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第25話:気持ちがざわつきます
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「ルーナ嬢、僕が馬車までエスコートするよ。元々僕が誘ったのだからね」
そう言って私の手を掴んだアイザック殿下。
「あの…殿下、私は…」
「ルーナは婚約者でもない男に手を触れられるのは嫌なのですよ。だから放してあげてください」
すっと私たちの手を引き離したのは、エヴァン様だ。
「別に手くらいいいだろう?それにどうしてエヴァンに、そんな事を言われないといけないんだよ」
「ルーナは身分的にあなた様に反論できないので、僕が伝えたまでです」
「もしかして僕が以前“ルーナ嬢とクラーク殿下が愛し合っている”と言った事、まだ根に持っているのかい?本当にしつこいな」
えっ?どういう事?ナタリー嬢の話を鵜呑みにしたのではないの?アイザック殿下にも確認を取ったという事なの?
「そんな事もありましたね。それでも僕は、裏を取らずに殿下とナタリー嬢の話を鵜呑みにしたのですから、全て愚かな僕の責任です。ですので、その件に関しては気にしておりません」
淡々とエヴァン様が話をする。どうやらエヴァン様は、第二王子でもあるアイザック殿下にも確認を取っていた様だ。でも、どうしてアイザック殿下は嘘を付いたのかしら?
「あの…アイザック殿下。今の話ですと、私とクラーク殿下が愛し合っていると嘘をエヴァン様に吹き込んだと解釈したのですが、どうしてその様な事を?」
つい気になって聞いてしまった。
「だって僕、ルーナと結婚したかったからね。君とエヴァンがこじれてくれたらいいなって思って」
悪びれもなくそう言ったアイザック殿下。彼は少し抜けているところがあるが、それでも第二王子としての信頼もある。そんな彼から私とクラーク殿下が愛し合っていると聞いたら…
「とにかく君たちが婚約破棄したのだから、僕の嘘も無駄ではなかったわけだね。よかったよ」
そう言ってアイザック殿下が笑っている。よかったですって…そのせいで私は、どれほど辛い思いをしたか。この人は自分の欲しいものを手に入れるためなら、人の気持ちなんてどうでもいいの?
そう思ったら、私はアイザック殿下とは生涯を共にできない、そうはっきりと心の中で結論を出した。
「アイザック殿下、あなた様は…でも、そんなあなた様を信じた僕が悪いのですがね…」
悲しそうにエヴァン様が笑う。エヴァン様もきっと、アイザック殿下なら真実を知っていると思って聞いたのだろう。それなのに嘘を付かれるだなんて…どんな気持ちだったのかしら?
そんな事を考えてしまう。
ダメよ、たとえ騙されていたのだとしても、私は1年もの間、エヴァン様に傷つけられ、そして最後はごみの様に捨てられた。それは変わらない事実。私はやっぱり、エヴァン様とも婚約を結び直すなんてことは出来ないわ。それでも、エヴァン様が辛い顔をすると、胸が締め付けられるのだ。
そうしている間に、校門まで来ていた。
「それでは私はこれで失礼いたします」
2人に頭を下げ、馬車に乗り込んだ。
「それじゃあ、僕も帰るよ」
そう言って馬車に乗り込むアイザック殿下。でも、エヴァン様は馬車に乗り込まずに、ずっとこっちを見ている。
ゆっくり走り出す馬車に向かって、手を振るエヴァン様。もしかして、私が学院を出ていくのを、見送ってくれているのかしら?
そう思ったら、また胸が締め付けられる。
どうしてこんなに私の事を気に掛けてくれるの?どうして…
気が付くと、涙が溢れていた。慌ててハンカチを取り、涙を拭く。
あら?このハンカチ…
そう、私がナタリー様に呼び出されたとき、恐怖で涙を流す私にエヴァン様が渡してくれたハンカチだ。
「この刺繍…私が8歳の時に、練習でハンカチに入れたものだわ」
何度も何度も失敗しながらも、なんとか仕上げた刺繍。あまりにも下手くそな出来に、そのまま捨ててしまおうとしたのだが
“ルーナが初めて入れた刺しゅう入りのハンカチだ。僕が貰ってもいいかな?”
そう言って持って帰ったエヴァン様。まさかこんな下手くそな刺繍が入ったハンカチを、未だに持ち歩いてくれているだなんて。
どうして今更、こんなに私の心をかき乱すの。
どうして…
私は1年もの間、エヴァン様に傷つけられ、そして婚約破棄を一方的に告げられ捨てられたのだ。もう二度と、あんな辛い思いはしたくはない。だから絶対に絶対にぜぇったいに、エヴァン様と婚約を結び直すなんて事はしてはいけないのだ。
頭ではその事を理解している。でも…
どうしても心がざわつくのだ。私の為に体を張ってナタリー様から守ってくれた時のエヴァン様。顔しか魅力がないと言うアイザック殿下に対し、私の魅力を事細かく、それも嬉しそうに語ってくれたエヴァン様。
温かくて大きなエヴァン様の手。昔を思い起こさせる優しい眼差し。その姿を見るたびに、私の心は騒めくのだ。
「私…これからどうしたらいいのかしら…」
エヴァン様がグイグイ私の心に入ってくる。それを拒む私がいる一方で、嬉しく感じる私もいる。
どうしていいのか分からず、ただただ頭を抱えながら家路へと向かったのだった。
※次回、エヴァン視点です。
そう言って私の手を掴んだアイザック殿下。
「あの…殿下、私は…」
「ルーナは婚約者でもない男に手を触れられるのは嫌なのですよ。だから放してあげてください」
すっと私たちの手を引き離したのは、エヴァン様だ。
「別に手くらいいいだろう?それにどうしてエヴァンに、そんな事を言われないといけないんだよ」
「ルーナは身分的にあなた様に反論できないので、僕が伝えたまでです」
「もしかして僕が以前“ルーナ嬢とクラーク殿下が愛し合っている”と言った事、まだ根に持っているのかい?本当にしつこいな」
えっ?どういう事?ナタリー嬢の話を鵜呑みにしたのではないの?アイザック殿下にも確認を取ったという事なの?
