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第26話:殿下とご対面です
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久しぶりに見る王宮。もう二度とこの場所に来ることはないと思い、あの日荷物の荷台に乗せられた。でも、ひょんなことから過去に戻り、またこの場所に来ることになったのだ。
あの日、王宮は辛い場所になった。毎日通った王宮、王宮使用人とも仲良くなって、王妃様にも優しくしてもらって、楽しい時間を過ごしていたこともあった。
でも…
やっぱりこの場所は、私がいる場所ではない。
「ルージュ、大丈夫かい?やっぱり帰るかい?」
王宮を見つめ、固まっていた私を心配そうにグレイソン様が見つめている。いけないわ、こんなところで固まっていては。私は公爵令嬢、いずれ誰か別の貴族に嫁ぐとしても、王宮主催のイベントには参加しないといけないだろう。
私は貴族なのだ。王宮には定期的に足を運ばないといけない、それが貴族の宿命なのだから。それに私が苦手なのは、クリストファー殿下だ。彼にさえ近づかなければ、きっと大丈夫。
「ごめんなさい、私は大丈夫ですわ。今日の会場は中庭でしたわね。さあ、行きましょう」
グレイソン様の手を引き、中庭へと向かった。懐かしいわ、あの頃とちっとも変っていないのね。でも、まだ私の好きなキンシバイ畑はなさそうだ。私が殿下と婚約した記念に、殿下が私の好きなキンシバイ畑を王宮の中庭に作ってくれたのだ。
あの頃はまだ、殿下は私にも優しかったな…学院に入学後は、見る影もなくなったが…
「ルージュ、どうして王宮の中庭の場所を知っているのだい?今日王宮に始めて来たのだよね?」
グレイソン様が不思議そうに問いかけて来たのだ。しまった、つい1度目の生の時の記憶が出てしまったわ。どうしよう…
「えっと…さっき近くにいた使用人が、こっそりと教えてくれたのですわ。王宮の使用人は、みんな親切ですわね」
オホホホホ、扇子で口元を隠し、極力冷静に伝えた。
「そうだったのだね。でもルージュが使用人と話をしている姿を見ていないけれど…」
マズいわ、グレイソン様が怪しんでいる。話題を変えないと。話題を…
その時だった。
「ルージュ、グレイソン様。ごきげんよう。今日はルージュも来たのね。もう、びっくりしたわ、風邪一つ引かないルージュが、熱を出したというのだもの」
「マリーヌ、いくら何でもルージュ嬢に失礼だろう。グレイソンから聞いたよ。今日は俺たちがずっと傍にいるから、安心してくれ」
マリーヌとアルフレッド様が笑顔で話しかけてきてくれた。2人の顔を見た瞬間、なんだかホッとした。ちなみに半年ほど前に、マリーヌとアルフレッド様は正式に婚約を結んだのだ。
「ありがとう、2人とも。今日はよろしくお願いします」
「それにしても、誰とでも仲良くなれるルージュが、王太子殿下には関わりたくないだなんて。それも会った事がないのでしょう?もしかして…いいえ、何でもないわ」
マリーヌがニヤニヤしながらこちらを見ている。この子、何か変な誤解をしているのではないかしら?もしかして私のドレスを見て、よからぬことを考えているのでは?
「マリーヌ、あなた、変な誤解をしているといけないからはっきり言うけれど、私は…」
「ルージュ、マリーヌ、アルフレッド様、グレイソン様、こちらにいらしたのですね」
私達の元にやって来たのは、セレーナ、メアリー、ミシェルだ。どうやら皆来ていた様だ。
「皆も来ていたのね。そろそろお茶会も始まるし、今日はずっと皆でいましょうね」
仲の良い友人たちみんなと合流できた。皆がいるだけで、なんだか大丈夫な気がして来た。
その時だった。周りから黄色い悲鳴が聞こえた。ゆっくり振り返ると…
金色のサラサラの髪に緑色の瞳をした少年が、やって来たのだ。その瞬間、恐怖で体が震え、無意識にグレイソン様にしがみついた。
間違いない、クリストファー様だわ。穏やかな表情を浮かべているが、私には恐怖でしかない。すると次の瞬間、あろう事かあの男と目があったのだ。そして何を思ったのか、ほほ笑んだ。
「イヤ!!」
さらにグレイソン様に強くしがみつく。怖い…あの微笑み。あの日私たちを国外追放にすると言い放った後にほほ笑んだ時と同じ微笑を今、私に向けている。また私たちの命を奪おうと考えているの?
