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第26話:やってしまった~クリス視点~
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自室に戻ってくると、そのままソファに腰を掛けた。
そして、大きなため息をつく。
「今日の僕は、一体何をしていたのだろう。リリアナにあんな顔をさせてしまって。それに、カーラ嬢にもつい向きになってしまった…」
リリアナは今日、にっくきイザベルの右腕、カーラ嬢の元に遊びに行ったのだ。1度目の生の時、リリアナに無実の罪を着せたカーラ嬢。僕はどうしても彼女が許せないし、信用できない。
あの女は、人の命などなんとも思っていない。イザベルの為なら、何だってやる様な女なのだ。そんな女を、僕の大切なリリアナの傍になんて絶対に置きたくない。
1度目の生の時の、あの女の不敵な笑みを僕は絶対に忘れない。
でも…
リリアナはそんな事は知らない。あの女が、どれほど恐ろしい女なのかも。そのせいか、なぜかあの女とリリアナが仲良くなってしまったのだ。1度目の生の時は、2人が仲良くなる事はなかったのに…
万が一あの女がリリアナを傷つけたら…そう思うと気が気ではなかった。今日はリリアナの事が心配すぎて、公務どころではなかった為、迷惑を承知でカルソル公爵家に昼前に向かい、ずっとリリアナの帰りを待っていたのだ。
でも、リリアナは待てど暮らせど帰ってこなかった。もしかして僕の知らないところで、リリアナがあの女に酷い目に合わされているかもしれない。そう思うと、居ても経ってもいられず、あの女の家に乗り込んだ。
僕の不安とは裏腹に、仲良く2人でやって来た姿を見た時、僕は感情を爆発させてしまった。
リリアナが悪い訳ではないのに、リリアナに怒りをぶつけてしまったのだ。そんな僕に対し、リリアナは笑顔を向け、謝罪してくれた。その上、ミュースト侯爵夫妻にも気遣いを見せていた。
リリアナはいつもそうだ。どんな時でも、気遣いが出来る子なのだ。そんなリリアナの魅力に気が付いたカーラ嬢が、自分は結婚せずにリリアナに尽くしたいと言い出したのだ。
何となくわかっていた…
カーラ嬢は一度執着すると、その人間の為に尽くす習性がある事を…
1度目の生の時は、イザベルに執着した結果、自ら破滅を招いたのだ。彼女は自分が死ぬことが分かってもなお、イザベルを庇おうとしていた。
そして2度目の生では、ひょんなことからその対象者がリリアナにうつったのだ。
きっとリリアナの為なら、あの女は自分の命を捧げるつもりだろう。現にその様な発言をしていた。
ふざけるな!リリアナを守るのは、僕だけで十分だ。1度目の生で散々リリアナを苦しめ、殺した女の手先だったあの女に、リリアナを守られたくはない。
そんな思いから完全に理性を失った僕は、あろう事かカーラ嬢と口喧嘩をしてしまった。分かっている、僕は王太子だ。侯爵令嬢でもあるカーラ嬢と言い合いをするだなんて、その様な愚かな事をしてはいけない事くらい。
でも僕はリリアナの事になると、どうしても感情が抑えられなくなるのだ。完全にカーラ嬢に嫉妬した僕は、感情に身を任せ、帰りの馬車の中でリリアナに対し怒りをぶつけてしまった。
本来なら
“仲の良い友人が出来てよかったね。リリアナが幸せなら、僕も幸せだよ”
そう言って背中を押してあげないといけなかったのに。
2度目の生が始まった時、リリアナの幸せだけを願って生きていこうと心に決めたのに。僕はダメだな…結局僕は、自分の気持ちが最優先で動いてしまうのだ。
今日の自分の行いに、頭を抱えた。
そもそも、どうしてカーラ嬢なのだろう。リリアナが仲良くなった女が、あんな厄介な女じゃなかったら僕はきっと、ここまで友人関係に口出しする事はなかったはず…
いいや…
