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第89話:ルージュに会いたい~グレイソン視点~
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この日の夜、僕は一睡もできないまま、朝を迎えた。騎士団の稽古に行く気になんてとてもなれない。
「お坊ちゃま、お嬢様のお部屋の前に立っていらしても、お嬢様はもういらっしゃいません。それよりも、そろそろ学院に行くお時間です」
「ああ、分かっているよ」
執事に促され、馬車に乗り込み学院を目指す。つい1ヶ月ほど前まで、ルージュと一緒に馬車に乗って学院に行っていた。でも今は…
僕が最後に見たルージュの顔は、涙を流しながらそれでも笑っていた。あんな酷い言葉を投げかけたのに、最後まで僕に笑顔を向けてくれたルージュ。
そして僕の事を思い、自ら屋敷を出て行ったのだ。ルージュは一体、どんな思いで屋敷を去ったのだろう。そして今、どんな気持ちでいるのだろう。
ルージュに会いたい。会って謝りたい。1度目の生の事はもちろん、心にもない事を言ってルージュを傷つけてしまった事を。僕はどこまでルージュを傷つければ、気が済むのだろう。
ルージュの事を思うと、胸が張り裂けそうになる。僕が愚かなばかりに、1度ならず2度までも、ルージュの人生を大きく狂わせてしまうだなんて…
「お坊ちゃま、学院に着きましたよ」
ルージュの事を考えているうちに、学院に着いていた様だ。急いで馬車から降りた。
「グレイソン、おはよう…て、お前、なんて顔をしているのだい?酷い顔じゃないか。とにかく、医務室で休んだ方がいい」
僕に声をかけて来たのは、アルフレッドだ。
「アルフレッド、僕のせいでルージュが…ルージュが…」
アルフレッドの顔を見たら、一気に感情が溢れ出し、涙がポロポロと流れ出る。
「グレイソン、しっかりしろ。とにかくこっちに」
僕の背中を押し、やって来たのは人気の少ない校舎裏だ。
「落ち着けよ、グレイソン。一体何があったんだよ」
「僕のせいでルージュが…ルージュが屋敷を出て行ってしまったんだ。僕がルージュに酷い事を言ったから、ルージュは僕の事を思って…僕はルージュの気持ちを踏みにじり、屋敷から追い出してしまった。本当に最低な人間なんだ…」
「そういえばマリーヌが、ルージュ嬢が国を出て行ったと言っていたな」
「マリーヌ嬢は、ルージュが国を出た事を知っているのかい?」
「ああ、2日前の夜、ルージュ嬢が挨拶に来たらしい。どんな話をしたかは知らないが、マリーヌは案外落ち込んでいなくてさ。“ルージュがやりたいようにしたらいいわ”そう言って笑っていたんだよ」
「そうか、やっぱりルージュは国を出たのだな…僕のせいで…僕がルージュを傷つけたから、きっとルージュは…僕さえいなくなれば、ルージュはまた公爵家に戻ってきてくれるかな?」
「グレイソン、お前とルージュ嬢の間で何があったか俺は分からない。ただ、俺はお前のウジウジした態度が気に入らない!そもそもお前、“ルージュ嬢の為にも自分はいない方がいい”なんて言っていたよな。でもそれって、本当にルージュ嬢が望んでいた事なのか?お前は自分を犠牲にすればいいと考えているみたいだけれど、俺はお前のその考えが大嫌いだ!どうして己の手で幸せにしてやろうと考えないのだよ!」
「アルフレッドに何が分かるんだよ!ルージュは僕を恨んでいるんだ。だから僕は、ルージュの傍から離れようとしたのに…ルージュが僕から離れられる様に、あえて“君の顔なんて見たくない。大嫌いだ”と言ったんだ。でも、そのせいでルージュは、屋敷を出て行ってしまった。だから僕は…」