「そんな事もありましたね。それでも僕は、裏を取らずに殿下とナタリー嬢の話を鵜呑みにしたのですから、全て愚かな僕の責任です。ですので、その件に関しては気にしておりません」
淡々とエヴァン様が話をする。どうやらエヴァン様は、第二王子でもあるアイザック殿下にも確認を取っていた様だ。でも、どうしてアイザック殿下は嘘を付いたのかしら?
「あの…アイザック殿下。今の話ですと、私とクラーク殿下が愛し合っていると嘘をエヴァン様に吹き込んだと解釈したのですが、どうしてその様な事を?」
つい気になって聞いてしまった。
「だって僕、ルーナと結婚したかったからね。君とエヴァンがこじれてくれたらいいなって思って」
悪びれもなくそう言ったアイザック殿下。彼は少し抜けているところがあるが、それでも第二王子としての信頼もある。そんな彼から私とクラーク殿下が愛し合っていると聞いたら…
「とにかく君たちが婚約破棄したのだから、僕の嘘も無駄ではなかったわけだね。よかったよ」
そう言ってアイザック殿下が笑っている。よかったですって…そのせいで私は、どれほど辛い思いをしたか。この人は自分の欲しいものを手に入れるためなら、人の気持ちなんてどうでもいいの?
そう思ったら、私はアイザック殿下とは生涯を共にできない、そうはっきりと心の中で結論を出した。
「アイザック殿下、あなた様は…でも、そんなあなた様を信じた僕が悪いのですがね…」
悲しそうにエヴァン様が笑う。エヴァン様もきっと、アイザック殿下なら真実を知っていると思って聞いたのだろう。それなのに嘘を付かれるだなんて…どんな気持ちだったのかしら?
そんな事を考えてしまう。
ダメよ、たとえ騙されていたのだとしても、私は1年もの間、エヴァン様に傷つけられ、そして最後はごみの様に捨てられた。それは変わらない事実。私はやっぱり、エヴァン様とも婚約を結び直すなんてことは出来ないわ。それでも、エヴァン様が辛い顔をすると、胸が締め付けられるのだ。
そうしている間に、校門まで来ていた。
「それでは私はこれで失礼いたします」
2人に頭を下げ、馬車に乗り込んだ。
「それじゃあ、僕も帰るよ」
そう言って馬車に乗り込むアイザック殿下。でも、エヴァン様は馬車に乗り込まずに、ずっとこっちを見ている。
ゆっくり走り出す馬車に向かって、手を振るエヴァン様。もしかして、私が学院を出ていくのを、見送ってくれているのかしら?
そう思ったら、また胸が締め付けられる。
どうしてこんなに私の事を気に掛けてくれるの?どうして…
気が付くと、涙が溢れていた。慌ててハンカチを取り、涙を拭く。
あら?このハンカチ…
そう、私がナタリー様に呼び出されたとき、恐怖で涙を流す私にエヴァン様が渡してくれたハンカチだ。
「この刺繍…私が8歳の時に、練習でハンカチに入れたものだわ」
何度も何度も失敗しながらも、なんとか仕上げた刺繍。あまりにも下手くそな出来に、そのまま捨ててしまおうとしたのだが
“ルーナが初めて入れた刺しゅう入りのハンカチだ。僕が貰ってもいいかな?”
そう言って持って帰ったエヴァン様。まさかこんな下手くそな刺繍が入ったハンカチを、未だに持ち歩いてくれているだなんて。
どうして今更、こんなに私の心をかき乱すの。
どうして…
私は1年もの間、エヴァン様に傷つけられ、そして婚約破棄を一方的に告げられ捨てられたのだ。もう二度と、あんな辛い思いはしたくはない。だから絶対に絶対にぜぇったいに、エヴァン様と婚約を結び直すなんて事はしてはいけないのだ。
頭ではその事を理解している。でも…
どうしても心がざわつくのだ。私の為に体を張ってナタリー様から守ってくれた時のエヴァン様。顔しか魅力がないと言うアイザック殿下に対し、私の魅力を事細かく、それも嬉しそうに語ってくれたエヴァン様。
温かくて大きなエヴァン様の手。昔を思い起こさせる優しい眼差し。その姿を見るたびに、私の心は騒めくのだ。
「私…これからどうしたらいいのかしら…」
エヴァン様がグイグイ私の心に入ってくる。それを拒む私がいる一方で、嬉しく感じる私もいる。
どうしていいのか分からず、ただただ頭を抱えながら家路へと向かったのだった。
※次回、エヴァン視点です。
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