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第69話:旅立ちのときです

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2人の言い合いをしばらく見守った後

「あの、出発の時間もありますし、そろそろ…」

私の言葉にハッとした2人。

「ごめんね、ローズ。つい熱くなってしまった。それじゃあマイケル、朝早くにお邪魔して申し訳ありませんでした。それでは、僕たちはこれで」

「マイケル様、わざわざお時間を頂き、ありがとうございました。それでは、お元気で」

マイケル様に頭を下げ、アデル様と一緒に部屋から出た。

「待ってくれ、俺も見送るよ」

どうやら玄関まで見送ってくれる様だ。

「それではマイケル様、わざわざお見送りいただき、ありがとうございます。ではまた」

マイケル様に改めて挨拶をして、馬車に乗り込もうと思ったのだが。

「ローズ、何を言っているんだ。俺もローズの見送りに行くと言っているだろう。さあ、行こうか」

なぜか私たちの馬車に乗り込むマイケル様。

「マイケル、どうしてあなたまで乗り込むのですか?ローズは僕がしっかりと責任をもって見送りますので、着いてこなくても大丈夫です。あなたは学院に行ってください」

「何を言っているのだ。友人が隣国に旅立つというのに、見送りにもいかない程俺は薄情者ではない。大丈夫だ、帰りの馬車はちゃんと手配してあるから」

マイケル様の指さす方向には、既に馬車が待機していた。

「さあ、早くいかないと、遅れてしまうよ」

確かにこのまま揉めていても仕方がない。そのまま馬車を出すことにした。

「それで、ローズのおばあさんの容態はどうなんだい?」

「はい、兄の手紙には、あまり良くない状況でして…ただ、詳しくは書かれていなかったので」

「そうか、それは心配だね。大丈夫だよ、また君が学院に戻ってきたら、俺が勉強を教えてあげるから」

「どうしてローズが、マイケルに勉強を教えてもらわないといけないのですか。ローズは僕の恋人です。僕が教えるので、ご心配なく!」

すかさずアデル様が話に入って来た。これまた喧嘩が始まるのかしら?そう思ったのだが、ナイスなタイミングで我が家に着いた。

よく見るとカルミアやファリサ、ティーナ様、グラス様も来てくれていた。まさか皆までお見送りに来てくれるだなんて。

「皆様、わざわざ私の為にお見送りに来てくださったのですね。ありがとうございます」

急いで馬車から降りると、待っていた皆に頭を下げた。

「ちょっと、ローズ。一体どういう事よ。どうしてマイケル様とアデル様と一緒に降りてくるの?」

「そうよ、一体何があったのよ」

カルミアとファリサが飛んできた。そうか、2人には何も話していないのだったわ。

「実はあの後…アデル様に告白…して頂いたの。それで付き合う事になって。でも、私に気持ちを伝えてくれたマイケル様にその事をきちんと伝えたくてね。それで今朝、マイケル様の家に行っていたの」

昨日の事を簡単に2人に説明した。

「ちょっと、あの後そんな事になっていたの?でも…よかったわね、ローズ。あなた、8歳の時からずっとアデル様の事好きだったものね」

「そうよね。長い片思いが実ってよかったわね」

そう言って2人とも喜んでくれた。

「お嬢様、そろそろ出発のお時間です」

「ありがとう。それじゃあ、皆様、行って参ります」

「ローズ、気を付けて行ってくるのよ」

「授業は私たちがしっかりと聞いておくから、安心してね」

「ありがとう、カルミア、ファリサ」

「ローズ嬢、アデルの気持ちに答えてくれてありがとう。僕が言うのもなんだが、アデルは今まで本当に我慢させてしまって…だから彼には誰よりも幸せになって欲しいと思っている。君はアデルが心から愛した唯一無二な存在だ。どうか、アデルの事をよろしく頼むよ」

「こちらこそ、どうか私の留守の間、アデル様をよろしくお願いいたします。それから、私は5年以上もアデル様を思い続けておりましたので、ご心配はご無用ですわ」

私の言葉を聞き、嬉しそうに笑うグラス様。この人、意外と弟思いなのね。

「ローズ様、寂しくなりますね。どうかお体には気を付けて下さい。また帰国したら、パフェを食べに行きましょうね」

「ええ、もちろんですわ。ティーナ様、お手紙書きますね」

「私も書きますわ。必ず」

寂しそうな顔のティーナ様の肩を抱くのは、グラス様だ。私もこの2人の様になれたら嬉しいわ。

「ローズ、俺の事、忘れないでくれよ。そうだ、学年末休みに入ったら、グラシュ国に遊びに行くよ!」

そんな事を言っているのは、マイケル様だ。

「ええ、是非来て…」

「マイケル、どうして君がグラシュ国に行くのだい?ローズ、マイケルの我が儘を真に受けなくていいんだよ。そもそも、すぐに帰国するかもしれないのだし」

すかさず間に入って来たのはアデル様だ。

「ローズ、正直僕も一緒についていきたいよ。やっと気持ちが通じ合ったんだ。1秒だって離れたくはない。でも…それは出来ない事は、さすがの僕でもわかるよ。だからこれ。通信機だ。これで毎日連絡を取り合おう。それから、このイヤリングを」

私の耳にサファイアがあしらわれたイヤリングを付けてくれた。

「ありがとうございます。まさかこのイヤリング、盗聴機能なんて付いていないですよね?」

「ああ、残念ながら付いていないよ。本当は付けようと思ったのだが、あまりにも距離がありすぎるからね。物理的に無理だったんだよ。せめて位置情報だけでもと思ったんだけれどね。もう少し時間があれば、出来たかもしれないけれど、昨日の今日じゃあ…」

残念そうなアデル様。やっぱり盗聴器を…

グラス様を見ていたら、もしかしてと思ったのだが…

とにかく、帰国したら肌身離さず盗聴防止の機械を持ち歩かないと!

さあ、一通り皆との挨拶も終えたし、そろそろ行かないと。

「それでは皆様、行って参ります」

ペコリと皆に向かって一礼すると、馬車に乗り込んだ。すると、なぜか一緒に乗り込んできたのは、アデル様だ。

「ローズ、本当に行ってしまうんだね。いいかい?毎日必ず通信をするんだよ。それから、通信機は肌身離さず持っている事。わかったね」

「はい、分かっていますわ。アデル様、どうかお元気で」

「ローズも」

ギュッと私を抱きしめてくれるアデル様。私もアデル様の腰に手を回し、強く抱きしめ返した。そして、どちらともなく唇を重ねる。

この温もりも、しばらくお預けだ。

ゆっくり離れがアデル様は、もう一度私を抱きしめた後、馬車から降りて行った。

ゆっくり走り出す馬車の窓から身を乗り出し、皆に手を振る。

「皆様、行って参ります」

そう叫びながら。

皆も私に向かって手を振り続けてくれた。姿が見えなくなるまで、ずっと…
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