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第35話:明日から貴族学院が始まります
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「お嬢様、その制服、とてもお似合いですわ。王妃教育も昨日である程度終わりましたし、貴族学院の2年間は、どうか令嬢らしい楽しみを味わってくださいね」
「ありがとう、そうね。そうさせてもらうわ」
いよいよ明日から、貴族学院が始まる。真新しい制服に身を包んだ私は、鏡に映る自分を見つめる。悲劇の公爵令嬢でもある私、きっと漫画の世界のリリアナは、新しく始まる貴族学院での生活に、胸を弾ませていたのだろう。
そう考えると、涙が込みあげてきた。リリアナが一体どんな悪い事をしたというのだろう。ただリリアナは愛するクリス様の為に必死に王妃教育をこなし、学院でも他の貴族たちに気を配りながら生きて来た。
それなのに、あの女、イザベルによって評判を落とされたあげく、命まで奪われて…
あの女、言葉巧みに令嬢や令息たちに近づき、涙ながらにリリアナがいかに自分に酷い事をしたのか訴えたのだ。最初は信じていなかった貴族たちも、実際に殴られた顔や破られた教科書、びしょぬれの姿を見せられることで、次第にイザベルの言う事を信じていく。
それも自作自演だというのに。そうとは知らずに、なぜ自分の評判が落ちていくのか分からず、悩むリリアナ。
全てイザベルが流した嘘だと気が付いたリリアナは、必死に皆に訴えるが、誰も聞き入れてはもらえなかった。公爵令嬢で今まで守られてきたリリアナは、自分の守る術を知らなかった。その結果、リリアナは絶望の中死んでいったのだ。
イザベルを尾行し、自作自演している映像を撮るといった対策を、温室育ちのリリアナが思いつく訳もないわよね。可哀そうなリリアナ。
だからこそ、私は絶対にイザベルの思い通りにはさせない。既に小型の録画機も準備した。私の悪い噂が流れだしたら、すぐにイザベルを尾行して、悪事をこの録画機に納めてやるのだから。
本当は貴族学院に入ってからすぐに尾行したいところが、生憎私も忙しいし、ずっと尾行していたらイザベルに気が付かれる確率も上がってしまう。効率的にあの女の悪事を暴くためには、残念だが私の評判が下がり出してから動く方がいいのだ。
たとえ私の評判が少しの期間落ちたとしても、あの女が自作自演をしていたことを証明できれば、きっとすぐに回復するだろう。
大丈夫よ、私には前世の記憶という、最大の武器があるのだから。あの女の悪事なんて、簡単に暴けるわ。
ただ…
きっとクリス様は、イザベルの言う事を信じてしまうのよね。この3年、クリス様とは絆を深め合って来た。それなのに、簡単にぽっと出て来た女の言う事を信じてしまうクリス様と、今後私はうまくやっていけるのだろうか…
そう、私は貴族学院への入学が近づくにつれ、少しずつもやもやとした感情が出てきたのだ。クリス様を好きになればなるほど、裏切られたときの悲しみは大きいだろう。
もしもストーリー通り、クリス様がイザベルの言う事を信じ、私を責める様なことがあれば、その時は、彼から離れる事も検討しよう。私は公爵令嬢だが、それ以前に心を持った人間なのだ。
さすがに私の心が持たないかもしれない…いいや、きっと私の心は壊れてしまうだろう。今ならわかる、大切な人に信じてもらえない悲しさはきっと、何よりも辛い事なのだろう。
だからこそ、もしクリス様がイザベルの言う事を信じるというのなら、その時はクリス様との婚約解消をお願いしよう。
婚約解消…
その言葉が胸にズキリと刺さる。
ダメだわ、こういうネガティブな事は、なるべく考えない様にしていたのに。つい考えてしまうのだ。
とにかく今は、イザベルとの決戦の事だけを考えよう。全てが終わった時、私が…リリアナがどうすれば幸せになれるのか、その時考えたらいい。
今はとにかく、イザベルとの戦いに集中しないと。
「お嬢様、クリス殿下がお見えです」
1人悶々と考えていると、別のメイドがやって来たのだ。なんとクリス様が我が家を訪ねて来たとの事。
「分かったわ、すぐに行くわね」
急いでクリス様の元へと向かう。
「クリス様、急にどうされたのですか?今日は各自お屋敷でゆっくり過ごそうというお話しでしたよね」
「急に押しかけてきてしまってすまない。どうしても、リリアナの姿が見たくて。制服の試着をしていたのかい?とてもよく似合っているよ」
なぜか悲しそうに、クリス様がほほ笑んだ。一体どうしたのだろう。
「リリアナ…すまない。本当にごめんね」
ちょっと、どうしてクリス様が泣きだすの?
