上 下
35 / 55

第35話:明日から貴族学院が始まります

しおりを挟む
「お嬢様、その制服、とてもお似合いですわ。王妃教育も昨日である程度終わりましたし、貴族学院の2年間は、どうか令嬢らしい楽しみを味わってくださいね」

「ありがとう、そうね。そうさせてもらうわ」

 いよいよ明日から、貴族学院が始まる。真新しい制服に身を包んだ私は、鏡に映る自分を見つめる。悲劇の公爵令嬢でもある私、きっと漫画の世界のリリアナは、新しく始まる貴族学院での生活に、胸を弾ませていたのだろう。

 そう考えると、涙が込みあげてきた。リリアナが一体どんな悪い事をしたというのだろう。ただリリアナは愛するクリス様の為に必死に王妃教育をこなし、学院でも他の貴族たちに気を配りながら生きて来た。

 それなのに、あの女、イザベルによって評判を落とされたあげく、命まで奪われて…

 あの女、言葉巧みに令嬢や令息たちに近づき、涙ながらにリリアナがいかに自分に酷い事をしたのか訴えたのだ。最初は信じていなかった貴族たちも、実際に殴られた顔や破られた教科書、びしょぬれの姿を見せられることで、次第にイザベルの言う事を信じていく。

 それも自作自演だというのに。そうとは知らずに、なぜ自分の評判が落ちていくのか分からず、悩むリリアナ。

 全てイザベルが流した嘘だと気が付いたリリアナは、必死に皆に訴えるが、誰も聞き入れてはもらえなかった。公爵令嬢で今まで守られてきたリリアナは、自分の守る術を知らなかった。その結果、リリアナは絶望の中死んでいったのだ。

 イザベルを尾行し、自作自演している映像を撮るといった対策を、温室育ちのリリアナが思いつく訳もないわよね。可哀そうなリリアナ。

 だからこそ、私は絶対にイザベルの思い通りにはさせない。既に小型の録画機も準備した。私の悪い噂が流れだしたら、すぐにイザベルを尾行して、悪事をこの録画機に納めてやるのだから。

 本当は貴族学院に入ってからすぐに尾行したいところが、生憎私も忙しいし、ずっと尾行していたらイザベルに気が付かれる確率も上がってしまう。効率的にあの女の悪事を暴くためには、残念だが私の評判が下がり出してから動く方がいいのだ。

 たとえ私の評判が少しの期間落ちたとしても、あの女が自作自演をしていたことを証明できれば、きっとすぐに回復するだろう。

 大丈夫よ、私には前世の記憶という、最大の武器があるのだから。あの女の悪事なんて、簡単に暴けるわ。

 ただ…

 きっとクリス様は、イザベルの言う事を信じてしまうのよね。この3年、クリス様とは絆を深め合って来た。それなのに、簡単にぽっと出て来た女の言う事を信じてしまうクリス様と、今後私はうまくやっていけるのだろうか…

 そう、私は貴族学院への入学が近づくにつれ、少しずつもやもやとした感情が出てきたのだ。クリス様を好きになればなるほど、裏切られたときの悲しみは大きいだろう。

 もしもストーリー通り、クリス様がイザベルの言う事を信じ、私を責める様なことがあれば、その時は、彼から離れる事も検討しよう。私は公爵令嬢だが、それ以前に心を持った人間なのだ。

 さすがに私の心が持たないかもしれない…いいや、きっと私の心は壊れてしまうだろう。今ならわかる、大切な人に信じてもらえない悲しさはきっと、何よりも辛い事なのだろう。

 だからこそ、もしクリス様がイザベルの言う事を信じるというのなら、その時はクリス様との婚約解消をお願いしよう。

 婚約解消…

 その言葉が胸にズキリと刺さる。

 ダメだわ、こういうネガティブな事は、なるべく考えない様にしていたのに。つい考えてしまうのだ。

 とにかく今は、イザベルとの決戦の事だけを考えよう。全てが終わった時、私が…リリアナがどうすれば幸せになれるのか、その時考えたらいい。

 今はとにかく、イザベルとの戦いに集中しないと。

「お嬢様、クリス殿下がお見えです」

 1人悶々と考えていると、別のメイドがやって来たのだ。なんとクリス様が我が家を訪ねて来たとの事。

「分かったわ、すぐに行くわね」

 急いでクリス様の元へと向かう。

「クリス様、急にどうされたのですか?今日は各自お屋敷でゆっくり過ごそうというお話しでしたよね」

「急に押しかけてきてしまってすまない。どうしても、リリアナの姿が見たくて。制服の試着をしていたのかい?とてもよく似合っているよ」

 なぜか悲しそうに、クリス様がほほ笑んだ。一体どうしたのだろう。

「リリアナ…すまない。本当にごめんね」

 ちょっと、どうしてクリス様が泣きだすの?