今の僕なら、口出ししていたかもしれない。もしかしたら口うるさくて束縛が激しい僕に、リリアナは嫌気がさしてしまうかもしれない。あの女を使って、僕と婚約を解消する事も検討するかも…
あの女ならきっと、リリアナを全力でサポートするだろう。
いやだ、今度こそ僕の手でリリアナを幸せにすると決めたのだ。それにもう僕は、リリアナを失いたくはない。
僕はこの日、自分の行いを悔い続けたのだった。
そして翌日。
いつもの様にリリアナを門のところで待つ。リリアナ、昨日の件を怒っているだろうか?早々にカーラ嬢に、僕との婚約解消を相談していたらどうしよう。
とにかく今日リリアナが来たら、昨日の事を謝ろう。そんな事を考えているうちに、リリアナを乗せた馬車がやって来たのだ。
いつもの様にゆっくり降りてくるリリアナ。
「おはようございます、クリス様。今日も待っていて下さったのですか?」
いつも通り笑顔でリリアナが挨拶をしてくれた。
「リリアナ、昨日はごめんね。僕はその…カーラ嬢に嫉妬していて。それであんな事を言ってしまって。こんな嫉妬深い男、嫌だよね?」
申し訳なくて、リリアナの方を見る事が出来ない。そんな僕の手を、リリアナが握ったのだ。
「クリス様、顔を上げて下さい。確かにカーラ様の家にまで押しかけて来たのは良くなかったかもしれませんが、それだけ私の事を心配してくださったという事ですよね。お母様にも言われたのです。“あそこまで大切にして下さる方は、そうそういないわよ”て。クリス様、私の事を大切に思って下さり、ありがとうございます。決して嫌いになったりしませんので、安心してください」
「ありがとう、リリアナ。僕はリリアナが大好きだ!ずっと一緒にいてくれるよね」
「ええ、もちろんですわ」
そう言って、リリアナが微笑んでくれた。
ああ…僕はやっぱり、リリアナが大好きだ。ついリリアナを強く抱きしめてしまった。こんな僕を受け入れてくれたリリアナを、今度こそ僕の手で絶対に幸せにしよう。
改めてそう誓ったのだった。
※次回、カーラ視点です。
よろしくお願いします。
そして、大きなため息をつく。
「今日の僕は、一体何をしていたのだろう。リリアナにあんな顔をさせてしまって。それに、カーラ嬢にもつい向きになってしまった…」
リリアナは今日、にっくきイザベルの右腕、カーラ嬢の元に遊びに行ったのだ。1度目の生の時、リリアナに無実の罪を着せたカーラ嬢。僕はどうしても彼女が許せないし、信用できない。
あの女は、人の命などなんとも思っていない。イザベルの為なら、何だってやる様な女なのだ。そんな女を、僕の大切なリリアナの傍になんて絶対に置きたくない。
1度目の生の時の、あの女の不敵な笑みを僕は絶対に忘れない。
でも…
リリアナはそんな事は知らない。あの女が、どれほど恐ろしい女なのかも。そのせいか、なぜかあの女とリリアナが仲良くなってしまったのだ。1度目の生の時は、2人が仲良くなる事はなかったのに…
万が一あの女がリリアナを傷つけたら…そう思うと気が気ではなかった。今日はリリアナの事が心配すぎて、公務どころではなかった為、迷惑を承知でカルソル公爵家に昼前に向かい、ずっとリリアナの帰りを待っていたのだ。
でも、リリアナは待てど暮らせど帰ってこなかった。もしかして僕の知らないところで、リリアナがあの女に酷い目に合わされているかもしれない。そう思うと、居ても経ってもいられず、あの女の家に乗り込んだ。
僕の不安とは裏腹に、仲良く2人でやって来た姿を見た時、僕は感情を爆発させてしまった。
リリアナが悪い訳ではないのに、リリアナに怒りをぶつけてしまったのだ。そんな僕に対し、リリアナは笑顔を向け、謝罪してくれた。その上、ミュースト侯爵夫妻にも気遣いを見せていた。
リリアナはいつもそうだ。どんな時でも、気遣いが出来る子なのだ。そんなリリアナの魅力に気が付いたカーラ嬢が、自分は結婚せずにリリアナに尽くしたいと言い出したのだ。
