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第23話:あの男が私に会いたがっていたですって?

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すっかり体調も良くなった私は、部屋の外に出ようとしたのだが…

「お嬢様、あなた様は病み上がりなのです。どうか今日は、お部屋でお過ごしください」

「あら?もう私はすっかり元気になったのよ。せっかくだから中庭でお茶でも頂きたいわ」

「いいえ、いけません。そもそもあなた様は今日、お茶会を欠席したのですよ。とにかくお部屋でお過ごしください」

アリーに強く言われてしまった。きっとお母様の指示だわ。私がお茶会を欠席したことを、まだ根に持っているのだろう。

まあいいわ、今日はお部屋で大人しくしていよう。そうだわ、この前セレーナに借りた本でも読もう。そう思い、読書をして過ごす。

ふと時計を見ると、グレイソン様が出掛けて行ってから、2時間以上が経過していた。そろそろ帰ってくる頃ね。

「お嬢様、今日はお部屋でお過ごしくださいと伝えたでしょう。一体どこに行かれるのですか?」

部屋から出ようとすると、すかさずアリーが私の元にやって来たのだ。本当にずっと私を見張っているのだから。嫌になるわ。

「そろそろグレイソン様が帰ってくる頃でしょう?お出迎えをしようと思って」

「あなた様は今日、大切なお茶会を欠席されたのです。とにかくお部屋でゆっくりお過ごしください」

何と、グレイソン様をお出迎えする事すらダメだというの?さすがにそれは酷いわ。

「アリー、私は…」

「失礼いたします。お嬢様、お坊ちゃまがお戻りになられましたよ」

「まあ、グレイソン様が。分かったわ、すぐに行くわね」

急いで部屋から飛び出ると、玄関へと向かった。どうやらお父様も一緒だった様で、お父様の姿もある。

「おかえりなさい、グレイソン様」

「ただいま、ルージュ。体調はどうだい?」

「ええ、お陰様でもうすっかり元気になりましたわ。それでお茶会はどうでしたか?」

「とても楽しかったよ。ルージュが言っていた通り、王宮のお料理はどれもとても美味しくてね。ついアルフレッドと一緒に、食べ過ぎてしまったよ。他にも騎士団員たちが沢山来ていて。結局騎士団員の皆と過ごしていたよ」

「グレイソンは、殿下とお話をしなかったのかい?」

お父様がグレイソン様に問いかけている。

「殿下は常に令嬢たちに囲まれていましたので。さすが王太子殿下、とてもモテていましたよ」

「今回のお茶会は、王太子殿下の婚約者を見つける目的もあったからね。令嬢たちはその事を分かっていたのだろう」

「それじゃあ…もしかしてルージュは、殿下の婚約者になりたくなくて、お茶会を嫌がっていたのかい?」

グレイソン様が急に話を振って来たのだ。グレイソン様、よくぞ聞いて下さいました。

「ええ、私は殿下の婚約者になんて、絶対になりたくはないですわ。王妃殿下はとても大変だと伺っております。とても私では務まりません。私はどこかの貴族に嫁いで、平和に生きたいのです」

「まあ、そうだったのね。でも、別に今回のお茶会に参加したからって、ルージュが殿下の婚約者に選ばれる訳ではないのだから。そこまで嫌がらなくてもよかったのではなくって?」

「義母上、何をおっしゃっているのですか?ルージュはとても魅力的な令嬢なのです。万が一ルージュが殿下に見初められたら大変です。ルージュ、今日は欠席して本当によかったよ。君は公爵令嬢なのだよ、身分的にも殿下の婚約者になってもおかしくはない。ルージュは僕と一緒に公爵家を…いいや、何でもない」

なぜかグレイソン様が俯いてしまった。一体どうしたのかしら?

「あっ!そう言えば僕、殿下に話し掛けられたのだった」

急に何かを思い出したかのようにグレイソン様が叫んだのだ。一体どうしたのだろう?

「グレイソン、殿下と何を話したのだい?」

「それが、“今日はルージュは来ていないのかい?”と聞かれました。きっと急に欠席したから、心配して僕に聞いてきたのでしょう。ただ、なぜか僕の顔を見てかなり驚いていたのですよね。僕、殿下に会うのは今回が初めてなのに」

不思議そうな顔のグレイソン様。私が来ていない事を気にしたですって?その言葉を聞いた瞬間、一気に背筋が凍る様な感覚を覚えた。もしかしたら、公爵令嬢の私が参加していないから、社交辞令的に聞いて来ただけかもしれない。

でも…

なぜだろう、なんだか胸騒ぎがする。そもそもあの人は、自分が興味のある人間以外は、あまり他人に興味を示さないタイプだ。それなのに、わざわざグレイソン様に私の事を聞くだなんて…

「ルージュ、顔色が悪いよ。もしかしてまた、体調が悪くなったのかい?とにかく一度、部屋に戻ろう」

「グレイソンの言う通り、顔色が悪いわ。グレイソン、悪いのだけれど、ルージュを部屋に連れて行ってあげてくれる?」

「ええ、もちろんです。行こう、ルージュ」

固まる私を抱きかかえ、部屋へと連れて行ってくれるグレイソン様。彼の温もりを感じた瞬間、何だが少し落ち着いた。

大丈夫よ、お茶会には参加していないのだ。それに1度目の生の時、私から婚約者になりたいと立候補した。きっと私が何かアクションを起こさない限り、あの男と関わる事はないだろう。

それに貴族学院に入学すれば、殿下はヴァイオレットに夢中になるだろうし…そうなったら、後は2人で勝手に盛り上がってくれるだろう。

正直私は、殿下に婚約者が出来ないままヴァイオレットと出会い、婚約してくれればいいと考えているのだ。あの腹黒性悪女が王妃になるのは癪だが、誰も傷つかずに平和に暮らすためには、それが一番いいと考えている。

お茶会は無事に終わったのだ。大丈夫、きっとうまくいくわ。

そう自分に言い聞かせたのだった。
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