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第35話:ミレー殿下が私を呼んだ理由

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「この国では、自分の瞳の色のドレスすら自由に着る事が出来ないのですか?それは不自由ですわね。それに、この国では爵位の高い、さらには次期王妃という身分の女性が、感情に身を任せ、自分より爵位の低い令嬢に暴言を吐く事を当たり前に行っているのですね。それも他国の王族がいる前で。本当に、醜いですわ」

扇子で口を隠し、心底軽蔑するような眼差しで、ナタリー様を見つめるミレー殿下。

「な…何ですって…」

「まあ、お顔が真っ赤、青筋までたっていらっしゃいますわ。おお怖、とても令嬢のお顔ではありませんわね。ほら、ご自分の顔、鏡で見て御覧なさい。こんなにも醜いお顔を、よく人前で晒せますわね」

そう言うとミレー殿下がナタリー様の前に、大きな姿鏡を準備させた。

「な…何なのよあなた!私は次期王妃なのよ!」

「あら、それでしたら、私は次期女王ですが、何か」

にっこり微笑み、ナタリー様の方を見つめている。

「…何なのよ。私、気分が悪いので帰りますわ」

そう言うと、真っ赤な顔をしてガニ股で部屋から出ていくナタリー様。ですから、がに股はダメです、がに股は!

「はぁ、何ですの?あのはしたない歩き方は…盗賊でもあるまいし、あの様な見苦しい歩き方をする令嬢は初めて見ましたわ。あのお方が次期王妃だなんて、この国もお先真っ暗ですわね…」

そう言って呟くミレー殿下。周りも苦笑いしている。

「ルーナ様でしたね。お見苦しいところをお見せしてしまい、申し訳ございませんでした。少し2人でお話がしたいのですが、よろしいでしょうか?」

私の方をクルリと向くと、ミレー殿下が美しいお顔でほほ笑んだ。

「はい、私でよろしければ、お願いいたします」

ペコリと頭を下げる。

「それでは、隣の部屋に参りましょう」

2人で部屋から出て行こうとしたのだが、なぜかアイザック殿下が付いてくる。

「アイザック殿下、私はルーナ様と2人で話がしたいと申し上げたのですが」

「知っているよ。でも、僕は君と離れたくなくて…」

「まあ、アイザック殿下ったら。すぐに戻ってきますので、どうかお待ちください」

それはそれは美しい微笑を浮かべ、アイザック殿下に語り掛けるミレー殿下。その美しさは、この世の物とは思えない程だ。あまりの美しさに、アイザック殿下も口をポカンと開けて固まっている。

「さあ、参りましょう」

その間に私を連れ、部屋から出た。そして別室に着くや否や、内側から鍵を掛けてしまった。

「アイザック殿下が乱入してくると大変だから、鍵を掛けさせてもらうわね。さあ、座って話をしましょう。私、今回あなたに会うのが楽しみだったのよ」

ミレー殿下が嬉しそうに笑った。やっぱりこの人、美しいわ。

「あの、ミレー殿下は私がその…アイザック殿下から…」

「そういえば、アイザック殿下はあなたに婚約の申し込みをしていたそうね。あの人、綺麗な女性が好きみたいだし。でも、それが理由であなたを呼び出したわけではないのよ。私は別に、アイザック殿下が好きという訳ではないし」

「ミレー殿下はアイザック殿下をお気に召していると聞いたのですが…」

「気に入っているのは気に入っているわ。私は次期女王になるでしょう。だから、気が弱くて優柔不断で、私のお尻にしっかりと敷かれてくれる男性を探していたのよ。私、パートナーには政治などにあまり口出しして欲しくなくてね。まさにアイザック殿下はピッタリでしょう。そう思わない?」

確かにアイザック殿下は、優柔不断なところもあるが…お尻にしっかりと敷かれてくれる男性だなんて…でもきっと、アイザック殿下なら、しっかり敷かれそうだ。

「さて、本題に入りましょうか?私があなたをここに呼んだのは、お礼を言うためよ。私の従兄妹、クラークがあなたに大変お世話になったみたいだから。クラークのせいで、婚約破棄をしてしまったそうじゃない。なんだか申し訳なく思っていたの。そうしたら今回、たまたまクリスティロソン公爵家の嫡男、エヴァン様がアイザック殿下との話を持ってきてくれたの。せっかくだから、あなたにもお礼と謝罪がしたくて」

クラーク?もしかして!

「あの…もしかしてメルソニア王国の王太子殿下の、クラーク殿下の事ですか?彼は元気にしていますか?お父様の体調が悪いと聞いていたので、心配しておりましたの。それにしても、ミレー殿下がクラーク殿下の従兄妹だったなんて…」

「そうよ、クラークは私の母の兄の子供なの。私の母は元々、メルソニア王国の王女だからね。クラークは今、王位継承と結婚式の準備で大忙しよ。でも、とても幸せそうね。幸い伯父様も持ち直したし。ただ、あなたの事をとても心配していたわ」

「そうですか、クラーク殿下が幸せそうで何よりですわ」

まさかミレー殿下からクラーク殿下の近況が聞けるなんて、思ってもみなかった。なんだか嬉しいわ。

「それにしても、あの王太子殿下の婚約者、本当に酷い女ね!クラークが毛嫌いしているのも、よくわかるわ。本当に、最低ね!本来であれば、飛び蹴りでも食らわせてあげたいところだけれど、さすがに他国の公爵令嬢だからね。我慢しておいたわ」

ん?今飛び蹴りなんて言う言葉が聞こえたけれど…まさかね。あんなにも美しいミレー殿下が、そんな恐ろしい言葉を言うはずがないものね。
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