「クリス様、どうされたのですか?何かあったのですか?」

 クリス様が涙を流すだなんて、初めて見たわ。急いでハンカチを渡した。

「何でもないよ。ちょっと…いいや、物凄く辛い事を思い出してね。リリアナ、今度こそ僕が…いいや、何でもない。今日は君の顔が見られてよかったよ。それじゃあ、僕はもう帰るね」

「えっ?もう帰られるのですか?」

「ああ、君の顔がどうしても見たくて来ただけだから。それに僕には、まだやらなければいけない事が残っているから。それじゃあ」

 そう言うと、クリス様は足早に帰って行ってしまった。

 クリス様、物凄く悲しい事を思いだしたと言っていたけれど、大丈夫かしら?よくわからないが、クリス様にも色々とあるのだろう。

 何はともあれ、明日から学院生活が始まる。気を引き締めていかないと。


 ※次回、クリス視点です。
 よろしくお願いしますm(__)m
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます

下菊みこと
恋愛
至って普通の女子高生でありながら事故に巻き込まれ(というか自分から首を突っ込み)転生した天宮めぐ。転生した先はよく知った大好きな恋愛小説の世界。でも主人公ではなくほぼ登場しない脇役姫に転生してしまった。姉姫は優しくて朗らかで誰からも愛されて、両親である国王、王妃に愛され貴公子達からもモテモテ。一方自分は妾の子で陰鬱で誰からも愛されておらず王位継承権もあってないに等しいお姫様になる予定。こんな待遇満足できるか!羨ましさこそあれど恨みはない姉姫さまを守りつつ、目指せ隣国の王太子ルート!小説家になろう様でも「主人公気質なわけでもなく恋愛フラグもなければ死亡フラグに満ち溢れているわけでもない至って普通のネグレクト系脇役お姫様に転生したようなので物語の主人公である姉姫さまから主役の座を奪い取りにいきます」というタイトルで掲載しています。

婚約破棄されないまま正妃になってしまった令嬢

alunam
恋愛
 婚約破棄はされなかった……そんな必要は無かったから。 既に愛情の無くなった結婚をしても相手は王太子。困る事は無かったから……  愛されない正妃なぞ珍しくもない、愛される側妃がいるから……  そして寵愛を受けた側妃が世継ぎを産み、正妃の座に成り代わろうとするのも珍しい事ではない……それが今、この時に訪れただけ……    これは婚約破棄される事のなかった愛されない正妃。元・辺境伯爵シェリオン家令嬢『フィアル・シェリオン』の知らない所で、周りの奴等が勝手に王家の連中に「ざまぁ!」する話。 ※あらすじですらシリアスが保たない程度の内容、プロット消失からの練り直し試作品、荒唐無稽でもハッピーエンドならいいんじゃい!的なガバガバ設定 それでもよろしければご一読お願い致します。更によろしければ感想・アドバイスなんかも是非是非。全十三話+オマケ一話、一日二回更新でっす!

悪役令嬢に仕立て上げられたので領地に引きこもります(長編版)

下菊みこと
恋愛
ギフトを駆使して領地経営! 小説家になろう様でも投稿しています。

殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね

さこの
恋愛
恋がしたい。 ウィルフレッド殿下が言った… それではどうぞ、美しい恋をしてください。 婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました! 話の視点が回毎に変わることがあります。 緩い設定です。二十話程です。 本編+番外編の別視点

転生したら推しに捨てられる婚約者でした、それでも推しの幸せを祈ります

みゅー
恋愛
 私このシーンや会話の内容を知っている。でも何故? と、思い出そうとするが目眩がし気分が悪くなってしまった、そして前世で読んだ小説の世界に転生したと気づく主人公のサファイア。ところが最推しの公爵令息には最愛の女性がいて、自分とは結ばれないと知り……  それでも主人公は健気には推しの幸せを願う。そんな切ない話を書きたくて書きました。 ハッピーエンドです。

婚約破棄ですか???実家からちょうど帰ってこいと言われたので好都合です!!!これからは復讐をします!!!~どこにでもある普通の令嬢物語~

tartan321
恋愛
婚約破棄とはなかなか考えたものでございますね。しかしながら、私はもう帰って来いと言われてしまいました。ですから、帰ることにします。これで、あなた様の口うるさい両親や、その他の家族の皆様とも顔を合わせることがないのですね。ラッキーです!!! 壮大なストーリーで奏でる、感動的なファンタジーアドベンチャーです!!!!!最後の涙の理由とは??? 一度完結といたしました。続編は引き続き書きたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

【完結】転生したぐうたら令嬢は王太子妃になんかになりたくない

金峯蓮華
恋愛
子供の頃から休みなく忙しくしていた貴子は公認会計士として独立するために会社を辞めた日に事故に遭い、死の間際に生まれ変わったらぐうたらしたい!と願った。気がついたら中世ヨーロッパのような世界の子供、ヴィヴィアンヌになっていた。何もしないお姫様のようなぐうたらライフを満喫していたが、突然、王太子に求婚された。王太子妃になんかなったらぐうたらできないじゃない!!ヴィヴィアンヌピンチ! 小説家になろうにも書いてます。

処理中です...