上 下
47 / 124

第47話:この親にしてこの娘あり

しおりを挟む
「グレイソン殿の気持ちはよく分かりました。確かに今回の事件は、有耶無耶に出来る事ではありません。ただ、君たちはまだ13歳です。今君たちだけで、どうこう話していてもらちが明かない。今ご両親をお呼びしたので、ご両親の元、しっかり今後の事を話し合いましょう」

「えっ、両親を呼んだのですか?」

「そんな…さすがにそれはまずい」

令息たちが、真っ青な顔をして俯いている。ただ、ヴァイオレットだけは、なぜかニヤリと笑っているのだ。

「失礼いたします。各ご家庭のご両親がいらっしゃいました。皆様、どうぞこちらへ」

不安そうな顔で、それぞれ両親が入って来た。もちろん、お父様とお母様もいる。

「グレイソン、ルージュ、急に学院に呼び出されてびっくりしたよ。一体何があったんだい?」

「義父上、我が家を陥れようとした不届き者が現れ、大問題になったのですよ。とにかく先生のお話しを」

一旦両親たちも席に座り、先生が今朝起こった事を映像と一緒に説明した。

「ご覧の通り、ここにいる3人が、ルージュ嬢の専属メイドを陥れようとしたのです。さすがにこのまま放置という訳にはいきませんので、皆様をお呼びだてした次第です」

「この度は息子が大変な罪を犯してしまい、本当に申し訳ございませんでした。まさか人様の家のメイドを陥れようとするだなんて」

「家の息子も、本当に申し訳ございませんでした。貴族として有るまじき行為です。どんな処罰でも受け入れます。もちろん慰謝料もお支払いいたしますので」

令息たちのご両親と、令息が必死に頭を下げている。

ただ、あの女の両親だけは、なぜか涼しそうな顔をしている。何なの、この人たちは。娘が主犯格で、公爵家のメイドを陥れようとしたのよ。それなのに、なんでこんな涼しい顔をしているの?

「さっきから聞いていれば、大げさな。確かに娘の行った事は、褒められる事ではありません。でも、たかがメイドでしょう?メイドを陥れただけで、そんなに騒がれてもねぇ」

この男は何を言っているの?たかがメイド?

「お言葉ですがファウスン侯爵殿、たかがメイドとおっしゃいますが、彼女はルージュ嬢の専属メイドです。彼女が何かをやらかせば、主でもあるルージュ嬢の評判に関わる事ですぞ。ヴァイオレット嬢の行いは、間接的にルージュ嬢を陥れた事と同じ事です。その意味を、侯爵でもあるあなた様が、分からない訳ではないでしょう」

学院長先生がファウスン侯爵に問いかけている。顔は笑顔だが、目が明らかに笑っていない。きっと学院長先生は、猛烈に怒っているのだろう。

「ですが学院長先生、結果的にルージュ嬢の名誉は傷つかなかった。それならいいではありませんか?それよりもヴァイオレットは、ずっとルージュ嬢から酷い虐めを受けていたとの事です。そっちの方が問題ではないですか?」

この親にしてこの娘あり!その言葉がしっくりくるほど、侯爵もろくでもない人間だ。

「その件に関しては、聞き取りを行ったところ、ヴァイオレット嬢の虚偽と言う事も分かっています」

「どうして娘の虚偽だと言い切れるのですか?そもそもこんな映像まで勝手に録画して、貴族学院にはプライバシーと言うものはないのですか?」

何なのよこいつ!さすがの先生たちも、怒りからかプルプルしている。同じく怒りが頂点に達したグレイソン様が何か言おうとした瞬間、お父様がそっと止めた。

「要するに、うちのルージュがヴァイオレット嬢に酷い事をしたため、その腹いせに今回の事件をおこしたといいたいのですか?分かりました。そこまでおっしゃるのでしたら、ルージュがヴァイオレット嬢を虐めていたという証拠を出してください。もちろんありますよね、そこまでおっしゃるのですから」

いつも穏やかなお父様が、珍しく怒っている。

「証拠なんてありませんよ。ヴァイオレットがそう言っているのですから、その言葉が証拠です」

この男、1度目の時の殿下に言動がよく似ているわ。この女に関わると、皆頭がおかしくなってしまうのかしら?

「そうですか。分かりました。それでは裁判で明らかにしましょう。もし裁判でルージュがヴァイオレット嬢を虐めていた証拠が出てきたら、その時はルージュを勘当いたします。ただ、もしヴァイオレット嬢が虚偽の証言をしていたというのでしたら、その時は名誉棄損と侮辱罪で、我が家はヴァイオレット嬢を訴えます。それでよろしいですね?」

「ちょっと待って下さい、裁判だなんて。もしかしたら私の勘違いだったかもしれませんわ。お父様、裁判なんてして頂かなくても大丈夫です」

さすがのあの女も慌てている。もし私がヴァイオレットを虐めているという証拠がなければ、彼女は侮辱罪と名誉棄損で訴えられるのだ。有罪が確定すれば、貴族犯罪者収容所に収監される。それは避けたいのだろう。

「ヴァイオレットは優しいな。君がそう言うなら、裁判は勘弁してあげよう。とにかく、今回の件は慰謝料を支払う、それでよろしいですね。それでは失礼いたします。ヴァイオレット、今日はもう帰ろう」

そう言うと、侯爵と夫人、ヴァイオレット様が部屋から出て行った。

「話はまだ終わっていませんよ」

先生が叫んだが、無視して出て行ってしまった。本当にあの親子は…
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢、猛省中!!

