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第39話:漫画とは少し様子が違います
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王太子殿下でもあるクリス様から指摘されたイザベル。一体どんな反応を示すのだろう。
「クリス殿下、先ほどは失礼いたしました。確かに私は、領地での生活が長く、マナー違反をしてしまう点もあるかと思います。本当に申し訳ございませんでした。こんな私ですが、これからもご指導いただけますでしょうか?」
ウルウルした瞳でクリス様を見つめるイザベル。自分の非を認めたうえで、相手に指導を乞う。そして極めつけは、ウルウル攻撃。これは世の男性なら、瞬殺でやられてしまうだろう。
さすが公爵令嬢でもあるリリアナを失脚させ、命を奪っただけの事はあるわ。ただのバカではない様ね。
て、感心している場合ではない。クリス様はどうするのかしら?
「分かってくれたらいいのだよ。ただ、僕も王太子という身分の為、誰かを特別扱いする訳にはいかなくてね。指導なら教育係にお願いするといい。君は侯爵令嬢だ、立派な教育係を雇えると思うよ。それじゃあ、失礼するよ」
満面の笑みでそう答えると、私の元にやって来たクリス様。
「リリアナ、お待たせ。夫人には既にリリアナは王宮で昼食を食べる旨を伝えてあるから、大丈夫だよ。今日は料理長に頼んで、君の好きな料理をいっぱい準備してもらっているから。楽しみにしているといい。食後は、中庭を2人で散歩しよう。最近色々と忙しくて、2人でゆっくり過ごす時間がなかっただろう?」
「ですが…」
チラリとイザベルの方を見ると、やはりこちらを睨んでいた。そんなイザベルを見つめる人物が…カーラだ。
ただ、カーラはイザベルに何かを言う事はせずに、イザベルを真っすぐ見ている。もしかして漫画の強制力が働いて、カーラはイザベルの下僕になってしまうのかしら?
一末の不安が私を襲った。
そして何を思ったのか、私に近づいて来たカーラ。
“リリアナ様、イザベル様にはお気を付けください。なんだか嫌な予感がしますわ。もちろん、私がしっかりとリリアナ様をお守りいたしますが…それでは、失礼いたします”
耳元でそう呟くと、そのままカシス様と一緒に、教室を出て行ったのだ。どうやらイザベルの危険なオーラを、カーラは察知した様だ。てっきりイザベルの下僕になってしまうのではないかと心配したが、取り越し苦労だった様だ。
よかったわ。
「さあ、僕たちも帰ろう」
クリス様に腕を引かれ、そのまま馬車に乗り込んだ。結局クリス様について来てしまったわ…
「リリアナ、さっきカーラ嬢が君の耳元で呟いていった件だけれど…僕もイザベル嬢には気を付けた方がいいと思う。よくわからないが、なんだか嫌な予感がするんだ。彼女、さっきもリリアナの事を睨んでいただろう?とにかく、イザベル嬢には近づかない方がいいと思う」
真剣な表情で、クリス様が私に訴えかけて来たのだ。カーラは何となくわかる、あの子は私の事を大切に思ってくれているから。イザベルが私を睨んでいる姿を見て、きっと私にとってイザベルは良くない存在と認識したのだろう。
でも、まさかクリス様の口から、この様な言葉が飛び出すだなんて…一体どういうことなのだろう。漫画ではこんなシーンはなかったはずだわ。
私の見落としかしら?
とはいえ、親友でもあるマーデン様からの調査報告書を見れば、また気持ちも変わるかもしれない。正直クリス様がイザベル様を今は疑っていたとしても、安心するのは早い。
そうよ、油断は禁物よ。
「また難しい顔をして、今日はずっと考えこんでいる様だけれど、一体どうしたのだい?もし何か困っていることがあるなら、何でも相談してほしい。僕はどんなことがあっても、君の味方だから」
どんな事があっても、君の味方か…
「何でもありませんわ。貴族学院に入学したことで、色々と考えてしまう事も多くて。とにかく私は、何事もなく貴族学院を卒業できればと考えております」
イザベルに陥れられ、毒を飲まされない様に…
「無事卒業か…大丈夫だよ。きっと笑顔で卒業式を迎えられる。その為に、僕は…いいや、何でもない。きっと慣れない貴族学院で気を張り詰めていたのだろう。今日は王宮で、ゆっくり過ごそう。リリアナは何も心配しなくてもいいからね。僕が君を守るから」
何も心配しなくてもいい…か。そういう訳にもいかないのよね。私はこれから、命を懸けた戦いが始まるのだから。
でも、せっかくクリス様がそう言ってくれているのだ。いつ気が変わるか分からないが、今だけはその気持ちを受け取っておこう。
「ありがとうございます、クリス様。期待しておりますわ」
そう言って笑顔を向けた。
ついに物語が動き出した。ただ、出だしから漫画とは少し違う展開になった。きっと良い方向に進んでいるのだろうと、私は思っている。
とはいえ、油断は禁物だ。いつイザベルが動き出してもいい様に、もう一度最終確認を行わないと。
悲劇の公爵令嬢、リリアナが漫画と同じ運命をたどらない様に…
~あとがき~
次回、クリス視点です。
よろしくお願いします。
「クリス殿下、先ほどは失礼いたしました。確かに私は、領地での生活が長く、マナー違反をしてしまう点もあるかと思います。本当に申し訳ございませんでした。こんな私ですが、これからもご指導いただけますでしょうか?」
ウルウルした瞳でクリス様を見つめるイザベル。自分の非を認めたうえで、相手に指導を乞う。そして極めつけは、ウルウル攻撃。これは世の男性なら、瞬殺でやられてしまうだろう。
さすが公爵令嬢でもあるリリアナを失脚させ、命を奪っただけの事はあるわ。ただのバカではない様ね。
て、感心している場合ではない。クリス様はどうするのかしら?
