
ただ、今回の件で、ルーナの誕生日にアルフィーノ侯爵家に毒蛇や毒グモを逃がそうとした事。アルフィーノ侯爵家が没落した後、ルーナを殺そうとしていた事。皆の前でルーナに襲い掛かり、僕に怪我をさせた事があげられ、公爵同様、極刑が決まった。
公爵と王妃は泣き崩れ、ナタリー嬢は“死にたくない。どうして私がこんな目に!”と、大騒ぎしていたが、そのまま地下牢へと連れていかれた。
まあ、真っ当な判決だな。もちろん、ヴィノーデル公爵家は取り潰し、ナタリー嬢とハドソンの婚約も解消された。
裁判も無事に終わり、後は刑の執行を待つばかりだ。ただ、僕にはまだしなければいけない事がある。陛下に許可を取り、僕はある場所へと向かった。
「ナタリー嬢、ご機嫌はいかがですか?」
そう、刑執行が目の前まで迫った、絶望の淵にいるナタリー嬢の元だ。
「何がご機嫌いかがですか?よ!あなたのせいで私は、今から殺されるのよ!全部あなたのせいよ!」
僕の顔を見るなり、檻をガンガンゆすり、暴れている。
「僕のせい?御冗談を。君が醜い嫉妬に狂って、僕の可愛いルーナを傷つけたからだよ。僕の可愛いルーナを傷つける者は、誰であろうと許さない。そもそも、裁判所でルーナに切りかかりに行かなければ、極刑は免れたかもしれないのに、本当にバカな女だな」
そう言ってナタリー嬢に向かってほほ笑んでやった。
「あなた、まさかわざと私に切られたの?私を極刑にするために。よく考えたら、あなたほどの人間なら、私を止められたはずよね。扇子であの女を叩こうとした時だって、わざと叩かれに来て!ふざけないで、どうしてそこまで私の邪魔をするの?私があなたに一体何をしたと言うの?」
「もう忘れたのかい?僕に嘘の情報を流して、僕からルーナを奪ったじゃないか…あのせいで、ルーナは傷つき、随分苦しんだ。ただ…あの件に関しては、僕が愚かだったから水に流したつもりだけれどね」
「そんな事もあったわね。水に流した?ふざけないで!そういえば、私と同じくあなたに嘘の情報を流したアイザック殿下も、あなたの計らいであの恐ろしいミレー殿下の元に婿養子に入ったそうじゃない。今アイザック殿下は、相当苦労していると聞いたわよ。口では水に流した、自分が悪かったとか言って、ちゃっかり復讐しているじゃない。この腹黒男!」
相変わらず口が悪い女だな。
「なんとでも言えばいい。あと少ししたら、君はもうこの世からいなくなるのだから」
「ふん、あなたみたいな腹黒、絶対に幸せになれないわ。あなた、私をハドソン様の婚約者から引きずりおろした事、後で後悔するわよ。ハドソン様はね、あの女を愛しているのよ。私がいなくなった今、きっとハドソン様は、あの女を婚約者にするはずよ。自ら自分の首を絞めるだなんて、本当にバカな男」
この女は何を言っているのだろう。そうか、この女はハドソンがルーナを好きだと勘違いしているのだったな。
「何を言い出すのかと思えば…僕とルーナは昨日、正式に婚約を結び直したよ。そして、4ヶ月後に結婚する事も決まった。既にこの国の貴族全員に報告済みだ。君はもう貴族じゃないから、知らないだろうけれどね。それと、ハドソンが好きな令嬢は、ルーナじゃない。エマ嬢だ。2人は貴族学院入学前に、会っていたらしい。ハドソンから直接聞いたから、間違いないよ」
そう笑顔で教えてあげた。
「何ですって…そんな、でもハドソン様はいつもあの女を…」
「ルーナの傍には、いつもエマ嬢がいたからね。きっと勘違いしたのだろう」
「そんな…まさかあの口うるさい女の事を、ハドソン様は…あんな女が次期王妃に…そんな…」
頭を抱えて、訳の分からない事を呟いているナタリー嬢。ふと視線を感じ、その先を見ると、どうやら今から刑が執行される様で、騎士たちが待機していた。
「ナタリー嬢、執行時間の様だ。そうそう、今回君は、斬首刑に処せられるらしいね。まさかルーナに贈った人形と同じ運命になるなんて。それじゃあ、さようなら、ナタリー嬢」
そう伝え、地下牢を後にした。
後ろから
「嫌ぁぁ、死にたくない。助けてぇぇ」
という悲鳴が聞こえた。最初はあの女には生きて地獄を見せてやろうかとも思ったが、あの女が生きている限り、本当の意味でのルーナに平穏な日々は訪れない。そう判断し、あえて極刑に処される様仕向けたのだ。
ルーナの為なら、こんな傷、痛くもかゆくもない。これでルーナも、安心して暮らせるだろう。
急いで病室に戻ると、頬を膨らませたルーナが待っていた。
「もう、エヴァン様。一体どこに行っていらしたのですか?あなた様は怪我をしているのですよ」
「ごめんね、ちょっと用があって」
「これからは何でも話すと約束したばかりでしょう。とにかく、あなた様はケガ人なのです。すぐにベッドに横になってください!」
そう言ってベッドに寝かされた。怒った顔のルーナも可愛いな。
ルーナ、君を苦しめていたあの女は、もうこの世にはいないよ。だから、これからは安心して暮らして欲しい。心の中で、そっと呟いたのだった。
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