***あかしえ
恋愛
「君との婚約は破棄させてもらう!」 ――この国の王妃となるべく、幼少の頃から悪事に悪事を重ねてきた公爵令嬢ミーシャは、狂おしいまでに愛していた己の婚約者である第二王子に、全ての罪を暴かれ断頭台へと送られてしまう。 処刑される寸前――己の前世とこの世界が少女漫画の世界であることを思い出すが、全ては遅すぎた。 今度生まれ変わるなら、ミーシャ以外のなにかがいい……と思っていたのに、気付いたら幼少期へと時間が巻き戻っていた!? 己の罪を悔い、今度こそ善行を積み、彼らとは関わらず静かにひっそりと生きていこうと決意を新たにしていた彼女の下に現れたのは……?! 襲い来るかもしれないシナリオの強制力、叶わない恋、 誰からも愛されるあの子に対する狂い出しそうな程の憎しみへの恐怖、  誰にもきっと分からない……でも、これの全ては自業自得。 今度こそ、私は私が傷つけてきた全ての人々を…………救うために頑張ります!

【コミカライズ決定】地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

【完結】不誠実な旦那様、目が覚めたのでさよならです。

完菜
恋愛
 王都の端にある森の中に、ひっそりと誰かから隠れるようにしてログハウスが建っていた。 そこには素朴な雰囲気を持つ女性リリーと、金髪で天使のように愛らしい子供、そして中年の女性の三人が暮らしている。この三人どうやら訳ありだ。  ある日リリーは、ケガをした男性を森で見つける。本当は困るのだが、見捨てることもできずに手当をするために自分の家に連れて行くことに……。  その日を境に、何も変わらない日常に少しの変化が生まれる。その森で暮らしていたリリーには、大好きな人から言われる「愛している」という言葉が全てだった。  しかし、あることがきっかけで一瞬にしてその言葉が恐ろしいものに変わってしまう。人を愛するって何なのか? 愛されるって何なのか? リリーが紆余曲折を経て辿り着く愛の形。(全50話)

ごめんなさい、お姉様の旦那様と結婚します

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
しがない伯爵令嬢のエーファには、三つ歳の離れた姉がいる。姉のブリュンヒルデは、女神と比喩される程美しく完璧な女性だった。端麗な顔立ちに陶器の様に白い肌。ミルクティー色のふわふわな長い髪。立ち居振る舞い、勉学、ダンスから演奏と全てが完璧で、非の打ち所がない。正に淑女の鑑と呼ぶに相応しく誰もが憧れ一目置くそんな人だ。  一方で妹のエーファは、一言で言えば普通。容姿も頭も、芸術的センスもなく秀でたものはない。無論両親は、エーファが物心ついた時から姉を溺愛しエーファには全く関心はなかった。周囲も姉とエーファを比較しては笑いの種にしていた。  そんな姉は公爵令息であるマンフレットと結婚をした。彼もまた姉と同様眉目秀麗、文武両道と完璧な人物だった。また周囲からは冷笑の貴公子などとも呼ばれているが、令嬢等からはかなり人気がある。かく言うエーファも彼が初恋の人だった。ただ姉と婚約し結婚した事で彼への想いは断念をした。だが、姉が結婚して二年後。姉が事故に遭い急死をした。社交界ではおしどり夫婦、愛妻家として有名だった夫のマンフレットは憔悴しているらしくーーその僅か半年後、何故か妹のエーファが後妻としてマンフレットに嫁ぐ事が決まってしまう。そして迎えた初夜、彼からは「私は君を愛さない」と冷たく突き放され、彼が家督を継ぐ一年後に離縁すると告げられた。

婚約破棄された王太子妃候補は第一王子に気に入られたようです。

永野水貴
恋愛
侯爵令嬢エヴェリーナは未来の王太子妃として育てられたが、突然に婚約破棄された。 王太子は真に愛する女性と結婚したいというのだった。 その女性はエヴェリーナとは正反対で、エヴェリーナは影で貶められるようになる。 そんなある日、王太子の兄といわれる第一王子ジルベルトが現れる。 ジルベルトは王太子を上回る素質を持つと噂される人物で、なぜかエヴェリーナに興味を示し…? ※「小説家になろう」にも載せています

妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
恋愛
マリアはドレーク伯爵家の長女で、ドリアーク伯爵家のフリードと婚約していた。 だが、パーティ会場で一方的に婚約を解消させられる。 しかも新たな婚約者は妹のロゼ。 誰が見てもそれは陥れられた物である事は明らかだった。 だが、敢えて反論もせずにそのまま受け入れた。 それはマリアにとって実にどうでも良い事だったからだ。 主人公は何も「ざまぁ」はしません(正当性の主張はしますが)ですが...二人は。 婚約破棄をすれば、本来なら、こうなるのでは、そんな感じで書いてみました。 この作品は昔の方が良いという感想があったのでそのまま残し。 これに追加して書いていきます。 新しい作品では ①主人公の感情が薄い ②視点変更で読みずらい というご指摘がありましたので、以上2点の修正はこちらでしながら書いてみます。 見比べて見るのも面白いかも知れません。 ご迷惑をお掛けいたしました

処理中です...