嫌よ…もう二度とあんな思いはしたくない。私の家族を奪われたくない。死にたくない。家族が死ぬのも見たくない。怖い…
「ルージュ、どうしたのだい?大丈夫だから落ち着いてくれ」
「「「「「ルージュ」」」」
「ルージュ嬢!」
皆の声で我に返った私は
「ごめんなさい、ちょっと怖い事を思い出してしまったの。あの方が王太子殿下なのね」
「あなた、顔が真っ青よ。本当に大丈夫なの?そうよ、彼がこの国の王太子、クリストファー殿下よ。それにしても、凄い人気ね。一気に令嬢たちに囲まれているわ」
「本当ね、まあ、私達には関係ない話よ。クリストファーには、私たちに話しかけてこないで!と言っておいたから、多分話しかけてくることはないわ」
「セレーナと殿下は、従姉弟同士だったわね。殿下にそんな事を言えるのは、セレーナくらいよ」
そう言って皆が笑っている。そうよ、私には心強い友人たちがいる。きっと大丈夫。セレーナが殿下に既に話をしてくれているのなら、彼が私に絡んでくる事はないはずだ。
とにかく目立たない様に、この場をやり過ごさないと。
あの日、王宮は辛い場所になった。毎日通った王宮、王宮使用人とも仲良くなって、王妃様にも優しくしてもらって、楽しい時間を過ごしていたこともあった。
でも…
やっぱりこの場所は、私がいる場所ではない。
「ルージュ、大丈夫かい?やっぱり帰るかい?」
王宮を見つめ、固まっていた私を心配そうにグレイソン様が見つめている。いけないわ、こんなところで固まっていては。私は公爵令嬢、いずれ誰か別の貴族に嫁ぐとしても、王宮主催のイベントには参加しないといけないだろう。
私は貴族なのだ。王宮には定期的に足を運ばないといけない、それが貴族の宿命なのだから。それに私が苦手なのは、クリストファー殿下だ。彼にさえ近づかなければ、きっと大丈夫。
「ごめんなさい、私は大丈夫ですわ。今日の会場は中庭でしたわね。さあ、行きましょう」
グレイソン様の手を引き、中庭へと向かった。懐かしいわ、あの頃とちっとも変っていないのね。でも、まだ私の好きなキンシバイ畑はなさそうだ。私が殿下と婚約した記念に、殿下が私の好きなキンシバイ畑を王宮の中庭に作ってくれたのだ。
あの頃はまだ、殿下は私にも優しかったな…学院に入学後は、見る影もなくなったが…
「ルージュ、どうして王宮の中庭の場所を知っているのだい?今日王宮に始めて来たのだよね?」
グレイソン様が不思議そうに問いかけて来たのだ。しまった、つい1度目の生の時の記憶が出てしまったわ。どうしよう…
「えっと…さっき近くにいた使用人が、こっそりと教えてくれたのですわ。王宮の使用人は、みんな親切ですわね」
オホホホホ、扇子で口元を隠し、極力冷静に伝えた。
「そうだったのだね。でもルージュが使用人と話をしている姿を見ていないけれど…」
マズいわ、グレイソン様が怪しんでいる。話題を変えないと。話題を…
その時だった。
「ルージュ、グレイソン様。ごきげんよう。今日はルージュも来たのね。もう、びっくりしたわ、風邪一つ引かないルージュが、熱を出したというのだもの」
「マリーヌ、いくら何でもルージュ嬢に失礼だろう。グレイソンから聞いたよ。今日は俺たちがずっと傍にいるから、安心してくれ」
マリーヌとアルフレッド様が笑顔で話しかけてきてくれた。2人の顔を見た瞬間、なんだかホッとした。ちなみに半年ほど前に、マリーヌとアルフレッド様は正式に婚約を結んだのだ。
「ありがとう、2人とも。今日はよろしくお願いします」
「それにしても、誰とでも仲良くなれるルージュが、王太子殿下には関わりたくないだなんて。それも会った事がないのでしょう?もしかして…いいえ、何でもないわ」
マリーヌがニヤニヤしながらこちらを見ている。この子、何か変な誤解をしているのではないかしら?もしかして私のドレスを見て、よからぬことを考えているのでは?
「マリーヌ、あなた、変な誤解をしているといけないからはっきり言うけれど、私は…」
「ルージュ、マリーヌ、アルフレッド様、グレイソン様、こちらにいらしたのですね」
私達の元にやって来たのは、セレーナ、メアリー、ミシェルだ。どうやら皆来ていた様だ。
「皆も来ていたのね。そろそろお茶会も始まるし、今日はずっと皆でいましょうね」
仲の良い友人たちみんなと合流できた。皆がいるだけで、なんだか大丈夫な気がして来た。
その時だった。周りから黄色い悲鳴が聞こえた。ゆっくり振り返ると…
金色のサラサラの髪に緑色の瞳をした少年が、やって来たのだ。その瞬間、恐怖で体が震え、無意識にグレイソン様にしがみついた。
間違いない、クリストファー様だわ。穏やかな表情を浮かべているが、私には恐怖でしかない。すると次の瞬間、あろう事かあの男と目があったのだ。そして何を思ったのか、ほほ笑んだ。
「イヤ!!」
さらにグレイソン様に強くしがみつく。怖い…あの微笑み。あの日私たちを国外追放にすると言い放った後にほほ笑んだ時と同じ微笑を今、私に向けている。また私たちの命を奪おうと考えているの?
嫌よ…もう二度とあんな思いはしたくない。私の家族を奪われたくない。死にたくない。家族が死ぬのも見たくない。怖い…
「ルージュ、どうしたのだい?大丈夫だから落ち着いてくれ」
「「「「「ルージュ」」」」
「ルージュ嬢!」
皆の声で我に返った私は
「ごめんなさい、ちょっと怖い事を思い出してしまったの。あの方が王太子殿下なのね」
「あなた、顔が真っ青よ。本当に大丈夫なの?そうよ、彼がこの国の王太子、クリストファー殿下よ。それにしても、凄い人気ね。一気に令嬢たちに囲まれているわ」
「本当ね、まあ、私達には関係ない話よ。クリストファーには、私たちに話しかけてこないで!と言っておいたから、多分話しかけてくることはないわ」
「セレーナと殿下は、従姉弟同士だったわね。殿下にそんな事を言えるのは、セレーナくらいよ」
そう言って皆が笑っている。そうよ、私には心強い友人たちがいる。きっと大丈夫。セレーナが殿下に既に話をしてくれているのなら、彼が私に絡んでくる事はないはずだ。
とにかく目立たない様に、この場をやり過ごさないと。
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