何となくわかっていた…
カーラ嬢は一度執着すると、その人間の為に尽くす習性がある事を…
1度目の生の時は、イザベルに執着した結果、自ら破滅を招いたのだ。彼女は自分が死ぬことが分かってもなお、イザベルを庇おうとしていた。
そして2度目の生では、ひょんなことからその対象者がリリアナにうつったのだ。
きっとリリアナの為なら、あの女は自分の命を捧げるつもりだろう。現にその様な発言をしていた。
ふざけるな!リリアナを守るのは、僕だけで十分だ。1度目の生で散々リリアナを苦しめ、殺した女の手先だったあの女に、リリアナを守られたくはない。
そんな思いから完全に理性を失った僕は、あろう事かカーラ嬢と口喧嘩をしてしまった。分かっている、僕は王太子だ。侯爵令嬢でもあるカーラ嬢と言い合いをするだなんて、その様な愚かな事をしてはいけない事くらい。
でも僕はリリアナの事になると、どうしても感情が抑えられなくなるのだ。完全にカーラ嬢に嫉妬した僕は、感情に身を任せ、帰りの馬車の中でリリアナに対し怒りをぶつけてしまった。
本来なら
“仲の良い友人が出来てよかったね。リリアナが幸せなら、僕も幸せだよ”
そう言って背中を押してあげないといけなかったのに。
2度目の生が始まった時、リリアナの幸せだけを願って生きていこうと心に決めたのに。僕はダメだな…結局僕は、自分の気持ちが最優先で動いてしまうのだ。
今日の自分の行いに、頭を抱えた。
そもそも、どうしてカーラ嬢なのだろう。リリアナが仲良くなった女が、あんな厄介な女じゃなかったら僕はきっと、ここまで友人関係に口出しする事はなかったはず…
いいや…
今の僕なら、口出ししていたかもしれない。もしかしたら口うるさくて束縛が激しい僕に、リリアナは嫌気がさしてしまうかもしれない。あの女を使って、僕と婚約を解消する事も検討するかも…
あの女ならきっと、リリアナを全力でサポートするだろう。
いやだ、今度こそ僕の手でリリアナを幸せにすると決めたのだ。それにもう僕は、リリアナを失いたくはない。
僕はこの日、自分の行いを悔い続けたのだった。
そして翌日。
いつもの様にリリアナを門のところで待つ。リリアナ、昨日の件を怒っているだろうか?早々にカーラ嬢に、僕との婚約解消を相談していたらどうしよう。
とにかく今日リリアナが来たら、昨日の事を謝ろう。そんな事を考えているうちに、リリアナを乗せた馬車がやって来たのだ。
いつもの様にゆっくり降りてくるリリアナ。
「おはようございます、クリス様。今日も待っていて下さったのですか?」
いつも通り笑顔でリリアナが挨拶をしてくれた。
「リリアナ、昨日はごめんね。僕はその…カーラ嬢に嫉妬していて。それであんな事を言ってしまって。こんな嫉妬深い男、嫌だよね?」
申し訳なくて、リリアナの方を見る事が出来ない。そんな僕の手を、リリアナが握ったのだ。
「クリス様、顔を上げて下さい。確かにカーラ様の家にまで押しかけて来たのは良くなかったかもしれませんが、それだけ私の事を心配してくださったという事ですよね。お母様にも言われたのです。“あそこまで大切にして下さる方は、そうそういないわよ”て。クリス様、私の事を大切に思って下さり、ありがとうございます。決して嫌いになったりしませんので、安心してください」
「ありがとう、リリアナ。僕はリリアナが大好きだ!ずっと一緒にいてくれるよね」
「ええ、もちろんですわ」
そう言って、リリアナが微笑んでくれた。
ああ…僕はやっぱり、リリアナが大好きだ。ついリリアナを強く抱きしめてしまった。こんな僕を受け入れてくれたリリアナを、今度こそ僕の手で絶対に幸せにしよう。
改めてそう誓ったのだった。
※次回、カーラ視点です。
よろしくお願いします。
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