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第13話:僕の中で芽生えた疑惑~クリス視点~
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急いで地下牢を後にした僕は、自室に戻ってきた。どうしてこんなに胸が苦しいのだろう。
リリアナと最後に話した時の言葉が、どうしても胸に引っかかるのだ。
“私は、今も昔も変わっておりませんわ。変わってしまわれたのは、あなた様です”
そう言ったリリアナ。彼女は何も変わっていない?変わったのは僕?どうしてリリアナは、あんな事を言ったのだろう。僕は何か、重大な過ちを犯しているのか?
いいや…きっとリリアナの最期の強がりだろう。でも、自分が殺されることが分かった時点で、命乞いをしてもおかしくはないはずだ。それなのに、リリアナは命乞いどころか、家族の事を心配していた。
自分が今から殺されるというのに、家族の事を心配しているだなんて…
「クリス、今いいかい?」
僕を訪ねてきたのは、マーデンだ。
「今無事、リリアナ嬢の刑執行が完了したよ。クリス、君にとって今回の事件は、かなり衝撃的で辛いだろう。なんと言っていいか分からないが、その…元気を出してくれ」
マーデンが僕を慰めてくれる。
「ありがとう、マーデン。君こそ、リリアナの刑執行に立ち会わせてしまってすまなかった。本来なら僕が立ち会わないといけないのに。君には助けられてばかりだよ」
マーデンには今回の件で、随分負担をかけてしまった。彼がいなかったら、今頃リリアナの悪事を野放しにしてしまっていたかもしれないと思うと、感謝しかない。
「俺の事は気にしないでくれ。それで、今後の事なのだけれど…君は王太子だ。リリアナ嬢があのような事になってしまった以上、新しい婚約者をたてないといけない」
「ああ、分かっている。でも僕は…」
正直今は、新しい婚約者の事なんて考えたくはない。でも、僕は王太子だ。すぐにでも新しい婚約者を選ばないといけないのだ。
「それで、陛下や他の貴族たちとも話をしたのだが、イザベル嬢と婚約を結んだらどうだろうか?彼女は今回の被害者でもあるし。身分的にも問題はない」
「僕がイザベル嬢と?」
「ああ、そうだ。君がリリアナ嬢に代わり、イザベル嬢に罪を償うじゃないけれど…その…」
「父上や貴族たちが、イザベル嬢を推しているのなら、僕はそれに従うよ」
正直今は、別の令嬢の事を考える余裕なんてない。リリアナの事で頭がいっぱいなのだ。ただ、僕の心とは裏腹に、イザベルとの婚約話はとんとん拍子で進んでいき、僕とイザベルは、正式に婚約を結ぶことになったのだ。
ちなみにリリアナが最後まで心配してた彼女の家族は、リリアナの兄が留学しているイライザ国に、家族で移り住むことになった様だ。
最後まで娘の無罪を信じていた公爵と夫人は、リリアナの死を深く悲しみ、食事も喉を通らない程衰弱しているらしい。そしてリリアナの兄は
“リリアナがそんな事をするはずはない!この国は狂っている。こんな国になんて、二度と戻らない。俺は一生、貴様らを許さない!いつか必ず、リリアナの無念を晴らしてやる”
そう吐き捨て、両親と使用人たちを連れて、国を出て行ったらしい。リリアナを慕っていた多くの使用人たちが、一緒にイライザ王国に着いていったと聞く。
リリアナは、使用人たちからも慕われていたのだ。
そして新たに僕の婚約者になったイザベルだが、なぜか使用人たちからの評判は良くない。僕の婚約者になってからのイザベルは、非常に我が儘で、使用人たちを顎で使っているらしい。僕が何度注意しても、聞かないのだ。
彼女の姿を見ていると、本当にリリアナはイザベルを虐めていたのだろうか?そんな疑惑が僕の中で芽生えていく。
でも、リリアナの件は、マーデンがしっかり調査してくれた事だ。あのマーデンが、間違った情報を仕入れてくるだなんて考えられないし…
でも…
「クリス様、聞いて下さい。あのメイド、私にお茶を掛けたのですよ。きっとわざとですわ。あのメイドに、厳しい罰を与えて下さい。王太子の婚約者にお茶をかけるだなんて、極刑が妥当ですわ」
「そんな、私はわざとではありません。リリアナ様なら、笑って許してくださいましたのに…」
「あの犯罪者の名前を口にするだなんて!あなた、今すぐここから出て行きなさい!」
顔を真っ赤にして怒るイザベル。確かにリリアナなら、誤ってお茶を掛けてしまったメイドに対し、笑顔で許してあげるだろう。あの子はそういう子だった。でもこの女は…
「イザベル、君はもう少し、人に優しく出来ないのかい?メイドも僕たちと同じ人間だ。それなのに、その様な態度はどうかと思う。それに君は、王妃になるのだよ。あまり我が儘を言うのは、いかがなものかと」
「まあ、私が悪いとおっしゃりたいのですか?酷いですわ」
ビービーと泣きだすイザベル。こんな我が儘な女と結婚しないといけないのかと考えると、気が重い。それでも僕は、彼女の婚約者だ。必死にイザベルを宥めた。
さすがに今日は疲れた。少し中庭でも散歩をしよう。
そう思い、中庭を散歩する。中庭にはリリアナが好きだった花が、今でも沢山植えられている。リリアナは庭師とも仲が良かったため、今でもリリアナの為に、庭師がせっせと世話をしているのだ。
あんなに沢山の人から愛されていたリリアナが、本当にイザベルを毒殺なんてしようとしたのだろうか?もしかして僕は、重大な過ちを犯していたのでは…
その時だった。
中庭の奥から、人の声が聞こえてくる。この声は、イザベル。もう1人は…
僕は声のする方に、ゆっくりと近づいていったのだった。
リリアナと最後に話した時の言葉が、どうしても胸に引っかかるのだ。
“私は、今も昔も変わっておりませんわ。変わってしまわれたのは、あなた様です”
そう言ったリリアナ。彼女は何も変わっていない?変わったのは僕?どうしてリリアナは、あんな事を言ったのだろう。僕は何か、重大な過ちを犯しているのか?