「はっ?お前、バカなのか?どうしてそんな酷い事を言ったんだよ。そもそも、どうしてルージュ嬢がお前の恨んでいると思うんだ?お前はルージュ嬢の何を見ていたんだよ。どう見ても、お前に好意的だったじゃないか?何年ルージュ嬢と一緒にいるんだよ。このバカグレイソンが!」
確かにアルフレッドの言う通り、僕はバカだ。でも、アルフレッドは1度目の生の事を知らないから、そんな事を言えるんだ。あんな話を聞かされたら、誰だって自分は恨まれていると思うだろう。
だって僕のせいで、ルージュと義両親は命を奪われてしまったのだから…
「グレイソン、しっかりしろよ。本当にルージュ嬢は、お前の事を恨んでいたのか?俺にはとてもそんな風には見えなかったぞ。お前に避けられて、悲しそうにお前を見つめているルージュ嬢を、俺は何度も見て来た。マリーヌの話では、ルージュ嬢、相当落ち込んでいた様だったぞ。ルージュ嬢はどうみても、グレイソンを大切にしていたのに。それなのに、どうして?」
「どうして?それは僕がルージュに嫌われていると思い込んでいたからだよ。僕はルージュに謝っても許されない程、酷い事をしてしまったんだ…だから僕は、ルージュの傍から離れようとした。でも…」
「謝っても許されない事をしたって、どうしてお前が決めるんだよ。許すか許さないかは、ルージュ嬢が決める事だろう?お前がルージュ嬢に何をしたかは俺は知らないが、悪い事をしたならまず謝るべきだろう。そのうえで、許すか許さないかを決めるのはルージュ嬢だ。違うか?」
確かにアルフレッドの言う通りだ。僕は殿下から1度目の生の事を聞かされた時、ルージュに恨まれているに違いないと思い込んでいた。ルージュとろくに話もせずに、ただ彼女を避け、挙句の果てに酷い暴言を吐いて傷つけてしまったのだ。
ルージュは僕の為に国を出るくらい、僕の事を大切に思ってくれていたのに。それなのに僕は、ルージュの気持ちを裏切ったのだ。
「お坊ちゃま、お嬢様のお部屋の前に立っていらしても、お嬢様はもういらっしゃいません。それよりも、そろそろ学院に行くお時間です」
「ああ、分かっているよ」
執事に促され、馬車に乗り込み学院を目指す。つい1ヶ月ほど前まで、ルージュと一緒に馬車に乗って学院に行っていた。でも今は…
僕が最後に見たルージュの顔は、涙を流しながらそれでも笑っていた。あんな酷い言葉を投げかけたのに、最後まで僕に笑顔を向けてくれたルージュ。
そして僕の事を思い、自ら屋敷を出て行ったのだ。ルージュは一体、どんな思いで屋敷を去ったのだろう。そして今、どんな気持ちでいるのだろう。
ルージュに会いたい。会って謝りたい。1度目の生の事はもちろん、心にもない事を言ってルージュを傷つけてしまった事を。僕はどこまでルージュを傷つければ、気が済むのだろう。
ルージュの事を思うと、胸が張り裂けそうになる。僕が愚かなばかりに、1度ならず2度までも、ルージュの人生を大きく狂わせてしまうだなんて…
「お坊ちゃま、学院に着きましたよ」
ルージュの事を考えているうちに、学院に着いていた様だ。急いで馬車から降りた。
「グレイソン、おはよう…て、お前、なんて顔をしているのだい?酷い顔じゃないか。とにかく、医務室で休んだ方がいい」
僕に声をかけて来たのは、アルフレッドだ。
「アルフレッド、僕のせいでルージュが…ルージュが…」
アルフレッドの顔を見たら、一気に感情が溢れ出し、涙がポロポロと流れ出る。
「グレイソン、しっかりしろ。とにかくこっちに」
僕の背中を押し、やって来たのは人気の少ない校舎裏だ。
「落ち着けよ、グレイソン。一体何があったんだよ」