「分かってくれたらいいのだよ。ただ、僕も王太子という身分の為、誰かを特別扱いする訳にはいかなくてね。指導なら教育係にお願いするといい。君は侯爵令嬢だ、立派な教育係を雇えると思うよ。それじゃあ、失礼するよ」
満面の笑みでそう答えると、私の元にやって来たクリス様。
「リリアナ、お待たせ。夫人には既にリリアナは王宮で昼食を食べる旨を伝えてあるから、大丈夫だよ。今日は料理長に頼んで、君の好きな料理をいっぱい準備してもらっているから。楽しみにしているといい。食後は、中庭を2人で散歩しよう。最近色々と忙しくて、2人でゆっくり過ごす時間がなかっただろう?」
「ですが…」
チラリとイザベルの方を見ると、やはりこちらを睨んでいた。そんなイザベルを見つめる人物が…カーラだ。
ただ、カーラはイザベルに何かを言う事はせずに、イザベルを真っすぐ見ている。もしかして漫画の強制力が働いて、カーラはイザベルの下僕になってしまうのかしら?
一末の不安が私を襲った。
そして何を思ったのか、私に近づいて来たカーラ。
“リリアナ様、イザベル様にはお気を付けください。なんだか嫌な予感がしますわ。もちろん、私がしっかりとリリアナ様をお守りいたしますが…それでは、失礼いたします”
耳元でそう呟くと、そのままカシス様と一緒に、教室を出て行ったのだ。どうやらイザベルの危険なオーラを、カーラは察知した様だ。てっきりイザベルの下僕になってしまうのではないかと心配したが、取り越し苦労だった様だ。
よかったわ。
「さあ、僕たちも帰ろう」
クリス様に腕を引かれ、そのまま馬車に乗り込んだ。結局クリス様について来てしまったわ…
「リリアナ、さっきカーラ嬢が君の耳元で呟いていった件だけれど…僕もイザベル嬢には気を付けた方がいいと思う。よくわからないが、なんだか嫌な予感がするんだ。彼女、さっきもリリアナの事を睨んでいただろう?とにかく、イザベル嬢には近づかない方がいいと思う」
真剣な表情で、クリス様が私に訴えかけて来たのだ。カーラは何となくわかる、あの子は私の事を大切に思ってくれているから。イザベルが私を睨んでいる姿を見て、きっと私にとってイザベルは良くない存在と認識したのだろう。
でも、まさかクリス様の口から、この様な言葉が飛び出すだなんて…一体どういうことなのだろう。漫画ではこんなシーンはなかったはずだわ。
私の見落としかしら?
とはいえ、親友でもあるマーデン様からの調査報告書を見れば、また気持ちも変わるかもしれない。正直クリス様がイザベル様を今は疑っていたとしても、安心するのは早い。
そうよ、油断は禁物よ。
「また難しい顔をして、今日はずっと考えこんでいる様だけれど、一体どうしたのだい?もし何か困っていることがあるなら、何でも相談してほしい。僕はどんなことがあっても、君の味方だから」
どんな事があっても、君の味方か…
「何でもありませんわ。貴族学院に入学したことで、色々と考えてしまう事も多くて。とにかく私は、何事もなく貴族学院を卒業できればと考えております」
イザベルに陥れられ、毒を飲まされない様に…
「無事卒業か…大丈夫だよ。きっと笑顔で卒業式を迎えられる。その為に、僕は…いいや、何でもない。きっと慣れない貴族学院で気を張り詰めていたのだろう。今日は王宮で、ゆっくり過ごそう。リリアナは何も心配しなくてもいいからね。僕が君を守るから」
何も心配しなくてもいい…か。そういう訳にもいかないのよね。私はこれから、命を懸けた戦いが始まるのだから。
でも、せっかくクリス様がそう言ってくれているのだ。いつ気が変わるか分からないが、今だけはその気持ちを受け取っておこう。
「ありがとうございます、クリス様。期待しておりますわ」
そう言って笑顔を向けた。
ついに物語が動き出した。ただ、出だしから漫画とは少し違う展開になった。きっと良い方向に進んでいるのだろうと、私は思っている。
とはいえ、油断は禁物だ。いつイザベルが動き出してもいい様に、もう一度最終確認を行わないと。
悲劇の公爵令嬢、リリアナが漫画と同じ運命をたどらない様に…
~あとがき~
次回、クリス視点です。
よろしくお願いします。
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