いいや…きっとリリアナの最期の強がりだろう。でも、自分が殺されることが分かった時点で、命乞いをしてもおかしくはないはずだ。それなのに、リリアナは命乞いどころか、家族の事を心配していた。
自分が今から殺されるというのに、家族の事を心配しているだなんて…
「クリス、今いいかい?」
僕を訪ねてきたのは、マーデンだ。
「今無事、リリアナ嬢の刑執行が完了したよ。クリス、君にとって今回の事件は、かなり衝撃的で辛いだろう。なんと言っていいか分からないが、その…元気を出してくれ」
マーデンが僕を慰めてくれる。
「ありがとう、マーデン。君こそ、リリアナの刑執行に立ち会わせてしまってすまなかった。本来なら僕が立ち会わないといけないのに。君には助けられてばかりだよ」
マーデンには今回の件で、随分負担をかけてしまった。彼がいなかったら、今頃リリアナの悪事を野放しにしてしまっていたかもしれないと思うと、感謝しかない。
「俺の事は気にしないでくれ。それで、今後の事なのだけれど…君は王太子だ。リリアナ嬢があのような事になってしまった以上、新しい婚約者をたてないといけない」
「ああ、分かっている。でも僕は…」
正直今は、新しい婚約者の事なんて考えたくはない。でも、僕は王太子だ。すぐにでも新しい婚約者を選ばないといけないのだ。
「それで、陛下や他の貴族たちとも話をしたのだが、イザベル嬢と婚約を結んだらどうだろうか?彼女は今回の被害者でもあるし。身分的にも問題はない」
「僕がイザベル嬢と?」
「ああ、そうだ。君がリリアナ嬢に代わり、イザベル嬢に罪を償うじゃないけれど…その…」
「父上や貴族たちが、イザベル嬢を推しているのなら、僕はそれに従うよ」
正直今は、別の令嬢の事を考える余裕なんてない。リリアナの事で頭がいっぱいなのだ。ただ、僕の心とは裏腹に、イザベルとの婚約話はとんとん拍子で進んでいき、僕とイザベルは、正式に婚約を結ぶことになったのだ。
ちなみにリリアナが最後まで心配してた彼女の家族は、リリアナの兄が留学しているイライザ国に、家族で移り住むことになった様だ。
最後まで娘の無罪を信じていた公爵と夫人は、リリアナの死を深く悲しみ、食事も喉を通らない程衰弱しているらしい。そしてリリアナの兄は
“リリアナがそんな事をするはずはない!この国は狂っている。こんな国になんて、二度と戻らない。俺は一生、貴様らを許さない!いつか必ず、リリアナの無念を晴らしてやる”
そう吐き捨て、両親と使用人たちを連れて、国を出て行ったらしい。リリアナを慕っていた多くの使用人たちが、一緒にイライザ王国に着いていったと聞く。
リリアナは、使用人たちからも慕われていたのだ。
そして新たに僕の婚約者になったイザベルだが、なぜか使用人たちからの評判は良くない。僕の婚約者になってからのイザベルは、非常に我が儘で、使用人たちを顎で使っているらしい。僕が何度注意しても、聞かないのだ。
彼女の姿を見ていると、本当にリリアナはイザベルを虐めていたのだろうか?そんな疑惑が僕の中で芽生えていく。
でも、リリアナの件は、マーデンがしっかり調査してくれた事だ。あのマーデンが、間違った情報を仕入れてくるだなんて考えられないし…
でも…
「クリス様、聞いて下さい。あのメイド、私にお茶を掛けたのですよ。きっとわざとですわ。あのメイドに、厳しい罰を与えて下さい。王太子の婚約者にお茶をかけるだなんて、極刑が妥当ですわ」
「そんな、私はわざとではありません。リリアナ様なら、笑って許してくださいましたのに…」
「あの犯罪者の名前を口にするだなんて!あなた、今すぐここから出て行きなさい!」
顔を真っ赤にして怒るイザベル。確かにリリアナなら、誤ってお茶を掛けてしまったメイドに対し、笑顔で許してあげるだろう。あの子はそういう子だった。でもこの女は…
「イザベル、君はもう少し、人に優しく出来ないのかい?メイドも僕たちと同じ人間だ。それなのに、その様な態度はどうかと思う。それに君は、王妃になるのだよ。あまり我が儘を言うのは、いかがなものかと」
「まあ、私が悪いとおっしゃりたいのですか?酷いですわ」
ビービーと泣きだすイザベル。こんな我が儘な女と結婚しないといけないのかと考えると、気が重い。それでも僕は、彼女の婚約者だ。必死にイザベルを宥めた。
さすがに今日は疲れた。少し中庭でも散歩をしよう。
そう思い、中庭を散歩する。中庭にはリリアナが好きだった花が、今でも沢山植えられている。リリアナは庭師とも仲が良かったため、今でもリリアナの為に、庭師がせっせと世話をしているのだ。
あんなに沢山の人から愛されていたリリアナが、本当にイザベルを毒殺なんてしようとしたのだろうか?もしかして僕は、重大な過ちを犯していたのでは…
その時だった。
中庭の奥から、人の声が聞こえてくる。この声は、イザベル。もう1人は…
僕は声のする方に、ゆっくりと近づいていったのだった。
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