「僕のせいでルージュが…ルージュが屋敷を出て行ってしまったんだ。僕がルージュに酷い事を言ったから、ルージュは僕の事を思って…僕はルージュの気持ちを踏みにじり、屋敷から追い出してしまった。本当に最低な人間なんだ…」
「そういえばマリーヌが、ルージュ嬢が国を出て行ったと言っていたな」
「マリーヌ嬢は、ルージュが国を出た事を知っているのかい?」
「ああ、2日前の夜、ルージュ嬢が挨拶に来たらしい。どんな話をしたかは知らないが、マリーヌは案外落ち込んでいなくてさ。“ルージュがやりたいようにしたらいいわ”そう言って笑っていたんだよ」
「そうか、やっぱりルージュは国を出たのだな…僕のせいで…僕がルージュを傷つけたから、きっとルージュは…僕さえいなくなれば、ルージュはまた公爵家に戻ってきてくれるかな?」
「グレイソン、お前とルージュ嬢の間で何があったか俺は分からない。ただ、俺はお前のウジウジした態度が気に入らない!そもそもお前、“ルージュ嬢の為にも自分はいない方がいい”なんて言っていたよな。でもそれって、本当にルージュ嬢が望んでいた事なのか?お前は自分を犠牲にすればいいと考えているみたいだけれど、俺はお前のその考えが大嫌いだ!どうして己の手で幸せにしてやろうと考えないのだよ!」
「アルフレッドに何が分かるんだよ!ルージュは僕を恨んでいるんだ。だから僕は、ルージュの傍から離れようとしたのに…ルージュが僕から離れられる様に、あえて“君の顔なんて見たくない。大嫌いだ”と言ったんだ。でも、そのせいでルージュは、屋敷を出て行ってしまった。だから僕は…」
「はっ?お前、バカなのか?どうしてそんな酷い事を言ったんだよ。そもそも、どうしてルージュ嬢がお前の恨んでいると思うんだ?お前はルージュ嬢の何を見ていたんだよ。どう見ても、お前に好意的だったじゃないか?何年ルージュ嬢と一緒にいるんだよ。このバカグレイソンが!」
確かにアルフレッドの言う通り、僕はバカだ。でも、アルフレッドは1度目の生の事を知らないから、そんな事を言えるんだ。あんな話を聞かされたら、誰だって自分は恨まれていると思うだろう。
だって僕のせいで、ルージュと義両親は命を奪われてしまったのだから…
「グレイソン、しっかりしろよ。本当にルージュ嬢は、お前の事を恨んでいたのか?俺にはとてもそんな風には見えなかったぞ。お前に避けられて、悲しそうにお前を見つめているルージュ嬢を、俺は何度も見て来た。マリーヌの話では、ルージュ嬢、相当落ち込んでいた様だったぞ。ルージュ嬢はどうみても、グレイソンを大切にしていたのに。それなのに、どうして?」
「どうして?それは僕がルージュに嫌われていると思い込んでいたからだよ。僕はルージュに謝っても許されない程、酷い事をしてしまったんだ…だから僕は、ルージュの傍から離れようとした。でも…」
「謝っても許されない事をしたって、どうしてお前が決めるんだよ。許すか許さないかは、ルージュ嬢が決める事だろう?お前がルージュ嬢に何をしたかは俺は知らないが、悪い事をしたならまず謝るべきだろう。そのうえで、許すか許さないかを決めるのはルージュ嬢だ。違うか?」
確かにアルフレッドの言う通りだ。僕は殿下から1度目の生の事を聞かされた時、ルージュに恨まれているに違いないと思い込んでいた。ルージュとろくに話もせずに、ただ彼女を避け、挙句の果てに酷い暴言を吐いて傷つけてしまったのだ。
ルージュは僕の為に国を出るくらい、僕の事を大切に思ってくれていたのに。それなのに僕は、ルージュの気持ちを裏切ったのだ。
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