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第18話:侯爵とある約束をした~エヴァン視点~

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放課後、僕はアルフィーノ侯爵家を訪ねた。僕の顔を見ると、明らかに嫌そうな顔をする夫人。それでも侯爵は僕に会ってくれた。

「それでエヴァン殿、私に何か用でしょうか?」

「はい、今日はどうしてもアルフィーノ侯爵にお話があって参りました。まずは今回の婚約破棄の件、本当に申し訳ございませんでした。僕が愚かだったばっかりに、大切なルーナを傷つけてしまいました」

まずは深々と頭を下げた。

「エヴァン殿、頭をあげて下さい。実は今日、クリスティロソン公爵が我が家を訪ねていらして、全て話を伺いました。そしてあなたが、再びルーナと婚約を結び直したいという旨も」

父上が、既に侯爵に話しをしていただなんて…僕の口から話したかったのに。でも、父上らしいな。父上にとっていつまでたっても、僕は目が離せない小さな子供なのだろう。でも…

「本当に僕が浅はかでした。申し訳ございません。もちろん、ルーナと婚約を結び直したいと言う気持ちはありますが、それでも権力を使って、無理やり結び直したいとは考えておりません。とにかくまずは、ルーナに謝罪をしたいと考えております。でもその前に、侯爵と話をして、許しを得ようと考えたのです」

「なるほど、まずは私に許可をですか。エヴァン様、申し訳ございませんが、事実確認を行わず一方的に娘を傷つけたあなたを、私は許すことが出来ません。ルーナはこの1年、本当に辛そうでした。もちろん、婚約破棄をした後も。もう二度と、娘のあんな顔は見たくないのです。どうか娘の事は諦めて下さい。お願いします」

現国王の弟でもあるクリスティロソン公爵の息子でもある僕に、断りを入れるのは本当に勇気がいる事だろう。それでもルーナの事を考えて、はっきりと断った侯爵。ここは一旦引き下がろう。

「わかりました。今日のところは帰ります。でも僕は、ルーナを諦めるつもりはありません。また来ます」

「何度来ていただいても、私の気持ちは変わりません。どうかもう、諦めて下さい」

そう侯爵に言われたが、僕はどうしても諦められない。それから毎日毎日侯爵家を訪れ、謝罪した。そんな日々を送る事1ヶ月。

「エヴァン殿、君って人は…いい加減諦めて下さい」

はぁ~っとため息を付く侯爵。でも僕は、諦めるつもりはない。

「申し訳ございませんが、僕はどうしてもルーナを諦めることが出来ません。それにしても、ルーナの人気はすさまじいですね。あまりの人気に、ルーナも困惑していますよ。それに、ナタリー嬢の動きも気になります。元々ルーナの事を快く思っていなかったナタリー嬢は、さらに最近ルーナへの風当たりを強めています。このままだとルーナに、直接危害を加えるかもしれませんね…」

「なんだって!ナタリー嬢がですか?そういえばあなたに嘘を吹き込んでルーナを傷つけようとしたのも、ナタリー嬢でしたね。そうですか、彼女はルーナをそんなに目の敵にしているのですか…」

王太子の婚約者でヴィノーデル公爵令嬢とあれば、いくら娘が可愛い侯爵でもどうにか出来るものでもない。もちろん、直接ナタリー嬢がルーナを傷つければ話は別だが…

「侯爵、僕はナタリー嬢がルーナに何かしないか、心配しているのです。我がクリスティロソン公爵家と再度婚約を結び直せば、さすがのナタリー嬢も直接危害を加えてくることはないかと。ただ…僕は最初にお話した様に、ルーナを無理やり手に入れるつもりもありません。もし侯爵が許してくださるなら、たとえ僕の婚約者になってくれなかったとしても、全力でルーナを守りましょう。ですから、どうか僕にもう一度チャンスを頂けませんか?」

自分でも卑怯な事を言っている事は分かっている。でも、どうしてもルーナとやり直すチャンスが欲しいんだ。

真っすぐと侯爵を見つめる。

「…エヴァン殿、あなたって人は…わかりました、もし万が一ルーナが、あなた様と婚約を結び直したいと申しましたら、私は認めましょう。ただし、くれぐれもルーナを無理やり手に入れる様な事はなさらないで下さい。それから…ナタリー嬢の事も…」

はぁ~とため息を付き、そう言った侯爵。

「ありがとうございます。もちろん、ルーナの気持ちを最優先させるつもりです。絶対に無理やり手に入れたりはしません。それからナタリー嬢の件も、任せて下さい。絶対にルーナを傷つけさせませんから!」

よし!これでやっと、ルーナに近づける。そう思ったら、つい頬が緩んだ。もちろん、これからが本番だが。

「本当にあなたという方は…でも、私はまだあなた様を信じておりませんので」

「ええ、分かっております。侯爵の信頼を取り戻せるように、全力で頑張ります。それから、万が一ナタリー嬢がルーナに手を出す可能性を考え、公爵家からルーナに影の護衛を付けようと思っているのですが、よろしいでしょうか?」

我が国には影の護衛と言われる、護衛のスペシャリストが存在する。彼らは非常に優秀で、そんじょそこらの護衛とはレベルが違うのだ。主に王族や高貴貴族(公爵家)に雇われていることが多い。

ちなみに父上が公爵に降りるとき、数名の陰の護衛を連れて来たのだ。さらに我が公爵家では、陰の護衛騎士の育成にも力を入れている。もちろん、僕がその護衛を使う事も許されているのだ。

「影の護衛を娘にだなんて、そんな恐れ多いです。そこまでしていただかなくても大丈夫です」

「何をおっしゃっているのですか?ナタリー嬢を侮ってはいけません。万が一ルーナに何かあったらどうするのですか?とにかく我が家で育成している影の護衛騎士を付けさせていただきます。既に父上にも話は通してありますので」

「そうですか…それでは、よろしくお願いします。でも、護衛を付ける事で、娘をよこせなんて言いませんよね?」

「そんな事は言いませんから、安心してください」

こうして僕は、侯爵家から許可が下りた。よし、明日早速ルーナに謝罪しよう。そう心に決めたのだった。
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