上 下
73 / 124

第73話:どうしても殿下を受け入れられません

しおりを挟む
「殿下、今日あなたとお話しが出来て、本当によかったですわ。1度目の生の時、本当に絶望しかありませんでした。でも、私が居なくなった後、沢山の人が動いて下さった事が分かって、なんだか心がほっこりしました。ちなみに殿下は、いつ2度目の生が始まったのですか?」


「僕は12歳、初めて君に会ったお茶会の日だよ。ルージュに会ったあの日に戻っていた時、本当に嬉しかったんだ。もう二度とルージュを悲しませない、あの女から必ずルージュを守ると。そして今度こそ、僕の手でルージュを幸せにしたいと。ルージュ、君にとって僕は、憎い相手だろう。それでも僕は、ルージュを愛している。失って初めて君の大切さに気が付いたんだ。どうか僕に、もう一度チャンスを下さい」

お願いします!と言わんばかりに、殿下が頭を下げている。

「殿下のお気持ちは分かりましたわ。あなた様も、1度目の生の時苦労なされたのですね。ですが…正直ご自分でまかれた種でしょう?それでもあなた様が、ご自分の行いを反省し、今ヴァイオレット様と一線を置いている事は分かりました。ただ…やはり私は、あなた様を受け入れる事は出来ません。あなた様といると、1度目の生の時の辛く悲しい日々を思い出すのです。婚約を解消された後だけではありません。あなた様と婚約していた3年間の内、2年は辛い時間でしたので…」

12歳で婚約してから、13歳で貴族学院に入るまでは確かに幸せだった。でも、貴族学院に入り、ヴァイオレットが現れてからの2年は、私にとって苦痛でしかなかったのだ。殿下といると、どうしてもあの時の辛かった記憶が蘇る。私はやはり、殿下を受け入れる事は出来ない。

「ルージュの言う事は最もだ。僕がどれほど君に酷い事をしたか…ルージュ、覚えているかい?僕の14歳の誕生日の時、時計をくれたよね?」

「ええ、覚えておりますわ。私の14歳のお誕生日の時に、殿下が贈って下さった時計とそっくりな物を私は贈ったのですが…あれはやっぱり」

「ああ、そうだよ。あの時ルージュは“これからも僕と共に同じ時間を生きたい”と言って贈ってくれたよね。それなのに僕は、君の気持ちを裏切り、死なせてしまった。君が亡くなった後、ルージュから貰った贈り物を1つ1つ見ていったんだよ。その時、初めてあの時計を見た。そしてルージュの言葉を思い出したんだ。ルージュの気持ちを思うと、本当に申し訳なくて…あの時ルージュが教えてくれた言葉を、今度は僕がルージュに送りたいと思って、あの時計を贈ったんだ」

「そうだったのですね…でも、私は…」

「僕がルージュにした仕打ちを思えば、君が僕を受け入れられない事も十分に分かっている。それでも僕は、ルージュが大好きだ。もしまたヴァイオレットに君を傷つけられるかと思うと、気が気ではない。君に振り向いてもらえなくても、仕方がないと思っている。ただ、ヴァイオレットにだけは、君を傷つけられたくない。だから、どうか僕に、君を守らせてほしい」

「私を守るですか?でも…」

「ヴァイオレットは恐ろしい女だ。きっとまた、何か仕掛けてくる。もしかしたら、君の命を狙ってくるかもしれない。僕はもう、あの女にルージュを奪われたくはないんだよ」

「確かにヴァイオレット様ならきっと、何かして来るでしょう。ですが私は、殿下に守ってもらわなくても、自分で何とかいたしますわ」

「そうは言っても、あの女は恐ろしい女だ。それに僕は王太子だ、もし何かあったとき、きっと君の役に立てると思う。ただ…君を守るという言い方が良くなかったかな。これからも、ルージュの傍にいさせて欲しい。それでもしあの女が何かして来たら、その時は僕も手助けをするというのはどうだい?」

必死に殿下が訴えてくる。

「分かりましたわ。ただ、私は殿下の事を受け入れる事は出来ません。その事をしっかりご理解いただいたうえで、友人としてお付き合いしていくという事なら、構いません」

「本当かい?ありがとう、ルージュ。僕は君の傍にいられるだけで、十分幸せだよ」

そう言うと、それはそれは嬉しそうに殿下が笑ったのだ。その笑顔を見た瞬間、なぜか胸が痛んだ。

この人、本当に変わったのね。きっと1度目の生の時、よほど苦労したのだろう。

だからと言って、やはり殿下を受け入れる事は考えられない。それだけは変わらない事実だ。

「そろそろ日も暮れるし、帰ろうか」

2人で門を目指して歩き始めた。こんな風に殿下と2人で歩くだなんて、何だか不思議ね。そんな事を考えているうちに、門までやって来た。

「今日は本当にありがとうございました。それではまた明日」

「こっちこそ、ルージュと話が出来てよかったよ。気を付けて帰ってね」

殿下に挨拶を済ませ、馬車に乗り込む。すると、なぜか殿下がずっと手を振ってくれているのだ。その姿を見た瞬間、婚約したころの事を思いだした。あの人は本当に変わったのかもしれない。いいえ、昔の優しかったころの殿下に戻ったのだろう。

1度目の生の時、何度も何度も昔の優しかった殿下に戻って欲しい、そう願った。でも、その願いは叶わなかった。まさか2度目の生で、あの時の願いが叶うだなんて…

なんだか複雑な気持ちのまま、殿下に手を振り返したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢、猛省中!!

***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」 ――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。 処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。 今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!? 己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?! 襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、 誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、  誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。 今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。  一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。  そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

悪女と呼ばれた王妃

アズやっこ
恋愛
私はこの国の王妃だった。悪女と呼ばれ処刑される。 処刑台へ向かうと先に処刑された私の幼馴染み、私の護衛騎士、私の従者達、胴体と頭が離れた状態で捨て置かれている。 まるで屑物のように足で蹴られぞんざいな扱いをされている。 私一人処刑すれば済む話なのに。 それでも仕方がないわね。私は心がない悪女、今までの行いの結果よね。 目の前には私の夫、この国の国王陛下が座っている。 私はただ、 貴方を愛して、貴方を護りたかっただけだったの。 貴方のこの国を、貴方の地位を、貴方の政務を…、 ただ護りたかっただけ…。 だから私は泣かない。悪女らしく最後は笑ってこの世を去るわ。  ❈ 作者独自の世界観です。  ❈ ゆるい設定です。  ❈ 処刑エンドなのでバットエンドです。

処理中です...