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第1話:婚約破棄、承知いたしました

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「ルーナ、申し訳ないが僕たちの婚約を破棄しよう」

公爵家の一室で、冷たく言い放ったのは、私の婚約者、エヴァン様だ。

「エヴァン殿、お待ちください。どうして急に婚約破棄などとおっしゃられるのですか?そもそも、この婚約はあなた様が熱望してなされたものです。それなのに…娘だってきっと、急にそんな事を言われても、戸惑っているはずです。公爵も何かおっしゃってください!」

お父様が必死にエヴァン様とエヴァン様のお父様でもある、クリスティロソン公爵に訴えかけている。

「すまない…アルフィーノ侯爵。私も息子に何度も考え直すように伝えたのだが…“ルーナ譲と婚約破棄したい”の一点張りで…それにかなり思い悩んでいた様で、相当な覚悟で言い出したようなんだ。本当に申し訳ない。慰謝料は通常の2倍だそう。だからどうか、婚約破棄させてやってくれないだろうか」

この通りだ!と言わんばかりに、公爵が必死に頭を下げている。ここまでされたら、さすがのお父様も何も言えない。

ついにエヴァン様は、私との婚約破棄を申し出たのね…薄々は感じていたわ…

私、ルーナ・アルフィーノは、幼馴染の公爵令息、エヴァン様が昔から大好きだった。いつも私の傍にいて、私が令息や令嬢に虐められたら、すぐに助けてくれる、本当にヒーローの様な存在だった。

エヴァン様も私を大切に思ってくれていた様で、私たちが8歳の時、めでたく婚約を結んだ。婚約後も相変わらず私に寄り添ってくれていたエヴァン様。それは13歳で貴族学院に入学してからも、変わる事がなかった。でも…

貴族学院2年になった頃、急に私に冷たくする様になったのだ。私以外には優しいのに、私が話しかけると、冷たい目で睨みつける様になった。最初はとても戸惑った。何か悪い事でもしなのかと思って聞いても“別に…”と言うのみ。

それでも私はエヴァン様が大好きだった。だから必死に元の関係に戻ろうと、エヴァン様の傍にいた。でも、段々私の存在を無視する様になったエヴァン様。夜会などでも、最初のエスコートはしてくれるものの、すぐに男友達の元に行ってしまう。それでもこの1年、必死にエヴァン様に振り向いてもらえる様、頑張って来たつもりだった。でも…

1年もの間、嫌われ無視され続けたら、さすがの私の心も折れてしまったのだ。もう私の知っている、優しかったエヴァン様はいない。私もいい加減、疲れてしまったわ…

婚約破棄をすれば、私の心も少しは軽くなるかもしれない。それに何より、これ以上私の事を毛嫌いしているエヴァン様と一緒にいても、辛いだけ。

「エヴァン様、公爵様、わかりました。婚約破棄の件、お受けいたします…」

そんな思いから、私は2人に向かって、そう伝えた。

「ルーナ、本当にそれでいいのか?ずっと仲睦まじかったじゃないか!確かに最近は仲がこじれていた様だったが…本当に後悔はないのかい?」

お父様が私に問いかけてくる。

「ええ…大丈夫ですわ」

お父様に向かって力なく笑った。そんな私の顔を見たお父様が、何かを察してくれた様で

「わかりました、婚約破棄の件、お受けいたします」

そう呟いたのだ。

「アルフィーノ侯爵、ルーナ嬢、本当に息子が申し訳なかった。それじゃあ、早速この婚約破棄の書類にサインをしてもらえるだろうか?私と息子の分は、既にサインしてあるから」

公爵様から手渡された紙に、お父様と一緒にサインする。エヴァン様と婚約出来たあの日、嬉しくて天にも昇る気持ちだった。でも…こうもあっさりと、婚約を破棄されてしまうのね。

そう思ったら、無性に空しくて、泣きそうになった。

サインを済ませた紙を、公爵様が執事に渡す。

「それじゃあ、この紙を今すぐ提出してきてくれるかい?」

「かしこまりました」

4人で執事が出ていくのを見守る。これで私とエヴァン様を縛るものはなくなった…本当に、あっけないものね…

「アルフィーノ侯爵、ルーナ嬢、息子の我が儘のせいで、本当にすまなかった。後日慰謝料は侯爵家の口座に振り込ませてもらうよ」

改めてクリスティロソン公爵が頭を下げた。慰謝料…正直そんなものはいらないわ。

「それでは私たちはこれで失礼いたします。さあ、ルーナ、帰ろう」

優しい眼差しで私を見つめるお父様。その眼差しが、今の私には辛い。それでも最後に、言いたい事だけは言っておこう。

スッと立ち上がると、まっすぐエヴァン様を見つめた。相変わらず私を見ることなく、俯いている。

「エヴァン様、私はあなた様に出会ったあの日から、ずっとあなた様をお慕いしておりました。8歳であなた様と婚約できたあの日は、本当に嬉しくて、夢の様でした。あれから7年、こんな形でお別れする事になってしまった事、正直悲しく思います。それでも私は、エヴァン様と婚約できたこと、そしてあなた様の傍にいれた事、とても幸せに思います。本当にありがとうございました」

気が付くと、瞳から涙がポロポロと溢れていた。それでも最後は笑顔でいたくて、必死に笑顔を作る。

すると、ゆっくりと顔をあげたエヴァン様の美しいエメラルドグリーンの瞳と目が合った。

「ルーナ…君は…」

「さようなら…エヴァン様…」

最後ににっこりとほほ笑み、そのままクルリと後ろを向いた。そして、部屋を出ていく。

「待って…ルーナ…」

後ろからエヴァン様の声が聞こえた気がしたが、一切後ろを振り向かずにそのまま部屋を出たのだった。



~あとがき~
新連載始めました。
よろしくお願いしますm(__)m
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