「クリス様、どうされたのですか?何かあったのですか?」
クリス様が涙を流すだなんて、初めて見たわ。急いでハンカチを渡した。
「何でもないよ。ちょっと…いいや、物凄く辛い事を思い出してね。リリアナ、今度こそ僕が…いいや、何でもない。今日は君の顔が見られてよかったよ。それじゃあ、僕はもう帰るね」
「えっ?もう帰られるのですか?」
「ああ、君の顔がどうしても見たくて来ただけだから。それに僕には、まだやらなければいけない事が残っているから。それじゃあ」
そう言うと、クリス様は足早に帰って行ってしまった。
クリス様、物凄く悲しい事を思いだしたと言っていたけれど、大丈夫かしら?よくわからないが、クリス様にも色々とあるのだろう。
何はともあれ、明日から学院生活が始まる。気を引き締めていかないと。
※次回、クリス視点です。
よろしくお願いしますm(__)m
「ありがとう、そうね。そうさせてもらうわ」
いよいよ明日から、貴族学院が始まる。真新しい制服に身を包んだ私は、鏡に映る自分を見つめる。悲劇の公爵令嬢でもある私、きっと漫画の世界のリリアナは、新しく始まる貴族学院での生活に、胸を弾ませていたのだろう。
そう考えると、涙が込みあげてきた。リリアナが一体どんな悪い事をしたというのだろう。ただリリアナは愛するクリス様の為に必死に王妃教育をこなし、学院でも他の貴族たちに気を配りながら生きて来た。
それなのに、あの女、イザベルによって評判を落とされたあげく、命まで奪われて…
あの女、言葉巧みに令嬢や令息たちに近づき、涙ながらにリリアナがいかに自分に酷い事をしたのか訴えたのだ。最初は信じていなかった貴族たちも、実際に殴られた顔や破られた教科書、びしょぬれの姿を見せられることで、次第にイザベルの言う事を信じていく。
それも自作自演だというのに。そうとは知らずに、なぜ自分の評判が落ちていくのか分からず、悩むリリアナ。
全てイザベルが流した嘘だと気が付いたリリアナは、必死に皆に訴えるが、誰も聞き入れてはもらえなかった。公爵令嬢で今まで守られてきたリリアナは、自分の守る術を知らなかった。その結果、リリアナは絶望の中死んでいったのだ。
イザベルを尾行し、自作自演している映像を撮るといった対策を、温室育ちのリリアナが思いつく訳もないわよね。可哀そうなリリアナ。
だからこそ、私は絶対にイザベルの思い通りにはさせない。既に小型の録画機も準備した。私の悪い噂が流れだしたら、すぐにイザベルを尾行して、悪事をこの録画機に納めてやるのだから。
本当は貴族学院に入ってからすぐに尾行したいところが、生憎私も忙しいし、ずっと尾行していたらイザベルに気が付かれる確率も上がってしまう。効率的にあの女の悪事を暴くためには、残念だが私の評判が下がり出してから動く方がいいのだ。
たとえ私の評判が少しの期間落ちたとしても、あの女が自作自演をしていたことを証明できれば、きっとすぐに回復するだろう。
大丈夫よ、私には前世の記憶という、最大の武器があるのだから。あの女の悪事なんて、簡単に暴けるわ。
ただ…
きっとクリス様は、イザベルの言う事を信じてしまうのよね。この3年、クリス様とは絆を深め合って来た。それなのに、簡単にぽっと出て来た女の言う事を信じてしまうクリス様と、今後私はうまくやっていけるのだろうか…
そう、私は貴族学院への入学が近づくにつれ、少しずつもやもやとした感情が出てきたのだ。クリス様を好きになればなるほど、裏切られたときの悲しみは大きいだろう。
もしもストーリー通り、クリス様がイザベルの言う事を信じ、私を責める様なことがあれば、その時は、彼から離れる事も検討しよう。私は公爵令嬢だが、それ以前に心を持った人間なのだ。
さすがに私の心が持たないかもしれない…いいや、きっと私の心は壊れてしまうだろう。今ならわかる、大切な人に信じてもらえない悲しさはきっと、何よりも辛い事なのだろう。
だからこそ、もしクリス様がイザベルの言う事を信じるというのなら、その時はクリス様との婚約解消をお願いしよう。
婚約解消…
その言葉が胸にズキリと刺さる。
ダメだわ、こういうネガティブな事は、なるべく考えない様にしていたのに。つい考えてしまうのだ。
とにかく今は、イザベルとの決戦の事だけを考えよう。全てが終わった時、私が…リリアナがどうすれば幸せになれるのか、その時考えたらいい。
今はとにかく、イザベルとの戦いに集中しないと。
「お嬢様、クリス殿下がお見えです」
1人悶々と考えていると、別のメイドがやって来たのだ。なんとクリス様が我が家を訪ねて来たとの事。
「分かったわ、すぐに行くわね」
急いでクリス様の元へと向かう。
「クリス様、急にどうされたのですか?今日は各自お屋敷でゆっくり過ごそうというお話しでしたよね」
「急に押しかけてきてしまってすまない。どうしても、リリアナの姿が見たくて。制服の試着をしていたのかい?とてもよく似合っているよ」
なぜか悲しそうに、クリス様がほほ笑んだ。一体どうしたのだろう。
「リリアナ…すまない。本当にごめんね」
ちょっと、どうしてクリス様が泣きだすの?
「クリス様、どうされたのですか?何かあったのですか?」
クリス様が涙を流すだなんて、初めて見たわ。急いでハンカチを渡した。
「何でもないよ。ちょっと…いいや、物凄く辛い事を思い出してね。リリアナ、今度こそ僕が…いいや、何でもない。今日は君の顔が見られてよかったよ。それじゃあ、僕はもう帰るね」
「えっ?もう帰られるのですか?」
「ああ、君の顔がどうしても見たくて来ただけだから。それに僕には、まだやらなければいけない事が残っているから。それじゃあ」
そう言うと、クリス様は足早に帰って行ってしまった。
クリス様、物凄く悲しい事を思いだしたと言っていたけれど、大丈夫かしら?よくわからないが、クリス様にも色々とあるのだろう。
何はともあれ、明日から学院生活が始まる。気を引き締めていかないと。
※次回、クリス視点です。
よろしくお願いしますm(__)m
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